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第二章 波乱の魔導具品評会

二十一話 プライズによる初めての創作品

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「ティアナ…これ…鉄剣を軽く通り越して、魔剣になっているじゃないか~~~~~~~」

 ここは、学園の二人部屋で構成される自習室。

 修繕に関しては、急ぐ必要性もなかったのだけど、修繕作業が面白く感じてしまい、気づけば完徹し、作業を終わらせてしまったのよね。

 そして、その日の昼休み、私とルミネはスウェンを防音性の高い自習室へ呼び出し、彼に修繕された剣とその性能を示す一枚の紙を手渡し、その内容を実際に目にしたことで、耳に響き渡る程の大声が狭い部屋中を駆け巡ってしまう結果を引き起こす。

 おほほほほ、ちょ~~~っとやりすぎちゃったのよね~~~~。

 昨日の夜、私はプライズメニューから《修繕》を選択し、対象となる《鉄剣》を放り込む。すると、折れた鉄剣の全体像が3D表示され、その内部構造もマイクロ単位まで拡大されて、私たちの目に表示された。

 私もルミネも剣の内部構造なんて初めて見る物だから面白くなってしまい、構造自体が不安定になっている箇所を徹底的に調査する。修繕すべき箇所を全てマークし終えた後、完成形となる《外側》《内側》のデザインを描き込んでいく。《外側》に関しては、元の鉄剣の3D画像をもとに追加するだけでいい。新規作成する案もあったけど、それはルミネに反対された。

『人の扱い方次第で、重心、柄の握り方、魔力伝導など、それぞれに独特な癖というものが生じます。癖の出方は千差万別、新規作成すると、そういったものが全てリセットされますので、スウェン様に返すのであれば、私はお勧めできません』

 私は、その理由に納得する。

《内側》に関しては、初見のため、鉄の構造をもとに描いていくだけでいい。だから、私は無傷となる純粋な鉄の構造をコピペしていき、基本形を完成させる。道中、ルミネが私のスムーズな作業動作を見て少し怪しんでいたけど、『マニュアルそのものが強制的に頭に入り込んできたからスムーズなのよ』と言ったら納得してくれたわ。それも半分本当なんだけど、パソコンの基本動作を習得しているのがもう一つの理由なのよね。

 そして、ここからが私とルミネによる応用が始まった。

 マイクロ単位で調査してわかったことだけど、長剣の中心部《芯》以外の内部には、所々隙間が観察されたし、鉄と無関係な雑居物も存在していた。私たちは、この雑居物を排除して隙間を増やし、そこに何かを詰め込んで強化できないかと考えた。応用部分の修繕が全て失敗したとしても、ただの《リメイク鉄剣》となるだけだし、着手する部分は見えないのだから、何をしても絶対にバレないと思い、何の気兼ねもなく、アイデアを考えていく。

 初めに着手したのは、廃棄物の成分検査。

《設計図を基に材料を調査し製作開始》ではなく、《今ある材料から設計図を描き製作を開始する》、この操作方法はマニュアルにないけど、理論上可能だと思い、プライズメニューから勝手にホールを開き、廃棄物を次から次へと入れていき、《分子レベルまで分解》をタップすると、フリーズすることなく、廃棄物の構成成分が表示された。すると、微量ではあるものの、《コウマナイト》・《インデントリウム》・《ルビスマクタ》と呼ばれる希少金属が見つかった。

 これらは総称してレアメタルと呼ばれており、魔導具内部を構成する《魔導回路》に必須とされる代物だ。魔力伝導性に優れており、回路同士を繋げる配線などに利用されている。

 これらの中から内部に組み込める成分がないかを調査した結果、純粋な鉄と最も相性良く機能するのが、《ルビスマクタ》だった。問題は、どうやって魔力を剣全体に行き渡らせるかだけど、流石に魔導具の魔導回路の知識を剣には応用できないし、魔剣を製作するための知識も世界に存在しているけど、今から習っていたのでは、いつ製作完了するかがわからない。

 だから……適当な思いつきで回路を作ってみることにした。
 試験運用なのだから、別にいいかという軽い気持ちだった。

 そこで役立ったのが、前世で習った《DNAの二重螺旋構造》、【剣と柄の芯となる部分に螺旋を描くようにルビスマクタを形成させていくことで、魔力を剣全体に効率よく伝わるのでは?】という何の根拠もない仮説。

 私たちは隙間を上手く利用して、理想的な剣を描きあげ、必要項目を全て記入し終える。最後に互いに笑いながら…

『これで魔剣になるわけないよね~』
『もうティアナ様ったら、そんな簡単に魔剣が出来るわけないじゃないですか~』

 と言って修繕をタップし、出来上がったのがスウェンに渡した鉄剣なんだけど、ルミネに性能テストしてもらったところ……剣を振れば振るほど、彼女の表情がどんどん青褪めていくのがわかった。

『あの……ティアナ様……私たちの適当に考えて盛り込んだアイデア……大当たりですよ。壊れた鉄剣が魔剣に進化しちゃいました』
『嘘!? 見た目は、ただの鉄剣なのに‼︎』

 そう、外側から見ると、誰が見ても高品質な普通の鉄剣、その内側に秘めた性能は完全に魔剣レベルと化していたのよ。

 私が雑居物を削除したことで、重量が軽くなり、鉄の純度が底上げされたせいか、斬撃性能も大幅に強化され、そこに柄から魔力を通すことで、更に鋭利に研ぎ澄まされ、初級の攻撃魔法を放てるレベルにまで成長してしまう。

 遊び半分で始めた応用が、外れるどころが大当たりを引くことになるとは思わなかった。試験運用は大成功したけど、青褪める事態に陥る。スウェン自身は騎士志望の学生で、学年レベルで置き換えるなら、強さもトップ10に入っているけど、魔剣を扱える技量を有していない。このまま黙って剣を処分するのもアリだけど、それはそれで心が痛む。でも、このまま何も言わずスウェンに渡すと、多分彼は早世することになる。

 私たちは魔剣を作った張本人、その責任を負わねばならない。

「修繕を実行した人(=私)もやりすぎたと言って反省しているのよ。だから、あなたがこの魔剣を使いこなせるようになるまで、ここにいるルミネが教師役として、あなたを鍛錬するわ」

「ええ!? ルミネさん、いいんですか!? ティアナの護衛を務めるほどの方から手解きを受けるのは、僕としても嬉しいのですが…」

 私とルミネから、冷や汗が止まらない。
 《そんなに畏まらなくていいから‼︎》と、全力で叫びたい。
 だって、これの製作にルミネも関わっているのだから。

「構いません。それと、こちらの鉄剣を差し上げます。学生訓練でコレを使うと、剣ごと相手の学生さんを真っ二つに……」

 今日の朝一で、ルミネは市販されている鉄剣の中でも、比較的高品質なもの購入した。勿論、費用は私と折半だ。

「わかりました‼︎ ありがたく頂戴いたします。御指導のほど、よろしくお願いします‼︎」

 恐ろしい映像をイメージしたのか、スウェンは躊躇なく鉄剣を受け取る。魔剣に関しては、彼自身が扱える技量に到達するまで、ルミネが預かることとなる。
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