上 下
24 / 30

24話 ヒロイン、全てを失う

しおりを挟む
酷い豪雨ね。
私はずぶ濡れ状態で市場付近を歩いているのに、周囲にいる人達は私を避ける。
もう私の情報が出回っているでしょうけど、私にとっては些細なことよね。

「あはは…雨が降っても、この罰には関係ないんだ。まさか…たった一つのミスだけで、ここまで落ちこぼれるなんて…ね」

空は、どんよりしたぶ厚い雲で覆われているわ。
まるで、今の私の心情を現しているみたい。
あれから、【二日】も経過したのね。

私が魔法鞄(容量:中)に、学園内にある全ての私物を入れ終え、学園の正門から外に出ようとすると、至るところから侮蔑の視線を感じたわ。おまけに、私のクラス…だった教室からは、友人達が校庭を歩く私を見ていたようだけど、哀れみの視線はなく、あるのは軽蔑、侮蔑の視線ばかり、中には笑っている連中もいたわね。

そりゃあ、そうよね。
《聖獣》に関しては、散々授業で言われたもの。

聖獣保護法に違反した者は、誰であろうとも悲惨な末路が待ち受けている。私だって、理解していたわよ。だから、大火傷を負ったフィリアナを救出するため、色々と下準備を重ねた。あの時、何も言わず真っ先に治療を優先すべきだった。物語のヒロインは、そうしていたわ。でも、私はつい余計な一言を言ってしまった。その一言が、彼女に不信感を持たせてしまったのね。

「今更、悔やんでも遅いわよね」

学園を出て一時間程でクォークス子爵邸に到着したけど、家の敷地内には入れず、正門にはお父様、お母様、お兄様、弟の四人と数人の使用人達がいたわ。当主でもあるお父様から言われた言葉は…

「マリエルをクォークス家から追放する」

私は、言葉を発せられなかった。

皆が私を擁護してくれたけど、結果として聖獣や精霊を怒らせた以上、当主としてお父様はクォークス家を滅亡させないための措置をとらないといけない。だからこその【追放】、私はたった一日で友人、家族を全て失った。別れ際、半年ほど暮らせるほどの金銭をもらったけど、この天罰がある限り、何の意味もない。

何処かの宿に泊まろうにも、私の持つ臭いのせいで全て断わられる。挙句の果てに、腹を満たすため露店に立ち寄れば、店主達も露骨に私を追い出す。そのおかげで、この二日、水以外何も食べてない。寝泊りはスラム街の中でも誰も訪れることのない狭い空き家、誰もいないおかげで、何とか睡眠だけはとれるけど、私の心は満たされない。

「もう…最悪よ。頼れる人間もいないし、周囲の人間だって誰も私に近づかない。これから、どうやって生きていけばいいの?」

冒険者ギルドに行っても、皆が私を避けてしまい、冒険者登録自体も出来ずじまい。

「魔法が使えない以上、魔物討伐なんかしても殺されるのが関の山でしょうけど」

これからどうしよう?
お腹…減った。
もう二日、何も食べていないわ。
誰も私に近づけないのなら、何処に行っても無駄よ。

これが…《天罰》。
私はフィリアナを死なせたことで、聖獣や精霊を怒らせた。
彼らの怒りから、逃れる方法なんてあるわけないわ。

服は大雨でずぶ濡れ。
魔法も使えない。
お金もない。
頼るべき友人もいない。
頭も朦朧としてきた。

「たった一回のミスで、こんなBAD ENDを迎えるなんて…」

あ、誰かにぶつかったわ。
でも…もう…謝罪する力も…

「ご…め…ん…な…さ」

疲れた、ね…む…い…もう…。

『こい…は…マ…ルじゃろ?』
『そう…みた…だな。なんで……んだ?』
誰? 
もういい、疲れた…わ。

○○○

あれ、暖かい? 
どうして?
ここは何処なの?

「お。ようやくお目覚めか」
声? 
私の側に、一人の男性がいる。
あれ、この人何処かで?
「あなたは、西の森で出会った…」
名前が出てこない。
「フィックスだよ。君は、マリエルだろ?」
私、彼に名を名乗ったかしら?
あれ? 
そもそも、この人はどうして私に近づけるの?

「どうして…私を助けたの? どうして…私に近づけるの?」 
「その質問は、こっちの女の子を見れば解決するよ」

女の子? 
私は彼から視線を外し、少し後方にいる女の子の顔を見ると…

「え…フィリアナ!?」
驚きのあまり布団から出ようとしたけど、身体を全く動かせない。
全身が…熱い。

「おいおい、無茶するな。君は、高熱で倒れたんだぞ?」
どうして、フィリアナがここにいるの?
「フィリアナ、その姿でマリエルと会ったのか?」
「無論、会ったことなどない。じゃからこそ、気味が悪い」
あ、そうよ。
私とフィリアナは初対面なのだから、こんな言い方をしたら余計に警戒されるわ。
「マリエル、君に質問したいことが、こっちにもあるんだ。まあ、薄々勘づいているようだけど、まずはその体調を治すことが先決だね」

え、私を治療してくれるの?

「フィックス‼︎ 妾は、絶対に回復魔法を使わんぞ‼︎」

彼女は、怒っている。当然よね、私の不用意な一言で不信感を持たせてしまい、大火傷を負ったまま逃げてしまったもの。あの時、間違いなく死んだと思っていたのだけど、この男性が彼女を助けてくれたのね。

「わかっているさ。君は、彼女に一度殺されたようなものだ。《アクアヒール》」

清らかな水が、私の身体を冷やしていく。
また、眠たくなってきた。せめて、フィリアナに謝罪を…

「ありが…とう。フィリアナ、ごめん…なさい」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

閉じ込められた幼き聖女様《完結》

アーエル
ファンタジー
「ある男爵家の地下に歳をとらない少女が閉じ込められている」 ある若き当主がそう訴えた。 彼は幼き日に彼女に自然災害にあうと予知されて救われたらしい 「今度はあの方が救われる番です」 涙の訴えは聞き入れられた。 全6話 他社でも公開

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。

藍生蕗
恋愛
 かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。  そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……  偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。 ※ 設定は甘めです ※ 他のサイトにも投稿しています

頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。 その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。 16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。 後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。

【完結】聖女は妖精に隠される ~召喚されてきたのに追放されました。婚約破棄上等!~

ファンタジー
神獣ペガサスの住む泉の近くに、隣国から追放された聖女が住み着いた。 ある時、ケガを負った騎士を連れ帰ったペガサス。 聖女はその治療を引き受ける。 目が覚めた騎士は…… 身分差を乗り越えたハッピーエンドのお話です。 しかし結構なゲスい話になってしまいました。 ヒーローやヒロインのような人は、いません。わりとみんな自分勝手だなって、書き終わってから思いました。 ですがそれもまた、ありなのではないかな、と。 ※※※性表現や流血表現がある話には「※」を付けますのでご注意ください。 ◆注意 ・オリジナル恋愛ファンタジーです! ・ファンタジー=何でもあり! ・サラッと読もう! ・誤字脱字誤変換御免 2023年4月5日 完結しました。 ありがとうございました! --4月7日-- 感想ありがとうございます。 削除希望されていた方のものは削除させていただきました。

雇われ側妃は邪魔者のいなくなった後宮で高らかに笑う

ちゃっぷ
キャラ文芸
多少嫁ぎ遅れてはいるものの、宰相をしている父親のもとで平和に暮らしていた女性。 煌(ファン)国の皇帝は大変な女好きで、政治は宰相と皇弟に丸投げして後宮に入り浸り、お気に入りの側妃/上級妃たちに囲まれて過ごしていたが……彼女には関係ないこと。 そう思っていたのに父親から「皇帝に上級妃を排除したいと相談された。お前に後宮に入って邪魔者を排除してもらいたい」と頼まれる。 彼女は『上級妃を排除した後の後宮を自分にくれること』を条件に、雇われ側妃として後宮に入る。 そして、皇帝から自分を楽しませる女/遊姫(ヨウチェン)という名を与えられる。 しかし突然上級妃として後宮に入る遊姫のことを上級妃たちが良く思うはずもなく、彼女に幼稚な嫌がらせをしてきた。 自分を害する人間が大嫌いで、やられたらやり返す主義の遊姫は……必ず邪魔者を惨めに、後宮から追放することを決意する。

処理中です...