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最終章【ハーゴンズパレス−試される7日間】
初めての《海女修行》
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○○○ フレヤ視点
私は、厨房に隣接されている更衣室の中にいる。
私専用のドライスーツに着替え、ビーチサンダルに履き替えたのはいいのだけど、柄がどちらも黒と白の縞模様なのは何故だろう?
「イミアさん、誰がこのデザインを考えたんですか?」
「この遺跡の主人よ。あの方は、その紋様のことを【ゼブラ】と言っていたわね。似合っているじゃない、可愛いわよ」
「ええ、本当に可愛いですよ。フレヤ」
イミアさんとクロイス様の笑顔から悪意を感じ取れない……嫌味じゃないんだわ。
純粋に私を褒めてくれているのだけど、全然嬉しくない。
このデザインは確かに【ゼブラ】で合っているのだけど、これ…絶対狙ってやっているわよね?
今の自分を鏡で見たけど、昔のコントで使用されている囚人服のドライスーツ版だわ。
これから7日間、これを着て海産物を採るの?
《半分自給自足囚人生活》の始まり……憂鬱しかないわ。
一応別の柄がないか聞いてみようかな?
「イミアさん、ドライスーツの予備は無いんですか?」
「一応2着あるけど、全部白と黒のゼブラ柄よ」
普通、デザインの異なるものを用意するでのでは!?
ゼブラはゼブラでも、せめて色違いのものを用意してください!
「フレヤ、試験を実施するにあたって、いくつ注意点を言っておく」
私の思いを知ることなく、アトカさんが注意点を話してくれたのだけど、それは私にとって重大な内容だった。
1) 海に潜っている間だけ、私のステータス封印は一部解除される。
(HP・MP・攻撃・防御などの基本数値、4つの基本スキル【魔力感知】【魔力循環】【魔力操作】【身体強化】、回復魔法【ヒール】【イムノブースト】の解放)
2) 浅い区域で採れる海産物の殆どが不味い。
深ければ深い程、美味い海産物の採れる確率が上昇していく。
(アトカさんの採ってきた浅い区域の魚や貝類で調理した炒め物を試しに頂いたけど、身から奇妙な臭さを感じ、味もイマイチだった。調理者のイミアさんによると、鮮度の低下が激しいらしく、身自体から漂う臭みをここまで薄めるのにかなり苦労したらしい。本番では、クロイス様が1人で助言を受けることなく調理するらしいから、私の採ってくる海産物次第で、夕食の評価が大きく変化する)
3) 海の魔物に注意。
(魔物の詳細に関しては、【自分で潜って知れ】とのこと)
この生活が、7日間続くのね。
私は海産物を採り続け、クロイス様は料理を作り続ける。
この試験を行う意義は、何だろうか?
私にしてもクロイス様にしても、心に不誠実な部分があるということ。
《私は、レア称号【海女】をズルで入手した》
クロイス様の場合、シャーロットの話から推察すると、多分…
《クロイス様は貧民区での生活において、洗濯・料理・掃除を殆どしていない。理由としては、この人が実行すると、周囲の人達の負担が増大するから》
今回の試験では、その不誠実な箇所を追及してきた。
遺跡の主人と謁見するために、こんな試験を受ける必要性は何処にあるのだろう?
考えられる理由としては、その方の存在自体が相当高位に位置しているから………と思うのだけど?
だとするのなら、遺跡の主人って何者なの?
もしかして、ズフィールド国の女王様?
いや、それはないかな。
とにかく、まずは試験の合格を目指しましょう。
私の場合、ステータスの一部解放に関しては嬉しいのだけど、攻撃魔法を使用出来ないのは厳しい。攻撃魔法があれば、Aランクの力量を発揮できるのに。
何か起きても、頼りになるのは自分の物理的な力のみ…か。
怖いけど、自分1人で立ち向かうしかないわ。
その後、私はアトカさんから、《両目を覆う特殊ゴーグル》、《海産物を入れる少し大きめの袋》と《スピアフィッシング用のクラスタースピア》という3つの持ち物を貰った。
【日本の海女さんって、クラスタースピアなんか持っていたっけ?】という些細な疑問を感じたけど、全ての準備が整ったこともあり、私とアトカさんは先程の砂浜へ戻ることにした。
いよいよ、試験が始まる。
○○○
ここは先ほどの砂浜、ここからスタートなるのね。
目を閉じ耳を澄ませると、心地よい波のせせらぎが聞こえてくる。
気持ちいい。
この音、この風、これだけでリラックスできるわ。
それにドライスーツのおかげか、身体も暖かい。
浅い区域にある海産物の殆どが、ゲロマズイ。
かといって、いきなり深い区域に行くことは潮流の関係もあって自殺行為。
まずは、浅い区域で身体を慣らさないといけない。
「一応言っておく。フレヤが命に危機に瀕しても、俺はお前を助けられない。お前が海と接している間、俺はお前に触れないからだ。今から、それを証明してやる。試しに、足だけ海に浸ってみろ」
私はサンダルを脱ぎ、言われるがまま海に足を入れた。
海に入っている間だけ、私を触れない?
そんな都合のいい《契約》を結べるものなの?
アトカさんの右手が私の左手に触れようとした時……
《バチ》
「イッツ!」
触れる直前、小さな稲妻というか電気が発生した!?
「見てわかっただろ? お前に触れる数センチ手前で、強力な稲妻が発生する。これは海中でも通用する」
つまり、危機に陥っても頼れるのは自分だけということね。
「わかりました。アトカさんに頼らず、海産物を採ってきます」
朝食と昼食を食べれる以上、毎日夕食をタリネと水だけで過ごすことも可能だけど、そんな横着な行為を1回でも実行した場合、即座に《不合格》の烙印を押され、私のステータスはリセットされてしまう。
「それでは……行ってきます」
「気をつけろよ」
アトカさんもイミアさんも、この海で何が採れるのか殆ど知らされていない。日本の海にも、毒を持つクラゲや蛇が存在する。この海にも、そういった危険生物はいるはず。どんな小さな生物であっても、迂闊に触れてはいけない。
私の胸付近までが海へ浸っていく。スーツに覆われていない顔も暖かいことから、このドライスーツの優秀性を嫌でも理解できる。
転移直後、素手の状態で海水に触ると、手先の感覚があまりの冷たさのせいか5秒程でなくなってきた。
一言で言い表すのなら、【極寒】ね。
でも、今は熱帯の海にいるようで温かい。
地形が半円形のせいか、潮の流れも穏やかだわ。
深い場所を目指すのなら、この湾を抜けでないといけない。
普通の人間なら危険極まりない行為だけど、基本のステータスとスキルや魔法が解放されている以上、不可能ではない。
歩き続けていくと、足が地面に着かなくなった。
「1度、潜水してみましょう」
私は大きく息を吸い、肺へ空気を取り込んだところで海へと潜る。
透明度が高いわ。
これなら、視界も問題無い。
基本ステータスを解放されたせいか、身体も軽い。
川での練習の甲斐もあって、手足が自由に動く。
これならイケる!
ただ、今の強さでどれだけ海中に滞在できるのだろう?
この遠浅の海で、潮流の激しい場所は何処なのだろう?
様々な疑問を思い浮かべてしまうけど、1つ1つ対処していきましょう。
この周辺の深さは、3mくらいかしら?
あ、あそこの岩付近に小さな帆立っぽい貝がいるわ!
私の手と同じくらいの大きさだから、楽に採れそう。
まだ息も続くから、不味いのを承知で採取してみましょう。
川で潜水の訓練をしていたこともあって、海の中でも深く潜れるようね。潮の流れも穏やかだから、簡単に海底まで辿り着けた。これなら、貝を楽に採れるわ。クラスタースピアの先端を貝と海底の岩場との設置面となる隙間に入れて、テコの原理で貝を引き剥がす。
【よし採った!】と思った瞬間……貝殻から一つ目が現れ、私と目が合った。
「カパア! カパパ、カパパパ!?(テメエ! 俺を食う気だな!?)」
「ゴバ!? ボバババババババ!!!(えっ!? イタタタタタタタタタ!!!)」
「パカパスタカカパパパ! パカパカオアパ! (色気のないクソガキが! 死に晒せや!)」
突然、貝の口が開き、私の右人差し指に噛み付いてきた!
こいつ、もしかして魔物なの!?
う、息が続かない。
早く海面に!?
う~~~~~~
「ぶは! アダダダダ、いつまで噛み付いているのよ!」
「ガパオ(無念)!」
クラスタースピアを殻の目玉に突き刺しただけで、死んだようね。今の私は、【全言語理解】も封印されているから魔物の言葉を理解できないけど……なんとなく腹の立つことを言われた気がする。
「まさか、帆立貝の魔物がいるとは。とりあえず、1個GET!」
転生して以降、自分で料理を調理したことないけど、日本にいた頃は最悪な環境下で調理した経験もある。私は調理に参加できないけど、試験外の時間に地球で得た知識をクロイス様にも教えていいはず。
慣れるためにも、今日の大半は浅い区域で採ろう。
○○○
その後、私は水深3~4m程のところで貝類5個と魚3匹を採ることに成功する。ステータスが一部解放されていることもあって、息も長く続き、生物達も採りやすかった。そう、この深さ程度なら、苦しさを感じることはなかった。
でも、水深5mを超えてくると少し潮の流れを感じ始め、魚はおろか貝類すらも採ることが困難となる。潮の流れだけなら慣れれば対応できると思うけど、一番の問題は貝や魚達の動きよ。
貝類達は親指サイズと小さいものもいれば、片手サイズと少し大きいものもいる。しかも何かを語りかけてくると思ったら、その正体は魔法【スリープ】で危うく海の中で眠ってしまうところだった。これまでの私自身が、【全言語理解】にどれだけ頼ってきたのかを嫌でも理解出来たわ。
魚に至っては、全長15cm~1m程と幅広い大きさのものが生息しているのだけど、【身体強化】スキルで自分の歯・尾・ヒレを大きく強化させてから、私に向かってくる。これじゃあ、私が捕食される側よ!
結局、私自身が満身創痍となってしまい、水深5m以降の成果は貝類1個(全長7cm)と魚1匹(全長20cm)。クラスタースピアを必要とする理由が、身を持ってわかったわ。
でも、悲劇はこの後に起こった。
私はアトカさんと共に海の家に戻ったけど、そこで力尽き眠ってしまった。目覚めると、クロイス様お手製料理が既に完成しており実食したわけだけど………全員が一口食べたところで吐き出す羽目となってしまったのよ。
貝や魚自体の味も酷いのだけど、一番の問題はクロイス様の腕よ。
料理初心者がよくやるミスをやってしまったのよ。
1) 使用する調味料を間違える。
2) 間違いに気づき焦ってしまい、慌てて調味料を適当に入れていく。
3) その結果、ただでさえ味の悪い貝や魚が更に酷いものとなる
アトカさんとイミアさんが遺跡の主人に言われた一言、『採ってきた生物達を必ず全て実食すること!』、これにより私達は嫌々ながらゲキまず料理を食べることとなり、完食後………全員が倒れる羽目となってしまった。
これからの7日間、最も大変なのはクロイス様お手製料理を全て平らげることね。
○○○ 作者からの一言
次回から、シャーロット視点に戻ります。
私は、厨房に隣接されている更衣室の中にいる。
私専用のドライスーツに着替え、ビーチサンダルに履き替えたのはいいのだけど、柄がどちらも黒と白の縞模様なのは何故だろう?
「イミアさん、誰がこのデザインを考えたんですか?」
「この遺跡の主人よ。あの方は、その紋様のことを【ゼブラ】と言っていたわね。似合っているじゃない、可愛いわよ」
「ええ、本当に可愛いですよ。フレヤ」
イミアさんとクロイス様の笑顔から悪意を感じ取れない……嫌味じゃないんだわ。
純粋に私を褒めてくれているのだけど、全然嬉しくない。
このデザインは確かに【ゼブラ】で合っているのだけど、これ…絶対狙ってやっているわよね?
今の自分を鏡で見たけど、昔のコントで使用されている囚人服のドライスーツ版だわ。
これから7日間、これを着て海産物を採るの?
《半分自給自足囚人生活》の始まり……憂鬱しかないわ。
一応別の柄がないか聞いてみようかな?
「イミアさん、ドライスーツの予備は無いんですか?」
「一応2着あるけど、全部白と黒のゼブラ柄よ」
普通、デザインの異なるものを用意するでのでは!?
ゼブラはゼブラでも、せめて色違いのものを用意してください!
「フレヤ、試験を実施するにあたって、いくつ注意点を言っておく」
私の思いを知ることなく、アトカさんが注意点を話してくれたのだけど、それは私にとって重大な内容だった。
1) 海に潜っている間だけ、私のステータス封印は一部解除される。
(HP・MP・攻撃・防御などの基本数値、4つの基本スキル【魔力感知】【魔力循環】【魔力操作】【身体強化】、回復魔法【ヒール】【イムノブースト】の解放)
2) 浅い区域で採れる海産物の殆どが不味い。
深ければ深い程、美味い海産物の採れる確率が上昇していく。
(アトカさんの採ってきた浅い区域の魚や貝類で調理した炒め物を試しに頂いたけど、身から奇妙な臭さを感じ、味もイマイチだった。調理者のイミアさんによると、鮮度の低下が激しいらしく、身自体から漂う臭みをここまで薄めるのにかなり苦労したらしい。本番では、クロイス様が1人で助言を受けることなく調理するらしいから、私の採ってくる海産物次第で、夕食の評価が大きく変化する)
3) 海の魔物に注意。
(魔物の詳細に関しては、【自分で潜って知れ】とのこと)
この生活が、7日間続くのね。
私は海産物を採り続け、クロイス様は料理を作り続ける。
この試験を行う意義は、何だろうか?
私にしてもクロイス様にしても、心に不誠実な部分があるということ。
《私は、レア称号【海女】をズルで入手した》
クロイス様の場合、シャーロットの話から推察すると、多分…
《クロイス様は貧民区での生活において、洗濯・料理・掃除を殆どしていない。理由としては、この人が実行すると、周囲の人達の負担が増大するから》
今回の試験では、その不誠実な箇所を追及してきた。
遺跡の主人と謁見するために、こんな試験を受ける必要性は何処にあるのだろう?
考えられる理由としては、その方の存在自体が相当高位に位置しているから………と思うのだけど?
だとするのなら、遺跡の主人って何者なの?
もしかして、ズフィールド国の女王様?
いや、それはないかな。
とにかく、まずは試験の合格を目指しましょう。
私の場合、ステータスの一部解放に関しては嬉しいのだけど、攻撃魔法を使用出来ないのは厳しい。攻撃魔法があれば、Aランクの力量を発揮できるのに。
何か起きても、頼りになるのは自分の物理的な力のみ…か。
怖いけど、自分1人で立ち向かうしかないわ。
その後、私はアトカさんから、《両目を覆う特殊ゴーグル》、《海産物を入れる少し大きめの袋》と《スピアフィッシング用のクラスタースピア》という3つの持ち物を貰った。
【日本の海女さんって、クラスタースピアなんか持っていたっけ?】という些細な疑問を感じたけど、全ての準備が整ったこともあり、私とアトカさんは先程の砂浜へ戻ることにした。
いよいよ、試験が始まる。
○○○
ここは先ほどの砂浜、ここからスタートなるのね。
目を閉じ耳を澄ませると、心地よい波のせせらぎが聞こえてくる。
気持ちいい。
この音、この風、これだけでリラックスできるわ。
それにドライスーツのおかげか、身体も暖かい。
浅い区域にある海産物の殆どが、ゲロマズイ。
かといって、いきなり深い区域に行くことは潮流の関係もあって自殺行為。
まずは、浅い区域で身体を慣らさないといけない。
「一応言っておく。フレヤが命に危機に瀕しても、俺はお前を助けられない。お前が海と接している間、俺はお前に触れないからだ。今から、それを証明してやる。試しに、足だけ海に浸ってみろ」
私はサンダルを脱ぎ、言われるがまま海に足を入れた。
海に入っている間だけ、私を触れない?
そんな都合のいい《契約》を結べるものなの?
アトカさんの右手が私の左手に触れようとした時……
《バチ》
「イッツ!」
触れる直前、小さな稲妻というか電気が発生した!?
「見てわかっただろ? お前に触れる数センチ手前で、強力な稲妻が発生する。これは海中でも通用する」
つまり、危機に陥っても頼れるのは自分だけということね。
「わかりました。アトカさんに頼らず、海産物を採ってきます」
朝食と昼食を食べれる以上、毎日夕食をタリネと水だけで過ごすことも可能だけど、そんな横着な行為を1回でも実行した場合、即座に《不合格》の烙印を押され、私のステータスはリセットされてしまう。
「それでは……行ってきます」
「気をつけろよ」
アトカさんもイミアさんも、この海で何が採れるのか殆ど知らされていない。日本の海にも、毒を持つクラゲや蛇が存在する。この海にも、そういった危険生物はいるはず。どんな小さな生物であっても、迂闊に触れてはいけない。
私の胸付近までが海へ浸っていく。スーツに覆われていない顔も暖かいことから、このドライスーツの優秀性を嫌でも理解できる。
転移直後、素手の状態で海水に触ると、手先の感覚があまりの冷たさのせいか5秒程でなくなってきた。
一言で言い表すのなら、【極寒】ね。
でも、今は熱帯の海にいるようで温かい。
地形が半円形のせいか、潮の流れも穏やかだわ。
深い場所を目指すのなら、この湾を抜けでないといけない。
普通の人間なら危険極まりない行為だけど、基本のステータスとスキルや魔法が解放されている以上、不可能ではない。
歩き続けていくと、足が地面に着かなくなった。
「1度、潜水してみましょう」
私は大きく息を吸い、肺へ空気を取り込んだところで海へと潜る。
透明度が高いわ。
これなら、視界も問題無い。
基本ステータスを解放されたせいか、身体も軽い。
川での練習の甲斐もあって、手足が自由に動く。
これならイケる!
ただ、今の強さでどれだけ海中に滞在できるのだろう?
この遠浅の海で、潮流の激しい場所は何処なのだろう?
様々な疑問を思い浮かべてしまうけど、1つ1つ対処していきましょう。
この周辺の深さは、3mくらいかしら?
あ、あそこの岩付近に小さな帆立っぽい貝がいるわ!
私の手と同じくらいの大きさだから、楽に採れそう。
まだ息も続くから、不味いのを承知で採取してみましょう。
川で潜水の訓練をしていたこともあって、海の中でも深く潜れるようね。潮の流れも穏やかだから、簡単に海底まで辿り着けた。これなら、貝を楽に採れるわ。クラスタースピアの先端を貝と海底の岩場との設置面となる隙間に入れて、テコの原理で貝を引き剥がす。
【よし採った!】と思った瞬間……貝殻から一つ目が現れ、私と目が合った。
「カパア! カパパ、カパパパ!?(テメエ! 俺を食う気だな!?)」
「ゴバ!? ボバババババババ!!!(えっ!? イタタタタタタタタタ!!!)」
「パカパスタカカパパパ! パカパカオアパ! (色気のないクソガキが! 死に晒せや!)」
突然、貝の口が開き、私の右人差し指に噛み付いてきた!
こいつ、もしかして魔物なの!?
う、息が続かない。
早く海面に!?
う~~~~~~
「ぶは! アダダダダ、いつまで噛み付いているのよ!」
「ガパオ(無念)!」
クラスタースピアを殻の目玉に突き刺しただけで、死んだようね。今の私は、【全言語理解】も封印されているから魔物の言葉を理解できないけど……なんとなく腹の立つことを言われた気がする。
「まさか、帆立貝の魔物がいるとは。とりあえず、1個GET!」
転生して以降、自分で料理を調理したことないけど、日本にいた頃は最悪な環境下で調理した経験もある。私は調理に参加できないけど、試験外の時間に地球で得た知識をクロイス様にも教えていいはず。
慣れるためにも、今日の大半は浅い区域で採ろう。
○○○
その後、私は水深3~4m程のところで貝類5個と魚3匹を採ることに成功する。ステータスが一部解放されていることもあって、息も長く続き、生物達も採りやすかった。そう、この深さ程度なら、苦しさを感じることはなかった。
でも、水深5mを超えてくると少し潮の流れを感じ始め、魚はおろか貝類すらも採ることが困難となる。潮の流れだけなら慣れれば対応できると思うけど、一番の問題は貝や魚達の動きよ。
貝類達は親指サイズと小さいものもいれば、片手サイズと少し大きいものもいる。しかも何かを語りかけてくると思ったら、その正体は魔法【スリープ】で危うく海の中で眠ってしまうところだった。これまでの私自身が、【全言語理解】にどれだけ頼ってきたのかを嫌でも理解出来たわ。
魚に至っては、全長15cm~1m程と幅広い大きさのものが生息しているのだけど、【身体強化】スキルで自分の歯・尾・ヒレを大きく強化させてから、私に向かってくる。これじゃあ、私が捕食される側よ!
結局、私自身が満身創痍となってしまい、水深5m以降の成果は貝類1個(全長7cm)と魚1匹(全長20cm)。クラスタースピアを必要とする理由が、身を持ってわかったわ。
でも、悲劇はこの後に起こった。
私はアトカさんと共に海の家に戻ったけど、そこで力尽き眠ってしまった。目覚めると、クロイス様お手製料理が既に完成しており実食したわけだけど………全員が一口食べたところで吐き出す羽目となってしまったのよ。
貝や魚自体の味も酷いのだけど、一番の問題はクロイス様の腕よ。
料理初心者がよくやるミスをやってしまったのよ。
1) 使用する調味料を間違える。
2) 間違いに気づき焦ってしまい、慌てて調味料を適当に入れていく。
3) その結果、ただでさえ味の悪い貝や魚が更に酷いものとなる
アトカさんとイミアさんが遺跡の主人に言われた一言、『採ってきた生物達を必ず全て実食すること!』、これにより私達は嫌々ながらゲキまず料理を食べることとなり、完食後………全員が倒れる羽目となってしまった。
これからの7日間、最も大変なのはクロイス様お手製料理を全て平らげることね。
○○○ 作者からの一言
次回から、シャーロット視点に戻ります。
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