上 下
265 / 277
最終章【ハーゴンズパレス−試される7日間】

事情聴取 謎解き編-2

しおりを挟む
フレヤが何者かに殺された。
彼女の遺灰を埋葬後、オトギさんがアッシュさんとリリヤさんを問い詰めているものの、当然2人は反論する。

「オトギさん、俺やリリヤだけでなくシャーロット達も騎士達に尋問され、全てを正直に答えています。あなたの気持ちもわかりますが…」

「アッシュ、はっきり言うぞ。彼女が殺されてから今日で3日目、騎士団や教会関係者だけでなく、コウヤやシャーロットの力を借りても、何の手掛かりも得ていない。どう考えてもおかしいだろ!」

オトギさんが皆に向けて激昂する。
私の力を借りても、犯人の手掛かりがないのはおかしくない?
私には、【簡易神人化】や【簡易神具】スキルがある。

それらを使えば、犯人を容易に見つけ出せるはず。
もしかして、《瘴気王》などの事件の影響で、それらが使用不可になったのかな?

10年後となると、ガーランド様も帰還しているはず、この2つのスキルに関しては世界バランスを壊す危険性もあるから封印したとも考えられる。


「それは……」
アッシュさんも違和感を感じているのか、押し黙ってしまう。

「犯人が知人の中に潜んでいる以上、情報がどこで捻じ曲がるかわからん。だから、俺自らが動く!」

オトギさんの目、あれは本気だ。
犯人は、この中に紛れ込んでいると本気で思っている。

「アッシュ、お前達は恋愛相談を受けていたと言ったな? 内容をこの場で教えろ」

さすがに、大勢の人達の前で恋愛事を暴露するのはダメでしょ?

「アッシュさん、僕は構いませんよ」

オーキス……見た目だけでなく精神的な意味合いでも、今とは比べられない程に大きく成長している。声変わりをしているせいもあるけど、風貌や声の感じから百戦錬磨の強さを窺える。

「わかった。オーキスは自分の婚約者と…フレヤのことで悩んでいました」

アッシュさんはオーキスの真剣さを感じ取ったのか、彼の悩みを語り出す。

「婚約者とフレヤ?」
瘴気王を倒した勇者なんだから、婚約者がいて当然か。
ていうか、婚約者ってリーラかな?

「お前とシャーロットの仲は、誰が見ても良好だろ?」

え、私なの!?
勇者と聖女の婚約…《政略》、《恋愛》どちらなのかな?

オーキスを見ると、全てを話す覚悟ができたのか、オトギさんをじっと見つめている。

「確かに、僕とシャーロットは互いの事を知り尽くしている間柄で、関係も良好です。でも、僕自身は彼女のことで《大きな悩み》を抱えていました」

私との関係で悩み…か。
私とオーキスの関係は、外見だけのハリボテだったのだろうか?

「悩みね。察しはつくが、お前の口から聞きたい」
「僕は【勇者】、シャーロットは【聖女】……勇者は皆を全人類を守る存在です……しかし、実際は逆だ。僕は未だに彼女に護られている」

え、それって子供の頃から把握していることでしょ?
大人になって、なんで悩む必要があるの?

「僕はシャーロットに少しでも近づけるよう、子供の頃から強くなるようガムシャラに努力してきた。しかし…強くなればなるほど、シャーロットとの差が…嫌でもわかるようになるんですよ! 男として愛する女性を守りたいと思う気持ちは、オトギさんもわかるはずだ」

「その気持ちは痛い程わかる。俺は愛する女性を守れなかったがな」

オーキスの語気が、どんどん強くなる。彼が苦渋に満ちた表情を浮かべながら、自分の悩みを吐き出していく。私の強さのことで、そこまで深く悩んでいたとは。成長するにつれて、私との隔たりが果てしなく大きいことを強く実感し、男としてのプライドに悩まされていたのか。

「僕はこの苦しみを誰かに聞いてほしかった。成人する前、リーラに打ち明けたけど、彼女の返答は《男で守られる側なのが、そんなに嫌なの? 別に、シャーロットより弱くてもいいじゃない。もっと前向きに考えなよ。》といった軽いもので、僕の心を満たすものじゃなかった」

あ、その言葉を聞いた瞬間、リーラが俯き…え…泣いているの?

「フレヤだけが…フレヤだけが僕の心を満たす言葉を言ってくれたんです。その日以降、僕の心はシャーロットだけでなく、フレヤにも惹かれ始めた。気づけば、彼女のことも好きになっていたんです」

真っ先に相談するくらいだから、成人前のオーキスにとって、リーラの存在はそれだけ大きかったはずだ。でも、彼女は彼の抱える闇を軽く受け取ってしまい、前向きな言葉しか言わなかった。その件もあって、リーラとの関係は《幼馴染》以上に進展しなかったの?

「軽くなんて…言ってないよ。…私なりに真剣に考え答えたのに…そんな言い方…」

リーラは下に俯き涙を零しながら、ぶつぶつ小声で言葉を発している。
多分、彼女もオーキスの言葉を真剣に聞き入れ、彼女なりの答えを言ったんだ。

リリヤさんが、悲しみに暮れる彼女を抱きしめ慰めている。

オーキス自身も自分の言葉の言い方が悪いと思ったのか、リーラに何か言いたそうにしていたけど、何故か誰もいない方向を見てから《ハッ!》となり、オトギさんの方へ再度向き直す。

「彼女はオトギさんにゾッコンだから振り向くことはないと知っていても、この揺れ動く心に関してはどうしようもなかった。そして、こんな情けない自分をシャーロットに見せたくなかった。だから心を落ち着かせるため、ここ最近は1人で王都を散策したり、ダンジョンに引き籠もり瞑想で心を落ち着かせようと……」

オーキスは情けなくなったのか、急に口籠る。
彼は、私とフレヤで大きく揺れ動いていた。
【未来の私】は、この悩みを元々知っていたのかな?

構造解析スキルを使えば、オーキスの気持ちを簡単に察することもできると思うけど、彼の様子がおかしいと気づいていても…多分使わないだろう。
                                                  
自分を見ると、顔を地面に向けており、この視点からは表情を窺えないけど、身体が少し震えている。この様子だと、オーキスの悩みに気づいている?

「なるほど。……で、フレヤが死んだ以上、お前はシャーロット一筋になるわけだな」

オトギさんは、オーキスを疑っている?
《こんなに悩むくらいなら、一層の事フレヤを殺せば僕も楽になれる》…とでも?

「僕は犯人じゃありません!」
「口だけなら、何とでも言えるな。俺にとって、アリバイなどどうでもいい。魔法やスキルでいくらでも誤魔化せる。オーキス、《フレヤを殺していない》という明確な証拠を示せるのか?」

《自分は犯人じゃない》という証拠なんて、どうやって証明するのよ。

「僕は、2人の女性を愛してしまった。でも!悩みに悩んで、シャーロット1人を生涯愛し抜くと心に決めたんです!フレヤが殺される前日のお昼頃、僕はこの思いを伝えるため、エルバラン家別邸に行きました」

私を生涯愛し抜く…か。
未来の私は、どんな返答をしたのだろうか?

「ただ、僕の様子がおかしいことに、シャーロットも1週間程前から気づいていたんです。ここ最近は会っても口を殆ど聞いてくれませんでした。だから、僕は彼女の部屋入口まで行き、ドア越しからですが自分の思いを全て伝えました」

あれ?
この時点で、私とリーラの様子がおかしい。
2人とも青ざめているし、明らかに動揺している。

「それで、どうなった?」
リーラはリリヤさんに抱きしめられている分、私よりもわかりやすい。
多分、みんなも気づいている。

「『あなたの気持ちはわかったわ。考える時間をちょうだい』と言われ、僕はエルバラン家を離れました」

彼自身も悩んでいたとはいえ、その思いを全部私に告げるとは……未来の私は、どんな気持ちだったのだろう?

今の時点では、オーキスに対して恋愛感情を持っていない。
だからなのか、未来の私の気持ちがわからない。

そもそも、二股をかけていたわけではないのだから、正直に私に言うこともない。だけど、【構造解析】スキルを持っている以上、自分の気持ちは筒抜けだろうと思い、正直に告白したというところか。


そして、私を選んでくれたのだから、《嬉しい》………はず………だよね?


「シャーロット、オーキスの言ったことは事実か?」
私は、どう返答する?

「「あ!!」」
突然、映像が止まった!

「ルクスさん、どうして止めるんですか?」
「そうですよ。もう少しで、犯人がわかるところなのに!」

突然のこともあって、私もネルマも猛抗議する。
映像を見た限り、ここはドラマのクライマックス場面だ。

多分、犯人自身が自首してくるパターンだと思う。
もう少しで犯人もわかるのに、ここで中断されては困る。

「お気持ちもわかりますが、これは試験なんですよ? 『その犯人』をあなた方に突き止めてほしいのですが?」

「「…………」」

そうでした。
ドラマのような展開だったから、ついつい魅入ってしまった。

「止めた理由はもう一つあるのですが、ここでは控えさせてもらいます。さあ、これまでの映像から、犯人を推理してください。ヒントは…ありません」
「「は!?」」

30分程の映像だけで、犯人を当てろと!?
ここまでの映像から、犯人を突き止めることが可能ということなの?

犯人を突き止めるための情報量が、少なすぎる!
一応推理こそ出来るけど、的外れとなる危険性も大いにありうる。

これが試験なのだから、ここまでの情報を整理して推理するしかない。

フレヤを殺した犯人は誰か?

最後の会話内容だけで判断すると、容疑者は『私』『リーラ』『オーキス』に限定されてしまう。
途中、オーキスの視線が誰もいないところを指していたのも気にかかる。

疑問符が、いくつも思い浮かぶ。
ネルマと相談して、犯人を探し出していくしかない。
しおりを挟む
感想 1,911

あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~

紅月シン
ファンタジー
 聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。  いや嘘だ。  本当は不満でいっぱいだった。  食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。  だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。  しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。  そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。  二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。  だが彼女は知らなかった。  三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。  知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。 ※完結しました。 ※小説家になろう様にも投稿しています

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。