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最終章【ハーゴンズパレス−試される7日間】

毒殺未遂

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あれ? 
ここは…何処?
あ…あのベッドで寝ているのは私?

ここは…私達の寝室なんだ。
私は寝ている自分の身体の真上に浮いているの?

コレって、まさか幽体離脱!?

ネルマがすぐ側で、私を見守っている。
眠る私の右手を優しく握り、涙が両目から溢れ出ており、ポタポタとシーツを濡らす。

彼女はどうしたらいいのかわからず、悲嘆に暮れている。

「シャーロット様~目を覚ましてよ~」
ネルマ……心配かけてごめんね…こんな頼りない聖女でごめんね。

「私の魔法【イムノブースト】、間違いなく効いているはず。あのメイド! シャーロット様の仲間なのに、毒を盛るなんて絶対許さない!」

え……そうだ!
ルクスさんはデザートに毒を混入させて、私を毒殺しようとしたんだ!?
ネルマが、【イムノブースト】で死ぬ寸前の私を治療してくれたのか!

ここに転移されてから、まだ数時間程度のはず。

昔の仲間【ルクスさん】と再会し、いきなり毒殺されそうになるとは……彼女はマリルと同じタイプのメイドだ。主人である【ベアトリス】さんに対して、絶対的な忠誠心を持っている。その彼女がベアトリスさんと離れ離れとなり、現在ハーゴンズパレスの主人に仕えている。

そして…私を殺そうとした。
これは、紛れも無い事実。
まさか……この毒殺も試験課題に関連しているの?

スキル【構造解析】があれば、すぐにでも事情を把握できるのに!
ネルマがいなければ、私の命は確実に潰えていた。

何故だろう?
私の心に、何かがフツフツと湧いてくる。

これは…怒り?

今の自分を端的に言えば

《試験初日、マリオ○ートなどの遊戯で周囲への警戒を怠り、遺跡内にも関わらず平然とデザートを口にし、その結果毒で死にかけているお馬鹿な自分》

となる。

能力を封印されていなければ、この事件を見抜けただろうか?

ルクスさんが調理したと思い込んでいたから、多分……毒物を食べた後、ステータスに記載されて気づいたかもしれない。

……て、気づけてもそれじゃあ遅いよ!

私1人ならともかく、ネルマがいるんだよ!
もし、彼女が先に料理を口にしていたら、最悪の結果が発生してしまう。
今になって自分の警戒心のなさに、腹が立ってくる。


一般の高位貴族であれば、毒を盛られる危険性も多々あるだろう。だから、毒味役が存在するし、その主人自身も食事に対する警戒を緩めない。また、王族貴族間の裏情報を日々収集している。

私の場合、《何らかの敵意》に対する警戒を怠ったことはないけど、そういった情報網は全て自分の持つ【構造解析】スキルで100%正しい情報を収集し、何か問題が発生しても自分または従魔の能力で解決してきた。

つまり、他の人と異なり、全て能力に頼ってきたということだ。
能力自体が封印されたことで、ここまで対応出来なくなるなんて。

このままだと、私もネルマも死んでしまう。
なんとか試験を突破するための打開策を考えないといけない。

考えろ!
考えろ!!
考えろ!!!

こんな失態は、一度だけで充分よ。
ならば、今後どう行動する?

1) このまま試験を受け続ける?
2) ここを抜け出して、ネルマと私だけで行動していく?

……どちらの選択肢も危険だ。

ルクスさんは、《試験の内容次第では、私もネルマも死ぬかもしれない》と言っていた。
となると、あの時のデザートタイムが《試験》に該当するわけか。

ネルマが先に食べて無事だったことを考慮すると、ここでは私だけを狙っていたのだろう。

7日間のうち、試験が《いつ》・《何処》で実施されるのかは不明。

この屋敷から脱獄し転移された残り9名の誰かと出会えたとしても、ルクスさんのように試験官となっているか、私のように試験を受けている可能性が高い。

これから先、迂闊な行動は即命取りになる。
全てにおいて、警戒を怠ってはいけない。
出会う人物全てに警戒しなくては!

能力が封印されている以上、自分の力だけで解決しようとするな!
《ネルマの力》と《私の頭脳》で、窮地を脱していくんだ!

……危険だけど、このまま試験を受け続け、主人との謁見許可を貰おう。

私達は遊戯場で遊んだこともあって、警戒心を完全に緩めていた。デザートを食べる直前、ルクスさんの違和感に気づいていたにも関わらず、私は特に何の行動も移さなかった。

【全ての事象には、理由がある】
【ネルマへの忠告】

ルクスさんは初めの段階で、ヒントを与えていたんだ。
もしかしたら、彼女は【全て】を知っているのかもしれない。

ハーゴンズパレスの主人の思惑が何なのか気になるけど、愚かな行動をとった私を見て笑っているだろう。

見てなさい…ここからは私のターンだ。
必ず貴方に会いに行くからね!
心の整理がついたところで、自分の身体に戻ろう!


○○○ 


誰かの声が聞こえる。
これは……ネルマだ。

「ルクス! シャーロット様を毒殺しようとしたのに、なんで平然とした顔で飲み物を持ってこれるの! ホント、信じられない!」

頭がボ~ッとしているけど、声のする方向へ頭を動かすと、ネルマが先程の件でルクスさんを問い詰めているようだ。

「何か答えなさいよ!」
「私は言ったはずです。【試験の課題次第で、あなた方は死ぬ】と。故郷から遠く離れた遺跡の中で、何の疑いもなくデザートを食べるお2人が悪いのです」

ルクスさんの目に、感情が込もっていない。それに、話し方も冷めた言い方となっているし、先程まで見た挙動不審さを一切感じとれない。おそらく、私を殺しかけたことで、彼女自身も何らかの覚悟を決めたのかもしれない。

「な!? シャーロット様の知り合いがデザートを作ったのだから、何の疑いもせず食べるに決まってるじゃん!」

「私は運んだだけです。デザートを調理した者は、別にいます。貴方方は貴族ですよね? 毒殺される危険性もあるのだから、少しは警戒しましょう」

全くもって、その通りです。

「正論だから言い返せない! ムカつく~~~~!!!」

ネルマ、それ言葉に出さなくてもいいから。

「ネ…ル…マ」
思考は定まっているのに、言葉が上手く出てこない。

「シャーロット様! 大丈夫ですか!?」
死にかけたのだから、大丈夫なわけない。

「な…とか…ね」
ルクスさんを見ると、私を見て少しホッとした雰囲気を醸し出している。

「2人の会話…聞こえてたよ」
言葉が、どんどん明確に出てくる。

「試験は既に始まっているのに、何の警戒もしないでデザートを口にした私達が悪い。ネルマ、ありがとね。貴方のおかげで助かったわ」

彼女がいなければ、私は間違いなく死んでいた。
あれ?
ふと思ったけど、私とネルマの組み合わせって偶然なの?

今は……いいか。

「ジャーロットざま~~~~!!!」
私が上半身を起こすと、ネルマが大泣きして、急に抱きついてきた。

「ぐえええ、ちょっとネルマ! 苦しいから!」

8歳児の抱きしめで、死にたくないんですけど!?
能力が封印されていること、つくづく実感するよ。

「あ、すいません」
ふう~、解放された。

「シャーロット様、ご無事でなによりです。ですが次以降、こういった幸運は早々起きませんから」

ルクスさんの言葉が、胸に突き刺さる。《主人との謁見に相応しい人物》なのかを見極めるための試験なのだから、今後こういったヘマをしてはいけない。

「この!?」
「ネルマ、ダメ! ルクスさんは主人の命令に従っただけ! この件に関しては警戒心を持たない私が悪いの! 怒りに身を任せれば、確実に身を滅ぼすわよ!」
「う……はい」

《デザートによる毒殺未遂》

《警戒心を持たない人物に、主人と謁見する資格なし》

この1件は、私達の警戒心を試すもの。
それをしっかりと理解しておこう。                                                                                             
それと、ネルマの言葉遣いも気になる。

「ネルマ、私達は貴族だよ。今後、《誠意》と《礼節》を重んじて行動していこうね。この遺跡も1つの《国》、【遺跡の主人】を【国王】と思えば、あなたの言葉遣いも丁寧になると思う」

「あ…なるほど! わかりました!」

怒りの形相から一転、可愛い笑顔へと思った。
切り替えが早いな。
そこが、ネルマの良いところかな。
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