10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護

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2章 家族との別離(今世)

23話 常識と思い込み

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スキル[原点回帰]、これが生物に使用可能であれば、ユウキさんの希望を叶えられるけど、ステータスにははっきりと魂のない無生物限定と記載されているから使用不可だと思うのだけど? 私が真剣に考え込んでいると、ユウキさんの声が不意に脳内に聞こえてきた。

『咲耶は良い子だな。流石に、こんな子供を殺せないよ。むしろ、この子を殺せと命令を下した実の父親となる伯爵を殺したいね。やはり、これまで殺してきた犯罪者連中とは違う。殺す前に、奴らにも私の願いを言ってみたものの、取り組んでいるフリをしているだけで、どうやって私を殺すか、その算段ばかり考え、ずっと私の隙を窺っていた。結局、どんな手段を用いても私を殺せないから、最後には血走った目で狂気にとりつかれ、大声で叫びながら闇雲に私に向かってきて殺されていたな』

これって、まさかスキル[心通眼]の効果? 

私がユウキさんに同情しているから、互いの心が通じ合い、心の声が聞こえるようになったんだ。このスキルって、異種族間との会話を可能にさせる効果だけだと思い込んでいた。そういえば、説明欄にも色々と応用可能だけど、活かせるかどうかは私次第とも記載されていたわ。

「ユウキさん、リット、試したいことがあるので、しばらく黙っていてね」
「わかった、焦る必要はない、ゆっくり考えてくれ」
「咲耶、頑張れ」

心が通じ合えるのなら、もしかして離れた距離であっても、空間魔法[念話]のように会話を交わせるんじゃないかな?

とりあえず、通信できるか試してみよう。フリードとルウリで繋がった場合、事情を聞かれちゃうし、ユウキさんの身に被害が及ぶ可能性がある。それに、私自身が2体に頼ってしまうから最後にしよう。スキルの効果を確認したいのなら、会話相手は猫たちの中でも一番絆の深いミケーネが妥当かな。

私は、ミケーネと出会って以降の事を強く思い浮かべる。

『ミケーネ、ミケーネ、咲耶だよ、聞こえる?』
お願い、ミケーネ反応して!!

『なんにゃ!? いきなり咲耶の声が聞こえたわ』
『やった、聞こえた!! 今、練習でスキルを使っているところなの』
『え……それじゃあ、私はこの溜まり場にいない咲耶と話し合っているってこと?』 
『うん、私から話しかけないと発動しない…と思うけど、これからはいつでもどこでも会話できるよ』
『それ、凄いわ!! 一方通行なのが残念だけど』
『あはは、そこは仕方ないよ。それじゃあ、一旦切るね』
『了解よ』

よし、成功した!! 

絆が深ければ、スキル《心通眼》で遠距離通信できるわ。ずっと動物同士と会話していたこともあり、これがこのスキルの効果だと思い込んでいたんだ。よく考えてみれば、冒険者登録試験の時にアメリアさんの動きを読めたことだって、心が通じ合えたからなんだわ。

次は、スキル《原点回帰》だ。
これをユウキさんに使用できれば、スキル《コントラクト》を打ち破れる。

試しに……『スキル発動、対象は《ユウキさんの中にある契約》』。
駄目だ、反応しない。

ガブリの物品や裁断された資料を指定した時、スキルが自分の中で発動されたことが感覚的にわかった。やっぱり、目に見えないものに関しては、直接指定できないんだ。でも、目に見えているユウキさん自身も生物だから、対象から外されてしまう。

う~ん、手詰まりになってしまった。
ここは、経験豊富なユウキさんに直接質問してみよう。

「ユウキさん、スキルの対象が魂のない無生物で、それを人に使用したい場合、どうしますか?」

「原点回帰の説明欄に記載されている内容で、悩んでいるんだな。そういった場合、《常識》と《思い込み》を捨てて考える事だな」

常識と思い込みを捨てる? そういえば、一時帰還時にトランプのババ抜きをしていた時、悠太にも似たようなことを言われたような気がする。

『姉さん、一枚だけ上に出していたカードが安全牌とは限らないよ』
『う、でも普通はそう思うじゃない』

『そういうのを《思い込み》っていうのさ。これは、駆け引きに相当するんだ。姉さんは冒険者なんだから、今後そういった思い込みに注意した方がいい。特に、ステータスに記載されている情報を、安易に信用しちゃあいけない』

『え、なんで!? 神様の考えたものだから、絶対正しいでしょ?』
『それこそが思い込みで、機能を制限されている可能性が高い。スキルを入手したら、非常識に考えて何でも試した方がいい』

非常識に考えろ……か。
そういえば、説明にある《魂の概念》って何処で考えるの?

私やユウキさんには、魂がある生物だけど、その生物の概念の区切りはどこにあるのだろう? 例えば、私の手だけを見た場合、これは生物と言えるのかな?

常識と思い込み……そうか!!
もしかしたら、これでいけるかもしれない!!

「ユウキさん、場所を移動しましょう。今から、猫たちの溜まり場へ行きます」
「は? どうして、そんな場所へ?」
「そうだよ、ここでやればいいよ」

怪訝な顔するユウキさんとリット。

「一つ思いついた案があるの。上手くいけば、副作用と引き換えにユウキさんの縛るもの全てを無かったことにできる」

「無かったことに? 副作用って…まさか…」

ユウキさんは、私の言葉に驚き固まっているわ。解析で私を見ているのなら、副作用の意味だって理解しているはずよ。

「人で試す行為は初めてなの。副作用にしても、もしかしたら想定外の事態が発生して、店を破壊する場合もある。だから、猫の溜まり場として利用されている誰も来ないあの広場なら、何かあっても誰も気づかないわ」

猫たちに事情説明しないといけないから、遠距離通信でミケーネに伝えておこう。少しの間だけなら、猫たちも許してくれるはずよ。

「リット、襲撃者が襲ってくる可能性もあるから、何かあった場合は教えられた通りの方法で、ルウリかフリードに伝えるんだよ。転移魔法で、すぐに駆けつけてくれるからね」

リットの属性は[水]、だから念話は使えない。でも、フリードが自分のアイテムバッグから、念話と同等の効果を持つイヤリング型の魔道具をもらっているから、これでどちらかに連絡できる。少しだけ不安だけど、2体を信じよう。

「わかった。でも、大丈夫? ユウキさんが裏切る可能性もあるよ?」
「勿論、気をつけるわ。そういった予兆があれば、すぐにルウリたちに連絡する」

でも、ルウリやフリードに守られているとはいえ、自分から死地に飛び込むような真似だけは、絶対に避けよう。

これから試す行為は、賭けだ。

成功すれば、ユウキさんは副作用をその身に受けてしまうけど、契約を無かったことにできる。

失敗すれば、ユウキさんは多分死ぬ。
放っておいても死んでしまう以上、試すしかないわ。
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