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最終章【ハーゴンズパレス−試される7日間】

その頃のフレヤ

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《ハーゴンズパレス》は世界最大の遺跡であるため、敷地面積も広大だ。そのため海と面した場所も存在している。そこは半円形の湾を形成し遠浅となっているため、潮の流れも比較的穏やかとなっている。フレヤ・トワイライトは、そんな場所の砂浜に1人ポツンと転移されてしまう。

○○○ フレヤ視点

ここは何処なの?

「寒い、寒いわ。さっきまで20度くらいだったはず。今は10度くらいかしら?」

綺麗な海…透明度も高いわ。
周囲を見渡した限り、私は誰かのプライベートビーチに転移されたの?

「シャーロット~~、オトギさ~ん、コウヤ先生~~~」

あらん限りの声を出したけど、誰も応答してくれないわ。あの音声の言っている言葉が正しいのなら、ここは《ハーゴンズパレス遺跡》…らしいけど、遺跡らしきものが全くないわ。

「見渡す限りの海、砂浜の向こう側は3m程の高い岩壁に阻まれ何も見えない。周囲には私1人、ステータスも封印されている。はあ~前途多難だわ。あの岩階段らしきところから上に行けそうね」

寒い。
春物の学生服だから、この気温はきついわね。
外気温でこの寒さとなると、海水温はどの程度なのかな?
私は、波によって砂浜へと流れてくる海水に右手を浸してみる。

「冷たい!」

あまりの冷たさのせいで、私は急いで右手を海水から離す。

「10秒も浸っていないのに、右手の感覚が……鈍い。一体、何度なのよ?」

この海に投げ出されたら、私の命も5分と保たないわ。
ここから離れましょう。

まずは、建物を見つけることが先決よね。
1人ということもあって、ある意味冷静さを保てる。
それに単独行動に関しても、イザベルの時に経験しているから然程怖くない。

この分だと、シャーロット達も転移されたのかな?
1人だと心細い。
せめて、誰かと合流したいわ。

「ここの砂浜、粒が細かい。触った感じ、サラサラで気持ちいい」

岩壁の目の前に来たけど、3m程の高さでも威圧感を感じるわ。この壁、人工的に作られたものね。ということは、ここも遺跡内なの?

「この階段も、比較的緩い。これなら楽に登れそうね。この先に何が待ち構えているのかしら?」

階段を1歩ずつ歩を進めていき岩壁を超えた瞬間、私の目に飛び込んできたのは……

「はあ! なんで、《あの建物》がここにあるの~~~」

私の眼前に広がるのは……【海の家】。
日本でお馴染みともいえる【海の家】が、私の100m程先にあった。

「おかしいでしょ!? あの建物は日本に存在するものよ。しかも、大きさからして《民宿》っぽいし」

どうしよう? 
絶対、何かあるわ。
ここは遺跡の中よ。

「素通り……出来ないわよね」

《旅館》兼《海の家》の目の前に行くと、何か懐かしく香ばしい匂いが漂ってきた。
そして、何やら騒がしい声が聞こえてくる。

「ふおおお~~~、イミア、イミア! この…トウモロコシでしたか? 物凄く美味しそうです! 食べてもいいですよね!」

「あ、クロイス様、まだダメですよ!」
「う、アッツ~~~~イ!!!」
「だから言ったでしょうが!? もう、出来立てを食べる馬鹿がいますか!?」

この場にそぐわない喧騒は何かしら?
イミア?
クロイス?
その名前を何処かで聞いたような?

でも、このやりとりのおかげで、私の緊張も緩和されたわ。

「あの~すいませ~ん」
あ、建物の中に入った瞬間、周囲が暖かくなった。
《暖房》の魔導具とかが、設置されているのかな?

「「は~~い」」

2人の人物が【海の家】から現れた。

1人目は、コウヤ先生と同じ魔鬼族の女性だけど、何処か高貴な雰囲気を感じる。
2人目は、褐色の肌・少し細長い耳をしているからダークエルフ族ね。
2人とも18歳くらいかな?

秋物の地味な服を着ているのだけど、2人とも着慣れているし違和感も感じないわ。

「私はクロイス・ジストニスと言います。こちらはイミア、あなたが私と共に試験を受ける《フレヤ・トワイライト》さんで間違いありませんか?」

クロイス、イミア……あ、思い出した!
シャーロットから聞いた名前だわ!
確か、ハーモニック大陸ジストニス王国の……女王様!?

「あ、はい! その通りで御座います!」
女王様が、どうしてこんな所にいるわけ!?

「私はイミアよ。あなたが…シャーロットをハーモニック大陸へ転移させた元イザベルね。ある意味、私達の間接的な命の恩人となるわけだけど、試験官である以上、きちんと合否をつけさせてもらうわよ」

あ、ハーモニック側の人達から見れば、そうなっちゃうのかな?
複雑な気分だわ。

「あの…試験とは何のことでしょうか? 試験官というのは?」
「イミア、まずその点を説明しないといけませんよ」

これから何が始まるの?

「そうですね。フレヤ、私達はハーゴンズパレス遺跡の敷地内にいるわ」
やっぱり、私はハーゴンズパレスに転移されたのね。

「4日前、私ともう1人《アトカ》という男性がここへ転移されたの。私達を転移させたのはこの遺跡の主人、人物像に関しては契約上明かせないわ」

この遺跡の主人が、前もってイミアさんとアトカさんを転移させたの?
それじゃあ、クロイス様は?

「転移直後、《遺跡の主人》が《私》と《アトカ》の目の前に現れ、転移理由や目的を明かしてくれたわ。私達はその方の目的に賛同したわけ。言っておくけど、その目的も明かせないからね。まあ、試験を受けていくうちに、薄々勘付くわよ」

2人は《遺跡の主人》を全面的に信用したってこと?

「私の担当が【クロイス様】、アトカの担当が【フレヤ】よ。期間は7日、合格した場合、遺跡の主人と謁見できるわ」

「え…不合格の場合は?」
まさか、一生ここから出られないとか?

「リセットよ」
「は?」
リセットってどういう意味?

「ステータス全ての数値と称号が剥奪され、あなたはただの10歳の女の子となる。クロイス様の場合は《女王》の身分を保てるけど、王族としてこれまで築いてきた風格がリセットされるわ。これは、シャーロットにも適用される」

そんな馬鹿な!?
神でもない限り、そんなこと出来るわけがない!

「《信じられない》という顔をしているわね?」
「当たり前です! 私はともかく、シャーロットは神に近い強さを持っています!」

「あはは、話を聞いたばかりの私やアトカ、クロイス様と同じ反応ね。でも……可能なのよ。何故かは言えないけどね」

まさか、ミスラテル様が私達を試している?
それなら説明もつくけど。

「フレヤ、顔に出ているわよ。私から言えることは、《遺跡の主人はシャーロットやあなたと面識を持っていない》くらいかな? あ、ちなみに神様じゃないから」

ということは、【ガーランド様】や【ミスラテル様】でもない。イミアさんはその方のことを怖れることなく、普通に話しているから悪い人でもないのかしら?

「わかりました…試験を受けます。受ける以上、合格を目指します!」

これまで築いてきた努力の結晶をリセットされたくない!
絶対に合格して、主人の正体を突き止めてやるわ!

「ふふふ、元気があって良いわね。一応言っておくけど、あなたの場合死ぬ可能性もあるから注意してね。死因は、主に《溺死》かな?」

溺死!?

「ええ!? それじゃあ、クロイス様は?」
私だけじゃなく、彼女も試験を受けるはずよね?

「普通の人が、クロイス様の試験を受けても死ぬことはないわね。でも、この人はドジっ娘だから、最悪《焼死》か《揚げ死》となるかもね」

《焼死》はわかるけど、《揚げ死》って何!?

「ちょっとイミア! ついさっき内容を聞き見学していましたが、そんな死に方は絶対に起こりませんよ! そもそも《揚げ死》って何ですか!? 《揚げ死》って!?」

クロイス様も、イミアさんの発言に怒っているわ。
そういえば、私とクロイス様で内容も異なるのかしら?

「フレヤがアレを注文した時、きちんと対応できますか? すっ転んで、頭からダイブしませんか?」

「う!?」

何故、黙るの!? 
私がアレを注文するってどういうこと!?
クロイス様の試験に、私も関わるの?
内容が物凄く気になるわ!

「とにかく、フレヤはさっきの砂浜に戻りなさい。アトカの方も用意を整えた頃だろうし、そろそろ戻っているはずよ。アドバイスとして、1つ言っておくわね。シャーロットもフレヤもクロイス様もここで実施される試験を乗り越えた時、人間として魔鬼族として一段階成長するってことよ。だから……頑張りなさい!」

合格の場合、人間として成長する。
不合格の場合、リセットされる。

遺跡内にいる以上、後戻りできない……やってやろうじゃない!
砂浜に戻れば、アトカという男性がいるのね。

「わかりました、行ってきます! あ、その前にコートをお借りしても良いですか? このままだと、かなり寒いので」
「ええ、良いわよ」

少し薄手のコートだけど、寒さがかなり和らいだわ。
これなら問題ないわね。

私が岩壁というより防波堤を超えると、1人の人物が砂浜に佇み、こちらを仁王立ち状態で見ている。

あの男性がアトカさん?
真っ黒な服装に覆われているせいか、ここからだと顔も認識できないわ。

私と彼との距離が近づていくうちにつれ、私の歩行速度が《とある理由》で徐々に低下していく。

この人………顔が怖い!
え、こっちに来る!

男性はその服を着慣れていないせいか、歩き方も何処かぎこちない。
その人が目の前に来ると、私の左肩にポンと右手を置かれた。

「よお、お前がフレヤだな。俺が担当試験官のア…」
「ぎゃあああ~~~」
「あ、おい! こら! 逃げるんじゃね~~~!!!」

怖い! 
怖いわ!

おまけに、《顔》以外が全身漆黒のドライスーツに覆われているせいか、怖さが倍増しているし、ぎこちない歩き方のせいもあって……気味悪いわ!

私はあまりの怖さと迫力に怖気づき、無我夢中でその場から逃げ出したのだけど、後方を振り向くと……

「おいゴラ~~~~! 人の顔を見た瞬間、逃げるとは良い度胸しているじゃね~~か~! 試験前だが、お仕置きだ~~~!!!」

ひいいい~~~~、その格好のまま変な歩き方で私を追ってきてる~~~~!!!
助けて~~~イミアさ~~~ん!!!
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