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第二章 波乱の魔導具品評会
二十六話 誘拐事件の裏
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誘拐事件も解決(?)し、私は誰にも見つからないよう学園内へと入り、そろりと寮の私室へと帰宅した。途中、知り合いと鉢合わせしたけど、辻褄が合うよう、《まだ、少しだけ調子が悪いの。明日から登校するわ》と言っておいた。
誘拐されている間、私は《病欠扱い》となっている。
放課後に誘拐されることを事前に知っていたから、私がそうするようルミネにお願いしたのよね。
「ただいま、ルミネ」
「ティアナ様、お帰りなさいませ」
ルミネが満面な笑みを浮かべ私を出迎えてくれたのだけど、何かあったのかしら?
彼女には、プライズで製作した監視魔導具《ラプアス》を託している。
監視魔導具《ラプアス》、材料表示された十種類のパターンの中でも、耐久性と解像度重視のものを選択したことで、今でも常時起動しており、毎日兄の監視を続けている。絶対に発見されないよう、小型にしているし、ラプアス全体を光属性の魔石で薄くコーティングし、周囲の景色と同化させる効果を付与している。
俗に言う《光学迷彩》なんだけど、これのおかげで見つかる心配もない。
通常、こういった物は操縦者が必要なのだけど、私はプログラミング技術を応用して、ラプアスに《自動操縦》の効果を入れておいた。監視対象者から一メートルの距離を維持し、二十四時間ずっとカメラで監視している。しかも、対物センサー機能付きなので、障害物があっても自動で回避してくれる。色々と機能を付けたせいで、必要魔力がかなり高くなってしまい、パーツごとに毎日限界まで製作していたら、結局一台しか用意できなかった。
それに常時録画に耐えられる魔石も持っていないので、キーワードとして、《品評会》《論文》《ティアナ》《設計図》という言葉を発することで、十分間録画できるようプラグラムしている。現状の魔石では、合計二時間が録画機能の限界ね。
「何というかお馬鹿な理由で解放されたのだけど、何かしたの?」
誘拐されている間のラプアスから送信される監視画像を受信するための魔導具《ワイヤレステレビ》を、ルミネに預けておいた。私が持っていてもいいけど、想定外な出来事が起こり、私の力が露見されることは避けたい故の配慮だ。
「はい、内密にやりましたわ。誘拐二日前の夜、ウィンドル様の部下が三名の騎士に命令を出したのですが、私はそのうちの器材担当の騎士とそれとなく接触し、酒を飲ませて泥酔させました。その後、酔い止めの薬という名目で手紙と一緒に下剤を服に潜ませておきました」
ああ、そういうこと。
それで、魔導具用の器材だけがなかったのね。
ラプアスの操縦には、自動と手動の二種類がある。緊急用として開発した手動の操縦機もルミネに渡しておいたけど、それを使って部下の動向を探ったのね。
「ありがとう。おかげで、私も悪人から暴力を振るわれることもなかったわ。むしろ、同情されて仲良くなったわね」
ある意味でいい勉強になったけど、ルミネはまだ何かを隠しているような表情をしているわね。
「ティアナ様、こちらのラプラスから届いたばかりの映像をご覧ください」
そう言うと、彼女は操縦機を操作して、魔導具《ワイヤレステレビ》の画面に起動させる。画面には学園の生徒会室が映し出され、そこには兄ウィンドルと側近のヴァイスが二人だけでいるのだけど、兄とその護衛騎士でもあるヴァイスの表情が尋常じゃないほどに、醜く崩れている。
兄は怒りで、ヴァイスは謝罪で。
『おい…今言ったことは本当か?』
『はい…任務に当たらせた三人の騎士のうち、一人が別任務で単独行動をしていたようで、その者は任務終了後、朝まで仲間と飲み明かし泥酔したらしく、その後体調不良になってしまい……ずっと部屋にこもっていたようで……その日実行予定だった器材運搬の任務を…すっかり忘れていたようで……今更になってそれを思い出し、私に言い出す始末で…申し訳ございません』
『待て待て、じゃあ何か? この三日間、ティアナは器材もない状態で監禁されていたというのか?』
『そうなります』
『魔導具は?』
『肝心の器材がないのですから、何も製作されていません』
『くそ…だから、ティアナはあんな伝言を奴に言ったのか…もうダメだ…間に合わない…彼女を解放してやれ』
『は、申し訳ありません』
なるほどね~、こ~んな裏事情があって、私は解放されたわけか。
『くそ~~~~~~』
ヴァイスが部屋から出ていくと、兄は一人で怒り狂い叫ぶ。
こんな失敗、生まれて初めてでしょうね。
怒り狂う気持ちもわかるけど、これからが問題よね。
兄自身は優秀なんだけど、キューブといい誘拐といい、私と関わると、碌な目に遭ってないわね。
「面白い映像を見せてもらったわ。ラプアスとの連携も上手く機能しているし、実験台として兄を使って正解ね」
「ふふふふ、流石に私も笑ってしまいました。上手くいけば万々歳と思っていたのですが、ここまで事が上手く運ぶとは思いもしませんでした。それと、ティアナ様の懸念していた通り、開発室に保管されていた魔導金庫、これ自体が二日目に盗まれました」
ああ、やっぱり私のいない間に、再度誰かが部室に侵入したのね。
南京錠と魔導金庫、この二つの鉄壁な守りを強引に壊してきたわね。
「設計図と魔導具は?」
「勿論、無事でございます。南京錠も金庫も全て囮、私の空間魔法《アイテムボックス》の中に、今も厳重に保管されています」
OK、全てが予想通りね。
あの兄のことだから、空間魔法の使い手を用意して、盗みに入ってくると思っていたのよ。空間魔法には空間魔法を、ルミネの力があってこそできる芸当よね。
品評会まで残り三日、私たち中等部メンバーの魔導具は完成しており、残すは微調整だけ。
高等部メンバーはどこまで開発が進んでいるのだろう?
もし、起動すらしていないのであれば、潔く出場を辞退してほしい。
誘拐されている間、私は《病欠扱い》となっている。
放課後に誘拐されることを事前に知っていたから、私がそうするようルミネにお願いしたのよね。
「ただいま、ルミネ」
「ティアナ様、お帰りなさいませ」
ルミネが満面な笑みを浮かべ私を出迎えてくれたのだけど、何かあったのかしら?
彼女には、プライズで製作した監視魔導具《ラプアス》を託している。
監視魔導具《ラプアス》、材料表示された十種類のパターンの中でも、耐久性と解像度重視のものを選択したことで、今でも常時起動しており、毎日兄の監視を続けている。絶対に発見されないよう、小型にしているし、ラプアス全体を光属性の魔石で薄くコーティングし、周囲の景色と同化させる効果を付与している。
俗に言う《光学迷彩》なんだけど、これのおかげで見つかる心配もない。
通常、こういった物は操縦者が必要なのだけど、私はプログラミング技術を応用して、ラプアスに《自動操縦》の効果を入れておいた。監視対象者から一メートルの距離を維持し、二十四時間ずっとカメラで監視している。しかも、対物センサー機能付きなので、障害物があっても自動で回避してくれる。色々と機能を付けたせいで、必要魔力がかなり高くなってしまい、パーツごとに毎日限界まで製作していたら、結局一台しか用意できなかった。
それに常時録画に耐えられる魔石も持っていないので、キーワードとして、《品評会》《論文》《ティアナ》《設計図》という言葉を発することで、十分間録画できるようプラグラムしている。現状の魔石では、合計二時間が録画機能の限界ね。
「何というかお馬鹿な理由で解放されたのだけど、何かしたの?」
誘拐されている間のラプアスから送信される監視画像を受信するための魔導具《ワイヤレステレビ》を、ルミネに預けておいた。私が持っていてもいいけど、想定外な出来事が起こり、私の力が露見されることは避けたい故の配慮だ。
「はい、内密にやりましたわ。誘拐二日前の夜、ウィンドル様の部下が三名の騎士に命令を出したのですが、私はそのうちの器材担当の騎士とそれとなく接触し、酒を飲ませて泥酔させました。その後、酔い止めの薬という名目で手紙と一緒に下剤を服に潜ませておきました」
ああ、そういうこと。
それで、魔導具用の器材だけがなかったのね。
ラプアスの操縦には、自動と手動の二種類がある。緊急用として開発した手動の操縦機もルミネに渡しておいたけど、それを使って部下の動向を探ったのね。
「ありがとう。おかげで、私も悪人から暴力を振るわれることもなかったわ。むしろ、同情されて仲良くなったわね」
ある意味でいい勉強になったけど、ルミネはまだ何かを隠しているような表情をしているわね。
「ティアナ様、こちらのラプラスから届いたばかりの映像をご覧ください」
そう言うと、彼女は操縦機を操作して、魔導具《ワイヤレステレビ》の画面に起動させる。画面には学園の生徒会室が映し出され、そこには兄ウィンドルと側近のヴァイスが二人だけでいるのだけど、兄とその護衛騎士でもあるヴァイスの表情が尋常じゃないほどに、醜く崩れている。
兄は怒りで、ヴァイスは謝罪で。
『おい…今言ったことは本当か?』
『はい…任務に当たらせた三人の騎士のうち、一人が別任務で単独行動をしていたようで、その者は任務終了後、朝まで仲間と飲み明かし泥酔したらしく、その後体調不良になってしまい……ずっと部屋にこもっていたようで……その日実行予定だった器材運搬の任務を…すっかり忘れていたようで……今更になってそれを思い出し、私に言い出す始末で…申し訳ございません』
『待て待て、じゃあ何か? この三日間、ティアナは器材もない状態で監禁されていたというのか?』
『そうなります』
『魔導具は?』
『肝心の器材がないのですから、何も製作されていません』
『くそ…だから、ティアナはあんな伝言を奴に言ったのか…もうダメだ…間に合わない…彼女を解放してやれ』
『は、申し訳ありません』
なるほどね~、こ~んな裏事情があって、私は解放されたわけか。
『くそ~~~~~~』
ヴァイスが部屋から出ていくと、兄は一人で怒り狂い叫ぶ。
こんな失敗、生まれて初めてでしょうね。
怒り狂う気持ちもわかるけど、これからが問題よね。
兄自身は優秀なんだけど、キューブといい誘拐といい、私と関わると、碌な目に遭ってないわね。
「面白い映像を見せてもらったわ。ラプアスとの連携も上手く機能しているし、実験台として兄を使って正解ね」
「ふふふふ、流石に私も笑ってしまいました。上手くいけば万々歳と思っていたのですが、ここまで事が上手く運ぶとは思いもしませんでした。それと、ティアナ様の懸念していた通り、開発室に保管されていた魔導金庫、これ自体が二日目に盗まれました」
ああ、やっぱり私のいない間に、再度誰かが部室に侵入したのね。
南京錠と魔導金庫、この二つの鉄壁な守りを強引に壊してきたわね。
「設計図と魔導具は?」
「勿論、無事でございます。南京錠も金庫も全て囮、私の空間魔法《アイテムボックス》の中に、今も厳重に保管されています」
OK、全てが予想通りね。
あの兄のことだから、空間魔法の使い手を用意して、盗みに入ってくると思っていたのよ。空間魔法には空間魔法を、ルミネの力があってこそできる芸当よね。
品評会まで残り三日、私たち中等部メンバーの魔導具は完成しており、残すは微調整だけ。
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