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6話 カード戦士、カードの力を目の当たりにする

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俺はスラム街を出て、冒険者ギルドへと足を進めている。武器防具を除いた六枚のカードの中でも、すぐに試せそうなものは……

《三三七拍子カード》
《痛い上での針カード》
《フワフワトロトロオムライスカード》
《うんちカード》
《ぶっ飛びカード》

の五枚だ。

俺はトランプを扱うかのように、五枚のカードを手に持ち、じっくりと眺める。

《料理系》のカードは一度カード化を解除してしまうと、そこから時間が流れてしまうらしく、鮮度も少しずつ劣化していく。ただし、再度カードに戻すと、劣化がその時点で停止するようだ。

絵を見た限り、見たことのない料理だし、カードにはレシピも掲載されているから、実際に試食した後、調理することも可能だ。料理人か料理に詳しい誰かと味わった方が良い。

「やっぱり、試すのなら《三三七拍子カード》か。使ったその場でその動作を起こすだけだし、俺一人でできるけど、やっぱり他人に試したい」

現在位置はスラム街から程近くにある商業区、ここには本屋・八百屋・喫茶店・定食屋・魔導具屋・魔法屋・武器屋・防具屋といった多くの店が建ち並んでおり、俺のいる広い通りには、いくつもの露店が設置されている。

王都内で仕事をしている人達には、決まった労働時間というものがある。飲食業を営む店以外は、大抵朝八時から夕方五時までだ。現在の時刻は朝九時、この時間帯は、客層の半数以上が冒険者となっている。冒険者は他の業種と比べ、危険度が極めて高いものの、依頼遂行時以外、基本自由行動だ。そのため、朝っぱらから飲む連中もいる。朝九時の時点でこの盛況さなのだから、ここブルセイド王国の王都も好景気と言ってもいい。ここで冒険者十人を指定して、三三七拍子を実行させたら面白いんだが…やめておこう。想像するだけで、笑ってしまうような展開になりそうだ。

さてさて、どうしたものか。
俺が逡巡していると、少し後方から低くて甲高い声が聞こえてきた。

「このガキ~~財布を返しやがれ~!」

この声の主、段々俺に近づいてきてないか? 俺が後ろを振り向いた瞬間、一人の背丈の低い茶髪の女の子が、俺の横を通り過ぎていく。

「フィックス兄、ごめん、見つかった。助けて!」
「今のは…メイか?」

俺を通り過ぎる瞬間に聞こてきた声、後ろ姿しかわからないが、多分メイだな。
あいつ、誰の財布を盗んだんだ?

スラムの子供達は生活苦だから、盗みも日常茶飯事だ。ただし、盗みに関しては極力見た目が阿保で鈍重な悪人だけにするよう、常に言い聞かせている。

メイの後方から、かなりの勢いで走ってくる奴が一人いる。小太りの何処か抜けていそうな二十歳前後の男、メイはあいつの財布を盗んだのか。

あの男は……この界隈で有名な商人のドラ息子、ムスカという名前だったはずだ。
どうやら」、護衛を連れていないようだ。
あいつだけなら、メイも逃げ切れるか?

彼女は十歳だ。通り内にいる人々の密度も高いせいもあって、逃走速度も遅い。それに対して、男の方は怒りの形相で追いかけていることから、周囲の人々が驚き反射的に彼を避けている。そのため、メイとの距離が少しずつ詰まっていく。このままだと、メイはいずれ奴に捕まってしまう。

「そうだ…ここでこのカードの効能を試そう」

俺は《とあるカード》だけを手下に残し、残りをポシェットに戻す。このカードに魔力を流し、対象を指定すれば、カードの効果が発揮されるはずだ。

補助系《痛い上での針カード》
レア度:6★★★★★★☆☆
使用回数:一回限り
人数:最大三人
効果時間:十分
効果:指定された人物はどんな状況であろうとも、悪い出来事が立て続けに起こる。

今の状況、メイにとってはかなり危うい。
早速、試してみよう。
あの男も、死にはしないだろう。

「カード発動だ!」

発動と同時に、カードが淡い赤色の光を放ち、一瞬でムスカの頭上へと移動し、そのまま頭から身体内へとゆっくり入っていく。

周囲の人達は、光に気付いていない。
ムスカに至っては、カードが半分頭の中に入っているにも関わらず、気づく素振りもない。
カードが……全て入った!

「おら、どけよ!じじい、死にてえのか!」
「ひ!? あ、わしの杖が空へ!」

あの男、横から通り抜けようとした八十歳くらいの爺さんを左腕で突き飛ばしたぞ! その拍子に、爺さんは足腰が弱いせいもあって尻餅をつき、左手に持っていた杖が宙を飛ぶ。男の方は爺さんを無視して、そのまま走っていこうとしたが、俺も他の通行人達も杖の行き先を見つめていたので、誰かが上空から落ちてくる杖を指差し……

「あ、杖があの男に当たるわ!」

と呟いたところ、そのムスカがつい空を見る。

「あ! ……がごが! あががががが!」

嘘だろ…俺も他の連中も動きを止めてしまい、突然不幸な事故に見舞われた彼をじっと見つめる。こんな事が現実に起こりうるものなのか?

上空から落ちてくる長細い杖、男が少し口を開けたまま上空を見る。そして、杖がその口の中へスポンと入り、五センチ程食道の方へとめり込んでいく。杖の直径と口の開き加減が絶妙であったせいか、男も突然の出来事で戸惑い、その場で立ち止まり、必死に足掻いている。

「あがっがっが」

あれ? 
あの男の顔がどんどん真っ青になっていく。
このまま放っておいたら不味くないか? 

他の連中もそう思ったのか、一人の男性が杖を食った男のもとへ駆け寄り、杖をひっこ抜き、その場に放り捨てる。

「げほ、がっは、あ…あ…くそ…あのガキのせい…だ。ガキーーーー何処行った~~~~!」

あの男、あんな災難に遭っても、目を充血させ怒りの形相でメイを探すか。

「どこに…あ!」

あの男が一歩踏み込もうとした瞬間、右足で杖を踏んでしまい、バランスを崩しただと?

「ご! うごおおおお~~~~~~~~」

おいおい、嘘だろ。

バランスを崩し、そのまま背中から地面へとダイブする瞬間、円柱形の杖がコロコロとダイブする場所へと転がり、そのまま後頭部が杖の太い先端部に強打したぞ!? どれだけ、運が悪いんだよ。周囲の人達も、あまりの悲惨さで言葉を失なっている。

「くそったれが~~~邪魔なんだよ! こんな杖、へし折ってやる!……が、っはあああああああ~~~~~~」

……悲惨だ。

杖をへし折ろうとして、右足で杖の中央を踏もうとしたが、激痛の中無理に立ったせいで、足元がふらつき、踏む箇所が杖の下部となってしまう。おまけに少し踏み損ねたせいで、杖がムクっと起き上がり、そのまま奴の股間に直撃した。

「むごおおおおお、くそ~~~なんなんだよ~~~~」

内股となり、激痛をなんとか耐えている。
あれは、痛いだけじゃあすまされないだろう。
男なら誰だって、味わいたくない。

あの男、運が悪すぎる。
そして、メイは悪運が強すぎる…ように、周囲からは感じるだろう。

というか、あいつは今何処にいるんだ?
まさか、まだ周辺にいるんじゃないだろうな?

メイは……あいつ、いつの間にか細い路地へ移動しており、今の状況を見てポカ~んとこっちを眺めている。俺は彼女をじっと見つめ、目だけで《早く逃げろ》と訴えると、やっと視線に気づいてくれたのか、彼女は俺に感謝を込めて、三度お辞儀し、颯爽と路地の奥へと入っていった。

おっと、そうだった。
メイが逃走を成功させたのなら、ムスカの方はどうなるんだ?

「くそ~~~今日は厄日だ~~~もういい、くそったれ! やるよ!」

凄い絶叫だ、あそこまで連続的な不運が続けば、誰だって叫びたくもなるよな。
あいつはメイの確保を諦めたのか、来た道をすごすごと戻っていく。

「見るんじゃねんよ、殺すぞ‼︎ じじい‼︎」
あいつ、懲りもせず別の六十歳くらいの老人に怒りの吐け口を向けるとは!?
「なんだ、貴様は?」
それにしても、相手の爺さんは妙に凛々しいというか、存在感があるような?
「あ、やんのか! おら~~ってうおおおお~~~~!!!!!」
『どこぞのチンピラかよ』と心の内で突っこもうしたら、爺さんは殴りかかるムスカの右腕の力を利用して、そのまま奴を空へと放り投げた。
「ぎゃあああ~~~~痛え~~~~」
地面に激突し大声をあげるムスカ、周囲の人達はそれを軽く流し、笑いながら歩いていく。

カードの記載通りなら、あと五分程災難が連続的に起こるはずだ。
あまりにも悲惨すぎるから、もう見ないでおこう。

「《痛い上での針カード》、効果は本物だ。あんな事象、普段なら絶対起こりえないぞ」

俺自身の魔力も殆ど消費していない。それはそれで良いことなのだけど、力の根源となるものは何処から生じているのだろう?

まだまだわからないことも多いけど、これなら他のカードも、絶大な効果を示すはずだ。スキル《カードガチャ》、思った以上に使える。

これを駆使していけば、ソロでも冒険者として活躍できるぞ!
早速、冒険者ギルドへ行って、討伐依頼を受けてみよう!

追放の件もあって行きづらいが、そんな事を気にしていてはこの先やっていけない。
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