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(ここからWeb版:内容に差異あり)8歳~サーベント王国編 下準備

閑話 その頃のイザベル(フレヤ)

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イザベル改名後の名前をフレヤ・マクレーンからフレヤ・トワイライトに変更しました。該当する部分も、近日中に修正しておきます。

○○○ フレヤ視点

月日の経過は早い。

イザベル(私)が処刑されてから、1ヶ月経過した。あの時の学会のエルバラン公爵の講演、その後のエルディア王国中で発生したイムノブースト後遺症事件、これらの出来事で長年使用されてきた『イムノブースト』は欠陥魔法である事が発覚し、同時にエルバラン公爵が見つけ出したヒール系の回復魔法の有用性が示された。

【ヒール系回復魔法は適正さえあれば誰にでも習得可能であること】、【イムノブーストと異なり副作用はない】ということ、これらの発表内容は、実際に多くの人々が習得し、精霊様自身が副作用はないと宣言された事から、光の適正のある人々は、現在でもヒール習得のため、教会に足を運んでいる。


当初、エルディア王国国王は戦争勃発を避けるため、今回のイムノブースト後遺症事件を国外に漏れないよう試みた。でも、あまりに規模が大き過ぎたため、何処かで情報が漏れてしまい、イザベルが処刑されてから数日後には、各国からの使者が続々と訪問してきた。幸いな事に、どの国も戦争を起こす気はなかった。何故ならば、情報が漏れた事により、各国の国民達が騒ぎ出し、王城や教会支部において、デモが発生したからだ。どの国も戦争どころではなく、一刻も早く事態の沈静化を望んだ。

各国が望んだこと…………それは『エルバラン公爵との面会』と『ヒール系回復魔法の取得方法』を知る事だった。国王はこれらの要件を承諾する代わりに、1つの条件を出した。

【我が国の本当の聖女、シャーロット・エルバランの捜索に協力してもらいたい】

各国の使者達は快く了承し、『シャーロット様の似顔絵』を各冒険者ギルドに配布する事を誓ってくれた。また、見つけた者には、エルディア王国から、報奨金《白金貨100枚(1000万円相当)》を出す事も決定した。この件以降、エルディア王国は平穏を取り戻し、これまでの賑やかさが戻って来た。各国の国王達は、使者から得られた情報を基に、ヒール系回復魔法の普及に勤しんだ。現在ではデモもほぼ沈静化し、平穏を取り戻しつつある。また、ランダルキア大陸までイムノブーストの件が漏れている事は考えにくいので、ランダルキア大陸に近い国々は、竜人が統治するロイヤーヌ帝国帝都アダルキスへ、使者を送り出した。


アストレカ大陸の殆どの国々が平穏を取り戻しつつある中、1つの国だけは、未だに混乱を極めている。ガーランド教を布教させているガーランド法皇国、これまでヒール系回復魔法を自国の国民達にも隠蔽し、各国から生まれてくる聖女にしか使用出来ないように情報操作を行っていた。この事実は、各国の国王達にも知らされていない。この情報は、ガーランド教の最重要機密事項と認定され、国と教会の権力維持のため長年隠蔽されてきたが、イザベルの行動が原因で、聖女専用の回復魔法はヒール系で、実は誰にでも使える魔法と判明されたため、現在、各国から非難が殺到し、ガーランド教の存続自体が危ぶまれている。今後、ガーランド教をどの様な体制にしていくか、その目処は立っていない。


エルディア支部において、教皇などの身分の高い者達だけは知っていたが、いつか露見する事を察知していたのか、事件発生後、迅速に神官達にヒールを教えていった。現在、教皇はガーランド法皇国に行っている。事件の原因は、教皇がイザベルをきちんと指導していなかったからだとされており、最悪、処刑される可能性だってある。でも、そんな事をしたら、あの国の立場が、ますます悪くなる一方だから、多分生きて帰って来れるだろう。


全ての発端は、ガーランド法皇国の隠蔽に問題があったのだから。


ガーランド法皇国が自国の問題に勤しんでいる間、各国の国王達は秘密裏に世界会議を開催する予定となっている。

テーマは、【ガーランド法皇国への対処】。

各国の使者が訪れた時、エルバラン公爵がヒールの文献がない理由を説明してくれた。イムノブーストが開発されるまで、ヒール系回復魔法が世間で当たり前の様に使用されてきた。余りにも、当たり前に使用されていたからこそ、資料にする意味がなかったのだ。イムノブーストが開発された当初は、比較の為、イムノブーストとヒール両者を比べた資料が残されていたと思うが、長い年月の末にイムノブーストが定着し、その資料は完全に忘れ去られた。その結果、ヒール系回復魔法が廃れていき、どの国においても、資料が残されていない。唯一、ガーランド法皇国だけがイムノブーストの欠点に気付き、ヒール系回復魔法の取得方法を保管しておいた。そして、ガーランド教を全世界に布教させる為、定期的に現われる聖女にのみ覚えさせていき、今の強固な国を作り上げてきたのだ。また、精霊様は各国の政治経済的な情報を人に教える事が出来ないため、ガーランド法皇国はその点を利用したと考えられる。この説明は、使者達を充分に納得させた。それと同時にガーランド法皇国への不信感も高まった。今後、どの様な新体制を打ち出してくるのか、それ次第で世界会議の内容も変化するだろう。

ただ、元聖女の私として、1つ気になった事がある。国の名称にガーランド様の名前を(勝手に?)使っていること、精霊様を間接的に利用したこと、この2点だ。教会の授業では、ガーランド様の許可を得て神の名を使用しているらしいけど、正直怪しい。

ガーランド様自身はお怒りになっていないのか、疑問に思ったので精霊様に面会のアポイントを取り、その日の夜、私が眠りに落ちてからガーランド様と会う事が出来たので、思い切って聞いてみた。すると…………

----------

「ああ、あの国の名称に関してか。建国前、当時の聖女と勇者が私に面会を求めてきた。彼らが私を尊敬し、私の名前を全世界に広めるため、【ガーランド法皇国の建国】と【ガーランド教の設立】の許可を求めてきた。面白そうだから、許可してあげたよ」

「今では国の上層部が腐敗しています。精霊様が各国の政治経済面の情報を人に教えられないことを利用して………」

ガーランド様は目を閉じ、深く考えている?

「イムノブーストの件もあって、そこは調べたよ。確かに、昔の面影が全く感じられない。ただね、君も知っているように、私がいい加減だった事もあり、イムノブーストの危険性を知らないまま、時が過ぎてしまった。言うなれば、あの国の腐敗は、私に通じるものがある。今回に限って言えば、私はあの国に制裁を与える資格がない。だから、アストレカ大陸の人々に制裁を与えてもらいたい。各国の者達が、どういった判断を下すのか、私はここから見守らせてもらう」

言われてみればそうだ。ガーランド様のいい加減さが1番の発端なのだから、制裁を与える資格はないか。

「わかりました。私も、見守ります」

「ところで話しは変わるのだけど、君に警告しておきたい事がある」

へ、警告!
私、何かしたっけ!?

「違う、違う、君は処刑されて以降、人々に善行を重ねたことで、多くの人々から信頼されている。君自身に注意する事は、何もないよ。シャーロットからの報告で、私の目を掻い潜り、スキルを他人に販売させている者がいる。しかも、その者は私の知らないスキルも持っている。おそらく、転移魔法でアストレカ大陸に現れ、国家間の関係を崩す可能性がある」

スキル販売!?
ガーランド様の目を掻い潜る?

「そんな危険人物が現れたら、アストレカ大陸の国々が滅亡するかもしれません」

「シャーロットは、1度遭遇している。その場で消滅させる事も可能だったらしいけど、肝心の奴がシャーロットの強さに怖気付いて、早々に逃げ出してね。従者のフロストドラゴンに問いただしたそうだ。その結果、スキル販売に関しては、相手が求めたからそれを売っただけで、自分達は悪くないと言ったそうだ。また、スキル販売以外にも、何らかの目的があるらしく、ドラゴン自身も詳細な事は知らなかった。そこで、シャーロットは口頭の警告だけ行い見逃した」

ええ!
せっかく従者のフロストドラゴンを殺せたのに見逃したの!
ていうか、シャーロット様はそこまで強いの?

「あの………どんな警告を?」

「私や私の友人達に危害が及んだ場合、お前達全員を問答無用で殺す!どんな理由があろうとも関係ない。それを踏まえて行動しろ!……だったかな?」

怖!

フロストドラゴン相手に、そんな警告したんだ!そういえば、『シャーロットは絶対殺されないよ!』と精霊様が言ってた気がする。フロストドラゴンを余裕で上回る強さを手に入れたって事?

「そうなると、シャーロット様がいる大陸には、もう出現しない可能性もありますね」

「そう、だからこその警告だ。アストレカ大陸にSクラスの魔物が突然発生する可能性もある。ガーランド教の各支部に神託を下したから、詳しい事は君がエルディアの国王に言えばいいだろう」

責任重大だ!
あれ、でも…………

「フロストドラゴンを一蹴する程の強さを手に入れたのに、シャーロット様は帰ってこれないのですか?」

「シャーロットは、通常ルートで帰り道を模索しているから、最低でも3年はかかるだろう」

通常ルート?
どういう意味?

「………今の君ならば、信頼出来るか。緊急ルートを使えば、1時間で戻って来れるよ」

ええ!?

「3年が1時間!緊急ルートって、どんな方法なんですか!」

「シャーロット関連の話は他言しないように。………空を飛んで帰って来るだけだ」

嘘!?
空を飛ぶ魔法ってあったかな?
いや、違う違う!この際、それはどうでもいい!

たった1時間で帰って来れる程、シャーロット様自身の力が強いんだ。

「彼女を生存させる為、私は1つのスキルを与えた。そのスキルの所為で、シャーロットは…………世界最強の7歳児に成長した」


たった1つのスキルの所為で、世界最強になったの!


「………スキル販売者より、シャーロット様の方が脅威なんですけど」

「シャーロットならば問題ない。君達はシャーロットに頼らず、自分達でスキル販売者を見つけて欲しい。私も、これまでに作製したユニークスキルの中に、スキル販売に繋がるものを探しているところだ。………そろそろ時間切れか。イザベル、いやフレヤ、スキル販売者を見つけた場合、すぐに知らせて欲しい」


ここで意識が途切れ、目覚めたら自分の部屋だった。

先程までの会話から、スキル販売者に関しては、みんなが知る事になるから問題ないけど、シャーロット様が世界最強の7歳児になったことは、誰にも言えない。

というか、言っても信じてもらえない。


-------------


神託が下された日、エルディア王国王城で会議が開かれた。私も参加し、ガーランド様と話し合ったこと(シャーロット様関係は省く)を報告したら、出席者全員が驚き、私フレヤ・トワイライトが聖女代理である事を再認識してくれた。


会議の末、スキル販売者はガーランド様を欺く悪であると認定された。ただ、スキル販売に関しては、混乱を避けるべく公にせず、内密に調査する事となった。おそらく各国も、同じ動きを取るだろう。スキル販売、本来ならば、その者を見つけ出して、ありとあらゆるスキルを買いたいはずだ。でも、そんな事をすれば、ガーランド様がお怒りになるのは明白、おそらくランダルキアでも同じ神託が下されて同じ行動を取るはずだけど、何処かにいるスキル販売者1人を探し出すのは困難だろう。



○○○



神託が下されてから、1週間経過してもガーランド法皇国からは何も言ってこない。おそらく、内部で相当揉めているのだろう。何らかの方針が決まり次第、各国の国王達は、今回の騒動の責任を各支部の教皇達に負わせる予定となっている。

《コンコン》

「はい、どうぞ」
「フレヤ、こんにちは」

「マリルさん、お久しぶりです」
「何か仕事中だったの?」

「あ、これは違います。私が仕出かした事を客観的に見るとどう映るのか、これまでの出来事をまとめていたんです」

「ああ~、で感想は?」

「……私が仕出かした事が発端になって、騒ぎがアストレカ大陸全土まで広がりました。今更ながら、自分がどれだけ愚かな行為を行ったのかがわかりました」

これまで自分の事しか考えてなかった。
その結果がこれだ。

「そうね。でも、悪い事ばかりではないわ。貴方がいなければ、ガーランド教の本部であるガーランド法皇国の極秘事項であるヒール系回復魔法の隠蔽を暴けなかった」

「結果的に見れば、そうですね」

良い事ではあるけど、それで亡くなった人が生き返るわけではない。亡くなった人は生き返らない。私が犯した罪は重い。これからは聖女代理として、多くの怪我人を治療していかないと。そして、私が転移させたシャーロット様を見つけないと…………


「俯くのは、ここまでよ。これからは、前向きに考えていきましょう。長距離転移の方法は、まだわからないけど、シャーロット様関係の情報が手に入ったわ。ラルフ様を守護してくれている水精霊さまからの話で、アストレカ大陸にある3つの特殊ダンジョンが大幅に改装された事がわかったわ」



「え、それがシャーロット様と関係あるのですか?」

「アストレカ大陸にある3つの特殊ダンジョンの難易度は、あまりに高過ぎる事で有名なの。途中まで挑む事は可能だけど、最下層攻略者は誰1人いない。そんな超難関の特殊ダンジョンは、世界中に点在しているのよ。点在するダンジョンの1つに挑み、最下層まで到達した者が現れた」

話から考えると………

「まさか?」

「そのまさかよ。攻略者は3名、その中にシャーロット様がいたのよ」

嘘!?

特殊ダンジョンは、ステータスの数値が反映されない。いくら世界最強の7歳児となったシャーロット様でも、知能は7歳のままだから攻略出来るわけがない。


もしかして、シャーロット様は、私と同じ転生者なんじゃ!

「シャーロット様は、私と同じ7歳ですよね?」

「7歳だけど賢く聡明で、どこか大人びていたわ。そういう意味では、フレヤも同じね」

間違いない。
シャーロット様は転生者だ。

そういえば、私が聖女成り立ての頃、精霊様達がヒール系の回復魔法の中でも、最高難易度のマックスヒールやリジェネレーションを教えに来てくれた事があった。イムノブーストの危険性も教えてくれたけど、どこか嫌々だったので問い詰めたことがある。すると、『とある女の子が僕達に、《聖女の重要性を彼女に教えてあげて》と言ったのさ』と答えてくれた。シャーロット様が本当の聖女だから、当然精霊視も持っている。だから、精霊視を持っていない私に、間接的なアドバイスを与えてくれてたんだ。

今更、気付くなんて………私は馬鹿だ。

そんなシャーロット様なら、特殊ダンジョンを最下層まで攻略出来てもおかしくない。

「シャーロット様は、何処の特殊ダンジョンを攻略したんですか?」

「流石に場所までは、教えてくれなかったわ。でも、シャーロット様がどの大陸にいるのかはわかった」

「え!?」

シャーロット様はハーモニック大陸にいるかもしれないけど、あくまで推測の域に過ぎない。確定的な情報が手に入ったのだろうか?

「ランダルキアの特殊ダンジョンはアストレカよりにあるの。遥か遠い場所から、たった2ヶ月で辿り着くのは、物理的に不可能よ。間違いなく、シャーロット様はハーモニック大陸にいるわ!」

魔人族が住むハーモニック大陸、そこにシャーロット様がいる!
私は、そんな危険な場所に転移させたんだ。

「2人の仲間がいるのは、心強いですね。それに特殊ダンジョンを攻略する程、シャーロット様は強くなっている?」

「ええ、その通りよ。この事をジーク様やエルサ様に伝えに行ってくるわ。あ、そうそう、フレヤ、【フェイスプレッシャー】と【フェイスドリブル】って知ってる?」

「は?」

え、え、フェイスドリブル?フェイスプレッシャー?
それって……まさか………

「そうよね、知らないわよね。特殊ダンジョンの難易度があまりに高過ぎるから、シャーロット様がそのダンジョンのマスターである土精霊様に、さっき言ったお仕置きを実行したらしいのよ。水精霊様も、『あれは怖過ぎる』と震えていたわ。どんなお仕置きだったのかしら?」

「さ、さあ、精霊様が怖がる程のきついお仕置きだったのでは?」

「そうね。それじゃあね」

フェイスプレッシャー………顔面、押し潰す
フェイスドリブル……………顔面をボールに見立てて、ドリブルする

シャーロット様、絶対に転生者だ。
精霊様相手に、そんな不遜なお仕置きを実行できるなんて凄過ぎる。


あ、私はそんな人をハーモニック大陸に転移させちゃった。
しかも、世界最強の7歳児!


もしかして、私…………詰んでる?
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