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24話 ヒロイン、全てを失う
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酷い豪雨ね。
私はずぶ濡れ状態で市場付近を歩いているのに、周囲にいる人達は私を避ける。
もう私の情報が出回っているでしょうけど、私にとっては些細なことよね。
「あはは…雨が降っても、この罰には関係ないんだ。まさか…たった一つのミスだけで、ここまで落ちこぼれるなんて…ね」
空は、どんよりしたぶ厚い雲で覆われているわ。
まるで、今の私の心情を現しているみたい。
あれから、【二日】も経過したのね。
私が魔法鞄(容量:中)に、学園内にある全ての私物を入れ終え、学園の正門から外に出ようとすると、至るところから侮蔑の視線を感じたわ。おまけに、私のクラス…だった教室からは、友人達が校庭を歩く私を見ていたようだけど、哀れみの視線はなく、あるのは軽蔑、侮蔑の視線ばかり、中には笑っている連中もいたわね。
そりゃあ、そうよね。
《聖獣》に関しては、散々授業で言われたもの。
聖獣保護法に違反した者は、誰であろうとも悲惨な末路が待ち受けている。私だって、理解していたわよ。だから、大火傷を負ったフィリアナを救出するため、色々と下準備を重ねた。あの時、何も言わず真っ先に治療を優先すべきだった。物語のヒロインは、そうしていたわ。でも、私はつい余計な一言を言ってしまった。その一言が、彼女に不信感を持たせてしまったのね。
「今更、悔やんでも遅いわよね」
学園を出て一時間程でクォークス子爵邸に到着したけど、家の敷地内には入れず、正門にはお父様、お母様、お兄様、弟の四人と数人の使用人達がいたわ。当主でもあるお父様から言われた言葉は…
「マリエルをクォークス家から追放する」
私は、言葉を発せられなかった。
皆が私を擁護してくれたけど、結果として聖獣や精霊を怒らせた以上、当主としてお父様はクォークス家を滅亡させないための措置をとらないといけない。だからこその【追放】、私はたった一日で友人、家族を全て失った。別れ際、半年ほど暮らせるほどの金銭をもらったけど、この天罰がある限り、何の意味もない。
何処かの宿に泊まろうにも、私の持つ臭いのせいで全て断わられる。挙句の果てに、腹を満たすため露店に立ち寄れば、店主達も露骨に私を追い出す。そのおかげで、この二日、水以外何も食べてない。寝泊りはスラム街の中でも誰も訪れることのない狭い空き家、誰もいないおかげで、何とか睡眠だけはとれるけど、私の心は満たされない。
「もう…最悪よ。頼れる人間もいないし、周囲の人間だって誰も私に近づかない。これから、どうやって生きていけばいいの?」
冒険者ギルドに行っても、皆が私を避けてしまい、冒険者登録自体も出来ずじまい。
「魔法が使えない以上、魔物討伐なんかしても殺されるのが関の山でしょうけど」
これからどうしよう?
お腹…減った。
もう二日、何も食べていないわ。
誰も私に近づけないのなら、何処に行っても無駄よ。
これが…《天罰》。
私はフィリアナを死なせたことで、聖獣や精霊を怒らせた。
彼らの怒りから、逃れる方法なんてあるわけないわ。
服は大雨でずぶ濡れ。
魔法も使えない。
お金もない。
頼るべき友人もいない。
頭も朦朧としてきた。
「たった一回のミスで、こんなBAD ENDを迎えるなんて…」
あ、誰かにぶつかったわ。
でも…もう…謝罪する力も…
「ご…め…ん…な…さ」
疲れた、ね…む…い…もう…。
『こい…は…マ…ルじゃろ?』
『そう…みた…だな。なんで……んだ?』
誰?
もういい、疲れた…わ。
○○○
あれ、暖かい?
どうして?
ここは何処なの?
「お。ようやくお目覚めか」
声?
私の側に、一人の男性がいる。
あれ、この人何処かで?
「あなたは、西の森で出会った…」
名前が出てこない。
「フィックスだよ。君は、マリエルだろ?」
私、彼に名を名乗ったかしら?
あれ?
そもそも、この人はどうして私に近づけるの?
「どうして…私を助けたの? どうして…私に近づけるの?」
「その質問は、こっちの女の子を見れば解決するよ」
女の子?
私は彼から視線を外し、少し後方にいる女の子の顔を見ると…
「え…フィリアナ!?」
驚きのあまり布団から出ようとしたけど、身体を全く動かせない。
全身が…熱い。
「おいおい、無茶するな。君は、高熱で倒れたんだぞ?」
どうして、フィリアナがここにいるの?
「フィリアナ、その姿でマリエルと会ったのか?」
「無論、会ったことなどない。じゃからこそ、気味が悪い」
あ、そうよ。
私とフィリアナは初対面なのだから、こんな言い方をしたら余計に警戒されるわ。
「マリエル、君に質問したいことが、こっちにもあるんだ。まあ、薄々勘づいているようだけど、まずはその体調を治すことが先決だね」
え、私を治療してくれるの?
「フィックス‼︎ 妾は、絶対に回復魔法を使わんぞ‼︎」
彼女は、怒っている。当然よね、私の不用意な一言で不信感を持たせてしまい、大火傷を負ったまま逃げてしまったもの。あの時、間違いなく死んだと思っていたのだけど、この男性が彼女を助けてくれたのね。
「わかっているさ。君は、彼女に一度殺されたようなものだ。《アクアヒール》」
清らかな水が、私の身体を冷やしていく。
また、眠たくなってきた。せめて、フィリアナに謝罪を…
「ありが…とう。フィリアナ、ごめん…なさい」
私はずぶ濡れ状態で市場付近を歩いているのに、周囲にいる人達は私を避ける。
もう私の情報が出回っているでしょうけど、私にとっては些細なことよね。
「あはは…雨が降っても、この罰には関係ないんだ。まさか…たった一つのミスだけで、ここまで落ちこぼれるなんて…ね」
空は、どんよりしたぶ厚い雲で覆われているわ。
まるで、今の私の心情を現しているみたい。
あれから、【二日】も経過したのね。
私が魔法鞄(容量:中)に、学園内にある全ての私物を入れ終え、学園の正門から外に出ようとすると、至るところから侮蔑の視線を感じたわ。おまけに、私のクラス…だった教室からは、友人達が校庭を歩く私を見ていたようだけど、哀れみの視線はなく、あるのは軽蔑、侮蔑の視線ばかり、中には笑っている連中もいたわね。
そりゃあ、そうよね。
《聖獣》に関しては、散々授業で言われたもの。
聖獣保護法に違反した者は、誰であろうとも悲惨な末路が待ち受けている。私だって、理解していたわよ。だから、大火傷を負ったフィリアナを救出するため、色々と下準備を重ねた。あの時、何も言わず真っ先に治療を優先すべきだった。物語のヒロインは、そうしていたわ。でも、私はつい余計な一言を言ってしまった。その一言が、彼女に不信感を持たせてしまったのね。
「今更、悔やんでも遅いわよね」
学園を出て一時間程でクォークス子爵邸に到着したけど、家の敷地内には入れず、正門にはお父様、お母様、お兄様、弟の四人と数人の使用人達がいたわ。当主でもあるお父様から言われた言葉は…
「マリエルをクォークス家から追放する」
私は、言葉を発せられなかった。
皆が私を擁護してくれたけど、結果として聖獣や精霊を怒らせた以上、当主としてお父様はクォークス家を滅亡させないための措置をとらないといけない。だからこその【追放】、私はたった一日で友人、家族を全て失った。別れ際、半年ほど暮らせるほどの金銭をもらったけど、この天罰がある限り、何の意味もない。
何処かの宿に泊まろうにも、私の持つ臭いのせいで全て断わられる。挙句の果てに、腹を満たすため露店に立ち寄れば、店主達も露骨に私を追い出す。そのおかげで、この二日、水以外何も食べてない。寝泊りはスラム街の中でも誰も訪れることのない狭い空き家、誰もいないおかげで、何とか睡眠だけはとれるけど、私の心は満たされない。
「もう…最悪よ。頼れる人間もいないし、周囲の人間だって誰も私に近づかない。これから、どうやって生きていけばいいの?」
冒険者ギルドに行っても、皆が私を避けてしまい、冒険者登録自体も出来ずじまい。
「魔法が使えない以上、魔物討伐なんかしても殺されるのが関の山でしょうけど」
これからどうしよう?
お腹…減った。
もう二日、何も食べていないわ。
誰も私に近づけないのなら、何処に行っても無駄よ。
これが…《天罰》。
私はフィリアナを死なせたことで、聖獣や精霊を怒らせた。
彼らの怒りから、逃れる方法なんてあるわけないわ。
服は大雨でずぶ濡れ。
魔法も使えない。
お金もない。
頼るべき友人もいない。
頭も朦朧としてきた。
「たった一回のミスで、こんなBAD ENDを迎えるなんて…」
あ、誰かにぶつかったわ。
でも…もう…謝罪する力も…
「ご…め…ん…な…さ」
疲れた、ね…む…い…もう…。
『こい…は…マ…ルじゃろ?』
『そう…みた…だな。なんで……んだ?』
誰?
もういい、疲れた…わ。
○○○
あれ、暖かい?
どうして?
ここは何処なの?
「お。ようやくお目覚めか」
声?
私の側に、一人の男性がいる。
あれ、この人何処かで?
「あなたは、西の森で出会った…」
名前が出てこない。
「フィックスだよ。君は、マリエルだろ?」
私、彼に名を名乗ったかしら?
あれ?
そもそも、この人はどうして私に近づけるの?
「どうして…私を助けたの? どうして…私に近づけるの?」
「その質問は、こっちの女の子を見れば解決するよ」
女の子?
私は彼から視線を外し、少し後方にいる女の子の顔を見ると…
「え…フィリアナ!?」
驚きのあまり布団から出ようとしたけど、身体を全く動かせない。
全身が…熱い。
「おいおい、無茶するな。君は、高熱で倒れたんだぞ?」
どうして、フィリアナがここにいるの?
「フィリアナ、その姿でマリエルと会ったのか?」
「無論、会ったことなどない。じゃからこそ、気味が悪い」
あ、そうよ。
私とフィリアナは初対面なのだから、こんな言い方をしたら余計に警戒されるわ。
「マリエル、君に質問したいことが、こっちにもあるんだ。まあ、薄々勘づいているようだけど、まずはその体調を治すことが先決だね」
え、私を治療してくれるの?
「フィックス‼︎ 妾は、絶対に回復魔法を使わんぞ‼︎」
彼女は、怒っている。当然よね、私の不用意な一言で不信感を持たせてしまい、大火傷を負ったまま逃げてしまったもの。あの時、間違いなく死んだと思っていたのだけど、この男性が彼女を助けてくれたのね。
「わかっているさ。君は、彼女に一度殺されたようなものだ。《アクアヒール》」
清らかな水が、私の身体を冷やしていく。
また、眠たくなってきた。せめて、フィリアナに謝罪を…
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