元構造解析研究者の異世界冒険譚

犬社護

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10歳〜アストレカ大陸編【旅芸人と負の遺産】

調査開始

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○○○ シャーロット視点

クディッチス家の庭は、普通の貴族達と大きく異なっている。庭のあちこちが砂漠化しているのだけど、砂漠と砂漠の間となる敷地内に、人が行き来できるよう小さな芝生の小道が設置されていて、小道のない場所には小石が敷き詰めつめられている。

しかも、砂漠している部分を箒か何かで丁寧に流線形を描かせることで、誰もが見惚れるレベルの立派な庭園と化している。形態でいえば、日本庭園に近いかもしれない。本来であれば、王都の中に砂漠化した土地を見ると、誰もが目を潜めるだろう。でも、ここでは【砂漠】と【庭】を見事に一体化させている。

気になる点があるとすれば、砂漠化している土地の形だ。人が寝転がったようなもの・子供の手形や足跡などが、いくつも見受けられる。試しに、構造解析してみよう。

【砂漠化した土地(人型)】
2年半前、ネルマが内緒で芝生に寝転がり日向ぼっこしたことで、接触面の土地の栄養分が彼女自身に吸い取られるか、もしくは外気に放出された。これによって、植物の生育が不可能となり砂漠化する。

ええ!?
この砂漠、ネルマさんが寝転がって出来たものなの!
接触しただけで、大地の栄養分を吸ってしまい砂漠化させたのか!

足跡の形となっている砂漠化した部分は、ネルマさんが自分の病気に気づかず歩き回った事で、発生したものだ。う~ん、他の箇所も似たようなものだ。

ウイルスや細菌感染で、こんな病気を発症しない。
これは、完全に呪い・スキル・魔法のいずれかに原因があるね。

「シャーロット様、フレヤ様、アーバン様のご友人オーキス様、クディッチス家へようこそ。私は、執事のソデムと申します。我が主人ダナンザ様、奥方のロザレーヌ様、長男アーバン様が本邸入口にてお待ちしております。御案内致しましょう」

25歳くらいの執事ソデムさん、Bランク上位くらいの強さだ。本邸内であろうとも、警戒を緩めていない。彼が私達の真上にいるカムイとムックを見た瞬間少しビクッとしていたけど、すぐに冷静さを取り戻している。

「カムイ、ムックと2人で本邸周辺を警戒しておいてね。怪しい奴がいれば、近接戦闘を行い殺さずに私のもとへ連行すること」

「了解。ムック、周辺をパトロールしようよ!」
「わかったわ。シャーロット様がいれば、我が主人も絶対安全だもの」

【海女】を編集した私がいることで、ムックの行動範囲が広くなっている。敷地内であれば、自由に行動できる。2人は和気藹々と、上空20m付近へ上がっていく。今回の仕事、外部からの攻撃があるとすれば、クディッチス家と敵対する家からの刺客だろう。カムイ達に任せておけば問題ない。

さて、ここからが私の仕事だ!

ソデムさんが本邸入口のドアを開けてくれると、そこには3人の人間がいた。
1人は、私達の友達であるアーバン・クディッチスだ。

「聖女シャーロット様、聖女代理フレヤ様、クディッチス家本邸へようこそおいでくださいました。当主ダナンザ・クディッチスと申します」

おお、アーバンは父親似だね。声の質感、実直そうな顔、私のお父様とは違ったタイプの貴族だ。ダナンザの着用している黒のスーツ、彼自身の容姿と実に合っている。

「妻のロザレーヌ・クディッチスと申します。聖女様が来られたというのに、このような服装で申し訳ございません。本日は、娘の治療のために来て頂き、誠にありがとうございます」

ロザレーヌ様は、お母様と同じタイプかな。心の芯が強く、少し教育にも厳しそうだけど、自分自身よりも夫や息子、娘のことを第一に考える女性に見える。ドレスとかではなく、軽装な装いとなっている。多分、何か事故か起きた時、迅速に対応するためのものだろう。

私も聖女として来たのだから、振舞い方も貴族でいこう。

「エルバラン公爵家長女、シャーロット・エルバランと申します。ご息女ネルマ様の件に関しましては、オーキスから聞いていおります。早速で申し訳ありませんが、いくつか疑問点もありますので、まずは詳細な症状を教えて頂けないでしょうか?」

クディッチス家にとって、私が最後の希望となる。
必ずネルマさんの病気を完治させてあげよう。

○○○

私達はリビングに通され、ネルマさんの症状を聞いた。病気の発症時期は約3年前、当時ロザレーヌ様やメイドが体調を崩しがちになり、何故か物品も壊れやすくなるという現象が頻発した。調査の結果、メイドの中でも体調を崩すのはネルマさん付きの者だけで、物品に関しても、彼女の触った物だけが壊れやすくなることがわかった。

ダナンザ様は悲しげで悔しげな表情をしながら、【原因はネルマです】と私達に断言した。

「当初、ネルマが触れたものに限り、【生物ならば生命力】を、【物体ならば耐久力】を奪うという症状で、本人もこの病気について自覚していませんでした。丁度5歳ということもあり、祝福を受ける時期も近かったので、我々は教会に行きネルマのステータスを確認しました。これで原因がわかると思ったのですが……」

その時期であれば、教会内にあるオーパーツ【ステータスチェッカー】の使用許可申請は必要ないね。あれを使用すれば、ネルマさんのステータスを他者でも見れる。

「何も記載されていなかった。ネルマは、まだ子供です。5歳の時点で病気について話したとしても、よく理解できないでしょう。だから、娘がせめて10歳になるまで病気について伏せておこうと思い、我々やメイド、使用人達が娘に触れられたとしても、決して怖がらず、いつも通りの振る舞いをするよう常々心掛けてきました」

性悪貴族なら、この時点でネルマさんを見捨てているよね。
良い人達だよ。

「半年間、何事もなく、家族団欒の日々が続きました。だが、我々はネルマの抱える病気を甘く見ていた。ほんの少しずつですが、症状が悪化していたのです。キッカケは土地の砂漠化、あれでネルマも自分の異変に気づいてしまった」

自分の寝転がった場所に発生した人型砂漠、自分の手形や足跡の形をした手足型砂漠を見れば、おかしいことに気づくか。当初、肌と接触した部位に限り、相手の生命力や物の耐久力を奪っていたけど、その効果範囲が少しずつ広がったことで、あの砂漠ができたわけね。

「初めは接触した者限定であったのに、今ではネルマを中心とする半径5m以内に侵入すれば、誰であろうとも生命力を奪います。この3年、我々は出来うる限りのことを行いました。しかし、何の成果も得られなかった。今では、お淑やかで可愛かったネルマの性格も変貌し、部屋からも出てきません」

状況は悪い方向へと進んでいる。
このままだと、ネルマさんの心が壊れてしまう。
早急に対処しないとまずい。

「シャーロット様、娘を……どうか娘を!」
「シャーロット様、夫も私も息子のアーバンも、使用人達もネルマを愛しております。娘のためならば、どんな無理難題なことでもやってみせます! どうか娘を!」
「シャーロット様、妹を助けてあげて下さい!」

ダナンザ様、ロザレーヌ様、アーバン、後方で待機している使用人達も私に頭を下げる。ネルマさんは、皆から愛されているんだね。

「わかりました。私の持つ全ての知識と経験を使って、ネルマさんの病気を治してみせます!」

頭を上げた人達全員から、笑顔が溢れている。
その分、私自身にプレッシャーがのしかかる!

構造解析スキルで、原因となるものが見つかれば良いんだけど。構造編集できなくととも原因さえわかれば、簡易神具で対応可能となる。でも、全くわからない場合、簡易神具に込める内容もかなり異なってくる。最悪、治らない場合もありうる。

ここからが本当の勝負だ。

「ダナンザ様、早速ネルマさんのいる部屋へ案内してもらえませんか?」
「わかりました。御案内しましょう!」

私達3人、ダナンザ様と使用人達を含めた5人が2階へと上がっていく。

《ミシ》

「シャーロット様、今何か音がしませんでしたか?」
フレヤの言った音、確かに私も聞こえた。

《ミシミシ》

「ほら、また!?」
この音の正体は何だろうか?

2階へと到達し、ネルマさんのいる部屋に近づくにつれて、音が目立つようになってきた。え……あれは? 

「ダナンザ様、あそこの壁のヒビ割れ、以前からありましたか?」
「は、ヒビ割れ?」

私の指差す方向には扉があり、そこから四方八方に細長いヒビ割れが生じている。

《ビキビキビキ》
あのヒビ割れ、少しずつ広がってない?
これって、アレの前兆では……

「あの…シャーロット様、途轍もなく嫌な予感がします」
フレヤの顔色が、どんどん蒼ざめていく。
わかる…わかるよ…この先の展開が。

「あ…はは…奇遇だね。私もフレヤと同じことを思っているよ」

手遅れになる前に、急いでダナンザ様に言わないと。

「なんだ、あのヒビ割れは? 昨日まで、あんなものはなかったはず」
「あなた! あそこはネルマの部屋よ! あの子の身に何か起きたのでは!?」
「大変だ! 父上、母上、行きましょう」

あ、私達3人以外の人達が一斉に走り出し、扉の方へ向かった!
やばい! 私とフレヤの思った通りなら危険だ!

「オーキスとフレヤは、ここで待機!」
「はい!」
「え? え? シャーロット、どういうこと!?」 

オーキスだけ意味がわからず、オロオロしている。
けど、ごめん! 説明している時間がないの!


ダナンザ様達がネルマさんの部屋へと入り、ワンテンポ遅れて私も部屋に入った瞬間、それは起きる。


ヒビ割れが部屋中の壁と床に《ビキビキ》と発生し、部屋全体が一斉に……崩壊した。
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