婚約破棄を卒論に組み込んだら悪魔に魅入られてしまい国から追放されました

犬社護

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第一章 不遇からの脱出

七話 選別試験開始

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 試験前のキューブ観察時間は三十分しかない。
 兄の説得で五分程ロスしているから、残りは二十五分程か。

 二人が蒸し暑い中、必死にキューブの攻略方法を模索している近場で、ミルフィア様がその貴重な時間を使い、魔力を身体中に循環させる方法と、魔力を操作して手から放出させる方法を私に教えてくれた。

「身体中がポカポカする。これが…魔力?」

 これが、六歳まで私の身に宿っていたもの。
 身体全体から、力が漲ってくる。

 ここから鍛えていけば、私も魔法を使えるようになるのだけど、その前にこの選別試験を乗り越えないといけない。

「十分ほどしか教えていないのに、ここまで上達するなんて凄いです。本来なら属性の検査を行い、水の適正があれば、周囲の気温を低下させる魔法をお教えするのですが…」

 ミルフィア様も申し訳ない顔をしているけど、必要最低限の技術を知るだけで十分よ。

「今はキューブのことだけを考えましょう。ご丁寧に、私の目の前にウィンドウが表示されていて、残り時間が十四分と表示されていますので、ここからは教わった力を使い、キューブの調査に入ります。ミルフィア様、皆で頑張り乗り越えましょう」

「はい‼︎ 魔法の力の源は、イメージです。なんとかして工夫して、脱水症状を起こさないよう、心掛けて下さいね」

 そこには先程までの悲嘆に暮れた顔はなく、いつもの屈託のない笑顔があった。
 ここから先は、命懸けの勝負となる。

 クリス様と兄が頑張ってくれているけど、難しい顔をしたまま、じっとキューブを見つめていて、少しだけバラシてはその後すぐに元へ戻す作業を繰り返している。まだ、攻略法が見つかっていないのは明白ね。

 私も自分用のキューブを再び持ち、じっと観察する。

 う~ん、各面に描かれている絵、これらの迫力があり過ぎて、一面だけなら記憶しやすいのだけど、これが六面もあるから厄介なのよ。絵の構図も似ているし、九つに分画されていて、一つ一つのパーツと色合いも似ているせいもあって、一度完全にバラされたら、そこからの修復は不可能と思うくらいね。

 よく見ると、各面の中心に小さな丸い穴がある。
 これは、何か意味があるわね。
 ここに魔力を流したら、どうなるのかな?

 力に目覚めたばかりだし、絵も気持ち悪いから、目を閉じながら、試しにここへ魔力を流してみよう。

 私の中から生まれた魔力が、細い糸のようにキューブの中へ緩やかに入っていき、キューブ内部の空洞部を伝い全体を立体的に循環していく。空洞部は広い箇所もあれば細い箇所もあり、人でいうところの《血管》を表しているのかな。どうやら、各面の穴にも繋がっているようね。

……あれ?

 魔力だけに集中するため目を閉じたのだけど、キューブ内での流れ方って、絵と全然連動していないわ。それに私の流した魔力も。一見縦横無尽に駆け回っているように見えるのだけど、何か違う気がする。もう少し速度を遅くして、流れの軌跡とその全体像を追ってみよう。

 これは…やっぱり、そうだわ!! 

「みんな、外側の絵に囚われないで!! 目を閉じながら魔力を流してみて!! そうすれば、キューブ内の流れがわかるようになる。その全体を頭の中で立体化すれば、何らかの構造物になるはずよ!! 私の持つキューブの場合、多分、獣系の四本足の悪魔だと思うわ」

 私の言葉に逸早く反応し、行動を見せたのはクリス様だった。

「あ、ティアナ様の仰っている意味がわかりました!! 私のキューブの中は、一本足の怖い悪魔だと思います!! これならわかりやすいですし、なんとか九十分以内に終えられるかもしれません」

「俺は……多分ドラゴンだろう」
「私は、人型の悪魔ですね」

 やはり、三人のキューブ内にも、何らかの構造物が入っていたか。

「みんな、残り時間を全て使って、この構造物を記憶しましょう!! 試験が始まったら、目を閉じて構造物を完成させることだけに集中して!!」

「「はい!!」」「ああ」

 女性二人が気合の入った返事をしたけど、兄だけは感情のない気の抜けた返事をした。クリス様と相談していた時は、真剣な眼差しでキューブを見ていたから信じるしかないわね。

 そこからは、黙々と記憶の作業が始まった。
 もう、残り時間は五分もない。
 この内側に描かれた構造物を記憶して、勝負に挑むしかない。
 危険な賭けだけど、全員がそれを理解している。

 ただ、気温と湿度が少しずつ上昇している気がする。始めは三十度前後だったのに、今では多分四十度くらいあるんじゃない? 汗も、かなり出てきた。このままだと脱水症状を起こすかもしれない。三人は平然とした顔でキューブに専念しているけど暑くないのかしら? もしかして、何らかの魔法を行使して、体温を一定に保っているのかな?

 私は知識こそあるけど、冷気を身体の周囲に保つ技術を持っていないから、試験が始まったら、何か仕掛けられる前に速攻で終わらせる必要がある。


【只今より選別試験を開始する】
「「「「あ!?」」」」

 声の合図と同時に、空洞の円柱形のシールドが真上から降ってきて、私たちを囲み視界を遮断した。ただ、中には光が通っていて明るいため、試験に影響はなさそうだ。

「何だ、これは!?」
「聞いてないわ。このシールドは何?」

 兄とクリス様の声がこちらに聞こえているとなると、目的は候補者たちの視界を遮断すること?

「みんな、落ち着いて!! 試験が始まった以上、ここからは一人で挑まないといけないわ。絶対に焦らず、パズルを完成させましょう」
 
 あ、さっきまで見えていたウィンドウが消えている。
 これじゃあ、時間の感覚がわからない。 
 ……やってくれる。

 キューブのペースに呑まれないよう、注意して挑みましょう。
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