婚約破棄を卒論に組み込んだら悪魔に魅入られてしまい国から追放されました

犬社護

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第一章 不遇からの脱出

五話 デモンズキューブの内側

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 光が消失し、目を開けると、そこは一面濃い紫に覆われた部屋の中だった。

 わかりにくいけど、多分縦横高さ共に十メートル程の立方体の中にいるようね。唐突に場所を移されたせいか、もしくはこの部屋の雰囲気が私に合っているのか不明だけど、何故か感情の乱れが起きない。部屋全体から感じる何かが、私の中にあるものと意気投合しているかのような奇妙な感覚を感じる。

こんな薄気味悪い感覚、初めて。

「それにしても…暑い…なんて蒸し暑さよ」

 部屋内の気温、最低でも三十度以上はあるわね。それに、湿度がかなり高いせいもあって、体感的にはもっと高く感じる。この異様な空間の中には、私とミルフィ様以外に二人の男女が佇んでおり、どちらも私の知り合いだわ。

 女性は、高等部二年生の《クリス・ミッドレート男爵令嬢》。

 ウィンドルお兄様やミルフィア様と同じクラスで、三人は友人とも言える間柄。彼女は小柄で可愛く愛嬌もあり、男性陣から見て保護欲のそそられる容姿をしており、学業も優秀で礼儀正しくもあるため、学園の人気者だ。その噂は、中等部の私の方にまで聞こえてくる。

 そのクリス様も私たちと同じく、顔色がかなり悪い。

「ここ…何処? あの時の声…キューブの中? そんな…どうして……なんで…私が…なんで…嘘…」

 距離が比較的近いこともあって、なんとかか細い声の内容を所々聞き取れたけど、かなり混乱している。そして、男性は私の身内で、正直ここで会いたくなかった。

「どう言うことだ? 何故、私とクリスがキューブに吸引される?」

 これが縁というものなの? 
 どうして、こんな場所に連れ去られてまで、我が兄ウィンドルと遭遇するのよ。
 私とミルフィア様を認識すると、兄はズカズカとこちらへ歩いてきた。

「おい…ティアナ‼︎ 私たちに何をした!?」

 何故か激昂して私に文句を言う兄、正直意味がわからない。
 私だって、ここに連れてこられたばかりなのに。

「何故私に尋ねるのですか? 尋ねるべき相手は、キューブでしょう?」
「……ち‼︎」

 頭に血がのぼっているせいか、軽い舌打ちをし、兄は天井を見つめる。
 ミルフィア様は、自分が元凶だと思っているようで、頭を抱えてかなり悩んでいるようで、今は話しかけるタイミングではない。先に、クリス様に話しかけてみましょう。

「クリス様、大丈夫ですか?」

 私は天井を見つめる兄を無視して、クリス様の方へ駆け寄る。

「え…あ…はい」

 彼女の方は呆然としているけど、冷静に対処できているから話もできそうね。

「吸引された状況を教えてくれますか?」

 彼女は状況を理解したのか、静かに頷く。

「え…と、王城の庭園で、ウィンドル様たちと共にミルフィア様救出作戦を練っていたら、突然おかしな声が聞こえてきて…他のみんなは…いませんね」

 へえ~お兄様、私にミルフィア様の文句をいつもちょこちょこ言っていたけど、きちんと救出する方法をみんなと相談し考えていたんだ。

「私と似ていますね。先程まで熱で寝込んでいたところを、ミルフィア様が見舞いに来てくださったのです。そこでキューブの件を聞いている最中に、男の声が聞こえてきました」

「あ、私と同じだ」

 互いに話し合い、クリス様も落ち着きを取り戻したところで、兄が突然叫び出す。

「キューブ、どう言うことだ‼︎ 何故、俺とクリスを吸引した!?」

 え? 
 ミルフィア様は生贄として選ばれているから理解できるけど、そこに何故私の名を入れないの?

【ククククク、アハハハハハ、愉快愉快。何故と問うか?】

 この声、間違いなくあの時に聞こえたのと同じだわ。

「まさか……私を騙したのか?」

 騙す? どういうこと?

【我は騙してなどおらん。解放の礼として、ティアナとミルフィアの二人を生贄として選んだのだからな。まあ、元々お前たち四人は生贄として選ばれており、お前が解放しなくとも、近々我のもとへ吸引させるつもりではあったが】

「なんだ…と…それじゃあ何のために…俺は…」

【カカカカカカカ、願い損ということだ】

 ちょっと待って。
 あまりの展開で、私たち三人、脳が追いつかない。

 つまり、雷球の事故は故意で、それを実行したのがお兄様ってこと? 

 兄こそが学園内に保管されているキューブを解放した張本人?
 嘘でしょう?

 しかも、そのお礼として、兄は私とミルフィア様を生贄に選ぶよう願った?
 それって……私たちを殺そうとしたってこと?
 なんで…どうして?
 私は…そこまであなたに嫌われているの?

「ウィンドル様、最低です‼︎ ミルフィア様はあなたの婚約者、ティアナ様は妹じゃないですか‼︎ どうして、こんな酷いことを…」
 
 私とミルフィア様が、まだ驚きから立ち直れていないため、クリス様が私たちの言葉を代弁してくれた。
 私も、その理由を知りたい。

「な…俺が誰のためにこんなことをしたと……くそ‼︎」

 動機は不明だけど、無様ね。
 キューブを解放した本人も、生贄に選ばれているのだから。

【候補者たちよ、もう理解していると思うが、ここはデモンズキューブの中だ。我の名は悪魔アルキテクトゥス。お前たちには、我の用意したギミックに挑戦してもらう】

 とにかく、落ち着こう。
 どうせ殺されるのなら、こっちも好きにさせてもらいましょう。

「お話し中悪いんだけど、先にこちらの質問に答えてもらってもいいでしょうか?」

 強気な私に対して、クリス様が私を見る。

 兄は、キューブに言われたことが余程ショックなのか、項垂れたままで話を聞いていない。
 ミルフィア様も同じで、婚約者に裏切られたことがショックで、何も語ろうとしない。

 だから、私が皆の思いを代弁する。

「ティアナ様、状況を理解していますか!? ここは敵地のど真ん中なんですよ。機嫌を損ねただけで、全員が殺されるんですよ!!」

 クリス様の言いたいことは、私も理解できる。
 でもね、どうせ殺されるのなら、ここは強気に出るべきでしょう。

「クリス様、落ち着いて。ここは生還者ゼロのデモンズキューブの中よ。それならば、せめて吸引された理由だけでも、あなたも知りたいでしょう?」

 勿論、ここで死ぬつもりなどない。
 皆、蒸し暑さと先程のショックのせいで、冷静さを失いつつある。
 今はキューブから、少しでも情報を引き出しておきたい。

「それは…そうですが…」

 それ以上、クリス様は何も言ってこないから、私と同じ気持ちになったのかな。

【良いだろう。知りたいのは、お前たちを吸引した理由か?】
「そうよ!!」

【我が調査した限りの中で、ウィンドル・アレイザード、ミルフィア・レインブルク、ティアナ・アレイザード、クリス・ミッドレート、計四名の人間は、この国において、我の継承者としてなりえる可能性が最も高い。だから、お前たちを吸引した】

 調査って、このキューブは二日前まで封印されていたはずよね? 
 二日で国内にいる国民全員を調査したってこと?

【お前らが、何を言いたいのかわかるぞ。我らデモンズキューブは、いかなる状態でも、全ての魔法が効かん】

「は? え? それじゃあ、封印魔法は?」

【カカカカカカ、そんなもの、何の意味もなさない。我らは、我らの力を受け継ぐ者を探すのみ。二百年前までは無作為に探していたが、それでは見つからないと判断し、我ら全員がわざと封印されるよう装い、各国の人族共の中から候補者を探し出し、約十年おきに吸引していたのだ】

 初めて聞いたわ、そんな話。

 このまま私たちがキューブに殺されてしまうと、これからも行方不明者が定期的に出てしまい、キューブの犠牲者が増え続けてしまう。

 ここを脱出して、この内容を何としても皆に知らせなくては‼︎
 これまでの資料を読んだ限り、キューブを攻略するためには、必ず魔力が必要とされる。

私には、その魔力がない。
皆の足手纏いには……もうなりたくない。
最悪、殺されるかもしれないけど、これだけはキューブに質問しておきたい。
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