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29話 起死回生となる一手

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ガチャは一日一回限り、俺が学園の正門で引いたカードには、人の両足がまるで歩いているかのような絵が描かれていた。

補助系カード
三百六十歩いて三百六十歩戻るカード

レア度5:★★★★★☆☆☆
使用回数:一回限り
対象人数:一人
効果:
その名の通り、このカードが使用されると、どんな相手であろうとも必ず三百六十歩前進し、三百六十歩後退する。また、歩いている間は、自分から攻撃不可となり、完全無防備状態となる。なお、このカードは空陸海全ての者に通用する。空と海の場合は一メートルで一歩とする。

この状況下で引くカードが、これとは。
だが、これは使える!

「フィリアナ、俺の方は手頃なカードが出てきた。ただ、攻撃系じゃないから、君の透視スキルで奴の弱点を教えてくれ。カードの効果が継続している間、俺と学生達が一斉攻撃を仕掛ける!」

「了解じゃ。では、行くぞ……【ホーリーフィールド】、【ホーリーエンチャント】、【ワイドヒール】」

フィリアナは聖獣形態に変身するとすぐに学園内へと入り、あの魔物に気づかれない様、氷漬けとなった生徒達が密集している場所へと駆けて行き、すぐさま聖魔法を使用する。俺は、魔物アストラルゴーゴンヘッドのもとへと駆けていく。

『フィックス、学園の敷地面積が不明じゃから、とりあえず周囲百メートル以内にいる者達に、聖属性を付与させた。奴の弱点は清い心を持つ者達の魔法全般じゃ。どんな魔法を打っても構わんが、あの元となる生徒に対して一切の邪念を持たず攻撃するんじゃ。少しでも邪念を持つと、その魔法は吸収されるぞ!』

主従契約を結ぶと互いが何処にいようとも、通信できると聞いたことがある。スキル《伝播》と似たものをフィリアナ限定で、俺も使用できるのか。

というかなんだよ、その弱点は!

だが、その生徒本人が邪念の有無の判別を既に実行してくれている。恨みが強い分、恨み憎い相手から氷漬けにさせていったことが功を奏したようだ。多分、校舎内も同じ現象が起きているかもしれない。

『後、総攻撃する際、中心にいる生徒を傷つけるな。ある程度弱体化させた後、妾がとどめを刺す!』

フィリアナには、《ホーリーブレス》という聖魔法があったはずだ。多分、それを放つのだろう。

『了解だ!』

あとは、俺が学生や先生方に説明するだけなんだが、普通に考えていきなり現れた無名冒険者が、魔物の弱点を正確に言い当てたとしても、まず信じてもらえないだろう。

「お~い、みんな聞いてくれ~~。俺は冒険者のフィックス、今、この学園内には強くて小さな聖獣様がいる。君達も、自分の状態に気づいているはずだ。その変化は、聖獣様が君達に聖属性を付与させたんだ。俺は聖獣様から、とある魔法を授かった」

ここから重大事項を言わないといけない。俺のカード効果は、普通ならありえないものだから、皆を納得させる言い方をしないと!!

「この魔法を使うと、相手は一切攻撃することなく、一定時間歩くだけの人形となる。相手がどんな強敵で、どんな魔法障壁を放とうとも、必ず効く不可視の魔法だ!! 皆、俺の合図と共に、自分達の得意魔法で一斉攻撃を放つんだ!! ただし、魔法を放つ上で大切なことがある。それは、魔物化した生徒を絶対に助けるという思いだ!! その思いを忘れず、攻撃を放つんだ!!」

校庭内にいる学生達や先生、魔物アストラルゴーゴンヘッドすらも、俺を見て呆然とし微動だにしない。ここからは、相手に考える時間を与えない方がいい。俺が手動となって、奴に攻撃を仕掛ける!!
「いくぞ!!」

補助系カード【三百六十歩いて三百六十歩戻るカード】、発動だ!!
俺の心の声がトリガーとなり、カードが赤く輝き、魔物の元へ向かう。
そして、魔物に気づかれることなく、カードが体内へと入った。

その瞬間、先程まで暴れていた魔物の様子がおかしくなる。奴の何百とも言える目がとろ~んとして、動きもふらつく。まるで、酒で酔い千鳥足を踏む人間のようだ。そのまま周囲を、フヨフヨと漂い始める。

「よし、かかった!! アクアショット!!」
俺は、水の初級魔法を全力で放つ。無防備状態のため直撃したが、大したダメージを与えていない。それでも、俺は何発も何発も何発も攻撃を放つ。六回程続けると、別方向から風魔法や火魔法の初級魔法が何処からか放たれた。

「生徒達、フィックス君の言った通り、この敷地一帯は聖魔法で覆われている。聖獣様が学園の危機に駆けつけてくれた!! しかも、氷漬けにされた生徒達を広範囲回復魔法で治療し続けてくれている。聖獣様を回復に専念させるため、我々で魔物化した生徒を助けるのだ!!」

おお、先生達が校舎内から駆けつけてくれたのか!! 
ここで生徒達を俄然やる気にさせる言葉を放とう。

「みんな、俺達は中の生徒を傷つけずに、奴を弱体化させればいい。ある程度弱ったら、聖獣様が聖魔法による攻撃が放たれる。その魔法は【悪】のみを浄化させるから、中に閉じ込められている生徒は絶対に助かる!!」

俺と先生達の言葉が火種となったのか、校庭内にいる生徒達の目が光を取り戻し、一斉に各属性の初級魔法が奴に向けて放たれていく。聖属性が付与されているため、相反する属性がぶつかりあっても、決して消滅することはない。

「すげえ、校舎の中にいる生徒達も窓越しから魔法を放ってくれている。これだけの数の初級魔法を無防備でくらい続ければ、奴とて無傷のはずがない」

なんて光景だよ。各属性の魔法が一斉に放たれているせいか、魔物が色とりどりのシャワーを浴びているようにも見える。まだ、カード効果が継続中のためか、校庭をフラフラと後退しているだけだ。よし、これなら効果が切れる前に、奴を弱体化できそうだ!!

『フィリアナ、こっちはカード影響下もあって順調だ。さっきから、あらゆる属性の初級中級魔法が、次々とあの魔物に直撃している』

『ふむ、奴の力が急速に減少しておるの。じゃが、気を付けろよ。カードの効果が切れると、暴れるかもしれん。妾が回復から最大攻撃に転じるまであと数分、なんとしても時間を稼ぐのじゃ!!』

奴が三百六十メートル前進すると、今度は同じ距離を後退していくはず…うん? 
今、後退しているよな? 
げ、やばい!?
あと何メートルで、カードの効果が切れるんだ?
夢中になって放ち続けていたせいもあって、確認を怠っていた!!

現在のアストラルゴーゴンヘッドは、中心から出ていた何百いや何千というドラゴンの顔をした蛇のような物体が数を八割程減らしているせいか、正直笑ってしまいそうな程、貧相に見える。後退している動きもカード発動時よりもフラフラになってはいるが、油断は禁物だ。俺はかなり焦ったものの、ステータスを開いたらカードの効果残存距離が、【あと二十九メートル】と表示されていた事で、落ち着きを取り戻す。このままだと、フィリアナの最大攻撃が放たれるまでには、効果が切れてしまう。

ほんの少しだけでもいい。
何か時間稼ぎができるカードは…•そうか、これか!!

「みんな~~聞いてくれ~~~。奴はあと二十メートル程後退すると、今度はその場で立ち止まり、おかしな行動をとるはずだ。全員、その行動を見ても一切動じることなく、魔法を放つんだ。その行動が終わり次第、聖獣様が最大攻撃を仕掛ける。もうわかっていると思うが、ここまでの流れ全てが思惑通りに事が進んでいる。最後まで聖獣様を信じ、攻撃を続けるんだ!!」

俺が大声で周囲に叫ぶと、ほぼ全員が頷いてくれた。氷の呪縛から回復した学生に関しては、まだ完全回復には至っていない。…いや、フィリアナがわざと回復させていないのだろう。《氷で覆われた》ということは、少なからず原因となった生徒に悪感情を抱いているはずだ。その人達まで攻撃に参加してしまうと、奴が回復してしまう。

…あと十メートル
…あと五メートル
…よし、このタイミングだ!!

「三三七拍子カード発動!!」

カードが赤く光りだし、俺から魔物へと移動していき、ゆっくりと奴の中心部へと入っていく。すると、中に眠る生徒が突然目覚め、スクッと立ち上がる。
その行動を見て、俺を含めた全員がギョッとするが、俺の言葉を信じたのか、一瞬のタイムラグがあったものの、再度魔法攻撃が続行される。

「皆さん、私に様々な魔法を放ってくれてありがと~~~~。まるで、シャワーを浴びているかのような爽快感だよ。そのお礼として、これを見てほしい~~~~。さあ、お手を拝借~~~~」

魔物の中にいる男子生徒は、何を言っているんだ?

「三三七拍~~~子、よ~~~~~」

殻の中にいるせいで、声が途切れることがない。それにこの魔法攻撃の中、平然としながら言葉を紡いでいる。そういえば、三三七拍子を実行する前に、《状況に応じた言葉を紡ぐ》と記載されていたような?

「準備完了じゃ~~~~。全員、魔法の打ち込みをやめ~~~~~い」
げえ、ここでフィリアナからの合図だと!?
生徒達も、その声が聖獣のものと理解したのか、魔法を撃つのを中断した。

《パンパンパン、パンパンパン、パンパンパンパンパンパンパン》

魔物の中にいる男子生徒は、そんな事を気にする様子もなく、平然と三三七拍子を実行している。
「皆さん、どうも…」
「終わりじゃ~~~~ホーリーブレス!!」
「あり…」

かなり離れた場所から、人型に戻ったフィリアナの口から、白い巨大光線が放たれる……のはいいのだけど、敵は三三七拍子を終わらせ、お礼を言おうとしたところで、そのブレスに覆われる。普通、《反撃する》か《防御する》か《回避する》だろうに、カードの影響下もあって完全無防備で、まともにくらっている。

これは、もう…終わったな。
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