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13話 先客がいました

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麻布袋を用意し、いよいよ出発となった時にルティナの体調が気になったので顔色を見ると、興奮しているのか、全然疲れを見せていない。自分がリノアを見つけ出して、成仏させると意気込んでいる。

これなら大丈夫そうだ。
 
「ルティナ、ここからは手を繋いで邸へ向かうよ」
「私…1人で歩けるもん」

なんか誤解されて、そっぽを向いている。

「違うよ。君の服装は、囚人にそっくりだ。このまま歩いていると目立つから、すぐに僕らの居場所がマクレミーサ側にバレてしまうんだよ。ここからは、僕のスキル[気配遮断][隠密][認識阻害]をフル活用させる。僕に触れている間は、君にもスキルが適用される」

「そうなの!? 私、知ってるよ。隠密と認識阻害は、レアスキルに分類されていて、自分の魔力と気配を完璧に制御できないと入手できないんでしょ?」

「正解、よく知ってるね。さあ、ここからは無言で邸まで行くよ」

「うん!!」

スキルを発動させ路地から出て大通りに入ると、朝の時間帯とはいえ、人通りも多く、ぶつからないようゆっくりとしたペースで進んでいく。すれ違う人々が全くこちらを見ずに進むせいもあって、ついルティナが『すごい、誰も気づいてない』と少し大きめに声を出したせいで、周囲の人々が一斉にこっちを向くものだから、僕たちは慌てて駆け出す羽目になった。

ルティナの頭を軽く小突き注意すると、彼女は舌をぺろっと出し、『ごめんなさい』と呟く。自分が誰にも見向きされない光景に驚くのも理解できるけど、こっちは先を急いでいるんだから、余計な手間をかけないでほしい。

○○○

目的の邸に到着すると、貴族が住んでいただけあって、敷地面積も広い。昨日の一件の騒動で、周囲の住民たちも事情を知ったのか、敷地周辺は閑散としている。肝心の敷地の方も、バリケードが境界線沿いに敷かれており、立入禁止区域となっている。一応、ルティナたちの設置した結界も機能しているようだけど、あくまでタルパを閉じ込めるもので、侵入を阻む機能はないようだ。

「ここから見える範囲だと、人はいないようだけど、変化したところはあるかい?」
「ある!! リノアの遺体がない!!」

あ~そりゃあないよね。話を聞いた限り、リノアの遺体は中庭の中心付近にあるらしいけど、そのまま放置しておくのは不味い。神官たちが、調査時に回収したのだろう。

「とりあえず、僕らも勝手に調査を始めよう。誰かに見つかったら、死んだ友達を成仏させるために来たとでも言っておけばいいさ」

「うん!!」

ルティナは躊躇なく正門から敷地内に入ったけど、もう少し用心すべきだ。昨日タルパが大量に出現し、全てを討伐した割には、空気が妙に澱んでいる。

タルパは人の思念体、魔力の塊に相当する。討伐され分解されると、澱んだ空気も一新され、魔力も魔素となって、討伐場所に値する大地に吸収される。大量のタルパが討伐されたら、土地に含む魔素濃度も高くなるし、空気も清浄化するのだけど、濃度は何故か敷地外と大差ないし、空気も澱んだままだ。

この状況から推察するに、タルパが近辺にいる。
邸周辺には、その気配を感じ取れない。
だけど、必ずいるはずだ………いた!!

「どうして、空を見ているの? 早く入ろうよ。タルパの気配はないよ。リノアはタルパになったばかりだから、気配も微弱で、かなり近くに行かないと察知できない。マクレミーサが来る前に、私たちで見つけ出さないと」

なるほど、タルパ側も討伐されないよう頭を使っているわけだ。かなりの高度にいるから、ルティナ、リノア、マクレミーサも気づけなかったのか。

今いる数は7体か、昨日の今日でこの数となると、放っておくともっと増えるな。念の為、僕の魔力を大気と同化させて、敷地内とタルパのいる付近に散布しておこう。

邸の外を色々と歩いたけど、リノアという子供は見当たらない。それに、この邸の中庭には、所々に木々や花壇が配置されていて、何処から見ても景観が損なわれないよう整えられている。一応、土地の管理者は無人の邸であっても、敷地内を管理していることがわかる。

リノアがタルパ化しているのなら、邸内からこちらの様子を窺っているかもしれない。2階の窓を見ると……

「お兄ちゃん、2階の窓!! 今、誰かが横切った!!」

ルティナの身体が強張っている。
一瞬だったけど、僕もその姿を確認している。

「どうやら、先客がいるようだね」

事件発生から24時間経過していれば、神官たちの調査も入るし、マクレミーサの方もリノアを仕留めるため、刺客を差し向けているだろう。

先客は、どちらに該当するのかな?
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