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最終章【ハーゴンズパレス−試される7日間】

全ての発端はシャーロットにあり

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見た目水晶玉のようなダンジョンコア【コラムズ】の主人、果たして何者なのだろう?
竜人族の姿ではあったけども、多分……魔物だ。

遠くから振動を感じる。

「ふむ、どうやら大勢で到着したようだ」

バーーーンと部屋の入口となる扉が開く。
入ってきたメンバーを見た瞬間、私は息を飲む。

【オーキス、フレヤ、ネルマ】の3人。
【ベアトリスさん、ルクスさん】の2人
【クロイス女王、イミアさん、アトカさん】の3人。
【コウヤ先生、トキワさん、スミレさん】の3人。

私を含めた総勢12名が、勢揃いだ。
というか、【オトギさん】がいない。
てっきり、一緒に転移されているとばかり思っていた。

「シャーロット、大丈夫か!?」
「シャーロット様、大丈夫ですか!?」

オーキスとネルマだけでなく、全員から私の安否が問われる。

「う…うん、大丈夫。皆さん、御心配をおかけしました」

私がはっきりと告げると、全員の顔が明るくなり、クロイス女王が皆よりも1歩前に踏み出てくる。

「シャーロット、無事で何よりです。今回、シエラ様から事情を全て伺っています。私達全員が彼女の目的を聞き、理解を示しております」

皆、もう事情を聞き終えているんだね。
私だけ、疎外感を感じる。

「ミスラテル様から、遺跡の主人本人から事情を聞くよう言われています。また、ダンジョンコア【コラムズ】さんからも、少しだけ聞いています。何故、私だけステータスを封印させて試験を受けさせたのか、すぐにでも真相を聞きたいです!」

起きたばかりだけど、私としてはすぐにでも聞きたい。

「思った以上に元気そうで安心したわ」

声と共に、新たな人物が入口から部屋へと入ってくる。12人全員が颯爽と左右に分かれ、あの女性が私の下へとやって来た。通信で見た時と、服装が変化している。ドレスの形態は似ているけど、色が淡い緋色だ。

やっぱり、塔1階入口で通信したあの女性が遺跡の主人【シエラ様】なんだね。
私は試験に落ちたから、本来ならば謁見できない。

私にとっては不本意な謁見だけど、これで全ての真相を聞ける。

「シャーロット、謝罪させてください。今回の1件は私…初代聖女【シエラ】の判断ミスによるものよ。オーキスの呼びかけがなければ、私はあなたを死なせるところだった」

初代聖女!?
その言葉だけで、私の心は大きく動揺する。
クロイス女王が、【様】とつける理由も《これ》だったのね!

そんな彼女が深々と頭を下げる。
初代聖女と呼ばれる方が、私に何を求めたのか、今…わかる!

「シエラ様、謝罪を受け入れます。どうか頭をお上げください」

「ありがとう。今すぐにでも理由を聞きたいようだけど、身体の方は本当に大丈夫かしら? あなたには、かなり負荷を与えていたから1日おいて話をしてもいいのよ?」

あの時の慈愛に満ちた目をしている。
その目からは、悪意などを感じられない。
私の身体のことを、本当に気かけているようだ。

「はい、大丈夫です。お話を聞かせてください」
「わかったわ。長くなるし、まずはこの遺跡の生い立ちから順に説明していくわね」

遺跡の生い立ちから?
そこから話を始めるとなると、遺跡全体が何らかの役割を持っているのかな?


「ミスラテル様から聞いている通り、ここ【ハーゴンズパレス遺跡】はガーランド様の残した【負の遺産】の1つです」

うん、それは事前に聞いている。

「約3200年前、この遺跡周辺は妖魔族の拠点となっており、彼らによって支配されていました。鬼人族達が決死の覚悟で地域一帯の妖魔族を滅ぼしたのはいいですが、その被害は甚大で大勢の死者が発生したこともあり、その後劣勢に追いやられてしまいます。神界にいるガーランド様は鬼人族に勝ってほしいと思っていたので、ある手段を考えました。それが【勇者】【聖女】【試練の塔】」

鬼人変化を持つ者は鬼人族の中でも極一部、ガーランド様は少しでも優勢に働かせるべく、2つの称号を作り与えたんだ。最後の試練の塔って、ここのことかな?

「当時、【鬼人族の初代勇者】と【竜人族の初代聖女】だけでなく、【鬼神変化】スキルを持たない者達を強くさせるべく、ここ【試練の塔】が使用されていました。当時の管理者は風精霊様よ」

妖魔族がこの地域一帯を支配していた以上、怨念といった負の感情もかなり蓄積されているだろうから、ダンジョン化する条件も整っている。

ガーランド様はそれを利用して、この塔を建てたんだ。

「時が流れ、鬼人族が宿敵【妖魔族】を滅ぼした後、この塔は一時期ダンジョンコアの【コラムズ】だけで管理されていたわ。でも、私には1つ気掛かりなこともあった。人類の未来がどう続くのか、一抹の不安を感じていたのよ。老衰で亡くなった後、私は初めてガーランド様とお会いしたのだけど、その際《塔の管理者になりたい》ことを懇願したわ」

不安に思うのはわかるけど、《塔の管理者》になることを志願するとは……。

「あの方は私の発言に驚いていたけど、最終的に折れてくれたわ。私はこの身を魔物【ゴースト族】へと転生させてもらい、コラムズから管理者権限を譲り受けた。言葉がおかしくなるけど、もう3000年以上生き続けているわ」

ということは…シエラ様は3000歳以上か。
こんな場所で1人と1体、寂しくないのだろうか?

「ふふふ、ただ3000年を無駄に過ごしていないわ。今後も、妖魔族のような【悪】が必ず現れる。その時、称号【鬼人変化】を持たない勇者や聖女も現れるでしょう。だから、私はこの塔の存在意義を持たせるべく、《勇者と聖女、その仲間達》しか入れないよう、ハーゴンズパレス一帯を結界で覆った」

なるほど!
【悪】に対抗するため、勇者と聖女を育てるための【塔】へと変化させたんだ!
元々、試練の塔として建築されたのだから、そのまま使用できるよね!

「私の予想した以上に、様々な出来事があったわ。【鬼人族がガーランド様に喧嘩を売ったことにより発生した隕石衝突】、【霊樹の力を利用した魔素戦争】、【資源を巡る大陸間戦争】。私は《初めの愚かな事象》以外のものを早く収束させるべく、霊樹のネットワークを利用して勇者と聖女を探し出し、彼らの仲間達と共にここへ転移させ、事情を話し了承を得た上で、試練の塔を攻略させたの」

塔1階の石碑に刻まれた内容、あれはシエラ様自らが動き、勇者と聖女を戦争などへ関与させたんだ。

でも、勇者と聖女に関しては、ガーランド様がシエラ様に教えてくれるのでは?
何故、自分で探したのだろうか?
とにかく、今は話の続きを聞こう。

「それじゃあ、今回の件も【私】と【オーキス】を育てるために転移させたと?」
シエラ様は、静かに微笑む。

「ええ、そうよ。歴代聖女の中でも、あなただけが規格外なの。イザベルの件で転移されたことは不幸な事件だけど、その後が良くないわ。昏睡状態が1週間程続き、気づけば世界最強よ」

言いたいこともわかるけど、こっちも極限状態だったの‼︎
12000メートルからの落下、暗闇の中での葛藤、動けない状態が何日続いたと思っているの‼︎

「あなたの言いたいこともわかるわ。全ての元凶は、ガーランド様に与えられたユニークスキル【環境適応】、これが全ての根元なのよね。でも、もし過去の歴代勇者と聖女達が生きていれば、《不幸な事件だけど、これはやり過ぎ‼︎》と神ガーランドに訴えるでしょうね。彼らは血の滲むような努力を重ね、何度も何度も死地を乗り越えて999以上の強さと心を手に入れたのだから」

それは、私だってわかる。
彼らの乗り越えてきたものに比べると、私の経験はまだ微々たるものだろう。

「だから、私はあなたの【心】を試した。オーキスやあなたには緊張感を持たせるため、塔の上階に行けばいく程、魔物も強くなると言っていたけど、今回用意した魔物は全員EとFランクばかりなの。あなた達はまだ10歳、凶悪な魔物を出すわけがないでしょ? その代わり、罠を様々な箇所に仕掛け、あなた達がどう突破するのかを見たかったの。勿論、殺すつもりなどなかったわ」

一応、年齢のことも考慮してくれていたのか。
でも、弱体化させ過ぎだよ‼︎

「ここまでの内容に関しては、ここにいる転移者11名にも話しているわ。私の役目は【勇者と聖女、その仲間達を育てること】、これが第1の目的よ」

「第1…ということは他にもあるのですか?」

シエラ様は静かに頷くのだけど、何故だろう?
第1の目的は表向き、第2の目的こそが本命という気がしてならない。

「あなたの考えている通り、第2の目的こそが本命よ」

シエラ様、ガーランド様やミスラテル様と同じく、心も読めるのね。
《そちらの事情》やコラムズさんの言っていた《計画変更》の件に関しては、最後に聞こう。

「第2の目的、それは……オーキス、あなたに関係しているわ」
え、私じゃなくてオーキス!?

「僕ですか!? 勇者として、何かまずいことをしたのでしょうか?」

当のオーキスも突然振られたこともあり、驚きを隠せないようだ。

「このまま時が進み、8年が経過すると、あなたには【不名誉な称号】が付くのよ」
「僕に不名誉な称号?」

シエラ様が、私の方をチラッと見る。
え、その不名誉な称号に私も関係しているの?

「ええ、そうよ。称号名は……【やらせ勇者(笑)】」
「「は!?」」

ここにいる全員が、同じ言葉を発する。
【やらせ勇者(笑)】って何?
なんで、そんなお馬鹿な称号がオーキスに付くわけ?

「シエラ様…その称号…本当に僕に付くのですか?」
オーキスも信じられないようで、シエラ様に尋ねる。

「これは真実よ。ここ展望エリアのすぐ下の階に、歴代の勇者と聖女の名前と彼らの残した戦績が刻まれているフロアがあるわ。オーキスは塔5階で5日目を迎えたことでその内容を見ていないけど、あなたとシャーロットの名前もしっかりと刻まれているわ。わかる? このままだと、あなたの称号に【やらせ勇者(笑)】が刻み込まれるのよ。事情を知らない今後の勇者と聖女がそれを見たら、こう思うでしょうね。《こいつのような存在にだけはなりたくない》…と」

「うわあああ~~~そんな称号は嫌だーーーーー!!!」

オーキスは、心の奥底から否定の言葉を叫ぶ。
いや、私だって同じ立場なら叫ぶだろう。

「本来、あなた達が成人になってから、【試練】を受けてもらう予定だった。でも、シャーロットがアストレカ大陸に帰還した2年前、状況が変わったのよ。全ての発端は、シャーロットの発言にあるわ」

え、私!?
ミスラテル様も言っていたよね?
2年前、おかしな発言をしたかな?
う!?
全員が、懐疑的な目で私を見ている。

「あなたは、瘴気王を討伐させるための最善策をエルディア王国国王の前で言ったわね」

え、あれのこと?

「ええ、言いましたけど? アレは誰も犠牲にならない最善策だと思いますが、あくまで冗談半分で言っただけですよ? 国王陛下だって、アレを実行するのはやめてほしいと懇願していましたから」

アレは、あくまで最終手段だ。
それまでに、オーキスが強くなればいいのだから。

「シャーロット、僕は瘴気王について聞いているけど、最善策に関しては聞いていないよ? どんな方法なの?」

あ……オーキスが傷つくと思い、これまで1度も彼に話していなかった。あの最善策の内容を知っているのは、【フレヤ】と【コウヤ先生】の2人だけ。チラッと2人を見ると……

フレヤ
『アレね! アレを実行したら、そりゃあ不名誉な称号を帰還したばかりのガーランド様に付けられるわ』

コウヤ
『アレか! 国王陛下も実行するつもりはないと言っていたが? まさか、実行することになるのか?』

2人の顔色だけで、何を考えているのか想像つくよ。

「オーキス…あのね、あくまで冗談で言ったことだからね。真に受けないでね」

言いづらいな~。

「私が…瘴気王を一撃粉砕するの。そして、私が瘴気王に変身してからオーキスと戦い、討伐されるわけ。ほら、これなら誰1人犠牲にならないでしょ?」

私の話に、誰もが呆然とする中、ベアトリスさんだけが口を開ける。

「シャーロット…あなた、その案を実行したら1人だけ犠牲者が出るわよ」
「え、1人ですか?」
誰も死なないはずだけど?

「オーキス自身が、精神的に死ぬわよ」
「あ…」

あ~そこは言ってほしくなかった~。
私だって理解しているけど、犠牲者が出るよりもマシでしょ?

「シャーロット、僕は今以上に努力して、瘴気王以上に強くなってみせる! だから、その案だけは実行しないでほしい! 頼む、実行しないでくれ!」

オーキスの必死の訴えであっても、彼自身が一定以上の強さを超えない限り、必ず犠牲者が発生する。彼だって自分の不甲斐なさのせいで、人が死んでしまえば挫折を味わうだろう。だからこその最善策なのだけど。

「わかってる。私は、オーキスを信じているから」

一応、私は彼のことを信じている。
でも、私の想定した以上の強さにならなかった場合、アレをやるしかない。

「シャーロット…あなたね…まあ、いいわ。私はオーキスに強くなってもらい、シャーロットにも自分の弱点に気づいてもらうべく、今回転移させたわけ。残りの10名に関しては、精神的な問題を残しているから転移させたというのが正しいわね」

シエル様…全ての発端は、私にあるのね。
よ~くわかりました。


同時に、あなたに対して怒りも沸いてきましたよ‼︎
ミスラテル様、宜しくお願いしますね‼︎
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