元構造解析研究者の異世界冒険譚

犬社護

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10歳〜アストレカ大陸編【旅芸人と負の遺産】

ミーシャの叫び

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○○○ ミーシャ視点

「嘘だ!」

私の声だけが来賓室に大きく響く。たった今、オトギさんから聞かされた内容があまりにも突飛しすぎて信じられなかった。


……1時間前……


私の仇でもあるデュラハンが、昨日討伐された。北と南、両方に1体ずついたらしいけど、ガロウ総隊長とコウヤ先生が一撃で仕留めたと聞いている。

私の心に燃え続けている【復讐】という名の炎が、その話を聞いたことで鎮火した。本来であれば、自分の力で両親の仇を討ちたかった。若干の無念さが心に残るものの、これで村のみんなも悔いなく成仏してくれる。《ヒュデル村》こそが私の故郷、もうこの世に存在しないけど、皆との思い出は私の心の中に深く刻み込まれている。

あの事件から半年後、孤児院の院長先生が、『犠牲者達の慰霊碑が、死者の多かった《サラッサ》という街に建設されたのよ。いつか、ミーシャも行ってみるといいわ』と私に教えてくれた。

可能なら、その慰霊碑のもとに行って今日の出来事を報告したいところだけど、ここからだと距離が遠すぎる。私がもっと成長して、Aランクの冒険者になれたら報告に行こう。立派になった私を、みんなに見てもらおう!


《両親の仇を討つ》という私の目標は他者によって達成されたけど、《強くなりたい》という思いだけは今でも変わらない。私の目の前で殺された両親、食い殺された村人達、現在でも夢に出てくる。もう、私の目の前で、人が死ぬところを見たくない。この学園にはシャーロットやコウヤ先生もいるのだから、全てを吸収して強くなってやる!


それにしても昨日の今日だからか、放課後になるまで《魔物討伐》と《フレヤ誘拐事件》の話ばかり。

もう、聞き飽きた。

オトギさん1人だけで誘拐犯を追い詰め捕縛し、フレヤが助けられたことも聞いている。彼女は休み時間中、皆に事件の詳細を語ってくれた時、顔を仄かに赤くしていた。あの様子だけで身体的にも精神的にも無事なのがわかり、私も安心したのだけど、放課後まで同じ話題が続くとは思わなかった。

明日になったら、別の話題に移っていてほしい。
帰る用意も整ったし、オーキスと一緒にいつもの訓練を始めよう!
席から立ち上がったところで、フレヤが私の方へ来た。

「フレヤ、どうしたの?」
「ミーシャ、大事なお話があるの。私と一緒に来賓室に来てくれない?」
「構わないけど?」

大事な話? 
デュラハンやオトギさんの件は既に解決済、他に何かあったかな?

それに来賓室って、大切なお客様が来る時にだけ使用される場所、誰か来ているの? 来賓室に到着し扉を開けると、コウヤ先生・オトギさん・シャーロットの3人がいた。

「よ、ミーシャ! 呼び出して悪いな」
「オトギさん、私に何か用なの?」
「ああ、ヒュデル村の件で話したいことがある。とにかく、俺の向かいのソファーに座ってくれ」

ヒュデル村!?
何故、彼がヒュデル村を知っているの?
私の心が騒つく……緊張を隠せそうにない。

「ミーシャ、大丈夫。オトギさんは、ヒュデル村で起きた事件の真相をあなたに教えようとしているの」
 
真相?

「シャーロット、どういうこと?」
「ミーシャ、今から語られる内容は全て真実。まずはオトギさんの話をよく聞いて」

彼女の顔は、至って真剣なものだ。
シャーロットがここまで真剣になる何かを、オトギさんが語ってくれるの?
フレヤもコウヤ先生も、既に聞いているの?

ヒュデル村で起きた事件の真相……《聞きたい》と思う自分もいれば、《聞きたくない》という自分もいる。

こんな時、どうすればいい?
あの時、クラスメイト達は体育館で何を言っていた?

《ミーシャは普段冷静なのに、魔物…特にゴースト族系の話が出た途端、カッとなりやすい》
《故郷やデュラハン関係の話が出た時でも、冷静さを保ったほうがいいわ》
《言えてる言えてる。もし魔物が【幻夢】でミーシャの故郷を出現させたら、君は仲間を放って暴れるかもしれない。まずは言葉に惑わされず、仲間を第一に考えたほうがいいよ》

《その話ってさ、何か裏があるんじゃないか? そういう時って、必ず何か齟齬があるんだよね。【ミーシャの見た真実】と【実際に起きた真実】、もしかしたら何かが違うかもよ》

故郷の話を聞いても冷静になれ。
言葉に惑わされるな。
仲間を第一に。
真実とは何か?

「わかった。オトギさん、真相とやらを教えて」


……冒頭に戻る……


嘘だ、そんなの信じられるか!
凶悪な病【狂獣病】が、全ての根源?
そんな病気、聞いたこともない!
しかも、オトギさんが本当に私の両親を殺した?
初めて出会った時、臭いのせいもあって冷静さを欠いていたけど、両親を殺したアイツはオトギさんじゃない!

「ミーシャ、落ち着いて。まずはテーブルに置かれている証拠となる資料を順番通りに読んで。これは元ガーランド法王国の法王様が送ってきた正式なもの。当時の獣人達が、狂獣病と戦った歴史が刻まれているの」

資料? 
テーブルの上には、少し厚みのある資料が置かれており、4つに分けられている。一番上には、番号が記載されている。

まずは……読もう。

私はシャーロットの言われた通り、資料を順番に読んでいく。そこに書かれた内容……狂獣病の性質、ヒュデル村で起きた事件の経緯、その後の研究で開発された特効薬について、私だけこの病に感染しなかった原因、全てが事細かに掲載されていた。

資料の最後には、全獣人の救世主となる名前が……【私】となっている。

調査内容全てが精密に書かれており、とてもじゃないけど偽物とは言い難い。それに……私が孤児院で目覚めた後、私や子供達に困ったことが起きても、誰かが1週間以内にお金や道具を寄付してくれた。しかも、私の住む孤児院だけでなく、王都にある孤児院全てに似たような寄付があったと聞いている。この現象は、1度や2度じゃない。私の住む孤児院で何か困ったことが起きたら、必ず発生していた。

しかも、私が大陸南部に位置するエルディア王国の学園に行くと皆に宣言してから数日後、《エルディア王国に行くまでの旅のしおり》と《大陸地図》が孤児院に送付されてきた。その荷物の中には、往復分に相当する金貨が大量に入っていた。

これは流石におかしいと思い、院長先生にすると返答として必ず、《足長おじさんが子供達を守ってくれているのよ》という言葉が返ってくる。実際、こういったお節介な行為は私だけでなく、他の子供達にもされていたから納得できるんだけど、私の場合に限りって、額が大きすぎる。あの時、宣言したはいいけど、お金の工面で悩んでいたから、結局受け取ってしまった。


《足長おじさん》の正体は、法王様?


「ミーシャ、今から君にかけた俺の【催眠】スキルを解く。あの時の君は目の前で両親を殺されたせいもあって、心が極限状態だった。気絶後、君の心が壊れないよう、俺の回復魔法や催眠スキルでフォローを入れてある。それを解除することで、あの時の光景が蘇ってくるはずだ」

オトギさんの目は、真剣だ。
テーブルの資料も本物。
催眠スキルが解かれたら……あの時の光景が……

法王様も研究者の人達も、皆が目を背けず、狂獣病と戦い勝利した。
真実から逃げちゃダメだ…逃げちゃダメだ。
目を背けたらダメだ!

「オトギさん、催眠を解いて!」

彼はゆっくりと頷き、私の頭に右手をそっと置いた。

「いくぞ……【解除】!」

その言葉を聞いた瞬間、両親を殺したあの男の顔があの冒険者の顔が……オトギさんへと変わっていく。

「あ…ああ…ああああああ!!」

私の両親の仇は……本当にオトギさんだ。
両親は狂獣病に侵されていて、私を食べる寸前だった?
だから、彼は友人でもある両親を…皆を…みんなの尊厳を守るために殺した?

シャーロットの言葉、法王様の資料、オトギさんから語られた真実。

あ…ああ!
そうだ、思い出した!

両親を殺した後、オトギさんは……泣いていた。
泣きながら皆を殺していき、逃げる私を追ってきていた!
あの時の光景が……鮮明に浮かんでくる!

「ミーシャ、今見ている光景こそが、真実なんだ」

この映像が真実?
それじゃあ……オトギさんが自分の力の無さを悲観して、皆を泣きながら…悔しさを交えた声で吠えながら…全身に皆の血を纏いながら、皆を……

「ミーシャ、彼らの尊厳を守るとはいえ、俺が君の両親や村人達を殺した。これだけは、間違いない。俺をどうしたい? 殺したいか? それが君の願いなのなら……俺は君に殺されよう」

オトギさんの目は真剣だ。
私がそう望めば、多分実行に移す。
私はどうしたい?
両親の…みんなの仇でもある彼を殺したいの?
確かに、彼はみんなを殺した。
でも、その動機が【みんなの尊厳を守るため】!

オトギさんと同じ立場なら、私はどうする?
私は…私は…

「願い…私は…」

《ミーシャ、目をそらすなよ!》
《そうよ。その手の事件、必ずあなたの知らない裏があるわ》
《真実が全く違っても、目をそらすな!》

みんな……私は……

「私は……したい。私はオトギさんと一緒に、皆の眠る慰霊碑に行って墓参りをしたい! 夏休みになったら必ず行く! そこで、みんなに全てを報告する!」

私の願いに、全員が目を見開き驚く。

「墓参りか……いいね! 行こう! スカイドラゴンを従魔にして、空から行こうじゃないか! 2人で旅行だ!」

「あ……はい!」

オトギさんが私の願いを聞き入れてくれた。

「ミーシャ、偉いぞ」
「ミーシャ、偉い! 目を逸らさず、正しいを答えを選んだね」
「ミーシャ、偉いわ! (フレヤの心の声:あ…2人で旅行…羨ましい…かな)」

「みんな…ありがとう」

コウヤ先生、シャーロット、フレヤ、クラスメイト達、みんなが私の言葉を信じ、数多くの助言を与えてくれた。

私は、もう1人じゃない。
この思いを無駄にしたくない!

慰霊碑や旧ヒュデル村に行って、亡くなった人達に今の自分を見てもらおう。
そして、前に進もう!
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