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2章 テルミア王国 スフィアート編

傷だらけの少女

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現在、グリフォンに乗ってスフィアートに向かっている。あと、1時間程で到着するだろう。

「フィン、グリフォンの乗り心地はどう?なかなか良いものでしょう。」
「は、は、はい、そ、そうですね。良い、と思い、ます。」

声が上ずっているわね。

「もしかして怖いの?正直に言って良いわよ。」

「グリ、フォンさん、は怖くありません。むしろ、この高さが怖いです!魔法で護られているとはいえ、この高さは異常です。」

「どうして?高度1000mを飛んでるんだけど、爽快な気分でしょ。見てよ、この景色。凄いわよね、グリフォン。」

「くわ~~」

「私にとって、この高さは初めてですよ!景色を見る余裕はありません!」
「勿体無いわね。まあ、今後何度も乗る事になるから、そのうち慣れるわよ。」

「こ、この景色を何度も------」

ありゃ~、高所恐怖症にさせる訳には行かないから、そろそろスピードを落として、もう少し低く飛びますか。

うん、これは?

「グリフォン、ちょっと止まって。」
「くわ?」
「よかった、止まってくれた。師匠、どうしたんですか?」

これは、人間の子供が邪族に追われてる?ここから、そう遠くないか。でも、向こうは完全に大森林だ。なんで、人間の子供がいるの?ともかく、助けにいくか。

「左手の大森林の奥で、子供が邪族に追われてるわ。助けにいくわよ。」
「あの大森林の奥!なんで、そこまでわかるんですか?」

「前に言ったでしょ。気配察知スキルと魔力を併用すれば、遠くの人も察知出来るて。今回は、そこに危機察知スキルも働いているけどね。」

「えー!ここから、かなり離れてますよ。スキルをいくつも併用すれば、そこまで正確にわかるものなんですか」

「そうよ、グリフォン、私が指定した場所に向かいなさい。」
「くわ~」

「間に合うかしら、子供を追ってる邪族に威圧をしてみるか。邪族は5体、かなり強力な奴ね。よし、力も把握した、『威圧』発動。」

お、動きが止まった、戸惑ってるようね。

「本当になんでもありですね、師匠。グリフォンもそう思うよね。」
「くわ~、くわわ~~」

なに、2人?で頷き合っているのよ。全く、私は化物か。-----普通の邪族や人から見たら、実際、私は化物か。なんか複雑だ。

この辺りね。周りを見渡すと-----見つけた!まずい、止めを刺そうとしてる。

「フィン、先に行って助けてくるわ。」
「はい、私もあとで行きます。」

私は、止めを刺そうとしているオーガナイトと子供の間に入り、スキル『身体硬化』を使って、腕を硬化させて剣を受け止めた。本当は硬化の必要もないけど、スキルをどんどん使わないと損だからね。ちなみに『身体硬化』は、身体強化スキルの上位版だ。剣を受け止めた瞬間、剣は半分に折れた。それだけ馬鹿力てことか。この子を狙っている邪族は、オーガナイト(Bクラス)、ゴブリンナイト(Cクラス)、ブラックバイパー(Bクラス 黒く大きな蛇)、エビルタイガー(Bクラス 邪法を使う虎)、最後にトロル(Cクラス)。なんでこんな強力な奴らが子供を狙ってるのよ。言葉を理解出来るのは、オーガナイトとエビルタイガーくらいか。

「俺の剣が折れた。お前、何者だ?」

「邪族に名乗る名はないわ。子供を護る女神スフィアの使者てところかしら。ところで、あなた達の目的は何かしら?こんな子供を殺しても意味ないと思うのだけど。」

昔、正義のヒーローがこんな感じのセリフを言ってた気がする。異世界版にアレンジしてるけどね。この言葉に反応したのがエビルタイガーだ。

「女神スフィアの使者だと!スフィアめ、まだ、こんな隠し球を用意していたのか。まあいい、貴様らを食べれば、それだけ俺達の邪力があがる。運が悪かったな!ここで死ね。」

考察すると、邪族以外が持っている魔力を食べる事で、自分の邪力が増加するという事かしら?ということは、この子供が持つ魔力に惹かれたという事ね。

考え事をしていたらトロルが私に棍棒を振り下ろしてきた。とりあえず、討伐しますか!棍棒を受け止め、軽く腹にパンチを入れた。すると、ズドンという音ともにトロルが崩れ落ちた。

次にブラックバイパーが真上から私を飲み込もうとしたが軽く避け、半径50cm程度の『トルネードボム』を口の中に放り込んでやった。『トルネードボム』は私オリジナルの魔法で、嵐属性の敵全体攻撃『ストームトルネード』を丸く圧縮したもので、敵単体における威力は『ストームトルネード』を遥かに凌駕している。それを放り込まれたブラックバイパーは、大きな音とともに当然木っ端微塵になった。これを見たエビルタイガーは、酷く驚いていた。

「馬鹿な、なんだ、その魔法は見たことがないぞ。」

「そりゃそうでしょ。私のオリジナルなんだから。」

フィンとグリフォンが到着したようね。

「フィン、良いところに来たわね。ゴブリンナイトはあなたが討伐しなさい。これまでに教えた事を実行出来れば、討伐は可能よ。グリフォンは、フィンの戦う様子を見て、フィンが殺されそうな場合は、迷わずゴブリンナイトを殺しなさい。」

ここに来るまで、ゴブリン・コボルト・オーク・ウルフとE, Fクラスの邪族を討伐して、ある程度の実戦は済ませてある。今の力量とスキル練度なら、ギリギリ可能だ。ちなみに、ユニークスキルは使用禁止にしてある。中途半端な力しかない状態で、ユニークスキルを使えば、その力に溺れる可能性が高い。

「ゴブリンナイトをですか!----わかりました、全力で戦います。」

どうやら戦う覚悟を持ったみたいね。おっと、目を離したすきにエビルタイガーが邪法『アイスニードル』を放ってきた。簡単に言うと、長さ30cm程度の尖った氷のマシンガンね。

残念、私の周りには、常時『ディストーションフィールド』が施されている。魔法や邪法は効かないわよ。

「貴様、何者だ!なぜ、邪法が効かない!オーガナイト、2体でやるぞ。」

エビルタイガーとオーガナイトが同時に仕掛けてきた。両方、Bクラスだけあって、オークとかよりスピードはあるわね。さて、丁度いいから、私も試させてもらうわよ。

魔力を身体全体に纏い、振り下ろしてきたエビルタイガーの右足軽く叩いた。私の後方に周り込んだオーガナイトも同様、腹に一撃を与えた。すると、エビルタイガーの右足は潰れ、オーガナイトの腹には風穴が空いた。うん、相手にならないのはわかっていたけど、私自身が強化されているのはわかるわ。現実世界でも、私自身が『魔力纏い』を使用出来るみたいね。これまで、このスキルを使ってこなかったから、少し不安だったけど大丈夫そうだ。

「そんな、私の右足が一発で潰れるなんて。く、これならどうだ!『ヒートファング』

む、左前足に邪力を集中させ炎を纏わせた爪術で攻撃力を底上げした。へえ、やるじゃない。でも、残念ね。

「残念、隙だらけよ。」

右足側が隙だらけなので、軽くボディーブローを食らわせた。そこで、エビルタイガーは崩れ落ちた。うん、2体とも死んでるわね。さて、フィンの方はどうなったかな?

○○○  フィン視点

  私の相手はゴブリンナイトです。Cクラスの化物です。昔の私なら腰を抜かしていたでしょう。でも、今は違います。これまでの修行を実行出来れば討伐できると、師匠が言ってくれました。私は師匠の言葉を信じます。それに今なら、あの2つの技を使えるはずです。

私は、魔力を身体全体に纏い、目に少し集中させました。ゴブリンナイトがこちらを観察しているのがわかります。やはり強い邪力を感じます。でも、勝てない相手ではないという事は、自分でもわかります。始めから全力でいきます。2つの鉄の爪にも魔力を纏わせダッシュし、ゴブリンナイトを引き裂こうとしましたが、当然剣で防がれました。でも、この感じ、力が拮抗しているのがわかります。それがゴブリンナイトにも分かったのでしょう。一旦、後ろに下がりました。

ゴブリンナイト、強いです。少しでも油断したらやられます。いきます。

「爪術『カマイタチ』、はあ~、だ、だ、だ」

私は、爪の斬撃を風に載せて連続で放ちました。ゴブリンナイトがそれを見て焦りました。剣と盾でなんとか受け流したようですが、隙ありです!鉄の爪を右太ももに食い込ませました。あれ、抜けない!まずい、ゴブリンナイトも見逃してくれませんでした。盾の尖った所を私の左肩にもらいました。けど、ショックで鉄の爪も取れました。く~、さすがに痛いです。でも、この程度なら負けません。一気に畳み込みます。

「はあ~~。」

左肩が多少痛みますが、両手と2つの鉄の爪に魔力を集中させ、一気に攻撃を仕掛けました。始めはゴブリンナイトも剣や盾で応戦しましたが、次第に裁ききれなくなり決定的な隙が出来ました。ここで私は、あの技を使う事にしました。今なら出来るはずです。

右手の鉄の爪に雷属性の『サンダー』を纏わせ、そこにさらに魔力を集中させました。すると、右手から雷がバチバチバチバチと音を立てていました。これなら大丈夫!


「これで終わりです。『サンダーファング』、はあ~~!」


そして、盾ごとゴブリンナイトを切り裂くことが出来ました。成功です。今まで、学園で練習しても一度も発動出来なかったのに師匠の修行のおかげで、初めて成功しました。

「はあ、はあ、はあ、やった、やった、やりました~~、師匠!」

師匠を見ると、オーガナイトとエビルタイガーは既に死んでおり、こちらをずっと見てました。そして、満面の笑みで私を褒めてくれました。

「よくやったわ、フィン。『カマイタチ』だけじゃなく、『サンダーファング』まで使えるとはね。ずっと、練習してたのね。」

「はい、はい、学園にいた時から、ずっとイメージして練習してたんですけど、全然出来なかったんです。でも、今ならいけると思ってやったら成功しました。嬉しいです!」

師匠が実戦で、初めて私を褒めてくれました。滅茶苦茶嬉しいです。

「さて、女の子を見ましょうか。」
「あ、はい、そうでした。」

すっかり忘れていました。倒れている女の子を見ると、傷だらけでした。あちこちに裂傷があり、全身に火傷があって、息も絶え絶えの状態です。もう少しで死んでいたかもしれません。でも、この子、どこかで見た事があるような気がするんですが、はてどこで見たのでしょうか?思い出せません。

「これは酷いわね。全身の傷だけじゃない、魔力も殆どないわね。まずは『マックス・ヒール』」

凄い、見る見るうちに傷が回復していきます。あっという間に完治しました。え、え、あれ、あれれ、この人は、でも

「アイリス様~~!!間違いありません。この人はアイリス様です、師匠!」

スフィアート教の聖女様が、なんでこんな所にいるんですか!
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