10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護

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2章 家族との別離(今世)

19話 初めての原点回帰

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スキル原点回帰を発動させる方法に関しては、朝の時点でルウリから教わっているし、ステータスの説明欄をしっかりと読んでおいたから覚えている。対象を指定した後、遡る時間を設定し、その圧縮率を決めないといけない。圧縮率が1のままだと、1日前に遡るには同じ1日が必要となる。対象の大きさと精密さ、圧縮率の高さが上がるに従い、消費魔力も増大する。

私は手始めに、砕け散った椅子の残骸を指定して、遡る時間は6時間と固定、圧縮率を20倍に設定し、スキルを発動させると、魔力を84消費し、椅子が18分で元の形へと戻った。ずっと巻き戻るところを見ていたけど、まるで《動画の逆再生》を見ているかのような奇妙な光景だった。

「や…やった、成功だ」

自分の中にある魔力がほんの少しだけ減ったのを自覚できたけど、身体への負担はないし、疲労感もない。

「凄い…あの状態からこんな綺麗な椅子に戻るんだ。これなら、店を元の姿に戻せると思うけど、咲耶の身体は大丈夫なの?」

リットも、この現象が異常であることに気づいているようで、私のことを心配してくれている。

「全然平気だよ。さあ、どんどん巻き戻していこう‼︎」

これは空元気ではなく、本当のこと。
この調子で、他の家具類を巻き戻していこう。

1発成功で気を良くした私は、砕けた物品を次から次へと巻き戻していく。消費魔力を少しでも軽減させるため、巻き戻す時間を4時間と設定した。現在時刻は午後5時50分、襲撃の遭った時刻は最低でも午後2時以降だから、4時間前に戻せば、全ての物品類が元の状態に戻るはずだ。

だんだんとコツを掴んできたので、同時に実行する際の物品の個数を増やしていき、時間の圧縮率も20倍から30倍、30倍から50倍へと少しずつ増加させていく。身体に掛かる負担を少しずつ増加させていくことで、スキルの感覚にも慣れていき、自分の中にある魔力の感覚にも次第に研ぎ澄まされていく。そのせいか、同じ条件で行使すると、回数を重ねれば重ねるほど、自分の負担が減少していくのがわかった。

「よし、これでお客様エリアの巻き戻しは完璧だ」
「咲耶、凄いよ。1時間くらいで朝見た光景と同じ状態に戻ってる。さっきまで見ていた光景が、夢みたいだ‼︎」

後は、厨房だ。あそこには、刃物・食器類・食材・調味料類・魔道具類などが保管されていて、現状全部が破壊されている。正直、一つ一つやっていたら、治療完了までには間に合わない。

「リット、厨房の空間全体を指定して、巻き戻しをやってみる。部屋自体はそんなに広く無いから、身体への影響も少ないと思う。ただ、スキルを行使している間、絶対に調理室に入らないで」

空間ごとやる以上、誰かがそこに侵入したら、どんな悪影響を及ぼすのかわからないもの。

「本当に大丈夫?」

この光景に見慣れてきたリットも、空間ごとと聞いて不安に思っているのね。

「そこは任せて。スキルや魔法を扱う際、ルウリとベイツさんからも『絶対に無理はするな』と言われているの。もし、ダメな場合は即座に中止するわ。今の自分の限界を知っておきたいんだ」

はっきり言って、今の状況でも、魔力は3300程残っているし、疲労感も殆どない。これなら、いける。自分の身体の限界を試そう。私は深呼吸し、調理室全体を対象に指定し、遡る時間を4時間に設定、始めの圧縮率も控えめの2倍にして、少しずつ上げていこう。

これまでにない広さの空間を指定したことで、私の身体が急に重くなった。魔力自体をその空間に満たしていき、そこから時間を遡らせる。砕けた部品同士が、どんどん合体していくような光景が、私とリットの目に映っている。

やっぱり、動画の逆再生という感じだ。

圧縮率を10倍にしたところで、身体の負担が急激に増した。直感的に、これ以上上げない方がいいと思ったので、私は魔力消費を少しでも抑えるため、制御に集中することにした。

ベイツさんとルウリが頑張っているのだから、必ず成功させてみせる。


○○○


はあ~~~疲れた~~~。

空間を指定しての制御って、すっごく難しい。魔力残量が326って、9割以上も消費していたのに、集中し過ぎて全然気付かなかった。終わった瞬間、倦怠感が身体を襲い立っていられなくなったので、今の私は椅子に座り、上半身をテーブルに突っ伏している状態です。気づけば、日も暮れ暗くなっている。

「咲耶、最後までよく頑張りましたね。部屋の状態は完璧です」

やった、フリードに褒められた。

「咲耶、ありがとう。ほら冷えたタオルとお水だよ。これを額につけて、身体を冷やして」
「リット~~ありがと~~流石に疲れた~~~」

ああ~冷えたタオルが、制御能力でぽかぽかになった私の頭を冷やしてくれる。そこに冷えた水を飲み込むことで、身体全体が涼しくなってくるよ~。

「な…これは…どうなっているんだ?」
「凄いな。ステータスの説明だけでは、僕も半信半疑だったけど、この光景を見ただけで、スキル《原点回帰》が上手く発動したことを証明しているよ」

ベイツさんとルウリが、治療を終えて戻ってきたんだ。店が綺麗になっているから、驚いてくれているんだね。

お行儀が悪いけど、私は首だけを向けて、2人を見る。

「ベイツさん、ルウリ‼︎ お父さんとお母さんは?」

私とリットから見える範囲に、2人はいない。
どうなったの? 元気になったのかな?

「安心しろ。治療を終えて、2人とも元気になったよ」

ベイツさんが横に移動すると、アルドさんとミントさんが店の奥からこっちに来てくれた。顔の赤黒い状態が嘘であるかのように、2人は元通り元気な姿で立っている。

良かった、成功したんだね。

「お父さん‼︎ お母さん‼︎」
「「リット‼︎」」

余程心配していたのか、リットは姿を見た瞬間、すぐに2人の方へ走っていき、ミントさんに抱きついていった。

「生きてる~~~よかったよ~~~」
「心配かけてごめんな」
「ごめんね、リット」

良かった、私は家族の喜び合うこの瞬間を見たかったんだ。ベイツさんが空気を読んだのか、三人から離れてこっちへ来てくれた。

「咲耶、頑張ったな」

彼は、汗だくの身体となっている私の頭を優しく撫でてくれた。その撫で方が、テストで満点をとり、笑顔で優しく褒めてくれた前世のお父さんの撫で方とすごく似ていて、私はようやく心も身体も落ち着きを取り戻す。

「えへへ、頑張りました」
「ほら、マジックポーションだ。これを飲むと魔力も300ほど回復して、疲労が軽減されるだろう」

テーブルに置かれた小瓶に、150mlくらいの液体が入っており、薄青色で透明だ。

「い…いただきます…あ…美味しい」

スポーツ飲料のような味がして、身体の中に何かが湧き上がるような気持ちとなり、疲れが軽減していくのがわかる。

「ありがとうございます。少し回復しました」

私は椅子から下りて立ち上がる。
うん、平衡感覚もしっかりしているし、さっきまで感じていた倦怠感もないわ。

「さて、親子の感動の再会はここまでですよ。酷なことを言いますが、あなたたちを襲った連中を突き止めないと、また襲撃が起こります。軽食でも食べながら、何が起きたのかを私たちにゆっくり説明なさい」

フリード、治療を終えての家族の再会なんだよ。
もう少し言葉を選んでよ。
でも、彼の言うことにも一理ある。

リットの両親も無事に回復してよかったけど、肝心のことがわかっていない。誰がこんな酷いことをしたのか、犯人を突き止めて、何らかの対策を施さないと、また襲撃されてしまうわ。
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