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第一章 不遇からの脱出

一話 卒論発表、タイトルは《婚約破棄からの王位継承者更生》

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 私-ティアナ・アレイザードは卒論の原稿を握りしめ、大講義室壇上へゆっくりと登壇し、出席者たちを眺める。

 そこには私の両親、国王アーゲイルと王妃オクタビアの姿があり、その横には私の兄で第一王子ウィンドルと、弟の第二王子クエンタの二人もいる。王族だけでなく、クラスメイトや多くの高位貴族も揃っていて、皆が《第一王女》の人間性とその価値を見極めるため、私に注目している。

 ここまで来たら、もう逃げられない。
 私はアレイザード王国の第一王女。
 その名に恥じぬよう、正々堂々《王族の恥》を打ち明ける!!

 胸の動悸よ、収まれ!!
 深呼吸よ……深呼吸。
 ふとお母様を見ると、《頑張れ》と口を動かしてくれた。
 それだけで、私の心の騒めきが静けさを取り戻す。

 私は覚悟を決めて、出席者たちのいる前を向く。

「私の卒業論文のテーマは、《婚約破棄からの王位継承者更生》です!!」

 私は拡声マイクを使い、卒論発表の舞台となる教室全域に響き渡るよう、高々と大声で周囲の出席者たちに自分のテーマを告げる。それと同時に、周囲が騒つく。私に婚約者がいないこともあって、この《婚約破棄》が何を意味しているのか気になるのでしょうね。

 今この瞬間、私は人生の岐路に立たされた。

  《栄光を掴み取れるか?》
  《平民落ちとなるか?》

 行き先は二つに一つ!!
 必ず勝利を捥ぎ取り、皆に私の存在を認めさせる!!
 今の私は、二ヶ月前までの欠陥品扱いされていた頃と違う。

 そう、私にとっての第二の人生は、奴と出会った二ヶ月前から始まったのよ。


○○○ 《……遡ること二ヶ月前》


「あれ…ここは…」

 頭痛が酷い。
 何があったの? 
 確か、大学の卒業論文のスピーチ原稿をバスの中で書いていて…あれ? 

 違う…何か違う。

 私は十五歳、中等部最終学年の卒業論文のテーマを考えていたはず。
 記憶の中に、今の自分とは違う別の姿の女性がいる。
 どうして? 
 これは誰なの?

「ティアナ様‼︎ お気づきになられたのですね!!」

 あ、ベッドに寝かされていたんだ。
 この女性は…私の専属侍女のルミネ…だったよね?
 おかしい、何故疑問系になるの?

 彼女の年齢は二十歳、私にとってはお姉さん的存在…のはずなんだけど、同世代だと思うのは何故かしら? とにかく心配してくれているのだから、私も何か話さないといけない。

「心配かけてごめんね。私、どのくらい寝ていたの?」

 私がベッドから上半身だけを起こすと、ルミネが慌てて駆けつけてくる。

「丸二日です。一昨日、陛下方がお越しになられたのですが、王族専属の主治医トーマス様からティアナ様の診断結果を聞いた途端……国王陛下が『この魔抜けが!!』と言い放って、第一王子と共に部屋を出て行かれました。それ以降、王妃様とクエンタ第二王子様以外の見舞い客は訪れておりません」

 《魔抜け》…か。
 その言葉のおかげで、記憶が段々と鮮明になってきた。

 この世界の殆どの住人は、魔法の原動力となる【魔力】を保有している。でも、稀にその魔力を保有しない《魔力欠損症》という病気を患う者が現れる。その割合は一万人に一人と言われており、私は六歳の時に魔法暴走を起こしてしまい、その影響で病気を発症させ、魔法の源泉となる魔力を失ってしまった。

 病気を持って生まれてくる者もいれば、私のように後天的に発症する場合もある。王族の中でも、病気を発症させたのは私だけ。

 この国の王族たちは、男女問わず魔法関係において、必ず何らかの才能に秀でている。国王陛下はカリスマ性などを強化させる《精神干渉系魔法》、第一王子ウィンドルは《風系の属性魔法》、第二王子クエンタは《肉体強化系魔法》、そんな中唯一私だけが魔力欠損症という病気のため、魔法の才能を有していない。

 本来、第一王女という身分上、平民のような言葉遣いをすると、両親や教育係から叱責を受けてしまう。でも、私という欠陥品に限り、教育方法も兄や弟と違っており、言葉遣いで咎められることは殆どない。

 勿論、これには理由がある。
 その理由と病気のせいで、私を見る周囲の目が変質した。

 表面上、皆は王女としての私に敬意を振る舞ってくれるけど、裏ではいつも馬鹿にしていることを知っている。偶々、その光景を目撃して以降、学園やお茶会などで聞き耳を立てていると……

『ティアナ様、どうしてまだ城にいられるのよ? 欠陥品なんだから、早々に追い出せばいいのに』
『平民落ちが確定している王女様に、敬称なんて付けたくないけど、私たちも我慢しないとね。私たちのような下級貴族はまだいいけど、面倒を見る上級貴族の令嬢様方なんて大変よ』
『お茶会の後、殆どの人が屈辱的な顔をしていたわよね~』

と言った具合に、私のことを《魔抜け》《欠陥品》と蔑称で呼び合い虐げる。

 私は悔しくて悔しくて、病気を根絶させようと、発症原因や完治方法を探るようになる。病気を発症してから九年、魔法関係の知識だけは専門職並みとなったけど、成果は全くと言っていいほど出ていない。

 うん……別の人の記憶が混在しているけど、今の自分の記憶に異常はないし、むしろ冴え渡っているくらいかな。

「あのさ、私の倒れた原因って何?」

 ルミネが、私からそっと目を逸らす。
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