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10歳〜アストレカ大陸編【旅芸人と負の遺産】

ミスマッチスキルを修復しよう

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《病気の効果》で検索すると、意外な単語が引っ掛かった。
それをタップすると……

ノーマルスキル【HP自動回復 Lv3】《常時発動型》

生物ならば《HP》、無機物ならば《耐久性能》を吸引し、自分のHP、MPまたは選択した装備品の耐久性能値へと自動的に還元させることができる。全てが満タンであった場合、外気へと放出される。スキルレベルが上がるごとに、吸引力と効果範囲を拡大させていくが、吸引対象を選別する《選択発動型》であるため、どう扱うかは所持者次第である。

Lv1
効果範囲:所持者の素肌と接触した時のみ有効
吸引対象数:1
効果:1分ごとに、接触者のHPを1吸引する。

Lv2
効果範囲:所持者を中心とする半径3m以内に含まれる全ての物
吸引対象数:2(所持者が自由に選別できる)
効果:1分ごとに、HPと物の耐久性能を1吸引する。

Lv3
効果範囲:所持者を中心とする半径5mに含まれる全ての物
吸引対象数:3(所持者が自由に選別できる)
効果:1分ごとに、HPと物の耐久性能を2吸引する。

なによ、これ!?
スキル名と効果が合っていない!
私もHP自動回復スキルを持っているけど、こんな効果を及ぼさないよ!
ネルマの病気の根源はこれか!

スキル名では【常時発動型】と記載されているのに、効果欄では【対象者または対象物を選別する選択発動型】となっている。

完全に矛盾しているよ!

効果欄を見た限り、スキル【ライフドレイン】の説明で間違いない。このスキルは大器晩成型で、レベル5以上になってから戦闘において本領を発揮する。ネルマの場合、この機能がレベル3で発動している状態なんだ。

解析データを見ると、《吸引対象者》または《対象物》が複数存在する場合、1分毎にランダムで3つ選択されている。厄介なのは《対象物》のランダム選別だ。物品とかなら1つの個として認識されているけど、地面の場合、効果範囲内全てが対象となっている。

認識基準がメチャクチャだよ!

おそらく、《常時発動》と《選択発動》、2つの矛盾する機能を持ち合わせているため、システムがバグって正常に機能していないんだ。このまま放置していたら、大変な事態を引き起こすところだった。

病気の原因がわかった以上、【構造編集】スキルで治療可能だね!
でも、この病気の発生要因は何だろうか?

スキル名とその効果が【ミスマッチ】する病気なんて聞いたことがない。新しく取得した【スキルとその効果】は、本来セットで個人に付与される。この根本が崩れていたら、HP自動回復スキルを持つ全員がネルマと同じ病気を発症してしまう。

ネルマの病気の発症時期:約3年前
私がHP自動回復スキルを取得した時期:約2年半前

私のスキルに、異常は見当たらない。HP自動回復スキル自体はレアスキルだけど、この大陸にも取得者は大勢いるだろう。でも、この2年において、こんなスキル異常は教会に報告されていない。

ということは、ネルマ個人にだけ起きている現象?
まさかとは思うけど、これも【負の遺産】の1つ?

ガーランド様の《うっかりミス》については、オーキスの件で理解している。
でも、これに関しては少しおかしい。

明日、コウヤ先生に報告してからミスラテル様とも要相談だね。

「皆さん、病気の原因がわかりました。これならば、私のスキルで治療可能です」
私の言葉に、皆が一様に驚く。

「シャーロット様、本当ですか! 私の病気、治るんですか!」
先程まで陰鬱としていたネルマの顔が、いっきにパアッと明るくなる。

「うん、治るよ。まずは、ステータスにある【HP自動回復】の効果欄を見て」
この病気自体を、ネルマ自身に知ってもらおう。

「え? わかりました。……えええぇぇぇぇ~~~~これおかしいよ~~~!!!」
彼女が驚くのも無理ないよね。
というか、今まで何故気づかなかったのか不思議だ。

「ネルマ、そのスキルに何が書かれているんだ?」
「ネルマ、私達にも教えて」
ダナンザ様やロザレーヌ様も早く知りたいからか、彼女をせっつく。

「お父様、お母様、このスキル……壊れてる。だって、効果が……」

ネルマがスキルを説明すると、皆が唖然とし、誰も言葉を紡ぐものはいなかった。とりあえず、疑問点を彼女に質問してみよう。

「ネルマ、あなたは3年前風邪を拗らせ、生死の境を彷徨った。復帰後、HPとMPの自動回復スキルを取得したよね。その時、ステータス欄からスキルの効果を確認しなかったの?」

この疑問は、ここにいる全員が感じているはずだ。
私の質問に対し、ネルマは半分涙目となっている。

「先に…MP自動回復の効果を確認しました。そこには、HPも取得すればMPと同じ原理で回復されていくと記載されていたので、HP自動回復の効果欄を確認しませんでした。あはは…答えは目の前にあったんですね」

その内容は、私のスキルにも記載されている。私の場合、取得時に両方確認したのだけど、当時5歳のネルマなら確認を怠っても無理ないかもしれない。しかも、一度効果を確認したら、たとえレベルが上がっても同じスキルの効果欄を見ないと思う。

通常であれば、絶対に治らない。皆から悲愴感が伝わってくるものの、先程の私の言葉が効いたのか、私の方を頻りに気にしている。

「皆さん、安心して下さい。私は、この【ミスマッチスキル】を修復させる力を持っています。ただし、治療するにあたって1つ条件があります」

聖女の私が突然言い出したからか、クディッチス家全員の身体が緊張で強張る。

「じ…条件? それは何でしょうか? は! 奴隷になれとか、全財産を寄越せとかでは!?」
こらこら、ネルマは何を言いだしているの!
他の人達が余計固まってしまったじゃないか!

「そんな要求はしません。私の持つ修復スキルは、ガーランド様から特別に頂いたもの。これが世に広まれば、確実に戦乱の火を灯すことになる。私からの要求はただ一つ、【誰にも口外するな。漏らした瞬間、クディッチス一家とその使用人達全てに天罰を与える!】」

私は目を細め、この言葉に若干の威圧を込めたからか、全員が息を呑む。そして、クディッチス一家全員が冷や汗をかいている。言葉の意味を真に理解した証拠だ。

ハーモニック大陸において、ユニークスキル【構造解析】と【構造編集】を知る人は、それなりにいる。私自身がその人達を構造解析し、信頼したからこそ話したんだ。

でも聖女として働く以上、今後2つのスキルを使用する機会が頻繁に訪れるだろう。アストレカ大陸内では歴史の改竄の件もあるし、あまり知られない方がいい。私の強さを理解しても、私を利用しようと良からぬことを企む者達もいるはずだ。

「絶対、誰にも言いません! だから、治療をお願いします!」
私がダナンザ様達を見ると、3人とも首を縦に振ってくれた。

「わかりました。貴方達を信じましょう。さて、私の力も万能ではありません。このミスマッチスキルを修復すると、別のスキルへと変化します。また、生涯2度と、同じスキルを習得できません。それでも構いませんか?」

「こんな故障スキル、いりません!」
まあ、こんな制御不能なスキルを残したいと思う人はいないよね。

「スキルを変更するにあたって、ネルマに質問があります。何か欲しいスキルとかある?」

どうせ構造編集するのなら、ネルマの望むものにしてあげたい。

「欲しいスキル…ですか? ううん……あ! 剣や矢とかが、自由自在に遠隔操作できるスキルが欲しいです!」

それって、基本スキルと魔法を応用すれば誰にでも可能なんだけど?

「それで本当にいいの?」
「はい! 高望みはしません!」
活き活きとした声だな~。
彼女なりに考えているのね。

ただ、原因がわからないまま構造編集した場合、編集後のスキルがエラーを起こす危険性もある。もし、そうなったら簡易神人化して、私の力で編集後のスキルを削除しよう。神人となれば、多分【削除】だけなら出来るはずだ。

よし、早速とりかかろう。
ネルマの望みを叶えるとするならば、【HP自動回復】の【動】を利用しようか。

HP自動回復 →→○○○動○○ →→遠隔手動射撃

武器に自分の魔力を付与させてから、指定した対象に向けて射出する。スキル使用者が【魔力操作】スキルを用いて、射出された武器の軌道を自在に遠隔操作可能となる。

イメージとしては、こんなものかな。
このレベルなら、ノーマルスキルでも問題ない。
あとは、ネルマの腕次第だろう。
これで、タップだ!

《ピコン》
《【HP自動回復】が【遠隔手動射撃】へと構造編集されました》

よし、これで完了!

「ネルマ、治療完了だよ。新たなスキルを確認してみて」
「早!」

ノーマルスキル【遠隔手動射撃 Lv1】
武器に魔力を装填し射出後、対象に直撃させるまで自在に遠隔操作が可能となる。所持者の持つ剣・槍・弓などの【武器】スキルと【魔力感知】【魔力操作】スキル次第で、射出速度と遠隔操作時の速度が大きく変化し、また装填する魔力量によって威力も変化するので注意すること。

うん、【ミスマッチスキル】じゃない。

理想的なスキルに生まれ変わったようだ。現状のネルマであれば、短剣術を主体とする攻撃方法ならば、彼女の思い描いた通りの攻撃が可能になると思う。

「凄い! シャーロット様、凄いです! 本当にスキルが修復されて、別のスキルに変化しています!」

「シャーロット様、ネルマの病気は完治したのですか?」
ロザレーヌさんが恐る恐る聞いてくる。

「はい、完全治癒しました。ネルマは、間違いなく健康体です」

それを聞いてか、ロザレーヌ様もダナンザ様もアーバンも小刻みに震え、目からホロリと涙が溢れ出てきた。

「「「ネルマ!!!」」」
3人が一斉に、ネルマのもとへ向かう。

「お父様、お母様、お兄様! ネルマは完全復活しました!」

……うん、元気なのはいいことだ。

でもね、3人に笑顔を向けて右手でVサインを作るのは、子爵令嬢としてまずいんじゃないかな。そこは、家族で抱きしめ合うシーンでしょ?

ほら、あなたの令嬢らしからぬポーズを見て、3人がピタッと動きを止めたよ。

「お…おほほほ、あなた……わかっていますよね?」
ロザレーヌ様、コメカミ付近に血管をうかせたままの笑顔が怖いです。そして、何を仰りたいのかは私もわかります。

「当然じゃないか。このままでは…まずい。アーバンも、そう思うだろ?」
ダナンザ様も、同意見ですか。

「ええ、さすがに……これはちょっと……」
アーバンは2人の笑顔を見て、逆らっては駄目だと思い同意したようだ。

「え、何がまずいの?」
ネルマだけが、何もわかっていないようだ。
【遠隔手動射撃】に構造編集した行為は、早計だったかもしれない。


まあ……あとはクディッチス家の問題だし、私からは何も言わないでおこう。
学園に戻ったら、早速この件についてコウヤ先生と相談だ。
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