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2章 家族との別離(今世)
22話 予期せぬ来訪者
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お父さん、お母さん、悠太、光希。
ガブリ襲撃から4日が経過しました。
最初の襲撃事件以降、3夜連続で襲撃者がガブリを襲った……らしいのですが、ルウリとフリード以外は連日の疲れで熟睡していたので、起床時には全て解決していました。店の中に入られてもいないので、私、リット、アルドさん、ミントさんも毎回ポカンとしてしまい、本当に襲撃があったのか疑問に思ったくらいです。唯一、ベイツさんだけは全てを知っていました。
合計10名の襲撃者たちは、ルウリとフリードによって、アルドさんとミントさんの身に起きた怪我を完全再現させた状態で、しかも3夜連続で、深夜のレストランの客エリアに無造作にポイッと捨てられました。その後、彼らがどうなったのかわかりませんが、3日目以降、何も起こらなくなりました。偵察したフリードによると、奴らもこの異常事態に気づいたようで、深夜襲撃を急遽中止させ、当面の間は様子見となったそうです。
そして、ベイツさんはこれを好機と判断し、証拠資料をこの街に住む領主様の邸に匿名希望という形で証拠資料を投函しました。そこには資料と共に、内部告発という形の手紙も添えてあります。
ルウリが邸を監視していると、【食品偽装】と【魔物の養殖】の証拠資料を見た領主様は大慌てとなり、現在各都市の領主様方と電話で話し合いながら、関係者を逃さないための包囲網を作りつつあるようです。ここで問題となったのが【魔物の養殖】、【弱い魔物を人工的に繁殖させ食用として利用する】、この行為は犯罪で、もし12店舗独自の養殖場が存在していた場合、位置関係上、王都を包囲する形となるため、フェルデナンド家がいずれ謀反を起こす可能性も考えられます。
リリアムの街に住む領主様や他領の領主様方も、これが真実であった場合、かなりの大事になると踏み、この件は最重要機密事項扱いとされ、現在水面化で誰にも悟られぬよう動いています。
そして、肝心の定食屋ガブリに関しては、襲撃翌日だけ臨時休業としましたが、次の日から通常営業しており、私はお手伝いとして働いています。ベイツさんは、魔物の養殖場を潰す依頼を引き受けているので、現在遠出しており、ルウリとフリードも留守だけど、私が魔法[念話]で通信すれば、2体は転移魔法を使い、一瞬でここへ駆けてくれる手筈となっています。また、新たに覚えた召喚魔法を使えば、2体を私の目の前に召喚することも可能となりました。
「すまない、少しいいだろうか?」
午後2時で営業終了したばかりの定食屋ガブリの閉じられた入口が突然開いたので、片付け中の私とリットは、そちらに視線を向けると、獣人の十五歳くらいの女性が店へと入ってくるところだった。
「申し訳ありません。店の営業時刻は、午後2時までとなっています」
距離的に近い私が応対すると、獣人の女性は少しだけポカンとする。
「いや、私はユウキという。君-咲耶さんに用事があってきたんだ」
「え、私ですか?」
オレンジの長髪、何処か冷淡な瞳で私を見つめてくる獣人の女性ユウキさん。耳がピコピコと動いており、思わず撫で撫でしたい衝動に駆られる。
私にどんな用事があるのだろう?
私はテーブル席に座ってもらえるよう促し、対面で座ると、リットが気を利かして水を運んでくれた。
「閉店後に申し訳ない。こちらとしても、緊急性の高い案件なんだ」
「その内容を教えて頂けませんか?」
ユウキさんの風貌を見る限り、どう見ても冒険者だわ。
私に、何の用事があるのだろう?
「君は、【リリアーナ】という言葉に聞き覚えはあるか?」
リリアーナ?
誰、それ?
知り合いに、そんな人はいないわ。
名前から察するに、女性だよね?
「全く知りませんけど、その人を探しているのですか?」
「ああ、それならこの写真を見てくれないか」
ユウキさんは、バッグから一枚の写真を取り出し、私に差し出した。この世界にも、日本にあるデジタルカメラと似た物が販売されているとルウリから聞いているけど、実物を見たことがない。でも、この写真を見た限り、私がかなり鮮明に写っているから画質も相当……
「って、なんで私が写ってるの!?」
「うわ、咲耶にそっくりだ!!」
いつの間にか、リットが私の後方から覗き込み、写真を見て驚いている。
「綺麗な服、この咲耶に似た人って貴族?」
「そうだ、彼女の名は…」
ユウキさんは、ここで何故かメモ用紙を取り出し、何か書いた後、それを私たちに差し出した。そこには、【リリアーナ・フェルデナンド】と書かれており、続けてフェルデナンド家当主の娘と記載されている。
「君は記憶喪失と聞いているが、どこで喪失した…いや目覚めたのか教えてくれないか?」
さっきリリアーナって口に出していたから、【フェルデナンド】という単語を口に出してはいけないんだ。
この写真の人物は、どう見ても私だ。
しかも、フェルデナンドって、あの違和感を感じた家だよ。
現世の私って、フェルデナンド家の当主の娘で、【リリアーナ・フェルデナンド】という名前なのかな?
「スムレット山の樹海内にある川ですね。ベイツさんが、上流から流れてきた私を見つけてくれたんです」
本当のことを言っちゃったけど、この場合はいいよね?
「そうか。君は本人で間違いないな……困ったな」
え? なんで困るの? 目的の人物が見つかったら、普通喜ぶよね?
「今から私の目的を話すが、達成するつもりはないことだけ明言しておく。それを考慮した上で、私の依頼を聞いてくれないだろうか?」
目的を達成するつもりはないの?
その依頼って、私じゃなきゃ駄目なの?
「変な人」
う、リットが、うっかり口を滑らせたわ。
本人も思ったことを口に出してしまい、両手で口を塞いでいる。
「あはは、本当のことだし構わないよ。先に言っておくが、私は主人様との契約のせいで、契約内容を正確に言えない。これからぼかすような形で話すことだけを、頭に入れておいてくれ」
本当に、変な人だな。【契約のせいで言えない】って、その主人様もここにいないのだから、普通に話していいんじゃないの?
「わかりました」
リットも両手で口を閉ざしながら、頷く。
「私の目的は、この写真の人物をこの世から抹消することだ」
「「は!?」」
え、それって私を殺すってことだよね!?
というか、全然ぼかしてないよ!!
あれ、でも達成するつもりはないとも言ってたわ。
「なんと答えればいいのか…どうして目の前にいるのに達成しないのですか?」
ユウキさんは、そこで渋い表情をとる。
「達成した瞬間、私が君の従魔に瞬殺されるからだ」
「「ああ」」
私もリットも、それだけで納得した。ルウリもフリードも、ベイツさん以上の力を有している。私をこの場で殺したら、2体は絶対彼女を殺すと思う。つまり、ユウキさんの職業は暗殺者で、内容は私を暗殺することなんだね。でも、暗殺者って、孤高の1匹狼で、プライドも高いと思うんだけど、どうして暗殺対象の私に暴露しているの?
「はい、質問!! あなたには、暗殺者としてのプライドがないのですか?」
ごほ!! 飲みかけている水を吐き出しそうになってしまった。
リット、ストレートに言い過ぎ!!
「ないね」
ないの!? しかも、即答!!
「私の命をスキル[コントラクト]で縛り上げ、こんな職種にした契約主をむしろ殺したいくらいだ」
契約主なのに殺すって、その人は彼女に相当恨まれているのね。私を殺せないのなら、この人の求める依頼は何かな?
「咲耶は、スキル[コントラクト]を知っているか?」
コントラクト? そんなスキル、聞いたこともないわ。
「いえ、知りません。ルウリかフリードに聞けば、何かわかるかもしれませんけど」
「フェアリーバードと猫又のことだな。別の場所で、ハミングバードと猫又に話しかけたこともあるが、スキルの名称を知っていても、私の願いは叶えられなかった」
ハミングバードと猫又でも叶わない願いって何なの? そもそも、猫又はともかく、ハミングバードって野生の鳥だから人語を話せないよ。ユウキさんも、私と似たスキルを持っているのかな?
「私の依頼、それはスキル[コントラクト]を打ち破れるアイテムか、スキル持ちさ」
スキルを打ち破る[アイテム]か[スキル持ち]、今の私はスキル[コントラクト]の効果すらもわからないから、まずはそのスキルについて知りたい。
「詳細を教えてください。私の持つ情報網を使って、求めるものがないかを探します」
「わかった。私はね、契約主から放たれたスキル[コントラクト]に感情と行動を縛られているのさ。スキルの効果は…」
スキル[コントラクト]、指定した人物に契約を求め、それが締結されることで、相手を精神面で縛ることができる。本来、契約というものは互いの合意で成り立つもの。でも、契約主は、別のスキルでユウキさんの心と身体を無理矢理縛り、軽い催眠状態にしてから、強引に契約を結ばせた。その内容が…
① 命令には絶対服従
② 指定対象以外の人物を殺すな
③ 命令を与えられた後、毎日定期連絡を実施し、その日に得た情報を伝えること
④ フェルデナンドの血縁関係者以外に、家名と当主の名を口にするな
これらの内容が破られた場合、ユウキさんの身体は燃え上がり焼失してしまう。そういう魔法が契約として、彼女の脳に組み込まれているみたい。ユウキさんによると、脳全体が鎖によってキリキリ締め付けられているようで、毎日かなり不愉快な気分らしい。
基本4つのシンプルな内容だけど、①の時点で完全に奴隷だとわかる。ユウキさんは11歳の時にこの契約を締結されたせいで、毎日厳しい訓練を受け、12歳の頃から暗殺者としての仕事に携わっていた。そんな話を聞いたら、このスキルを打ち破りたい彼女の気持ちもわかるし、暗殺者としてのプライドがないのも理解できる。
「私は暗殺対象者を殺す前に、必ずこの質問をしている。だが、この願いを叶える方法を誰1人知らなかったから、これまでに多くの者を殺してきた。今回、命令を与えられたのが20日前、途中新規の命令を受けたこともあって、ここへ到着したのは5日前なんだ。毎日定期報告を実施していたこともあり、君の情報に関しては既に伝えている。君がリリアーナと確定した場合、その日のうちに殺せと命令されたが、私は君を殺すつもりはない。だから、残りは10時間ほどで、私は焼死する」
この異世界の1年は12ヶ月、全ての月が30日あり、1日24時間、今の時刻が午後2時過ぎだから、残り10時間で合ってるけど、幾ら何でもその時間内で彼女の願いを叶えるのは無茶だわ。ユウキさんは私を殺してもルウリたちに殺されるし、何もしない場合は、契約上強制的に焼死する。八方塞がりの状態だからこそ、かなり追い詰められているんだ。
そもそも、ユウキさんの主人って、直接伝えられていないけど、流れ的にこの国の王都に住むフェルデナンド家の当主だ。つまり、父親が実の娘でもある私を、この世からの抹消を強く望んでいる?
私の心が、怒りの感情に支配されていく。
何なの、それ?
私が、父親に何をした?
ただ、無能者というだけで、スムレット山に捨てられただけでなく、何故殺そうとするの? フェルデナンド家は、身内に【無能者】がいるだけで、その存在を抹消したいほど気に入らないの?
落ち着いて。
今は、ユウキさんのことだけを考えよう。
「1つ、疑問点があります。どうして、私に依頼するのですか?」
追い詰められている以上、私よりもルウリやフリード、ベイツさんに頼るべきだと思うけど?
「私は、スキル[鑑定]の上位版となるスキル[解析]を持っている。鑑定の場合、スキルや魔法の簡易的説明しか表示してくれないが、解析の場合、スキルや魔法の扱い方まで全てを表示してくれるんだ。君の持つスキル[原点回帰]なら、私の呪縛を取り除いてくれるかもしれない。あと、君の従魔に話せば解決してくれる可能性もあるが、まず協力してくれないだろう」
なるほど、それで暗殺対象者となる私を頼ってきたんだ。もしかして、ルウリやフリードのいない日を、ずっと待っていたのかな? 彼女の期待に応えたいけど、あのスキルは無生物限定だ。スキル[解析]でそれを知っているのに、どうして私を頼るの?
ガブリ襲撃から4日が経過しました。
最初の襲撃事件以降、3夜連続で襲撃者がガブリを襲った……らしいのですが、ルウリとフリード以外は連日の疲れで熟睡していたので、起床時には全て解決していました。店の中に入られてもいないので、私、リット、アルドさん、ミントさんも毎回ポカンとしてしまい、本当に襲撃があったのか疑問に思ったくらいです。唯一、ベイツさんだけは全てを知っていました。
合計10名の襲撃者たちは、ルウリとフリードによって、アルドさんとミントさんの身に起きた怪我を完全再現させた状態で、しかも3夜連続で、深夜のレストランの客エリアに無造作にポイッと捨てられました。その後、彼らがどうなったのかわかりませんが、3日目以降、何も起こらなくなりました。偵察したフリードによると、奴らもこの異常事態に気づいたようで、深夜襲撃を急遽中止させ、当面の間は様子見となったそうです。
そして、ベイツさんはこれを好機と判断し、証拠資料をこの街に住む領主様の邸に匿名希望という形で証拠資料を投函しました。そこには資料と共に、内部告発という形の手紙も添えてあります。
ルウリが邸を監視していると、【食品偽装】と【魔物の養殖】の証拠資料を見た領主様は大慌てとなり、現在各都市の領主様方と電話で話し合いながら、関係者を逃さないための包囲網を作りつつあるようです。ここで問題となったのが【魔物の養殖】、【弱い魔物を人工的に繁殖させ食用として利用する】、この行為は犯罪で、もし12店舗独自の養殖場が存在していた場合、位置関係上、王都を包囲する形となるため、フェルデナンド家がいずれ謀反を起こす可能性も考えられます。
リリアムの街に住む領主様や他領の領主様方も、これが真実であった場合、かなりの大事になると踏み、この件は最重要機密事項扱いとされ、現在水面化で誰にも悟られぬよう動いています。
そして、肝心の定食屋ガブリに関しては、襲撃翌日だけ臨時休業としましたが、次の日から通常営業しており、私はお手伝いとして働いています。ベイツさんは、魔物の養殖場を潰す依頼を引き受けているので、現在遠出しており、ルウリとフリードも留守だけど、私が魔法[念話]で通信すれば、2体は転移魔法を使い、一瞬でここへ駆けてくれる手筈となっています。また、新たに覚えた召喚魔法を使えば、2体を私の目の前に召喚することも可能となりました。
「すまない、少しいいだろうか?」
午後2時で営業終了したばかりの定食屋ガブリの閉じられた入口が突然開いたので、片付け中の私とリットは、そちらに視線を向けると、獣人の十五歳くらいの女性が店へと入ってくるところだった。
「申し訳ありません。店の営業時刻は、午後2時までとなっています」
距離的に近い私が応対すると、獣人の女性は少しだけポカンとする。
「いや、私はユウキという。君-咲耶さんに用事があってきたんだ」
「え、私ですか?」
オレンジの長髪、何処か冷淡な瞳で私を見つめてくる獣人の女性ユウキさん。耳がピコピコと動いており、思わず撫で撫でしたい衝動に駆られる。
私にどんな用事があるのだろう?
私はテーブル席に座ってもらえるよう促し、対面で座ると、リットが気を利かして水を運んでくれた。
「閉店後に申し訳ない。こちらとしても、緊急性の高い案件なんだ」
「その内容を教えて頂けませんか?」
ユウキさんの風貌を見る限り、どう見ても冒険者だわ。
私に、何の用事があるのだろう?
「君は、【リリアーナ】という言葉に聞き覚えはあるか?」
リリアーナ?
誰、それ?
知り合いに、そんな人はいないわ。
名前から察するに、女性だよね?
「全く知りませんけど、その人を探しているのですか?」
「ああ、それならこの写真を見てくれないか」
ユウキさんは、バッグから一枚の写真を取り出し、私に差し出した。この世界にも、日本にあるデジタルカメラと似た物が販売されているとルウリから聞いているけど、実物を見たことがない。でも、この写真を見た限り、私がかなり鮮明に写っているから画質も相当……
「って、なんで私が写ってるの!?」
「うわ、咲耶にそっくりだ!!」
いつの間にか、リットが私の後方から覗き込み、写真を見て驚いている。
「綺麗な服、この咲耶に似た人って貴族?」
「そうだ、彼女の名は…」
ユウキさんは、ここで何故かメモ用紙を取り出し、何か書いた後、それを私たちに差し出した。そこには、【リリアーナ・フェルデナンド】と書かれており、続けてフェルデナンド家当主の娘と記載されている。
「君は記憶喪失と聞いているが、どこで喪失した…いや目覚めたのか教えてくれないか?」
さっきリリアーナって口に出していたから、【フェルデナンド】という単語を口に出してはいけないんだ。
この写真の人物は、どう見ても私だ。
しかも、フェルデナンドって、あの違和感を感じた家だよ。
現世の私って、フェルデナンド家の当主の娘で、【リリアーナ・フェルデナンド】という名前なのかな?
「スムレット山の樹海内にある川ですね。ベイツさんが、上流から流れてきた私を見つけてくれたんです」
本当のことを言っちゃったけど、この場合はいいよね?
「そうか。君は本人で間違いないな……困ったな」
え? なんで困るの? 目的の人物が見つかったら、普通喜ぶよね?
「今から私の目的を話すが、達成するつもりはないことだけ明言しておく。それを考慮した上で、私の依頼を聞いてくれないだろうか?」
目的を達成するつもりはないの?
その依頼って、私じゃなきゃ駄目なの?
「変な人」
う、リットが、うっかり口を滑らせたわ。
本人も思ったことを口に出してしまい、両手で口を塞いでいる。
「あはは、本当のことだし構わないよ。先に言っておくが、私は主人様との契約のせいで、契約内容を正確に言えない。これからぼかすような形で話すことだけを、頭に入れておいてくれ」
本当に、変な人だな。【契約のせいで言えない】って、その主人様もここにいないのだから、普通に話していいんじゃないの?
「わかりました」
リットも両手で口を閉ざしながら、頷く。
「私の目的は、この写真の人物をこの世から抹消することだ」
「「は!?」」
え、それって私を殺すってことだよね!?
というか、全然ぼかしてないよ!!
あれ、でも達成するつもりはないとも言ってたわ。
「なんと答えればいいのか…どうして目の前にいるのに達成しないのですか?」
ユウキさんは、そこで渋い表情をとる。
「達成した瞬間、私が君の従魔に瞬殺されるからだ」
「「ああ」」
私もリットも、それだけで納得した。ルウリもフリードも、ベイツさん以上の力を有している。私をこの場で殺したら、2体は絶対彼女を殺すと思う。つまり、ユウキさんの職業は暗殺者で、内容は私を暗殺することなんだね。でも、暗殺者って、孤高の1匹狼で、プライドも高いと思うんだけど、どうして暗殺対象の私に暴露しているの?
「はい、質問!! あなたには、暗殺者としてのプライドがないのですか?」
ごほ!! 飲みかけている水を吐き出しそうになってしまった。
リット、ストレートに言い過ぎ!!
「ないね」
ないの!? しかも、即答!!
「私の命をスキル[コントラクト]で縛り上げ、こんな職種にした契約主をむしろ殺したいくらいだ」
契約主なのに殺すって、その人は彼女に相当恨まれているのね。私を殺せないのなら、この人の求める依頼は何かな?
「咲耶は、スキル[コントラクト]を知っているか?」
コントラクト? そんなスキル、聞いたこともないわ。
「いえ、知りません。ルウリかフリードに聞けば、何かわかるかもしれませんけど」
「フェアリーバードと猫又のことだな。別の場所で、ハミングバードと猫又に話しかけたこともあるが、スキルの名称を知っていても、私の願いは叶えられなかった」
ハミングバードと猫又でも叶わない願いって何なの? そもそも、猫又はともかく、ハミングバードって野生の鳥だから人語を話せないよ。ユウキさんも、私と似たスキルを持っているのかな?
「私の依頼、それはスキル[コントラクト]を打ち破れるアイテムか、スキル持ちさ」
スキルを打ち破る[アイテム]か[スキル持ち]、今の私はスキル[コントラクト]の効果すらもわからないから、まずはそのスキルについて知りたい。
「詳細を教えてください。私の持つ情報網を使って、求めるものがないかを探します」
「わかった。私はね、契約主から放たれたスキル[コントラクト]に感情と行動を縛られているのさ。スキルの効果は…」
スキル[コントラクト]、指定した人物に契約を求め、それが締結されることで、相手を精神面で縛ることができる。本来、契約というものは互いの合意で成り立つもの。でも、契約主は、別のスキルでユウキさんの心と身体を無理矢理縛り、軽い催眠状態にしてから、強引に契約を結ばせた。その内容が…
① 命令には絶対服従
② 指定対象以外の人物を殺すな
③ 命令を与えられた後、毎日定期連絡を実施し、その日に得た情報を伝えること
④ フェルデナンドの血縁関係者以外に、家名と当主の名を口にするな
これらの内容が破られた場合、ユウキさんの身体は燃え上がり焼失してしまう。そういう魔法が契約として、彼女の脳に組み込まれているみたい。ユウキさんによると、脳全体が鎖によってキリキリ締め付けられているようで、毎日かなり不愉快な気分らしい。
基本4つのシンプルな内容だけど、①の時点で完全に奴隷だとわかる。ユウキさんは11歳の時にこの契約を締結されたせいで、毎日厳しい訓練を受け、12歳の頃から暗殺者としての仕事に携わっていた。そんな話を聞いたら、このスキルを打ち破りたい彼女の気持ちもわかるし、暗殺者としてのプライドがないのも理解できる。
「私は暗殺対象者を殺す前に、必ずこの質問をしている。だが、この願いを叶える方法を誰1人知らなかったから、これまでに多くの者を殺してきた。今回、命令を与えられたのが20日前、途中新規の命令を受けたこともあって、ここへ到着したのは5日前なんだ。毎日定期報告を実施していたこともあり、君の情報に関しては既に伝えている。君がリリアーナと確定した場合、その日のうちに殺せと命令されたが、私は君を殺すつもりはない。だから、残りは10時間ほどで、私は焼死する」
この異世界の1年は12ヶ月、全ての月が30日あり、1日24時間、今の時刻が午後2時過ぎだから、残り10時間で合ってるけど、幾ら何でもその時間内で彼女の願いを叶えるのは無茶だわ。ユウキさんは私を殺してもルウリたちに殺されるし、何もしない場合は、契約上強制的に焼死する。八方塞がりの状態だからこそ、かなり追い詰められているんだ。
そもそも、ユウキさんの主人って、直接伝えられていないけど、流れ的にこの国の王都に住むフェルデナンド家の当主だ。つまり、父親が実の娘でもある私を、この世からの抹消を強く望んでいる?
私の心が、怒りの感情に支配されていく。
何なの、それ?
私が、父親に何をした?
ただ、無能者というだけで、スムレット山に捨てられただけでなく、何故殺そうとするの? フェルデナンド家は、身内に【無能者】がいるだけで、その存在を抹消したいほど気に入らないの?
落ち着いて。
今は、ユウキさんのことだけを考えよう。
「1つ、疑問点があります。どうして、私に依頼するのですか?」
追い詰められている以上、私よりもルウリやフリード、ベイツさんに頼るべきだと思うけど?
「私は、スキル[鑑定]の上位版となるスキル[解析]を持っている。鑑定の場合、スキルや魔法の簡易的説明しか表示してくれないが、解析の場合、スキルや魔法の扱い方まで全てを表示してくれるんだ。君の持つスキル[原点回帰]なら、私の呪縛を取り除いてくれるかもしれない。あと、君の従魔に話せば解決してくれる可能性もあるが、まず協力してくれないだろう」
なるほど、それで暗殺対象者となる私を頼ってきたんだ。もしかして、ルウリやフリードのいない日を、ずっと待っていたのかな? 彼女の期待に応えたいけど、あのスキルは無生物限定だ。スキル[解析]でそれを知っているのに、どうして私を頼るの?
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