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(ここからWeb版:内容に差異あり)8歳~サーベント王国編 下準備

閑話 その頃の勇者オーキスとリーラ

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○○○  オーキス視点

僕はオーキス・トルマリン、8歳。

8歳の誕生日、お父さんとお母さんから言われた一言が、今でも忘れられない。僕は勇者らしい。12年後、エルディア王国に災厄が訪れ、それを振り払う役目がある……みたい。正直、急にそんなこと言われても実感がない。称号には、確かに勇者があるけど、ステータスを見た限り、普通の人と大差ない。災厄に関してはイマイチ理解出来ないけど、もう1つの使命である本来の聖女シャーロットを早急に探すこと、これは僕にもわかった。

半年程前、シャーロットは、病気で死にかけていたリーラと、大怪我を負った僕を瞬時に治療してくれた。彼女が見つけてくれたマヨネーゼの新規使用法、あれをキッカケに海の街ベルンは、料理関係で有名になりつつある。シャーロットは、僕やリーラだけでなく、街そのものを救ってくれた。

そんな命の恩人シャーロットが偽聖女イザベルの所為で、現在行方不明だ。僕は強くなって、シャーロットを探し出したい。この想いは、リーラも一緒だ。僕は少しでも強くなるべく、毎日砂浜で走り込みや剣術、魔法の鍛錬に励んでいる。僕が訓練を始めてから2ヶ月、少しずつではあるけど、ステータス数値も上がってる。でも、こんなやり方じゃあ、シャーロットを探しに行けるのは、いつになるかわからない。


もっと強くなりたい。
この想いが日々強くなっている。


………………今日の訓練を終えて、家に帰るとお客様がいた。


「父さん、母さん、ただいま!」
「お帰りなさい。ベンザム様、この子がオーキスです」

「ベンザム様、今後どうするかはオーキスに任せます。この子は8歳ですが、きちんと勇者という意味を理解しています。私と妻の掛け替えのない息子ではありますが、同時に勇者である以上、王国を救う為に動かねばならない」

勇者?
父さんは、何を言っているのかな?

母さんも父さんも、僕を見る目が、いつもと違う。
どこか悲しい目をしている。

向かい合わせに座っているゴツい騎士は、一体何者なのだろうか?ただ、この人、身体はゴツいけど、何処か優しげな人だな。悪い人ではない気がする。

「オーキス、初めまして。私はベンザム・ソルゲイト、王国騎士団の団長をしている」

え!

「騎士団の団長様!初めまして、オーキスと言います!」

ベンザム様といえば、ゴブリン軍団殲滅の際、陣頭指揮を執っていた人だ!僕も、こんな強い人に剣術を習いたいって、いつも思っていたんだ!

そんな人が、なんで家に!?

「オーキス、君は勇者である事を自覚しているかな?」

勇者!
どうする?
団長様が尋ねて来るのだから、何か理由がある?
せっかくだから、僕が思っている事を正直に話してみよう。

「ステータスの称号欄を見てわかっていますが、今の自分にとって重要なのは、12年後に襲って来る災厄より、行方不明のシャーロットを探すこと事が重要です」

「うん、元気があって宜しい!シャーロット様を見つけ出す事も重要ではある。これまでの断片的な情報から、シャーロット様はハーモニック大陸にいることが判明した。しかも、まだ7歳ながら、特殊ダンジョンを攻略する程の強さと知性を身に付けているようだ」

特殊ダンジョン?
その言葉は知らないけど、ハーモニック大陸なら知ってる!

「あの魔人族が棲む大陸ですよね?」

「そうだ。シャーロット様は、2人の仲間と旅を続け、こちらに帰る手段を模索している。精霊様の話では、シャーロット様を殺せる愚か者は、この世に存在しないと断言していた。それが何を意味しているのか正直わからないが、ハーモニック大陸で魔人族と仲良く暮らし、冒険を重ねているらしい」

魔人族と仲良く!

「魔人族は野蛮で好戦的、自分達以外の種族を深く憎んでいるのでは?」

「それは、古い文献に記された情報だ。戦争当時はそうだったかもしれないが、戦争以降、国交を断絶しているため、現在の魔人族に関する情報はない。7歳のシャーロット様が仲間を作り、冒険出来ている事から推察すると、魔人族も我々人間と大差ないかもしれない」

ああ、確かにそうかもしれない。野蛮で好戦的なら、僕と同い年の子供が生きているはずないもんね。シャーロットは帰る方法を探している。僕は……………

「ベンザム様、僕は勇者としての役割を知りたいです。もっともっと強くなりたいです!シャーロットがハーモニック大陸で頑張っているんだから、僕も頑張りたい!僕を鍛えてくれませんか!」

ここで鍛錬するより、王城で鍛えた方が、絶対強くなれる!

「うん、自分の意志を強く持っている良い目だ。元々、私は君を王城に連れて行くつもりでいる。王都に行けば、私や城の魔法使い達が君に世界の知識と強さを与える事が出来る。しかし、それは同時に君の両親と離れ離れになる事を意味している。会えたとしても、年数回レベルになるだろう。両親との別れ・訓練の辛さ、君にとって辛い現実が待ち構えているぞ。それでも良いのかな?」

「父さんや母さんに会えないのは寂しいけど…………それはシャーロットだって同じです。いきなりハーモニック大陸に飛ばされて、ずっと1人ぼっちで冒険していたはず。それに比べたら、僕は年数回だけでも父さんや母さんに会える!どんな過酷な訓練でも耐え切ってみせます!」

父さんと母さんを見ると、驚いた顔で僕を見ている。
母さんは悲しむかな?

「父さん、母さん、シャーロットは僕の命の恩人なんだ。シャーロットを見つけ出して、12年後に来る災厄からみんなを守りたい!王城に行かせてよ!」

「…………オーキス………本気のようだな。母さん、行かせてやろう。オーキスならば、全てをやり遂げてくれるさ」

「……そうね……そうね……私達の息子だもの」

あ、母さんが泣いてる。
でも、この想いは変えられない。
僕が勇者である以上、逃げちゃダメだ!

「------わかったわ。オーキス、貴方の好きにしなさい。ただし、やるからには必ず成功させて、家に帰って来るのよ。私達から貴方に会いに行く時もあるけど、貴方は帰って来てはダメ!良いわね?」



「…………わかった。今度、僕がここを訪れるのは、災厄を振り払った時だね。約束するよ、勇者としての使命を全うしてみせるから!」


父さんと母さんに恥をかかせない為にも、絶対挫けないぞ!


○○○  リーラ視点


あ~、こんな事していて良いのかな?

騎士団団長のベンザム様から聞いたけど、シャーロットはハーモニック大陸で冒険しているんだよね~。

「お嬢、ミスリルの形状が甘い。何か雑念を感じるぞ」

「バーキン、シャーロットの事が気になるんだよ!オーキスは、もう2ヶ月前から訓練を開始しているけど、私は何もやってない!」

「なんだ、その事か」

なに、その軽い発言!
この2ヶ月、私はずっと苦しんでいるのに!

「お嬢、オーキスは勇者だ。師匠を探すだけの力を持っている。それに対して、俺やお嬢は普通のドワーフと人間だ。訓練したところで、大して強くなれないだろう。ならば、師匠の捜索に関しては、資格のある人間達に任せればいい。それに、精霊様が師匠は元気にしていると断言してくれている。俺達は、師匠が教えてくれたミスリルの加工技術を使い、マクレン領やエルバラン領をより発展させる事だけを考えればいいのさ。」


うーん、確かに私が大きくなってオーキスと旅をしても、足手まといになるだけかな。それに街を発展させて、帰って来たシャーロットを驚かせる方が楽しそうだね。


「…………わかった。シャーロットの捜索はオーキスやマリルに任せる」

「おお、聞き分けが良くなったな。お嬢も成長したじゃないか!」


なんか馬鹿にされてる気がする。
シャーロットは、今どうしているのかな~~?
光精霊様の話によると、2人の仲間と冒険しているらしいけど、詳しい事は全然教えてくれないもんね~~。


『2人共、頑張ってる~~~~?』

「わ!光精霊様、急に現れないで!」

もう!光精霊様は、毎回毎回私を驚かせるよね。

『あははは、ごめんね~~。シャーロットに教わったミスリルの加工技術、バーキンの方は大分綺麗に製作出来るようになったね。それってシャーロットの像?』

バーキン、初心を忘れるなって事で、高さ20cmくらいのシャーロットの像を製作しているのは良いけど、あの像のバランスがおかしいよ。隣にある私の像に比べて、背が高い・胸もある・凄く美人、あれはどう見てもシャーロットじゃないよ。

「光精霊様、わかりますか!師匠はかなり成長して戻って来ると思うので、今よりも成長した姿をイメージして作ったのです。さすがに、10年近くは戻って来れないでしょう?」

『…………あっははは、そうだね。うん、戻って来れないだろうね。(ごめんね、本当は、その辺のドラゴンを取っ捕まえて、ドラゴンごと連れて帰って来る事も可能なの。さすがに、言っても信じもらえないよね。それに…………私が言った事を他の精霊達にバラされたら、ガーランド様に叱られるだけでなく、シャーロットからも叱られ、あのお仕置きを喰らってしまう。それだけは、絶対に嫌!)』


怪しい、さっきの乾いた笑い、光精霊様は何かを隠している?

シャーロットは元気・特殊ダンジョンを攻略出来るくらい強くなってる・帰りは10年と言ったら、あの乾いた笑い………………


「光精霊様、シャーロットは元気に暮らしているんですよね?」
『元気よ!それだけは言えるわ!』

「本当は、今すぐに帰れる方法があるけど、冒険を楽しみたいから帰りたくないとか?」

『………………まっさか~~~~、そんな事あるわけないじゃない!(ひいい~~、なんて勘の鋭い子なの!7歳の子供がハーモニック大陸に転移されたと聞いたら、そんな軽はずみな発言、普通しないわよ。ていうか思い付きもしないのに…………子供って怖いわ~~、リーラ怖ろしい子!)』

変な間があったけど、私が言った事は当たっているのかな?

「お嬢、エルバラン公爵の前では、そんな軽はずみな発言、絶対するなよ」
「わかってるよ~~。光精霊様が何か隠している様な気がしてさ」

何か怪しいけど、シャーロットが元気に暮らしてるのならいいかな。
ああ、そろそろ、あれが始まる!

嫌だな~~

『(話題変更!)リーラ、礼儀作法の授業が始まるよ。シャーロットが帰って来るまでに、立派な貴族の令嬢になって驚かせよう』

「お嬢、貴族の女として生まれた以上、避けては通れない試練だ。頑張れや!」

気軽に言わないでよ~~。
喋り方・仕草・他貴族や王族との接し方・歴史など、習う事が多過ぎるよ!

『リーラ、シャーロットの場合、帰って来てからが大変なんだよ。公爵令嬢である以上、貴族教育を学び直して、婚約者を決めて、聖女だから王家や教会とも話し合ったりしないといけないの(まあ、それは建前で、実際はシャーロットが力付くで、どうにかするでしょうね)』

「はあ~~わかったよ~~。行ってきまーす」

そうか、シャーロットは帰って来てからが大変なんだ。

…………そうだ!

私が先に全部マスターして、シャーロットに教えていくのもアリだよね!私がシャーロットを教育してやろう!


それなら、私なりの恩返しになるよね!
そう考えたら、なんか面白くなって来たよ!
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