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最終章【ハーゴンズパレス−試される7日間】

解決編-2 未来からのメッセージ

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止まっていた映像が再開される。
犯人でもある《未来の私》が、何と答えるのか興味深い。

「オーキス、今の言葉は本当なの?」
動揺のない言葉とは裏腹に、未来の私は身体を緊張させており、顔色も悪い。

「え、本当って…何を言っているんだ?」
未来の私の言葉に、オーキスも戸惑う。

「私は、オーキスと会っていない。フレヤが殺される前日、リーラが私のもとへ訪れていたの。そしてお昼頃、教会の使者の方が訪れ緊急の呼び出しを受けたため、使者の方と共に転移魔法で教会本部へ向かったわ」

突然の宣告だね。そうなると未来の私は、オーキスの告白を聞いていないということになる。ということは、彼と話し合った女性は《リーラ》か。

私とネルマ、葬儀列席者達が一斉にリーラを見る。彼女はリリヤさんに抱きしめられたまま、ガタガタと大きく震えている。

「ご…ごめん。それ…私…なのよ。あの時…オーキスを驚かそうと思っていたんだけど、まさかあんな話になるとは思わなくて…声色を変えてシャーロットのように…ね。翌日に話そうと思ったら…フレヤが殺されたわ。私…取り返しのつかないミスを犯したと思って…今まで話せなかったの」

リーラ!
そういった重大案件は、真っ先に言わないとダメだよ!
彼女の挙動不審さには、そんな理由が隠されていたのか。

「なんだ…て」

オーキスの深く動揺する言葉とほぼ同時に、未来の私が地面へと崩れ落ちる。
何故か、サスペンスドラマのクライマックスで流れる音楽も聞こえてきた。

この流れ………まさか犯人の自白シーンなのでは?

ネルマもルクスさんも魅入っているせいか、じっと映像を凝視しているけど、私からすれば何だか…ね。

何か、おかしい。
未来で起こる出来事なのに、現実感が全然湧いてこない。
何か、違和感を感じる。

「フレヤ、ごめん。オーキスが私を選んでいたなんて…」
突然、私が泣き始める。

「シャーロット、どういうこと? まさか…」
突然のことで、オーキスもかなり慌てている。

「オーキス、簡単なことだ。俺の予想通り、シャーロットがフレヤを殺した犯人なんだよ。そうだな、シャーロット?」

オトギさんは、犯人が《私》であることに気づいていたの?

「…はい。私がフレヤを殺しました」

あっさり自白したよ!?

「ここ数年、私が聖女であるにも関わらず、フレヤだけが皆に慕われていく。それが許せなかった。婚約者でもあるオーキスもフレヤに惹かれていき、だんだん私の中の憎しみが抑えられなくなったんです。オトギさん………申し訳ありません」

一切反論することなく、次々と語り出している。
ちょっと、そんな動機でフレヤを殺すな!

「構造解析を使えばその理由もわかったはずだが、それでも心を抑えられなかったということか。事前に、オーキスとリーラから事情を聞いた時点で、犯人はシャーロットだと気づいていた。俺だけじゃなく、ここにいるほぼ全員が理解している」

皆の顔を見ると、全員が悲壮感漂う顔で私を見ている。
お父様、お母様、お兄様、アッシュさん、リリヤさん、オーキス、リーラも気づいていたんだ。

「皆、シャーロットの成し遂げてきた偉大な功績を知っている。そして、その強さも十分に理解している。だから、自らが自白するよう、この墓場の前で一芝居打ったわけだ。シャーロットは俺の恩人だが、愛するフレヤを殺した憎い犯人でもある」

未来の私は、どうなるのだろう?

友との話し合いで解決することも可能だったのに、誰にも相談せず1人で抱え込んでしまったのがいけなかったんだ。

ねえ、何故お父様やお母様に、悩みを打ち明けなかったの?
ここでオトギさんに殺されるのだろうか?

「ステータスの関係上、俺はお前を殺せない。だが、これまで築いてきた全てのものが、たった1度の過ちで失われたはずだ。お前は、《救世主》という存在から《殺人者》へと成り下がってしまったんだよ。今後、《堕ちた聖女》の話題が世界中に広まっていくだろう。それが、愛するフレヤを殺したお前への罰だ。一生、牢屋の中で反省していろ」

ここで、エンディングテーマのような音楽が流れてきた!
手錠が私の両腕に嵌められ、私はオーキスや騎士達によって連行されていく。
皆が何も言わず、離れていく私を見る。

お父様とお兄様は両拳を深く握りしめ、何も出来なかった無力感を噛み締めている。お母様は大粒の涙を溢し、小声で私の名を深く深く呟きながら、遠ざかる私を見ている。


連行された私は王城内にある牢獄へと到着し、オーキスの手で薄暗い牢屋の中へと入れられる。


私の姿がアップとなり、徐々に遠ざかっていき、牢屋がゆっくりと閉じられていく。

「オーキス、ごめんね」
「こんな終わり方ってあるかよ! 僕が全ての元凶なのに!」

オーキス達が私のいる牢屋から離れていき、未来の私は1人っきりとなる。
そして、画面が真っ暗となったところで、中央に大きく白い文字で【完】と表示された。

なんなのこの終わり方!?
私の行く末が、悲惨過ぎる!

聖女として慕われていないのは、これまでの自分の行動のせいだと思う。オーキスの件に関しても、フレヤと話し合えばすぐに解決出来る。

どうして、誰にも相談しなかったの!

これが、私の未来なの?
本当に?

「シャーロット様、ネルマ様、お疲れ様です。映像はここで終了となります」

やめてよ!
あの後、私はどうなるの?







「カッーーーーーーーート!」








「「「は?」」」

今の声、フレヤっぽくなかった?
おかしな声の登場により、私達3人は真っ暗な映像を凝視する。

「みんな、お疲れ様~~~~。最高に良かったわ~~~」

あ、画面が明るくなった!
ここは、フレヤの遺骨が埋葬された石碑周辺だ。

え?
え?
え?
どういうこと?

「リーラ、名演技だったわ」
「リリヤさんも、そう思うでしょ!? シャーロットと一緒に練習したもの」

「リリヤもリーラも緊張せず、よく喋れたよな。僕なんか、内心ドキドキものだったよ」

アッシュさん、リリヤさん、リーラ、他の人達も、何故か笑顔で話し合っている。
さっきまでの暗い雰囲気が、完全に一掃されている。

あ、牢屋へと連行された私が、オーキスと共に石碑近くから突然現れた。

「ルクスさん、これってどういうことですか?」

あれ? 
返答が返ってこない。
彼女を見ると………口をアングリと開けたままフリーズしている。
彼女にとっても想定外なのね。

「ねえフレヤ、今更の質問だけど、映像の録画時間がたった30分とはいえ、この脚本はどうかと思うんだけど?」
 
未来の私から発せられた言葉は、意外なものだった。
フレヤ!?
脚本!?
それじゃあ、まさか…

あ、フレヤが映像の中に入ってきた!
イザベルの姿ではないけど、面影が今の姿にあるよ。

「ごめん、時間の関係上仕方ないのよ。【シャーロットが犯人となる殺人事件を発生させ、彼女の全てを打ち崩す程のドラマを30分で作って】と《あの方》に言われてから、考えに考え抜いたわ。私が監督で登場出来ない以上、自分が殺されたドラマを作ってみたかったの」

「「「えーーーーー!!!」」」

今までの話、全部ドラマなの!?

「聖女代理が殺される以上、30分なんかで収められないわ。だから、クライマックスシーンだけを無理に捻じ込んだのよ。たったあれだけでも、シャーロットにとっては十分悲惨だったでしょ?」


そうか、そういうことか!
全てがサスペンスドラマや昼ドラのような展開だったからおかしいとは思っていたけど、まさか本当にドラマだったとは。


「私だけが、悲惨だったわ。あと、オトギさんのセリフもおかしいわよ? 彼、かなりやり辛そうに演技してたの知っていたでしょ。自分の婚約者が【監督】【脚本】【編集】を担当して、あんな恥ずかしいセリフを何度も言わせるんだもの」

フレヤは、監督だけでなく脚本や編集も担当していたのね。

「シャーロットの言う通りだ。まあ……セリフの一部は事実なんだが、俺の婚約者であっても、あんな言葉を再々言いたくない」

そういえば、オトギさんだけは、《愛》という言葉を結構使用していたもんね。

「あはは、ごめんね。私が殺されたら、こんな感じで怒ってくれたらな~と思って、つい」

フレヤが《テヘ》という感じの笑顔を向けて、オトギさんと話し合う。
オトギさんの婚約者は、本当にフレヤなんだね。
それじゃあ、私の本当の婚約者は?

「オトギさんは、まだ良いですよ。僕なんか子供の頃からシャーロット一筋なのに、《成人してからフレヤを好きになる不純な男》という設定なんですよ。たとえ演技であっても、婚約者でもある彼女を裏切る行為だけはしたくない」

オーキスの婚約者は、【私】なんだね。
いつ、婚約するのだろう?

「ふふ、オーキス、ありがとう。全く、《あの人》が無茶な発案をするから、ドラマとしても《クライマックス》だけしか撮影出来なかったわね。みんな、残り時間もありませんので、過去の私とネルマにメッセージを送りましょう」

《あの人》って、まさかハーゴンズパレスの主人のこと?
そうか!
20歳なのだから、当然ここで起きる出来事も知っているよね!
あ、列席者全員がカメラ目線となった。

「過去の私~見てるかな~。もうわかっていると思うけど、さっきまでの内容はただのドラマであって、現実に起きていないわ。あなたは、試験真っ最中のはずよね。初日からかなり辛い状況のはずだから、今回の《コレ》はちょっとした骨休みだと思えばいいよ」

骨休み…ね。

「ドラマの犯人が《私》、ドラマを組み立てたのが《フレヤ》、あなた達は何処まで辿り着けたかな? ルクスさんの言葉に囚われず、全てを推理した場合、今のあなたは私を超えたことになる」

辿り着けるわけないでしょうが!?
犯人のことばかり考えていたよ。

「一応、ヒントは与えていたのよ? ドラマ仕立ての演出、オープニングタイトル、音楽、リーラの演技が上手すぎて、オーキスが狼狽えフレヤに睨まれたせいで、視線を外したシーンとかかな?」

違和感をず~っと感じていたけど、そこまで見透せないよ。


「それと、あなたが《エンディング後のおまけ映像》を見ているということは、あの方が流すことを許可したということになるわ。あの方は、あなたの資質を問いかけているのよ。そこに、生死は問われない。理由は言えないわ。だから、あなたがこの未来に辿り着けるのかも不明ね」

そこは、教えて欲しかった!
遺跡の主人も見ているのなら、試験の手助けになることは言えないか。

それよりも、遺跡の主人のヒントだけでも教えてほしい。

「あなたの言いたいこともわかるけど、遺跡の主人の正体は自分で解き明かしてね。この試験を乗り越えた時、あなたは聖女として人間としても成長出来る。そうそう、ルクスさんが言い忘れているだろうから、これだけは伝えておくわ。試験に失敗したら、生きていてもステータスをリセットされるから本気で頑張ってね」

リセット!
初耳なんですけど!
そういえば、不合格した場合のことを聞いていなかった!
遺跡の主人って何者なの!?

これから起こる出来事が、私にとって良い経験になるってことかな?

今見ている映像の未来だと試験に合格しているけど、私もこうなるとは限らない。
まさか、未来の自分に励まされるとはね。

「残り時間も少ないから、今のうちに助言だけするわね。まずルクスさん」

「え、私ですか!?」

試験官でもあるルクスさんに、何を助言するのだろうか?

「あなたは、ベアトリスさんのことをもっと信用しなさい。当初、呪いの件もあってあなたに頼っていたけど、現在の彼女は身も心も強くなっており、離れ離れの状態でもオーキスの試験官として塔内で頑張っていますよ。また、《あの方》は一時的にあなたの主人となっただけなので、試験が終わり次第、元の状態に戻ります。あなたは、『私の主人はベアトリス様のみ!』という思いが強過ぎるんです」

「あ…」

ベアトリスさんは、オーキスの試験官を担当しているの!
オーキスも私と同じで、何らかの試験を受けているんだ。

「あなたのその情緒不安定さのせいで、《とある誰か》が死にかけたことをお忘れなく」

「あ………申し訳ありません」

それって私のこと?
あ、大人になったネルマが、唐突に未来の私の横に現れた。

「ヤッホー! 過去の私、元気にしているかな~。私の演技どうだった~? 中々のものだったでしょ? これからシャーロット様のことで大変だと思うけど頑張って!」

え、どういう意味?
私が、これからネルマに迷惑をかけるの?

「こらこら、邪魔しないの」
「は~い」

全員がネルマの行動を見て笑っている。
あ、アーバンだけは、右手で顔を押さえているね。

「そろそろ時間切れかな? 次の試験では、あなたもネルマも死ぬ危険性が非常に高いわ。だから………単独行動だけはするな! もし1人になったとしても、絶対に焦らないこと! 仲間を必ず信じ抜くこと! それじゃあ、みんな行くよ!」

「「「「「シャーロット~ネルマ~試験頑張ってね~~~」」」」」

全員が笑顔で手を振った後、映像が止まる。

未来の自分だけでなく、壮々たるメンバー達からエールを贈られたよ。

ネルマを見ると、未来の自分から励まされたからなのか、完全にフリーズしている。
思わぬ展開だったけど、未来メンバー達のおかげで私の精神もかなり楽になった。


先行きにやや不安を感じるけど、前に進んで行こう。
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