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24話 実習開始
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僕達は正門入口に立っている警備員の男性の1人に依頼書を提示すると、彼は正門横に設置されている小さな建物に入り、3枚のカードと、首にかけるストラップを持ってきてくれた。カードは入場許可証で、僕たちはそれをストラップに入れ、それを首にかけて中へと入る。
国立の研究所だけあって、あらゆる分野の最先端の研究が各建物内で行われている。時折、白衣を着た研究者たちが研究資材を持って、建物を出入りしている。僕達の向かうべき場所は、薬草を取り扱う薬学研究棟の敷地内にあるビニールハウスだ。そこでは、様々な薬草が栽培されている。
標識案内に従い、整備された歩道を歩いていると、前方の建物入口に、12歳くらいの水色髪の女の子、その父親なのか35歳くらいの茶髪の男性、そして30歳前後の女性のタルパがいた。あの敷地以外でタルパと遭遇したのは初めてのため、自然と目を向けてしまう。少し離れた位置のため、相手側は僕らに気づくことなく、入口が開放されている建物内へ入ったけど、ルティナとリノアをじっと入口を見続けている。
「2人とも、あの女の子と知り合いなの?」
僕の質問に答えてくれたのは、ルティナだ。
「ううん、女の子じゃなくて、気になったのはタルパの女性だよ。私たちの知っている人と似ていたような気がしたから…」
「ルティナ、気のせいだよ。聖女様が、皆を成仏させたもの」
「そだね…いるわけないよね」
その割には、2人とも寂しそうな表情をしている。ここまでの時点で、神殿の巫女になる前のルティナとリノアの状況を聞いている。2人は多くの孤児たちと共に孤児院に住んでいたけど、1年半前、そこで火災が発生した。火元は台所に設置されていた魔道具コンロ、かなり古い型だったようで、魔道具内にある魔石が壊れて発火に至ったとされており、9人の孤児とエブリンという女性院長が亡くなった。聖女様が、タルパとなった皆を成仏させた後、生き残ったルティナやリノアと出会ったことで、巫女としての才能を見出したらしい。
「ビニールハウスが見えてきたよ」
目的地を目指して歩いているうちに、2人はさっきのタルパの件を忘れて、気合いの入った表情となる。
「リノア、合格しようね!!」
「勿論!!」
僕だけ不合格にならないよう、こっちも真剣に取り組もう。
○○○
大きなビニールハウスの中には、6区画に別れた畑があった。森の中として想定され栽培されたせいか、草類が全ての区画で不規則に生えており、それぞれの環境が異なっているように感じる。ここの担当なのか、農業用の作業着を着た50歳くらいの男性がこっちへ近づいてくる。
「これはこれは、冒険者ギルドから聞いた通り、今回の新人さんには、可愛い子供がいるようですね。初めまして、私はこのGランク授業用ビニールハウス担当のディムエと言います。今回、貴方たちの実習の試験官も担っているので宜しくお願いします」
僕たちが自己紹介を済ませると、早速実習が始まった。午前の講義で先生から軽く教えてくれたけど、ここでの目的は、多数ある薬草の中でも、ポーションの原料とされているヨモギ草の選別、採取、保管の3つを実行し、合格点を貰えること。
ヨモギ草は数ある薬草の中でも、非常に頑強な部類に入り、踏んでも千切っても、一部を焼いても、必ず再生して元の形になる。この脅威的再生力のため、過酷な環境下でも生えてくることから、世界中に広く分布している。人がこれを煎じて飲むと、体力を回復させる効果があることから、これを基にポーションが製作されている。
このハウス内は全てGランク専用で栽培されており、
ヨモギ草と似たような薬草や毒草、雑草類が規則性などなく栽培されているため、ディムエさんはそれらとの選別方法、選別後の採取方法、採取後の保管方法を丁寧に教えてくれたけど、6.つの区画の違いまでは教えてくれなかった。話を聞いた限り、多分それぞれの違いを自分で知れということだろう。
「以上が、ヨモギ草の注意事項です。さあ、試験の始まりです。全員同時に、別区画に別れてやってもらいましょう」
「「え!?」」
心の準備が全くできていないようで、ルティナとリノアはかなり焦っている。
「講義と実習で教えた方法は基本的なものなので、それ以外のもので選別、採取しても構いません。試験時間は30分、区画内から10本だけ採取してください。10本中6本がヨモギ草で、品質Cランク以上であれば合格です」
これはGランク冒険者用に用意された試験だから、おそらく講義と実習をきちんと聞いていれば、そこまで難しくないはずだ。
と言っても、僕の場合、全く異なる方法で選別採取するんだけどね。
「ディムエさん、僕はこの区画でやります」
「ほう、そこですか」
この試験で重要なのは、【選別作業】だ。【採取】は、地面に出ている草の部分を斬ればいいだけだし、【保管】は採取した草を遮光袋で包めばいい。ここに来るまでに購入しておいたから問題ない。
「あそこが、最も困難な区画でしょう?」
「おや、気づいてましたか」
「ええ、擬態している奴らがうじゃうじゃいますから」
薬草、雑草、毒草類の中には、引き抜かれる確率を少しでも低下させるよう、近辺の草に擬態しているものもいる。あの区画だけ同じ形態の草の数が多いから、擬態植物がいるのは間違いないと思っていた。
「え、そうなの!? リノア、わかる?」
「全然、わからない。あの区画が一番簡単だと思ってた」
今の2人の力量では、見ただけでは気づけないだろう。
「それじゃあ、僕なりのやり方で見つけようかな。ルティナとリノアも、基本と常識に拘らず、自分たちに適したやり方でやるといい」
「お兄ちゃん、いいの?」
「いいよ。この実習は、別日に再試験可能だからね。追加料金に関しては、気にしなくていい。君たちは、自分の力量の範囲内で最適解を見つければ良いよ。それじゃあ、僕はあの区画に行くから」
「わかった。私も、やってみる!! リノア、頑張ろう」
「ええ」
2人は区画を選んで、そこへ入っていく。
それじゃあ、僕も始めようか。
さっきの実演で、ヨモギ草の波長を覚えたから楽だ。
まずは、スキル【同調】を発動させ、ヨモギ草に合わせて区画の中へ入る。
僕の同調した魔力を土に染み込ませ、区画全体へ広げる。
そして…
「ヨモギ草たち~~、今から君たちを優しく刈るから、居場所を教えてほしいな~~」
僕の呼びかけに応えてくれたのか、区画内にある幾つかの草が淡く輝く。同調した僕の魔力を吸ったことで、掌握したヨモギ草が反応してくれたので、僕は輝いている草の内部に秘める魔力量を探り、最も高いものから順に魔術【風刃】を地面スレスレで小さく発動させる。斬ったものを風で軽く舞上げ、僕の方へ引き寄せて終了だ。
「はい、終了。ディムエさん、僕の合否は?」
僕は、彼に10本のヨモギ草を渡す。
「は? え? まだ、5分しか……そんな全てが品質Sのヨモギ草…あの区画からどうやって…」
「企業秘密です」
と言っても、スキル【同調】を取得していれば、区別だけは容易に出来ると思う。
国立の研究所だけあって、あらゆる分野の最先端の研究が各建物内で行われている。時折、白衣を着た研究者たちが研究資材を持って、建物を出入りしている。僕達の向かうべき場所は、薬草を取り扱う薬学研究棟の敷地内にあるビニールハウスだ。そこでは、様々な薬草が栽培されている。
標識案内に従い、整備された歩道を歩いていると、前方の建物入口に、12歳くらいの水色髪の女の子、その父親なのか35歳くらいの茶髪の男性、そして30歳前後の女性のタルパがいた。あの敷地以外でタルパと遭遇したのは初めてのため、自然と目を向けてしまう。少し離れた位置のため、相手側は僕らに気づくことなく、入口が開放されている建物内へ入ったけど、ルティナとリノアをじっと入口を見続けている。
「2人とも、あの女の子と知り合いなの?」
僕の質問に答えてくれたのは、ルティナだ。
「ううん、女の子じゃなくて、気になったのはタルパの女性だよ。私たちの知っている人と似ていたような気がしたから…」
「ルティナ、気のせいだよ。聖女様が、皆を成仏させたもの」
「そだね…いるわけないよね」
その割には、2人とも寂しそうな表情をしている。ここまでの時点で、神殿の巫女になる前のルティナとリノアの状況を聞いている。2人は多くの孤児たちと共に孤児院に住んでいたけど、1年半前、そこで火災が発生した。火元は台所に設置されていた魔道具コンロ、かなり古い型だったようで、魔道具内にある魔石が壊れて発火に至ったとされており、9人の孤児とエブリンという女性院長が亡くなった。聖女様が、タルパとなった皆を成仏させた後、生き残ったルティナやリノアと出会ったことで、巫女としての才能を見出したらしい。
「ビニールハウスが見えてきたよ」
目的地を目指して歩いているうちに、2人はさっきのタルパの件を忘れて、気合いの入った表情となる。
「リノア、合格しようね!!」
「勿論!!」
僕だけ不合格にならないよう、こっちも真剣に取り組もう。
○○○
大きなビニールハウスの中には、6区画に別れた畑があった。森の中として想定され栽培されたせいか、草類が全ての区画で不規則に生えており、それぞれの環境が異なっているように感じる。ここの担当なのか、農業用の作業着を着た50歳くらいの男性がこっちへ近づいてくる。
「これはこれは、冒険者ギルドから聞いた通り、今回の新人さんには、可愛い子供がいるようですね。初めまして、私はこのGランク授業用ビニールハウス担当のディムエと言います。今回、貴方たちの実習の試験官も担っているので宜しくお願いします」
僕たちが自己紹介を済ませると、早速実習が始まった。午前の講義で先生から軽く教えてくれたけど、ここでの目的は、多数ある薬草の中でも、ポーションの原料とされているヨモギ草の選別、採取、保管の3つを実行し、合格点を貰えること。
ヨモギ草は数ある薬草の中でも、非常に頑強な部類に入り、踏んでも千切っても、一部を焼いても、必ず再生して元の形になる。この脅威的再生力のため、過酷な環境下でも生えてくることから、世界中に広く分布している。人がこれを煎じて飲むと、体力を回復させる効果があることから、これを基にポーションが製作されている。
このハウス内は全てGランク専用で栽培されており、
ヨモギ草と似たような薬草や毒草、雑草類が規則性などなく栽培されているため、ディムエさんはそれらとの選別方法、選別後の採取方法、採取後の保管方法を丁寧に教えてくれたけど、6.つの区画の違いまでは教えてくれなかった。話を聞いた限り、多分それぞれの違いを自分で知れということだろう。
「以上が、ヨモギ草の注意事項です。さあ、試験の始まりです。全員同時に、別区画に別れてやってもらいましょう」
「「え!?」」
心の準備が全くできていないようで、ルティナとリノアはかなり焦っている。
「講義と実習で教えた方法は基本的なものなので、それ以外のもので選別、採取しても構いません。試験時間は30分、区画内から10本だけ採取してください。10本中6本がヨモギ草で、品質Cランク以上であれば合格です」
これはGランク冒険者用に用意された試験だから、おそらく講義と実習をきちんと聞いていれば、そこまで難しくないはずだ。
と言っても、僕の場合、全く異なる方法で選別採取するんだけどね。
「ディムエさん、僕はこの区画でやります」
「ほう、そこですか」
この試験で重要なのは、【選別作業】だ。【採取】は、地面に出ている草の部分を斬ればいいだけだし、【保管】は採取した草を遮光袋で包めばいい。ここに来るまでに購入しておいたから問題ない。
「あそこが、最も困難な区画でしょう?」
「おや、気づいてましたか」
「ええ、擬態している奴らがうじゃうじゃいますから」
薬草、雑草、毒草類の中には、引き抜かれる確率を少しでも低下させるよう、近辺の草に擬態しているものもいる。あの区画だけ同じ形態の草の数が多いから、擬態植物がいるのは間違いないと思っていた。
「え、そうなの!? リノア、わかる?」
「全然、わからない。あの区画が一番簡単だと思ってた」
今の2人の力量では、見ただけでは気づけないだろう。
「それじゃあ、僕なりのやり方で見つけようかな。ルティナとリノアも、基本と常識に拘らず、自分たちに適したやり方でやるといい」
「お兄ちゃん、いいの?」
「いいよ。この実習は、別日に再試験可能だからね。追加料金に関しては、気にしなくていい。君たちは、自分の力量の範囲内で最適解を見つければ良いよ。それじゃあ、僕はあの区画に行くから」
「わかった。私も、やってみる!! リノア、頑張ろう」
「ええ」
2人は区画を選んで、そこへ入っていく。
それじゃあ、僕も始めようか。
さっきの実演で、ヨモギ草の波長を覚えたから楽だ。
まずは、スキル【同調】を発動させ、ヨモギ草に合わせて区画の中へ入る。
僕の同調した魔力を土に染み込ませ、区画全体へ広げる。
そして…
「ヨモギ草たち~~、今から君たちを優しく刈るから、居場所を教えてほしいな~~」
僕の呼びかけに応えてくれたのか、区画内にある幾つかの草が淡く輝く。同調した僕の魔力を吸ったことで、掌握したヨモギ草が反応してくれたので、僕は輝いている草の内部に秘める魔力量を探り、最も高いものから順に魔術【風刃】を地面スレスレで小さく発動させる。斬ったものを風で軽く舞上げ、僕の方へ引き寄せて終了だ。
「はい、終了。ディムエさん、僕の合否は?」
僕は、彼に10本のヨモギ草を渡す。
「は? え? まだ、5分しか……そんな全てが品質Sのヨモギ草…あの区画からどうやって…」
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