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1巻

1-3

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「「「「うわ~~大きい~~~~」」」」

 馬車がゆっくり進んでいくと、途中で景色が切り替わった。果物や野菜といった食材が販売されていた場所から、武器や防具が販売されている通りに移ったのだ。そこには冒険者と呼ばれる人たちもたくさんいた。これぞ異世界だ、転生して良かった。
 街の風景をしばらく堪能たんのうしていたら、大きな礼拝堂が見えてきた。あれが教会か~、大きい。礼拝堂の前で馬車は停まった。そしてほろが開けられると、五十代の神父さんが出迎えてくれた。ただ若干じゃっかん目付きが悪いせいか、一瞬だけ悪徳神父に見えてしまった。

「さあ、子供たち、お疲れさまです。私はラグト・テンピと言います。よろしくお願いしますね」

 おお、笑顔を見たら、この人が優しく温和なのがわかったよ。目付きだけで悪徳神父と思ってしまったことをおびしたい。

「「「「ラグト神父様、よろしくお願いいたします」」」」

 この挨拶あいさつには、ラグト神父も驚いたようだ。ふふふ、みんなには、この四日で礼儀を教えておいたのだ。次に馬車を降りて、騎士さんたちの方を向いてお礼を言った。

「「「「騎士のみなさん、送ってくれてありがとうございます。お料理、美味しかったです」」」」

 騎士さんたちも呆気あっけにとられていた。
 私たちは、騎士のみなさんに手を振りながら、礼拝堂に入っていく。



 6話 イザベル・マインとの出会い


 礼拝堂に入ると、中央に祭壇さいだんがあり、その上方には、二十歳くらいの綺麗きれいな女性の姿絵と、彼女が祭壇さいだんでお祈りしている絵があった。二つの絵のさらに上には、ステンドグラスがあり、光の加減からか、祭壇さいだんに何かが降り立っているかのようにも見える
 二つの絵は、素晴らしい。特に祭壇さいだんでお祈りしている絵からは、神々こうごうしさを感じる。周囲を見渡しているニナたちに知らせてあげよう。

「みんな、正面の高い位置にある絵を見て。すご綺麗きれいだよ」
「「「え? ……あ、ホントだ~綺麗きれいな人~」」」
「あの絵は、今から三百年ほど前の聖女、メルティナ様です。当時、ある病が世界全土で流行はやりました。そのときに現れたのがメルティナ様です。このお方は、アストレカ大陸全ての国を渡り歩き、五年という歳月をかけて病気を駆逐くちくしてくれました。エルディア王国だけでなく、アストレカ大陸の人々を救った英雄なのです」
「「「「お~~~」」」」

 私を含めた全員が、拍手はくしゅして聖女メルティナ様の偉業を讃える。私たちも四日かけて王都までやって来たので、その偉業がどれだけ大変なことか、ほんの少しだけ理解できたのかもしれない。
 ただ、当時の医者は何をしていたのかな?

「お医者様は治療に参加しなかったのですか?」
「もちろん、参加しましたよ。あの恐ろしい病気を治せたのは聖女様の回復魔法だけなのですが、一回の魔法で回復できる人数にも限界があります。そこで、聖女様が重篤じゅうとくな患者たちを最優先に治している間、医者たちは比較的軽い症状の者たちをイムノブーストで治療していました」

 聖女様が何を使っていたのかはわからないが、三百年前の時点で、既にヒール系の魔法は使われていなかったのか。お父様たちはヒール系の魔法の存在を知らなかったから、相当昔に途絶えたとは思っていたけど、最低でも三百年以上前になるようだ。一体、いつからイムノブーストがヒール系に取って代わったのだろうか? 精霊様は不死だから、そういった情報を持っているはずなんだけど、誰に聞いても曖昧あいまいな答えしか返ってこない。どうも政治が関係しているらしい。精霊様は人間の政治経済に関わることが禁止されているため、話せないのだ。だから、これ以上知りたい場合は、自分の力で調査するしかない。私の知っている情報は、お父様に全て話してあるから、後は任せるしかないね。

「――さあみなさん、長旅で疲れたでしょう。今日はゆっくり休んで、明日の祝福に備えてください。祝福といっても、ガーランド様にお祈りするだけですよ。すぐに終わります」
「「「「は~い」」」」

 話を聞いているとき、エリアとカイリが欠伸あくびをしていた。ラグト神父はそれを見ていたので、途中で話を打ち切り、私たちを部屋へ案内するべく、礼拝堂を出た。
 ここのガーランド教会の敷地は、非常に広い。礼拝堂だけでなく、神父やシスターさんたちの宿舎、来賓らいひん専用の宿舎、教皇様や枢機卿すうききょう様たちが使う屋敷、教会関係者が仕事をする建物――その全てが用意されている。
 そういえばガーランド教って、ガーランド法王国を中心に、アストレカ大陸だけでなく、ランダルキア大陸の多くの国々に教会が設置されてるって、精霊様が言ってたよね。二つの大陸に影響を及ぼすほどの強い力を持っているんだ。
 だから、エルディア王国の教会全てを管轄するこの王都の教会も、広大な敷地を持つのだろう。
 ラグト神父にチョコチョコついていくと、一軒の立派な建物が見えてきた。

「さあ、ここがあなたたちが寝泊まりする宿舎ですよ」

 あの……宿舎というより屋敷に近いよ! 来賓らいひんとはいえ、子供にここまでは必要ないのでは!?
 ニナたちも、宿舎があまりに立派すぎて萎縮いしゅくしているよ。そのまま中に入って歩いていくと、一つの部屋の前でラグト神父が止まった。

「さあ、ここがあなたたちの部屋です。四人部屋ですから、楽しんでください。もう少ししたら夕食ですので、少し仮眠を取ると良いでしょう。あと、お風呂もありますよ」

 中へ案内されると……スイートルームなんですけど! 奥にもさらに部屋があるよ! どれだけ広いんだ! 子供にとって、この部屋は贅沢ぜいたくすぎる!
 う~ん、この中に聖女がいるかもしれないということでの配慮なんだろうけど、やりすぎだよ! ラグト神父が出ていっても、ニナたちは口をアングリ開けて呆然としていたし。

「ニナ、エリア、カイリ、とりあえずベッドで寝ようよ」
「……四台もある」
「……広すぎて、落ち着かない」
「……というか怖い」

 ニナ、エリア、カイリ、言いたいことはわかる。
 クイーンサイズのベッドが四台、うん要らないね。

「ベッドはみんなで一つを使おうよ。あと、手前の部屋だけで遊ぼう」

 三人は一斉にうなずいた。
 その後、ニナたちは疲れたのか、すぐに寝てしまった。私の場合、身体は五歳だけど、心は三十五歳のため眠くならないと思っていたのだが、呆気あっけなく眠ってしまった。
 精神年齢とか関係なく、五歳という肉体年齢を痛感させられた。


 ラグト神父によるドアのノックで起こされると、部屋に夕食が運ばれてきた。高位の貴族が食べるようなフルコースで、私には非常に美味だった。しかし、他の子には微妙だったろう。子供たちの舌には、この料理の繊細せんさいさは荷が重い。現にニナ、エリア、カイリは美味おいしいとは言っていたが、満足しているようには見えなかった。
 夕食を食べ終わり、周囲に他の人がいなくなったところで、ニナは我慢できなくなったようだ。

「ねえ、カレーの方が美味しかったよね?」

 ニナ、はっきり言うね。エリアとカイリは、わかってても黙っていたのに……

「うん、そうだね。でも、まずくはなかったから良いんじゃない? せっかく作ってくれてるし、味の評価は美味おいしいということで」
「そうね、シャーロット……悪いもんね」

 私の言いたいことが伝わったのか、ニナも苦笑いしている。

「……でも、私はニナの言いたいこともわかる」
「うん、カレーの味が忘れられない」

 三人の言うとおり、子供にとってカレーは至高の料理なのだ。
 ここの料理人さんたち、まさか五歳児に気を使われているとは思わないだろうな~。
 この日は、祝福の前日ということもあって、お風呂に入らせてもらった。この世界のお風呂は設置する大変さもあって、貴族だけに使える高級品なのだ。もちろん、私の家にはある。ニナたちはお風呂が初めてだったらしい。浴槽よくそうでは、かなりはしゃいでいた。ちなみに、五歳児だけだとおぼれる危険性があるからと、一人の四十歳くらいのシスターさんも一緒に入った。
 お風呂を十分堪能たんのうした後、部屋に戻ると、私たちの寝ていたベッドが綺麗きれいになっていた。本当に、至れり尽くせりだね。枕投げでもするかと思っていたけど、やっぱり疲れていたのか、私も含め全員すぐに寝てしまった。


 ――翌朝。
 身体の疲れが取れ、全回復していた。子供の回復力ってすごいと思う。
 朝食を食べ終えて時間を確認すると、祝福の時間まであと一時間ほどあった。このまま部屋に閉じこもっているのも面白くない。かといって、教会の敷地を出ることもできない。そうなると――

「みんな、庭に行ってみない? さっきチラッと見たけど、いっぱいお花が咲いていたよ」
「花! 行こう、行こう!」

 私が言うと、すぐにニナが反応した。ニナも行きたかったけど、私たちに気を使って話せなかったのかな。
 近くで掃除そうじしていた十五歳くらいの若いメイドさんに、庭に行きたいと伝えると、時間が空いていたらしく、彼女自ら庭へ案内してくれた。到着した私たちは目を見開き、庭の美しさに声を上げることもできず、見惚みとれてしまった。
 人の通れる小道が存在し、その小道を挟んで、赤、黄色、紫、オレンジなど多くの花々がバランス良く咲き乱れ、存在を主張していた。

「「「「は~~~綺麗きれい~~~」」」」

 神父さんやシスターさんたちが、この庭にある花々をどれだけ大切に扱っているのかがわかる。……それでも、これだけ立派な花々を見ると、花冠を作りたいと思ってしまう自分がいる。作るのは前世の子供のとき以来だ、今も子供だけど。
 ちょうど、昨日お風呂に一緒に入ってくれたシスターさんが花に水をやっていたので、花冠を作っていいか聞いてみた。すると意外なことに、彼女は花冠を知らないらしく、興味を持ってくれて、人数分だけの花冠を作製する許可がもらえた。

「シャーロット、何してるの~?」

 まずは、くきやわらかい黄色い花で作ろう。やり方次第で豪華な冠を作ることもできるけど、それをすればみんなが気に入ってしまい、花を全部み取られる危険性もあるから、簡単なものにしよう。くき同士を結んでいき、花の数を増やしていく。うん、こんな感じかな? これなら可愛かわいいし、子供向けだよね?

「お花さんには悪いけど、花冠を作ってみたんだ。ほら、こんな感じだよ。ニナにあげる」
「うわ、すごい! 本当に花の冠だ! お花で、こんな綺麗きれいな冠が作れるんだ。シャーロット、ありがとう~。私にも作り方教えて!」
「「私も~~」」

 ふふふ、ニナ、エリア、カイリ、私にとってあなたたちの笑顔が、最高のお礼だよ。メイドさんとシスターさんにも作り方を教えて、全員の花冠が完成したとき、後方から大きな声が聞こえてきた。

「やっと見つけた~~~!!!」

 振り向くと、知らない女の子がこっちに走ってきた。

「はあ、はあ、はあ」

 誰? 長い黄色の髪、クリッとした目、少しきつい顔付きをしているけど、可愛かわいい女の子だ。私たちと同い年くらいだよね?

「わ、私はイザベル・マインっていうの」
「え、シャーロット・エルバランです」
「あなたの花冠、綺麗きれいね。あなたの大事なものと私の大事なもの、交換しない?」

 仰々ぎょうぎょうしい言い方だな。花冠なんて誰でも作れるのに。まあせっかくだし、交換してあげよう。

「いいよ、はいどうぞ」
「ありがとう。私は、この指輪をあげる」


 なんか満面の笑みをもらえたんだけど!? 花冠程度で、大袈裟おおげさではなかろうか? そして、交換でもらった指輪を見ると……

「え! こんな高価なもの、もらえないよ!」

 〇・五カラットくらいの赤い宝石が土台にはめ込まれており、素人の私が見ても値打ちものであることがわかる。

「いいのよ、急に大声をあげたおびと、素敵な花冠のお礼と思って」

 え、そんな言い方をされると、返すに返せないよ!?

「……わかった、ありがとう」

 渋々しぶしぶながら、うなずいておこう。でも、本当にもらっていいのだろうか?

「そうだ、ラグト神父が探してたわ。祝福の準備が整ったそうよ」

 え、もうそんな時間!? 楽しいと、時間が経つのも早い。イザベルと交換した指輪は失くさないよう、お母様からもらったポシェットに入れておこう。

「イザベル、教えてくれてありがとう。みんな行こう」

 ついに、このときがやって来た。ここまで来るのに五年……長かった。やっと『構造解析』と『構造編集』が使える。あ、そういえば聖女のこともあった。
 どうか聖女でありませんように、この世界の神ガーランド様に強く願っておこう。



 7話 聖女は誰だ?


 みんな、礼拝堂に集まった。なぜか、イザベルもいる。ラグト神父も『こいつは誰だ?』といったようにいぶかしんでいる。

「君は誰かな? エルバラン領の子ではないね?」
「私はイザベル・マインと言います。病気で、祝福を受けられませんでした。でも、病気が完治しましたので、今回急遽きゅうきょ入らせてもらうことになりました。これが許可証です」

 ラグト神父がイザベルの許可証を確認すると――

「ふむ……このサインは、間違いなくヘンデル枢機卿すうききょう閣下のもの……許可証は本物で間違いない。わかりました。今回はこの五人に、祝福を受けてもらいましょう」

 イザベル、これまで病気だったんだ。数年前からイムノブーストの危険性は示唆しさされていたから、きっとイザベルの両親も魔法に頼らず、お薬を服用させることで完治させたんだね。
 さっきも思ったけど、イザベル自身は五歳なのにしっかりとした口調だ。今まで病気だったから、両親のためにもこれから頑張がんばろうとしているんだろう。
 私も見習わないと! これからは、公爵令嬢に必要なマナーや礼儀を学んでいくことになる。今後、お父様やお母様に恥をかかせないためにも、貴族教育というものをどんどん知っていこう。
 今日はそのための第一歩、祝福を受ける! 私の新たな人生は、ここから始まるのだ!

「それでは、一人ずつこちらのお祈りする場所に来てください。まずは――」

 いよいよ始まった。私は四番目、最後にイザベルだ。はあ~さすがに緊張するね。……うん? 誰かがツンツンと私の左肩を軽くつついてきた。
 左を向くと、イザベルだった。

「シャーロット、緊張するね」
「うん、聖女になんかなりたくないよ」

 私は緊張してるけど、イザベルからは緊張を感じ取れない。むしろ、おだやかな表情で、この状況を楽しんでいるようにさえ思える。

「でも、聖女になれたら将来安泰あんたいらしいよ。王家とも知り合いになれるし、場合によっては王子妃に、ゆくゆくは王妃かもだよ」

 それはない! 現在、王子様は二人。でも、王太子様は二十歳、第二王子様は十七歳、それぞれに婚約者もいる。どう頑張がんばっても、王子妃や王妃には絶対になれないって!
 とはいえ、この状況ではストレートに言えない。適当にごまかそう。

「聖女という重圧に耐えられそうにないよ」
「ああ、わかる!」
「――次、シャーロット・エルバラン」

 早い! もう私の番なの!
 ニナ、エリア、カイリを見ると、みんな自分たちのステータスを確認している。
 ああ、ついに私の番がやってきたんだ!

「シャーロット、頑張がんばって!」

 言うのは簡単だけど、イザベル、何をどう頑張がんばればいいのよ。

「シャーロット、ここに立ち、ガーランド様に祈りなさい」

 ラグト神父の声は、おだやかではあるけど、朝の挨拶あいさつのときより凄味すごみがある。今年の祝福は聖女がいるかもしれないから、真剣にもなるか。
 もうヤケクソだ、やってやる!
 私は祭壇さいだんに上がり、ゆっくりひざまずき、両手を合わせてガーランド様に祈った。

『ガーランド様、いつも見守ってくださり、ありがとうございます。私はシャーロット・エルバランと申します。少し前に五歳になりました。どうか祝福をお願いいたします』

 ……あれ?
 なんか上から温かい何かが降りてきたような気がする。

『君が地球からの転生者か。ミスラテルから話は聞いているよ。言い付け通りにしていたようだね。これからも期待している。君の場合、これからが大変だけど、頑張がんばりなさい』

 え、声! これがガーランド様! しぶくて良い声だ。

『はい、ありがとうございます。シャーロット・エルバラン、頑張がんばります』

 あ、温かな何かが消えた。祝福が終わったのかな? これでステータスが見られる?

「シャーロット、祝福が終わりました。ここの台座に描かれている手に、右手を置きなさい。この台座は、『ステータスチェッカー』と呼ばれるオーパーツです。まずこのオーパーツに触れ、ステータスオープンと言いなさい。ここでは私も、あなたのステータスの一部――名前、年齢、出身地、称号の四項目を見られますが、それ以外は見えないので安心しなさい」

 オーパーツ、精霊様から聞いたことがある。
 大昔、最低でも千年以上前、今よりも文明が発達していたらしく、超優秀な魔導具も開発されていたという。でも、なんらかの理由で文明が崩壊し、当時作られたものだけが残された。そして現在、極稀ごくまれではあるものの、そういった魔導具が遺跡や地中から見つかり、中には動くものもあるそうだ。
 これらの超古代魔導具は、現在の技術では製作不可能なほど優秀なため、総称してオーパーツと呼ばれている。王都の教会に、発動可能なオーパーツがあったんだ。

「わかりました。ステータスを確認します」

 いよいよステータスを見るときがきた。

「ステータスオープン」

 お、私の目の前に、何か大きな画面が出てきた。


 名前 シャーロット・エルバラン
 性別 女/年齢 5歳/出身地 エルディア王国
 レベル1/HP15/MP60/攻撃5/敏捷3/器用653/知力850
 魔法適性 全属性/魔法攻撃45/魔法防御38/魔力量60
 魔法:なし
 ノーマルスキル:鑑定 Lv10/魔力感知 Lv6/魔力操作 Lv4/魔力循環 Lv4
 ユニークスキル:全言語理解・精霊視・構造解析・構造編集
 称号:いやしっ子


 これがステータス、まずは称号に聖女があるかを確認しよう。
 ……やった、聖女じゃない! これで一安心だ。
 他のはどうかな? HPから魔力量までの数値欄をチェックしよう。
 う~ん、前世の記憶を引き継いでいるせいか、恐ろしくアンバランスだ。一言で言うなら最弱だよね。五歳だから当然かな。器用と知力がやたら高いのは、料理上手なのと研究者だった前世が影響していると思う。この数値から判断して、MAXは999かもしれない。
 魔法適性は全属性か、私は完全に魔法使いタイプだね。ただ全属性だからといって、チートではない。エルディア王国でも、十人に一人の割合でいる。喜ぶべきところだけど、全ての属性魔法を取得できる資格があるだけで、きたえなければ器用貧乏な魔法使いとなる場合もありうる。まあ、今は素直に喜んでおこう。
 次にチェックするのはスキル欄、なにげに『鑑定 Lv10』がある。10はMAXのレベルのはず。なんであるの? 女神様かガーランド様がおまけで付けてくれたのかな? でも、確か『鑑定』スキルは多くの物品を自分で調査していくことで、スキルレベルも上がっていくと聞いている。何もしていないのに、いきなりレベルMAXというのは不自然だよね?
 その他のスキル、魔法の基礎ともいえる『魔力感知』『魔力循環』『魔力操作』だけど、五年間の訓練でスキルレベルは4から6になっていた。魔力感知だけは、〇歳から訓練を始めていたので、他の二つより飛び抜けている。実戦経験がないことを考えたら、これほど高くあがっていることに正直驚きだ。
 次は、いよいよユニークスキル。まず『全言語理解』を確認……あれ、手が勝手に動く? あ、タップしたら詳細が表示された。


 全言語理解
 古代語、現代語など、これまでの歴史で使用されてきたあらゆる言語を理解できる。また、魔物の種族に関係なく、どんな魔物とも会話することが可能である
 注意:野生動物は魔力が微量しかないため、会話できない


『全言語理解』と聞いただけで、どんな機能があるのか、おおよそわかっていた。そして、ここの注意点、多分ガーランド様が書き足してくれたのかな。魔物と会話できるけど、野生動物とはできないのか。確かに、これまでに遭遇そうぐうした馬、ウサギ、犬、猫とは会話できなかった。ある一定以上の魔力が宿った生物に限り、会話が成立するのか。〇歳児から言葉を理解できていた理由がわかった。
 さて、メインの『構造解析』にいく前に、称号の『いやしっ子』をチェックしよう。あ、また自然に手が動いて、『いやしっ子』をタップした。
 う~ん、頭では理解しているけど、身体が理解していないから、違和感が半端ない。


 いやしっ子
 周辺にいる人たちの憎悪、わだかまり、ストレスなどの感情異常を軽減できる。抱き上げることで、軽減率が増加する


 ……何、この称号?
 私の周囲にいる使用人たちが、いつもニコニコしているのは、これが理由か。残るは、『構造解析』と『構造編集』だけど、長くなりそうだし、後で確認しよう。
 あと、ガーランド様の最後の一言が気になる。聖女じゃないことを考えると、この先の人生が大変だよと忠告してくれたのかな。私の立場は公爵令嬢、ありえる未来は、ネット小説とかでもよく見られる婚約破棄だよね。これに関しては、今考えても仕方がないか。

「残念だ、君も聖女ではない」

 ラグト神父、そこまで残念そうな表情を浮かべないでほしい。聖女は、いずれ見つかるから。

「はい、残念です。ステータスの確認も終わりました。私は、魔法使いタイプのようです」
「そうですか、これからも頑張がんばってください」

 私の順番が終わり、最後イザベルの番になる。

「シャーロット、残念だったね」

 イザベルは聖女になりたいのかな? 残念がっているけど、どこかホッとした顔をしている。

「なんで? 聖女じゃなくて良かったよ。イザベルも頑張がんばって!」
「うん!」

 イザベルが祭壇さいだんに上がり、お祈りを始めた。そういえば、みんなガーランド様の声が聞こえたのだろうか? 後で聞いてみよう。
 彼女のお祈りが終わり、ステータスの確認が始まった。ラグト神父の表情がおかしい。何かを食い入るように見て、目を見開いている。

「やった! シャーロット、私の称号に聖女があるよ!」

 なに!? イザベルが聖女!

「イザベルが聖女なの!」

 悲惨ひさん! イザベル、聖女なんだ、ご愁傷様しゅうしょうさま

「た……た……大変だ。イ……イ……イザベル、今すぐ……き……教皇様に知らせましょう。他のみなさんは……し……しばらく部屋で待機していてください」
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