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最終章【ハーゴンズパレス−試される7日間】

ネルマの意外な一面

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ランダルキア大陸の形態は、地球のユーラシア大陸と似ている。
面積としては、ランダルキアの方が1.3倍程大きい。

現在、《大陸西側》の国々はアストレカ大陸の国々と、《大陸東側》の国々はハーモニック大陸の国々と国交を結んでいるため、ザウルス族と獣猿族以外の種族達がこの大陸内にも存在している。

ただ、アストレカ大陸とハーモニック大陸との国交が約200年断絶されていたこともあり、【人間・エルフ・ドワーフ・獣人】の4種族は《大陸西側》、【魔鬼族・ダークエルフ・鳥人族】の3種族は《大陸東側》に集中している。


その影響もあってか、大陸中央ともなると、【竜人族】の人口比率は90%を超えている。


【ハーゴンズパレス】は、そんな大陸中央の北方地方を支配するズフィールド聖王国内の物静かな場所で、ひっそりとそびえ立っている。遺跡としての規模は世界最大、現時点において聖王国の女王(聖女)ですら全貌を把握していない。その理由も勿論存在するのだが、ここでは割愛しておこう。


この広大な敷地内の何処かに、遺跡全体を見渡せることが可能な【展望エリア】というものが存在する。広さは約200坪程、エリア全体がその土地の【主人や使用人達】の住いとなっている。3階構成となっており、現在4名の者達が最上部の【とある部屋】にて、話し合いを行っていた。

『主人様、ノイズが激しく生じたものの、《異分子》と《その他》をパレス敷地内にある4つの棟へ迎え入れることに成功しました』

「ありがとう。シャーロットとフレヤは《異分子的存在》、1度話し合いたいと思っていたの。他の人達からも、話を聞いておきたいわ」

『主人よ……力の通用しない我が領域にて、シャーロットだけでも抹殺…』

主人とされる者がスッと目を細める。その圧を感じ取ったのか、機械音声の者が全てを言い終える前に、口を閉じる。

「その判断は時期尚早。彼女は神の身勝手な操作により、《規格外》となってしまった。他の者達の中には、彼女と関わり《規格外》となった者もいるわね。絶対に、早まってはダメ。これまでと同じく、手筈通りに皆を動かせてね」

『…御意。あなたの命に従います』

「ふふふ、良い子ね。さて、ここまでの話を聞いたことで、あなた方も状況を理解できましたね?」

部屋の入口付近で佇んでいた《人物達》が、ゆっくりと彼女の側へとやってくる。

「「…」」

2人は押し黙ったまま、何も喋ろうとしない。

そもそも、転移されてから5分後に事情を聞いたため、《内容を信じろ》という方が無理だろう。また現状の2人は…

『ハーゴンズパレス内では、転移された者全員が【全て】を封印されている』

と思い込んでいる。事実、これまで頼りにしていた《スキル》・《魔法》・《ステータス数値》全てが封印されているため、そう思い込むのも無理はない。

2人のうち、1人は似た事象を経験しているため、まだ落ち着いているものの、目の前にいる女性の機嫌次第で、自分達の命が簡単に潰えてしまう状況のため、迂闊な言葉を出せないでいる。

残る1人は混乱状態のため、状況を受け入れられていない。

「ふふふ、そんなに緊張しないで下さい。これまでの経験を見た限り、あなた方には何の問題もありません。ですから、先程全てをお話ししたのです。あなた方のお部屋をご用意しましたので、まずは自分達の置かれた状況を飲み込み、心を落ち着かせてから行動に移して下さい」

その女性は優しく微笑み、《とある人物達》に語りかける。冷静さを保っている1人が混乱している仲間の転移者に語りかけたことで、その者は落ち着きを取り戻す。そして、両者が静かに頷き、転移された者達の行動を信じ、《自分の成すべきことを成そう》と心に強く誓い部屋を後にした。

「ふふふ、まだ若いですけど、あの2人なら信用できそうですね。シャーロット・エルバラン、力が完全に封印された状態で、あなたがどこまで足掻くのか見せてもらいましょうか」


シャーロット一行にとって、忘れられない物語が今始まろうとしている。


○○○ シャーロット視点


部屋の内装が、先程までいた場所と全く異なっている。一見地味に見えるものの、質感がかなり上等な素材で出来ているソファーとテーブル、壁際には貴族用のキングサイズのベッドや化粧台、本棚が設置されている。《女性のお客様》を前提としたデザインが全ての家具に施されており、1つ1つ繊細かつ優雅だ。

ここは【寝室】かな?

窓から見える景色、私の真横にいるネルマ、状況から考えて何処かに転移されたことは間違いない。あのノイズ混じりの機械音声は【ハーゴンズパレス】と言い放ち、この領域内では《私達の強さは無効》とも言っていた。実際、ステータス画面を出せないし、ノーマルスキル・ユニークスキル・魔法全てが使用不可だった。

現在の私の力も、地球の10歳児とほぼ同じくらいだと思う。そもそも、私の力は神に近いし、【状態異常無効化】スキルもあるため、力を封印することは不可能なはず。

……今回の敵は、何者なのだろうか?

敵が神様なら、ミスラテル様が事前に教えてくれるはずだよね? 
厄浄禍津金剛のように無断で入り込むことはシステム上不可能だし、仮に入れたとしても瞬時にミスラテル様が対処してくれる。

う~ん、わからない。
まずは仲間を探しつつ、情報を集めよう。

「ネルマ、あなたはステータス画面を出せる?」
「え?」

窓から景色を眺めていたネルマは、私の声で我に帰り、こちらを振り向く。
私は学生服だけど、ネルマは半袖と半ズボンという身軽な格好だ。一見庶民っぽい服装に見えるけど、服の生地を見た限り、かなり高級な素材を使用しているのが傍目から見てもわかる。こういった服装なら、緊急時にもすぐに対応できるね。

「普通に出せますけど?」
「は!?」

ネルマは、強さを封印されていない!?
え、私だけなの!?
再度確認してみたけど、やはり私の持つ力の全てが封印されている。

どうして、私だけ?
他の人達は、大丈夫だろうか?

「シャーロット様、どうしたんですか?」

ネルマが不安がっている。
現状、魔物が現れたら、頼れるのは彼女だけ。

事情を隠すよりも、全てを打ち明け、彼女の不安を少しでも解消させた方がいいかな? 

でも、彼女は8歳の女の子、状況を深く考えすぎて【鬱症状】にならないか心配だ。

「ネルマ、私自身も何が起きたのかはっきりとわからないの。だから、転移直前に私の周辺で何が起きたのかを今から話すね。そこにソファーがあるから、座りながら話を聞いて」

「あ…はい!」

彼女は、聖女である私も状況を把握していないことに若干の驚きを示したものの、その顔には《これから冒険が始まる! ワクワクするよ!》という表情を表に出しながらソファーへと座る。

彼女の事情を考慮すればワクワクするのもわかるけど、時間の経過と共に不安も押し寄せてくるはず。

私が、しっかりとフォローしていこう。

私は、先程学園内で起きた現象をネルマに話した。その過程で、フレヤ誘拐事件の関しても話したが、オトギさんの秘密については打ち明けていない。一連の流れを話したにも関わらず、ネルマは憔悴するどころか、目がどんどん輝き出していき、若干興奮している。

何故、そんな反応となるかな?

「フレヤ様が誘拐されていたなんて…しかも、《オトギ》というカッコイイ男性が真犯人の竜人族達から彼女を劇的に救出する!」

うん?
私、《カッコいい》なんて言ったっけ?

「ネルマはオトギさんを知らないよね? カッコイイとは限らないよ?」
「え……それじゃあ、シャーロット様から見てどうですか?」

何故、そんな不安そうな顔をするの?
困るところそこなの?
転移されたんだよ?

「う~ん、カッコいい好青年……かな?」
「でしょ! でしょ! そういう時の展開って、絶対王子様が登場するんです!」

ネルマがテーブルに身を乗り出し、熱く語りだしたよ。

「フレヤ様がそんな彼を見て一目惚れ! 年齢差なんか関係なく、愛を紡ぎ出していき、シャーロット様という壁を乗り越えて、2人は結婚!」 

「こらこら、なんで私がそこに登場するの!」

あ、いかん。
ネルマがおバカなことを言うものだから、つい漫才の相方のごとく、ツッコミを入れてしまった。

「シャーロット様でなくとも、フレヤ様は貴族のライバル的令嬢と争い、最終的に勝って結婚へと到るんです! 本にすれば売れますよ! 舞台化すれば、絶対当たります!」

出版化!?
舞台化!?
ネルマ、恋愛系の本を読みすぎだよ!

「シャーロット様! フレヤ様は、オトギさんに惚れましたよね?」

ネルマの熱~い語りが終わりそうにない。
この子、恋愛系の話にここまで惹かれるとは意外だよ。

「え…まあ…惚れたね」

あ…彼女の勢いに負けて、つい暴露してしまった。
フレヤ、ごめんね。

「やっぱり! 今回の転移事件も、恋愛イベントの一つなんですよ! ここでフレヤ様とオトギさんは仲を深めていくんです! もしかしたらキスまでいくかも!」

ネルマの想像が、どんどん肥大化していく。
そろそろ、止めよう。

「ネルマ、その続きはフレヤ自身から聞こうね。そろそろ、私達も動き出そうよ」
「あ…そうですね! 続きは、本人から聞きたいです!」

ネルマのおかげで、私の緊張も完全に解れた。
まず知りたいのは、仲間の安否だ。

フレヤ・コウヤ先生・オトギさん・フェルボーニさん・カビバラさん達も転移されたのかな?

そして、ネルマのように全く無関係の者も転移されているのだろうか?

ハーゴンズパレスに関しては、フェルボーニさんを構造解析したことで多少の情報を得ている。その情報を基に、行動を起こしていくべきかな。

《コンコン》

「「え!?」」

部屋の入口となるドアから聞こえてきた突然のノック音。
タイミングが絶妙すぎる!

相手は、誰なの?






○○○作者からの一言

皆さん、お久しぶりです。
本日から連載を再開します。

中2日おきの更新予定となります。
今後ともよろしくお願い致します!

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