転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護

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本編

14話 襲撃現場からの離脱 *トーイ視点

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なんて、光景だ。
立っている6人の盗賊たちが、4歳の幼女に倒されてしまった。

9人全員生きているけど、あちこち骨折しているから気絶から復帰しても歩けないだろう。

長からスキル[鑑定]を授かっていたおかげで、最後の転生特典で取得した伝統魔法の正体がわかった。伝統魔法[雷乃発生]、自分の魔力で入道雲を発生させて、周辺地域に雪や雨、雷、雹をもたらすものらしいけど、これだけならあんな異質な魔法にならない。もう一つのスキル[プログラム]、ユミル自身が自分の望む効果をこれに組み入れることで、非常識なものへと変化させたんだ。

今回の件で最も驚くべきことは、ユミルの魔法構築速度だ。

この伝統魔法は天候を操るもの、本来であれば、高レベルの魔法制御能力が必要となるし、消費魔力だって莫大なものとなる。ステータスに記載されている200からというのも、あくまで不安定な気象条件が揃った上での最小規模からのスタートという意味で、威力自体も人を倒せる程じゃない。元々、恵みをもたらす魔法なんだから、威力があったら大変だ。

今回、ユミルは最小設定にした上で、発動させるための条件を自ら選択していき、それで敵を倒せないと理解すると、倒せるようになるまで、発動中の魔法にずっとメスを入れ続け、驚異的な速度で自分の納得するものへと仕上げた。完成形となると、雲がハニービーの巣になっていて、雹が全ての穴からありえない速度で射出され、自然は起こりえない軌道となって、敵に直撃させていた。魔力量の関係であの程度の攻撃力しか発揮していないけど、あれが本来の威力で敵に到達した場合、この周囲は凄惨な光景になっていただろう。

[魔法は発動者のイメージで強弱も大きく変化する]とみんなでユミルに教えてきたけど、まさか空にある雲をあんな形に変容させて、魔法の威力を増大させるとは思わなかった。

殆どがスキル[プログラム]のおかげなのだろうけど、今回の出来事は入手したばかりのスキルを100%使いこなせないと出来ない行為だ。

……まずい。

ユミル自身、自分がどれだけ高度な技術をやってのけたのか理解していない。
スキル[プログラム]を利用すれば、今後伝統魔法を幾つでも製作できる。

この子を1人にしてはいけない。
この子は天真爛漫で純粋な子だ。
使い方次第で、国が荒れる。
道を踏み外さないよう、僕がユミルに、きちんと教育を施し、各国の貴族や平民についての常識を教えていこう。

とりあえず、今のこの状況をどうやって抜け出すかだ。そのまま放置すると、馬車の中にいる貴族に連れていかれるのが関の山だろう。正直僕たちカーバンクルは、金輪際貴族に関わりたくないけど、ユミルと旅を続ける以上、そうも言っていられない。

そこの地面で拘束されている戦闘メイド1人だけが目撃者である以上、ちょっと釘を刺しておこう。丁度、視線が盗賊達に向いているから、今のうちに僕も人化してスキルも解除して、姿を見せよう。ユミルをおんぶし地面に下りて、メイドと少しお話ししたらおさらばだ。

この姿になるのは、100年ぶりかな。あの貴族のせいで聖域から出られなくなり、人化する機会もなかったからね。

「え、ちょっと待ちなさい!! あなた、さっきまでいなかったわよね? その子をどうするつもり?」

流石に、ユミルをおんぶして地面に降りたら気づくか。ふ~ん、彼女の名前はメイリン、20歳の戦闘メイドで街長マーカス・カルバインに仕えているのか。長から授かったスキル[鑑定]のおかげで、相手の正体もすぐにわかって助かる。

「どうするって、僕はこの子の仲間なんだから、タウセントの街へ連れ帰るに決まっているでしょ?」

馬車の中から、2人の気配を感じる。流石に視認できないせいか、鑑定はできないけど、この中に街長かその関係者がいるのかもしれない。この気配から察するに、戸惑っているだけで嫌な感覚はしない。

このまま放置しても問題ないかな。

「僕って……あなたは女の子なんだから、私って言わないと……」

またか。

これまでカーバンクルの時は一度も注意されたことないけど、人化して12歳くらいの銀髪の女の子になると、何故か初見の人は、僕の容姿を見て、毎回同じ注意を入れてくる。

そこだけは、100年経過しても変わらない。

今の僕の服装は、男の子の着る冒険者服で、半ズボンだって履いているのに、髪が長いせいか、すぐに女の子とばれた。まあ、今ではこの性別に感謝しているけどね。下手に男の子になっていたら、ユミルが変に意識して僕から離れていたかもしれない。

「自分の一人称をどう言うかは、自分で決めるよ。あなたは攻撃魔法を使えるようだから、このまま放置しても問題ないね。そっちの盗賊の後始末は、あなたたちに任せたから」

いつまでもここにいたら、馬車の中の貴族が出てきて、お礼とか言われて屋敷に直行だ。早々に、この場を離れよう。長にスキル[反射]をAに引き上げてもらっているから、今の僕はこんなこともできるのさ。

「それじゃあ、さよなら」
「な、ちょっと待って!!」

反射を応用して地面を蹴り上げたら、あっという間に離れることができた。あのメイドはそこそこ強いから、骨折した盗賊達に遅れをとらないだろう。

さ~て街の入口も見えてきたことだし、このまま街に入ろう。少し気掛かりなのは、130年前に制作してもらった冒険者カードが、今でも使えるかってことだ。種族を寿命の長いハーフエルフで登録しているから、多分大丈夫だろう。あの種族は、人とエルフの特性が混じっていて、エルフの方が強く出ていれば、歳を重ねても、身体が成長しない場合がある。人間族も、そこを理解しているから問題ないはずだ。

お金に関しては、あの森で朽ち果てた冒険者たちの荷物から拝借したものが結構あるし、念のため130年前の金貨や銀貨も持ってきて、ユミルの空間魔法[アイテムボックス]や自分のポシェットに入れてある。最悪、この古銭を換金すれば、当面の間は生活に困らないだろう。

ユミル、僕と一緒に世界中を冒険しようね!!


○○○


やったね、街へ簡単に入れた!!

ユミルに関しては孤児で証明するものは何もないけど、『4歳という年齢なら何の罪も犯していないだろう』と判断してくれた。この街が孤児に対して、寛容で良かった。場所によっては神官を呼んで、審議魔法を使ってまで罪を犯していないか確認してくるところもあるからね。

僕の冒険者カードに関しても、少し型が古いと思われたけど、すんなりと通してくれたよ。ず~っと人化していないから、ちゃんと歩けるか不安だったけど、ユミルをおんぶし、エレメンタルスキル[反射]も使って普通に走れたから、今後の生活にも問題ないね。

「100年ぶりに見たけど、科学が結構発展したようだ。建物も、なんだか頑丈そうに見える。そういえば、盗賊に襲撃された貴族用馬車も、ユニークなものに変わってたな。街の雰囲気もいい。獣人族やエルフ族、ドラゴノイド族もいるじゃないか」

みんな、笑顔で話し合っているし、服装も結構上質だ。この街は100年経過しても、交易都市として機能しているようだね。ここは商業区のせいか、あちこちから良い匂いが漂ってくる。

あれ? 

匂いを楽しんで進んでいると、建物全体が全部新築になっているエリアに入った。区画が変わったわけでもないのにどうして?

おっと、キョロキョロしていたら誰かに絡まれるかもしれないから、まずは宿屋を見つけよう。ユミルを回復させることが、先決だからね。当分の間、この街を拠点に生活していくから、彼女と一緒に歩き回ろう。

「おっと、悪いな」
「あ、おい!!」

なんだよ、あの子供!? 突然、僕の肩にぶつかってきて謝ったと思ったら、そそくさと逃げていった。背格好から見て、12歳くらいの男の子だ。

「あ、まさか!!」

右手でポケットを探ると、銀貨の入った小袋が一つ無くなってる!! 街中で反射を展開すれば、誰かに勘付かれると思い、オフにしていたのが仇になった!!

「あの子供~~~、絶対許さない!! 臭いを覚えたからね。絶対に見つけ出す!!」

悔しいけど、今はユミルを回復させるためにも、寝床を見つけないといけない。ここからは盗人に注意して、歩を進めよう。
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