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2章 家族との別離(今世)

14話 スキルの開花

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私の意識が目覚めた時、既に夜が明けていたため、私はすぐに窓を開け、周囲の景色を確認した。そこは間違いなく、異世界アステリアスのリバイブルド王国リリアムの街のいつもの見知った光景だった。

次に、自分の顔を鏡で確認すると、そこにはプラチナブロンドの髪色をした碧眼の可愛い女の子が映っていた。この世界に来た当初は違和感を感じ、かなり混乱したけど、今はこの姿に戻れていることにほっと安心している自分がいる。私自身が前世の死を受け入れたことで、魂が安定したのかもしれない。

自分の部屋を出てリビングへ向かうと、そこには朝食を用意しているベイツさんがいて、肩の上にはルウリが乗っている。

「ルウリ、ありがとう!! 家族と再会できて、いっぱいお話しできたよ!! もう会えないのは悲しいけど、不思議と全然未練がないし、この身体に対する違和感も無くなったの」

ベイツさんは私の事情を察してくれたのか、柔かに笑ってくれた。ルウリは鳥だからわからないけど、どう返答してくれるのかな?

「それはおめでとう。君の魂が、今の身体に完璧に定着した証拠だね」
「でも、ここで生きた10年間の記憶を失ったままなんだけど戻るのかな?」

「それは、僕にもわからない。前世の記憶と人格が表に出てくるほど傷ついているから、もしかしたら二度と戻らないかもしれない」

 二度と…か。それならそれでいいかもしれない。
 今の両親によって名付けられた名前なんて、知りたいとは思わないわ。
 
「ルウリから、君の事情と《無能者》の真実を聞いたよ。いやはや…まさか前世の記憶持ちとはね。不慮の事故、しかも10歳という若さで亡くなっているのなら、ルウリが心配するのも当然だ」

ルウリが、私の抱える事情を全部言ってくれたんだ。
ベイツさん、私が前世持ちだって知っても、いつも通りの対応だ。
よかった……少し不安だったもの。

「そういえば、30分くらい前に寝ている君を見た時、大きな箱が部屋の隅に3つもあったんだが、あれはなんだ?」
「え!?」

ベイツさんからの言葉に、私も驚きを隠せない。
あの3箱がこっちに運ばれているの!?

「お父さんが冗談半分で用意してくれたお土産なんですけど、まさかこっちに運ばれているとは思いもしませんでした」

  壁に置かれていたせいで、私も気づかなかったよ。

「お土産? どんな物が入っているんだい?」
「聞いた限りだと、猫と鳥用の餌・おやつ・玩具類ですね」
「てことは……地球の日本で販売されているものじゃないか!?」

あれ?
ベイツさんだけが驚いているわ。
ルウリは知っていたんだ。
私だけ、こんな好待遇で良いのかな?

「ふふふ、神様からのお詫びさ。前世持ちの境遇の中でも、咲耶だけが前世今世共に、不憫な結末になってしまったからね。今回限りの特別措置だと思えばいいよ」

それって今世の私も、10歳で死ぬに等しい行為を受けたからなの?
正確には死んでいないけど、記憶自体が喪失しているのだから、神様からの特別措置をありがたく受けとった方が良いのかな。

神様、ありがとうございます。

「よし、もうすぐ朝食もできるから、それが済んだら中身を拝見しよう。異世界の品物なんて、俺も始めてだ」

私もルウリも納得し、テーブルへと移動する。
朝食を早く食べて、中身を確認しよう。

○○○

私たちは、ベイツさんお手製の朝食を早々に食べ終え、荷物の置かれている私の部屋へ行き、丁寧にテープを剥がし、中身を1個ずつ床へ置いていく。

1箱目には、ルウリ用の餌類や高級な鳥籠があり、2箱目と3箱目には猫用の《ペロチュール》《キャットフード》《缶詰》《トイレ用猫砂》《玩具類》《猫関係の本》などがぎっしりと詰められていた。

「こいつは驚いた。何か文字が書かれているようだが、俺には全く理解できん。だが、絵を見ただけで、これらがどんな物なのか推測できる。なるほど、文字を読めない人でも理解しやすいよう配慮されているのか。玩具の一部に関しては、こちらでも製作可能かもな」

そっか、異世界《アステリアス》と日本とでは、根本的な技術力が違うんだ。再現可能なものもあれば、不可能なものもあるんだね。これらをアマンガムさんに見せたら、出所を絶対に問われるよね。

「物品自体をアマンガムさんには見せられませんが、誰にでもわかるようなこういったイラストを箱の表面に描くよう提案するだけならいいですよね? あとは使用説明書欄にも、絵でわかりやすく描くのもありだと思います」

「こういった箱に描かれたものをイラストというのか……うん、それだ!! 今後販売していく商品には、そういった配慮を付け加えれば、新商品の評価も上がり、爆発的な広がりをみせるぞ!!」

日本では当たり前の事が、こっちでは目新しいことになるんだね。

「(まさか……神は……これを狙って……)」

ルウリが何か呟いているけど、真剣な顔で何を思っているのかな?

とりあえず、電子機器を扱う玩具に関しては再現不可だけど、それ以外の玩具であれば再現可能なはずよ。私が全部イラストにして、それをアマンガムさんに見せることで、彼経由で工芸職人さんに製作してもらえるかもしれない。上手くいけば、猫カフェで使えるわ。

問題は、お菓子類だよ。

「ベイツさん、弟に色々と異世界に関わる知識を教えてもらったのですが、スキル《鑑定》を使えば、おやつや餌の配合方法とかわからないのでしょうか?」

スキル所持者が他人や物のステータス情報を拝見できるのなら、作り方も載っているかもしれない。

「それは無理だな。スキル《鑑定》は、対象者の基本情報を教えてくれるだけだ。俺も持っていて、さっきからこれらの物品に利用しているんだが、物の名称や説明だけで、作り方まではわからない。上位スキル[解析]なら、咲耶の求めるものが得られるかもしれないが」

そっか~せっかく持ち帰っても、おやつは作れないか~残念。鳥はルウリしかいないから大丈夫だけど、猫たちの数を考えると、猫用おやつと餌はすぐに無くなっちゃうよね。何とか自力で味を解析して、作ってみようかな?

「うん……これは!? 咲耶、自分のステータスを確認してみろ。属性も魔力量も判明しているし、聞いたことのないスキルが3つも発現しているぞ!! しかも、うち2つは今求めているものだ!!」

「え!? 確認してみます!!」

 やった‼︎ 今まで無能者だったけど、これで私も冒険者として独り立ちできるかもしれない。どんなスキルが、私に授けられたのかな?

《名前》     なし(仮名:咲耶) *記憶喪失のため不明
《性別》     女 
《年齢》     10歳
《属性》     時空
《レベル》    1
《スキル》    原点回帰、レシピ検索-無生物、心通眼
《魔法》     アイテムボックス
《魔力量》    5000
《従魔》     ルウリ(フェアリーバード種)

属性が《時空》と記載されいるけど、よくわからないわ。
レベルは1だけど、魔力量が5000もある。
これって、一般の人たちより多いのかな?
肝心のスキルだけど、名前だけ見ても、意味がわからないわ。
え~と、知りたい部分をタップすればいいんだよね。

1) スキル《原点回帰》 *無生物にのみ有効(判定は魂の有無)、消費魔力1~

指定した物品の時間を巻き戻し、再利用が可能となる。限界まで戻すと、物品は分子レベルにまで分解されるので注意すること。

【スキル所持者のステータスレベル】
【巻き戻したい時間】
【指定対象の大小、精密さ、希少性】

以上3点に依存して、消費魔力が増大していくので注意すること。

2) スキル《レシピ検索-無生物》

指定した対象のレシピを検索することができる。
無生物であれば、どんな物でも指定可能。

3) スキル《心通眼》

理論上、この世界に存在する全てのものと心を通わせることができる。様々な事象に応用できるが、使いこなせるかはスキル所持者次第である。

「凄い凄い凄い!! 私の求めていたスキルが勢揃いしています!!」

ルウリや猫たちと会話できたのは、このスキル《心通眼》が影響していたのね。
もしかして、冒険者の登録試験の時も、このスキルが関係していたのかな?

「神様も粋なことをする。これらがあれば、咲耶も冒険者とは違った道で、生計を立てていくこともできる」

これらのスキルを利用していき、猫おやつを開発していけば、アマンガムさんが私の力を認めてくれて、いずれ店で雇ってもらえるかもしれないし、自分で店を開くこともできるかもしれない。これからの生活に不安を抱いていたけど、先行きが少し明るくなったわ。

「ベイツ、咲耶にもプライバシーがあるんだから、勝手に覗き見はいけないな」
「あ、悪い。異世界に行った咲耶なら、何かに目覚めているかもと思って、つい…」

他人のステータスを見るという行為は、その人の中を見るということだから、覗き見はよくないよね。

「う~ん、ベイツさんになら見られてもいいよ」

あれ? ルウリとベイツさんが、私をじっと見ている。
何か変なことを言ったかな?

「ベイツ、彼女は純粋なんだから、しっかりと教育させないといけないよ」
「そうだな」

二人して頷き合っているけど、今の時点で色々と教えてもらっているわ。
どういうこと?

「咲耶、今からこれらのスキルについて説明するよ。まずは、スキル《原点回帰》だ。これは、前世の咲耶と弟さんの思いを、この世界の神が聞き入れ、スキル化したものだよ」

「え、悠太の思い!?」

ルウリから語られる言葉に、私は驚きを隠せない。
悠太が私のために、何かを祈ってくれたってこと?

私と悠太の思いで発現したスキル《原点回帰》、これに関しては猫のおやつ以外にも、使い道はいっぱいあるはずよ。家族の思いのためにも、絶対に無駄にしたくない。

「これは使い方次第で、かなり危険なものとなる。扱いには、要注意だ。どうして、神がこんなものを君に与えたのか、それは今後の人生で理解できるよ」

言われてみれば、時を巻き戻す行為って、かなり危険なことだ。生物に通用しないとはいえ、希少性のある宝石とかも新品に戻せるのなら、この力が明るみになれば、悪人の人たちが絶対私を誘拐するわ。

[何故、神がこれを私に与えたのか?]

ルウリの言葉を、絶対に忘れないようにしよう。
私がダメ人間になったら、悠太に顔向けできないもの。

「次に《レシピ検索》、これは玩具やおやつ類を再現させるためのおまけのようなスキルだね」

おまけって……十分凄いスキルだと思うけどな。でも、これで原材料やその配合方法もわかるから、私自身の手で再現できるわ。今の私の貯金は50万ゴルドもあるから、少し余裕もあるもの。

「次に【心通眼】、これは今世の君が本来持っているスキルだ。使い方に関しては、咲耶自身がこれまでの経験で理解しているね」

こんな凄いスキルが身体の中に秘められていたのに、今世の両親は成人を待たずして、私を捨てたのね。記憶は未だに戻ってこないから、今後も困ったことが起こるかもしれないけど、もう戻らなくてもいいよね。

「最後に、君の属性は時空だ。これは非常に珍しい属性で、空間魔法や時空魔法しか扱えない代わりに、莫大な魔力が初期の時点で与えられるんだ。現在の魔力量は5000、これは同年代と比べて50倍くらい高く、冒険者でいうとSランクに相当する。ここで勘違いしちゃいけないのだけど、5000だからといって強いわけじゃない。君は今の段階で魔力操作も碌に扱えていないのだから、宝の持ち腐れ状態なんだ。咲耶のやるべきことは、体力を鍛え、魔力を制御するための基礎をしっかりと学び、空間魔法を習得していくこと。まずは、すぐに習得できる《アイテムボックス》のやり方を教えてあげるよ」

50倍でSランクと聞いて内心喜んだけど、まだ魔力の扱いを全く習ってない。今の私にとってやるべき事は、[基礎体力の向上][魔力制御]について徹底的に学んでいくことなんだね。

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