10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護

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4章 ベイツの過去

42話 倉木家からもたらされた最善策

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私が光希に助けを求めてから、1時間半が経過した。その間に太陽も沈んでしまい、周囲がどんどん暗くなっていくのだけど、公園の遊歩道沿いに設置されている街灯のおかげで、大樹周辺は辛うじて薄暗さを保っていた。そんな状況の中でも、ここから少し離れた場所には、大勢の人々が私たちと大樹様の状況を見守っている。

嵐が止んだせいで、大樹様の声が街の全土に届いてしまった。ここへ来た当初、全員が状況を理解できず混乱していたけど、威圧から復帰したユウキが私たちの置かれている状況を皆に説明したおかげで、混乱も鎮まった。ユウキによると、ここにいる人々全員が大樹=精霊であることに驚いているらしく、ストレスの原因は自分たちにあることを深く理解したため、状況が落ち着くまではここにいることを決めたみたい。

『話を聞けば聞くほど、興味が湧いてくる。咲耶の言う[鳥居][石畳][灯籠][しめ縄]、日本ではどういった方法で祀られているか聞いたが、いまいち想像できない。妹からの連絡はまだか?』

ここに至るまでの間、私は自分の持つスキル[異世界交流]と[転生者]であることを大樹様とガロードさんに話した。

大樹様は1000年以上生きていることもあり、[転生者]の存在を数多く知っているのか、スキル[異世界交流]ばかりに興味を持ってくれた。ガロードさんもフリード分身体から事情を聞いているので、私の状況を全部把握しているけど、聞き慣れないスキルに興味を持ってくれた。私は異世界[日本]のことを話し、スキルで文字だけの交流ができることを順に明かしていく。そして、神社で祀られている大樹様の情報を、日本側にいる光希に相談するところを実際に見せたことで、大樹様もガロードさんも驚いていたわ。

スキル発動で出現するタブレットで、地球のネット検索を使えればいいのだけど、あれはあくまでスキルのみにしか使えないことも判明したから、光希に頼るしかない。1人だと限界があるから、お母さんや悠太が協力してくれているはず、大樹様に見合うものとなると、かなり限られてくるわ。私なりにのイメージはあるけど、もう暗いから紙にも描けない。今は、日本にいる家族からの連絡を待つしかない。

その間、特にやることもないので、大樹様の愚痴を聞いたり、日本の神社関係の話をしたりして時間を繋いだ。私を経由してガロードさんもユウキも内容を理解しているから落ち着いているけど、ここから離れた場所にいる見学人たちは、ユウキが説明するまで意味不明なので、ハラハラした気分でいるはずだ。

「もうちょっと……あ‼︎ メッセージが来ました‼︎」
『やっとか!?』

《お姉ちゃん、待たせてごめんなさい。お母さんとお兄ちゃんにも協力してもらい、大樹様を祀るための立派な祭具を探していました。大樹様には添付ファイルの順番で見せてください》

添付ファイルが12個もあるわ。

「大樹様、妹の光希が資料を探し出してくれました。まずは、順に見せていきますね」

私は、フリードの法術で大樹様の目と同じ位置の高さにまで浮遊され、添付ファイルを開封し、画面を最大サイズにして、画像を見せていく。

① 奈良県、島根県、兵庫県などにある巨大鳥居  3点
② 鳥居と両端に一定間隔で佇む立派な石灯籠  2点
③ 豪華な絵が彫られた木製賽銭箱 1点
④ 大樹様の由来が刻まれている立派な石碑 1点
⑤ 賽銭箱の上に設置されている巨大しめ縄[画像は島根県の有名な某神社] 1点
⑥ 大樹を囲う豪華な柵 2点
⑦ 大樹を囲う神聖かつ立派なしめ縄 1点
⑧ それらの画像を合成して作られた大樹様を祀る社 1点

最後の画像、かなり念入りに違和感なく編集されている。
小学1年生の光希には、絶対無理だよ。
ユウキとガロードさんに見てもらってから、これらを大樹様に見せる。

『うおおおおおお~~~~~これだ~~~~これなんだよ~~~~~私の求めていたものは~~~素晴らしい~~~この雰囲気、厳かさ、神聖さ、日本人たちの祈る態度、これこそが私の求めていたものだ~~~~~』

大樹様がこれまでにないくらいの喜びの声をあげ、根っこをバシンバシンと地面を猛烈に叩く。私たち3人と1体は、これが歓喜に満ち溢れたものだと理解しているけど、後方にいる見学者たちには何も伝わっていないので、かなり騒ついている。

「こいつは驚いたな。何故、こんな形で祀るのか不明だが、見るだけで神聖さを感じる。これが、日本中にあるわけか。訳さなくても、大樹様が喜んでいるのがわかるよ。周辺の敷地面積も広いから、これと似たものを建築できる。周囲の景観と似ていないからこそ、ここだけが別世界のような錯覚すら感じるだろう。大樹様の願い、街の新たな観光スポット、どちらも満たされる。辺境伯にはスケッチだけを見せて、俺が納得させる」

辺境伯でもある領主様は、私のスキルと、前世に関する事情を知らない。この人物自身は大変厳格な方と聞いているけど、本国の国王と貴族だけでなく、隣国の国王や貴族とも深い繋がりがあるらしく、私の事情を全部話せば、何らかの理由で隣国に漏れる可能性があると考えたみたい。ただ、[クザン]の騒動の件もあり、私=リリアーナ・フェルデナンドであることだけは知っている。

この社の提案に関しては、全部ガロードさんに任せよう。

「お願いします。大樹様も納得してくれたので、後は魔物化の引き金となったものを掘り出せばいいですよね」

「そうだな。走りながら、フリードの分身体から少しだけ聞いている。2年くらい前に埋められた箱が原因らしいが?」

「はい、その通りです!!」

ミーシャさんとティリアから聞いた内容は、全部正しかった。街の危機を教えてくれたのだから、あの2人は良い人たちだよ。何か特別な事情があるのだろうけど、明日の朝にベイツさんの家へ寄りますと言っていたから、その時に事情を聞いてみようかな。

『咲耶』

大樹様に呼ばれたので、私は顔をあげ、彼の目を見る。

「はい、何でしょう?」

『感謝するぞ。あの画像で見たもの全てが、いずれここに建てられるのだからな。向こうにいる連中には、そこにいるユウキが事情を一部説明してくれている以上、私が精霊であることも広まるだろう。根の動く今のうちに、一つやっておく動作がある。咲耶、動くなよ』

大樹様の根っこが、私の右手付近に近づいてきた。
目覚めた直後は激怒していたけど、今はかなり落ち着いている。

顔の形相が怖いけど、攻撃される気配もない。フリードは何故か首を横に振りながら、《やれやれ、仕方ありませんね》と呟いているわ。

根っこが私の右手の目の前で止まったけど、私との握手を求めているのかな?
私が右手で優しく握手すると、その瞬間、何かが流れ込んできた。

まさか、この感覚は!?
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