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9巻

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 2話 過保護の神ガーランド


 出会いがしらの抱きしめもあって、『緊張感』が私たちの中から吹っ飛んでしまった。アッシュさんやリリヤさんも、シヴァさんが想像していた人物とかけ離れていたので、私と同じ気分を味わっていると思う。ただ、これから真剣な話をするからか、シヴァさんは玉座に座り、プリシエルさんは側近として、その横に立った。

「この上から人々を見下ろすという行為は、いつまで経っても慣れないわね。私的には対等に話したいのだけど、ドラゴンの頂点にいる以上、威厳を保たないといけないから許してね。それじゃあ、ユアラに関する話をしましょう。シャーロットたちが王都フィレントに入って以降、私はあなたたちをずっと見ていたわ」

 玉座にいるシヴァさんからは、威厳と風格が伝わってくる。
 その容姿も相まって、この方がドラゴンの女王なのだと、再認識する。

「ユアラがどこで仕掛けてくるのかわからないから、ずっと警戒していたのよ。突然王城の空中に現れたときは私も驚いたわ。ただユアラ一人だけなら、今のあなたたちでも十分捕縛ほばくすることは可能だと思うわよ」

 フロストドラゴンのドレイクもいるのに、そちらは眼中にないようだ。まあ、彼は普通のドラゴンでいつでも討伐可能だし、シヴァさんにとっては警戒する必要もないか。

「でも、その後に出現した黒幕の男、やつだけは得体が知れないわね。ここにいる全員が束で向かっても、おそらく瞬殺されるでしょうね」

 シヴァさんも、やつの危険性を理解してくれている。神に直接ぶつかれば、こちらが全滅するのは必至だ。それを回避するために、ガーランド様からあのユニークスキルをいただいたのだけど、それだけじゃあ不安なのかな?

「シャーロットちゃん、ガーランド様からあなたの境遇についても聞いているわ。ここまで神に愛されている人は珍しいわよ。あの方はあなたを生かすため、あらゆることを想定し、あらゆる災難に対処できるよう、私に一つのアイテムを作ってほしいと頼んでこられたのよ」

『あらゆる災難』? 相手が神である以上、何をしてくるのかわからない。でも、たった一つのアイテムだけで対処できるのだろうか?

「そういった大事なものは神自ら作ればいいのではと質問はしたのよ。けど、三千年ほど前に一度下界に降りて暴れたせいで、上位の神々ににらまれているらしいのよ~」

 やっぱり、天尊輝星様のお仕置きを怖れているから、シヴァさんに頼んだのか。

「その事情は私も聞きましたが、別の神にイタズラされている時点で、お仕置きされることは確定ですよね?」
「そう、それよ!! そのお仕置きのレベルを極力下げたいらしいのよ。そういう自分勝手な魂胆こんたんもあるから、あなたを巻き込んだことに関しては本当に悔いていたわね。そこで、このアイテムを作ったの。地球では、これを『ミサンガ』と言うのでしょう?」

 シヴァさんが立ち上がり、ふところから二個の輪っかのようなものを取り出し、私に渡してくれた。赤・だいだい・黄・緑・青・あい・紫の七色の紐が一つに束ねられており、形もミサンガで間違いない。
 各々の紐からは、清浄な神気を感じる。あのユニークスキルを譲渡されてから、ずっと訓練を重ねてきたおかげで、神の力をようやく感じ取れるようになった。そんな今だからこそ、これがただのミサンガでないことがわかる。

「これは確かにミサンガですが、地球のものと明らかに『質』が違いますね。ガーランド様の力を強く感じます」


 このミサンガには、どんな効果があるのかな? 構造解析してみよう。


 アイテム名『神浄のミサンガ』 製作者:神ガーランド、シヴァ 装備箇所:魂
 装備者をあらゆる厄災から守護するために製作された究極の逸品いっぴん。各色の紐はそれぞれ一つずつ役目をになっている。『赤』が勇気、『だいだい』が希望、『黄』が交通安全、『緑』が健康、『青』が心願成就じょうじゅ、『あい』が厄除け、『紫』が忍耐となっている。装備者がどこにいようとも、内面を守護する効果を持つ。二個で一組となっており、魂に装備されるため、身につけた者同士の繋がりが強化される。シャーロットがこれを装備した場合は、残り一個は必ずその場にいる仲間の誰かに装備させること。


「これって、ミサンガ本来の効果だけでなく、日本の御守りの効果も取り入れてませんか?」

 交通安全、心願成就じょうじゅ、厄除けって、日本の神社に置かれている御守りみたい。ただ、このアイテムの制作者はガーランド様とシヴァさんだ。単なる御守りであるはずがない。

「さすがね、それが『構造解析』スキルの力なのね。このアイテムには強力な加護が込められているわ。本当は仲間全員分を作りたかったのだけど、紐の一本一本にガーランド様の神力が込められているから、これを一つに束ねるだけで私の魔力の全てを持っていかれるの。結局、二個しか作れなかったわ」

 七本の紐を一つに束ねるだけで、シヴァさんの魔力を全部消費するの!?
 そんなすごいものを私に与えてくれるなんて、いくら神様対決でもいささか過保護のような気もする。まあ、それだけの相手と思えばいいのかな。

「シヴァさん、ありがとうございます。私にとっては、この二個だけでも掛け替えのないプレゼントです。大事に使わせてもらいますね。ところで、装備箇所が装備者の魂になっているのですが?」

 そう、ここが問題なのよ。

「それは簡単よ。相手も神である以上、腕に装備すれば、そのミサンガの効果に必ず気づくわ。そこで、魂そのものにつけるのよ。あなたがパートナーとする仲間を選択すると、二つのミサンガは効果を発動させて、魂に溶け込むわ」

 魂に……溶け込む……それなら、あの神にも気づかれないかもしれない。そうなると、誰をパートナーとして選ぼう? 
 トキワさん、アッシュさん、リリヤさん、カムイ。ここにいる四名のいずれかから選ばないといけない。
 例えば、黒幕の神は誰でも捕まえて人質にできる。そのときに神の逆鱗に触れるキーワードを言いそうなのは、カムイだ。でも……悩むな。
 一人で決めるものじゃないし、仲間に相談してみよう。私がミサンガの効果をみんなに説明すると、驚きがいつもよりも少なめだった。トキワさんだけは、真に理解したのか言葉を失っているものの、アッシュさんとリリヤさん、カムイの三人は『本当にすごいものなの?』という疑心がもろに顔に出ている。

「ねえ、シャーロット。その効果って、なんの意味があるの? 交通安全と心願成就じょうじゅはなんとなくわかるけど、勇気、希望、健康、厄除け、忍耐って、スキルでカバーできるよね?」

 カムイ、シヴァさんがいるのに、ストレートに質問してきたね。

「そうだね。私もこの効果はわかっても、ガーランド様の危惧することまでわからないの。トキワさんは効果を聞いた上で、誰がいいと思いますか?」

 ここは、経験豊富なトキワさんに聞いて、少しでもヒントをもらおう。

「そうだな……神を相手とする以上、ここで選択ミスをするだけで全滅必至になる。ミサンガの持つ個々の効果を踏まえた上で、シャーロットとのきずなが深い者を選ぶべきだろう」

 ミサンガの効果ときずなの深い者……か。勝負の最中、私たち全員が単独行動となった場合、一番危険なのは赤ちゃん魔物のカムイだ。紫の『忍耐』の効果が発揮されれば、先ほどのような心配はしないで済む。
 あと、『繋がりの強化』という効果によって、もしかしたら従魔契約以上の強い繋がりが生じて、それがどこかの局面で役立つ場合だってあるかもしれない。ただ、『心願成就じょうじゅ』がどんな影響を及ぼすのかが怖い。とはいえ、私のために製作されたものだから、簡単には機能しないはずだ。
 ここは、一かばちかカムイに賭けてみよう!!

「決めました!! 私のパートナーは……カムイにします!!」

 私がそう告げた瞬間、二本のミサンガが金色に光り輝き、私とカムイの胸元へゆっくりと移動し、身体の中へなんの抵抗もなく入っていった。これで装備されたはず。でも、全くその感覚がない。

「カムイ、身体に何か変化が起きていない?」

 空中にぷかぷか浮いているカムイも首をかしげる。

「よくわからないな。これがなんの役に立つの?」

 カムイが改めて言う。私も同意見だよ。心願成就じょうじゅといっても、『黒幕の神をこの世から抹消まっしょうしてください』と強く願ったところで、それがかなうわけもない。だとしたら、とっくに事態は解決している。

「シャーロット、カムイ、私が聞いても、教えてくれなかったわ。黒幕と遭遇そうぐうしたとき、心を読まれる危険性もあるでしょう? 必要以上に知ってしまったら、切り札の意味がなくなるわ。ここは、彼を信じましょう」

 シヴァ様の言う通りだね。相手が神である以上、切り札は隠さないといけない。あのガーランド様からもらったユニークスキルの名称にしても、今の時点ではステータスに表記されていないし、悟られないよう私の心自体にも、守護がかけられている。ガーランド様のことだから、何か意味があるんだ。今は、あの方を信じるしかない。

「シャーロットの用事は、これで終わりだよね? 次は、僕の番だ!! シヴァ様、僕はカムイ!! エンシェントドラゴンとして生まれて、今は進化してインビジブルドラゴンの幼生体なんだ。僕は、フランジュ帝国のどこかにいるお父さんとお母さんを捜しているんだ。シヴァ様は居場所を知らないかな?」

 カムイのテンションがいつもよりも高い。

「あなたが、カムイちゃんね。事情は、プリシエルから聞いているわ。あの二人は私の親友でもあるから、すぐにでも会わせてあげたいところだけど、私も正確な居場所まではわからないのよ。ただ、ユアラと黒幕の神が帝都のどこかに滞在し、シャーロットたちと戦う以上、帝都……いえ帝国に潜む異質な存在を必ず察知するはずよ。つまり……」

 シヴァ様の意図に気づいたのか、カムイの表情は明るいものへと変化していく。

「そっか!! 僕たちがユアラや黒幕と戦えば、お父さんもお母さんも異変を察知して、帝都に駆けつけてくれるんだね!!」
「ふふ、そういうことよ。だから、必ず勝ちなさい。『僕はこいつらに勝てるほど強くなったんだ』と言って、二人を驚かせてあげなさい」
「うん!! 絶対勝つ!!」

 シヴァ様は三児の母親だけあって、子供のやる気の出し方が上手いよ。帝都に到着したら、カムイが勝負そっちのけで、両親の捜索に入る可能性があることに気づいたんだ。あの言い方なら、カムイのやる気の全てをユアラとの勝負に持っていける。

「私とガーランド様ができるフォローは、ここまでよ。後はあなたたち次第、ユアラとの勝負頑張がんばってね」
「「「「「はい!!」」」」」

 ガーランド様は私に対して、過保護とも言えるくらいの助力をしてくれた。シヴァ様からもらった『ミサンガ』の意図だけはわからないものの、これで全ての準備が整った。 




 3話 勝負開始


 現在のハーモニック大陸には、ジストニス王国、サーベント王国、バードピア王国、フランジュ帝国の四カ国が存在する。一つだけ帝国となっている理由、それは国のトップが『王』ではなく、『皇帝』と名乗っているからだ。
 フランジュ帝国の帝都リッテンベルグでは十年に一度、『皇帝天武祭』という盛大な祭りがもよおされる。祭りの趣旨は至ってシンプルで、大陸中から強者を呼び寄せ、その中から次期皇帝を選出するというものだ。
『カリスマ性』『武力』『知力』『品格』の四部門に分かれており、参加者全員が挑戦し、総合得点の最も高い者が次期皇帝となる。
 当然、現皇帝も皇帝でい続けたければ参加しなければならない。そのまま皇帝を継続する場合もあるが、それはレアケースと言っていいだろう。
 ゆえに、この国に限り皇帝の代替わりは非常に激しい。だが、毎回品位ある者が選出されるため、各国からの評価も高い。
 選出された者は国のトップとして十年間君臨できるが、皇帝はあくまで内紛が起きないよう抑止力として存在しているだけで、政治に関しては他国と同様、貴族が統括している。
 ただし、この国では、全てにおいて実力主義で、貴族であっても才能と実績がなければ、容赦なく閑職へと追いやられる。逆に、平民でも優秀な人材であれば、一代貴族といった形で政治の世界へ入ることも可能となっている。
 現在、皇帝の住む帝城の議会では、とある議題についての最終討論が行われている。内容は『ユアラ・ツムギへの対処について』。
 今から二週間前、サーベント王国のアーク国王から大型通信機を経由して、一つの情報が伝えられた。
 彼から語られた内容は、ユアラ・ツムギについての危険性である。彼女が間接的に介入したことで、ジストニス王国は崩壊の危機におちいり、サーベント王国ではベアトリスとシンシアとの間で大きな確執が生じ、大事件へと発展した。
 後に、聖女シャーロット・エルバランによって、二国は平和を取り戻したものの、彼女がユアラの次の標的となってしまう。そして、今から二週間後、勝負が執り行われる。その場所がここ帝都だった。
 それを聞いた議会は、大騒ぎとなった。
 勝負の内容が一切不明のため、帝国側も動きようがない。また、下手に捜索しようものなら、ユアラの怒りを買い、ジストニス王国の二の舞となってしまうかもしれない。
 この二週間散々議論し合った結果、議会の結論は『勝負を見守る』の一択となった。また、聖女シャーロットが帝都を訪れた際は最大限に出迎えるよう各所に通達する。何も知らない警備の者が聖女を追い払ってしまったら、勝負どころではないからだ。同時に、聖女側も勝負の内容が決まったら、帝都側の警備に何か伝えてくるはずなので、聖女一行の応対には細心の注意を払うようにも伝えている。
 勝負当日の早朝、議会メンバーたちは最終討論を終わらせると、聖女一行が今日帝都へ到着するため、失礼なく出迎えるよう各所へ再度通達する。そして全員が、聖女シャーロットが勝利することを神に祈った。


         ○○○


 本来、サーベント王国の王都からフランジュ帝国の帝都に来るためには、いくつもの馬車を乗り継いでも、一ヶ月以上かかる。今回は、プリシエルさんが全力で飛んでくれたこともあって、シヴァ様に会う時間を含めても約七時間で帝都にほど近い草原へ到着した。ここまでのお礼を言うと、『ええよ、ええよ。ユアラとの勝負に勝って、やつらを捕縛ほばくしてな』と私たちに励ましの言葉を贈ってくれた。
 彼女は自分も勝負に参加したかったのか、帝都の方をじっと名残なごりしそうに見つめたまま、悠然と聖峰アクアトリウムへ飛び去っていった。そんな彼女を見て、私――シャーロットは『絶対に勝利してみせます!!』と心に誓う。
 その後、私たちは草原で野宿をし、翌朝八時に起床した。朝食をってから万全の状態で歩き出し、昼前には決戦の舞台となる帝都リッテンベルグへ到着した。
 フランジュ帝国はハーモニック大陸の北東部にあり、その国土はかなり広い。そのため地方によっては気候も大きく異なるのだが、帝都は比較的雨の少ない地域だという。確かに、乾燥している。しかも、気温が三十度と高く、出歩く際には飲み物が必須のようだ。
 この国は、全ての階級において実力主義となっているせいか、あらゆる分野で発展の速度がいちじるしい。魔導具技術に関しては、サーベント王国に負けるらしいけど、この国の科学レベルは間違いなく大陸一だろう。
 だって、空から見える帝都の光景だけで、明らかにジストニス王国やサーベント王国の王都よりも発展しているのがわかるのだから。
 この国の文明は二国よりも百年ほど発展しており、おそらく十九世紀後半のヨーロッパ並だと思う。その証拠に、猛スピードで駆け抜けていく蒸気機関車を見た。
 ただ、帝都は他の国の首都と同様、高さのある分厚い外壁で囲まれているのだが、外壁の技術だけで言えば、どの国も同じくらい立派だった。
 こうやって三カ国を比較すると、やはりジストニス王国が一番遅れている。
 ネーベリック事件が、かなり尾を引いているね。

「ここが帝都リッテンベルグの入口ですか。かなり混雑していますね」

 出入口は三箇所あるようで、それぞれの上には、デカデカと『平民用』『貴族用』『聖女用』と看板が掲げられていた。

「え……聖女用!?」

 どうして、聖女用の入口があるの?

「おいおい、聖女用って……もしかして、アーク国王陛下の計らいかもしれないな」

 そう言えば、帝国のお偉いさん方にユアラの情報を伝えておくと言っていたけど、それがこんな形で現れるとはね。

「トキワさん、これって目立ちますよね?」
「これだけ並んでいる中、俺たちだけ待ち時間なしで行けるのだから、目立つのは間違いないな。だが、ユアラのことを考慮すれば、仕方ない処置だ。サーベント王国での一件は、一般国民に伝わっているだろうから、どうせすぐに目立つ」

 活躍すればするほど、周囲からの視線が強くなるね。今に始まったことでもないし、気にせずあの入口を使わせてもらおうかな。私たちが『聖女専用』の方へ行くと、すぐに警備の犬型タイプの獣人のおじさんが駆けつけてくれた。

「聖女様、お待ちしておりました。今日訪問することは皇帝陛下からうかがっておりましたので、こちらの入口をお通りください」

 私たちは警備の獣人さんにお礼を言うと、待ち時間ゼロで帝都の中へ入った。

『ピコン』

 これは、ガーランド様や精霊様からメッセージが入ったときの音だ。でも、このタイミングで鳴るということは、絶対にユアラからだ。ステータスを確認すると、やはり彼女からのメッセージだった。

「みなさん、早速ユアラからメッセージが届きました」

 前へ進もうとするトキワさんたちが、一斉に私を見る。『いよいよ、勝負が始まる!!』というピリピリした緊張感が、私たちを支配していく。メッセージの内容を見てみよう!


『シャーロットへ
 ヤッホ~~ユアラだよ!! この日をどれだけ待ち望んでいたことか。私の都合もバッチリだし、これであなたと思う存分遊べるわ。勝負の内容は超簡単!! 帝都のどこかにいる『私』か『あの方』のどちらかを捕まえることができれば、あなたの勝ち!! 私たちが逃げ切れれば、私の勝ち!! ちなみに、ドレイクもいるから見つけてごらん』


 わざわざ、サーベント王国の王都から遠路はるばるここまで来たのに、勝負の内容が鬼ごっこなの!? それなら、サーベント王国でもできるじゃん!! いや、あのユアラがただの鬼ごっこを強要するわけがない。続きを読んでみよう。


『まあ、これだけ広い帝都だから、そもそも私たちを見つけることも相当困難だよね。そこで、ヒントとなる「ユアラメダル」をあちこちにばら撒いておいたから、それを見つけるといいわ。プププ、これってクックイスクイズの「ヘキサゴンメダルを探せ」を真似まねてるから面白いわよ』


 ヘキサゴンメダル? そういえば、サーベント王国王都の図書館でクックイスクイズについて勉強していたとき、本選のチェックポイントで利用されるクイズゲームの一つに、そんなものがあった気がする。


『勝負の期間は二日後の日の入りまで。私に勝てばあなたに長距離転移魔法と座標を進呈するわ。ちなみに、負けた場合は、地道にランダルキア大陸を経由して、故郷へ帰るといいわ。お得意のユニークスキルを使ってもいいわよ~。このゲームが終わったら、私の知的好奇心も収まっているだろうから、もしかしたらもう二度とあなたの前に姿を見せないかもね。それじゃあ、ゲーム開始よ!!』


 これはまずい。もしユアラとその黒幕が私に対しての興味を失ったら、惑星ガーランドから逃亡するかもしれない。それだけは、絶対に阻止したい。でも、鬼ごっこをするだけで、どうやって私に対する知的好奇心を満足させるのだろう? そもそも、ユアラが私の何に興味を持っているのか、それがわからないんだよね。他の人たちと違うのは、『強さ』と『転生者であること』。これが知られたら、ユアラは私への興味を失うのだろうか? とにかく、勝負の内容がわかった以上、みんなに話そう。


「……というわけで、勝負内容は『鬼ごっこ』です」

 うん、わかっていたけど、全員が微妙な顔をしている。ここまで呼んでおいて、何でそんな子供の遊びに付き合わないといけないんだという思いが、ありありと顔に出ているよ。

「本当に、孤児院の子供たちがよく遊んでいる、あの鬼ごっこを指しているのかな?」
「アッシュさん、その鬼ごっこです。ここでやる意味がわかりませんが、ユアラか黒幕の男を二日後の日の入りまでに捕縛ほばくできたら、私たちの勝利ですね」

 ユアラが何をしたいのかは、二人を捕縛ほばくできればわかるはずだ。

「ちょっといいか? 俺は図書館に行っていないからわからないんだが、ユアラの言った『ヘキサゴンメダルを探せ』というのは何のことだ?」

 そうか、あのときトキワさんはイオルさんと一緒に王城へ行っていたから、『ヘキサゴンメダル』を知らないんだ。


 クックイスクイズ恒例イベント『ヘキサゴンメダルを探せ!!』
 毎回どこかのチェックポイントで実施される恒例イベント。クイズ参加者たちは、街のどこかにあるヘキサゴンメダルを探し出さないといけない。各メダルにはそれぞれ異なる人物の顔が刻まれている。これを入手すると、その人物がしゃべり出し、指令を伝えてくる。それを三回連続で達成すると、そのチェックポイントの通過が決定する。指令の内容は多種多様で、簡単なものもあれば、無理難題な要求もある。


 このイベントのエリアは一つの街全体と非常に広い。しかも、メダルの配置箇所が『樽の中』『箪笥たんすの中』『財布の中』『カツラや服に縫いつけられている』『皇帝の眠る寝室のベッドの上』といった具合に、非常識な場所となっている。おまけに、他人のプライバシーにズカズカ入ったメダルほど、指令の難易度が低くなっていく。雷精霊様も、これを無断で実施するのはまずいと思い、事前に街のトップと話し合い、配置箇所に関しては許可をもらっているという。
 私が詳しく説明すると――

「おい、ちょっと待て!! まさかユアラのやつ、それを無許可であちこちにばら撒いているということか?」

 トキワさん、ユアラなら周りの迷惑なんて考えませんよ。

「え~~本当にやるの? 他人の家にある箪笥たんすの中をあさったら泥棒だよ? ましてや、メダルが服の中にあるんだとしたら、その人の衣服をがさないといけないんだよ? そんなことしたら、私たちが警備の人に捕縛ほばくされて、牢屋行きになるよ?」

 リリヤさん、その通りなんですけど、それをやらないとやつらに勝てません。

「そういった危険な場所にあるメダルの中に、ユアラたちの居場所が隠されているんだと思います」

 ユアラに勝つためには、こちらも手段を選んでいられない。そっちがその気なら、徹底的にやってやろうじゃない!!


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