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4巻

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 5話 グレンとクロエに天罰を!!

 研究所跡捜索から三日後、アッシュさんとリリヤさんが、ついにスキル『魔石融合』と『エンチャント』を習得した。融合魔石の耐久度は、アッシュさんで189、リリヤさんで136だ。
 私はこの魔石に幻惑魔法『幻夢』を付与して、魔導具『幻夢のネックレス』を作り、二人に渡した。その際、アッシュさんとリリヤさんは、自分たちの力で苦労して新たな技術を身につけたためか、感慨深げに魔導具を見つめていた。
 ただ、『魔石融合』に関しては、クロイス姫から言われたことをそのまま伝えた。どうやらアトカさんにも同じことを言われていたらしく、二人は真剣な眼差まなざしで「秘密を厳守する」と誓ってくれた。
 次に、二人が誰に変異するかが問題となった。そこで、私は『持水もちみずかおる』の中学校の同級生だった男女を幻夢で投影し、「この二人はハーモニック大陸にいない人たちであるため、変異しても絶対に露見しません」と強く言っておいた。同級生の容姿は控えめなので、変異しても違和感はないはずだ。
 というわけで、二人にはその男女の魔鬼族版に変異してもらう。変異箇所は、顔と髪色だ。アッシュさんは茶髪なので黒髪に、リリヤさんは黒髪なので茶髪に変化させている。あとは、服装かな。ロキナム学園の制服とホワイトメタルの簡易着物なんか着ていたら、変異していても危ないので、大人たちから余っているごく普通の庶民服をもらい受けることとなった。
 今後、貧民街を出ても、この魔導具『幻夢のネックレス』を使用すれば、捕縛ほばくされる危険はない……と二人は思っているだろう。でも、幻夢を打ち破る方法はある。今のうちに注意しておこう。幸い、ここはアッシュさんの部屋だから安全だ。

「アッシュさん、リリヤさん、一つ注意しておきますね。『識別』というスキルを所持していれば、幻惑魔法『幻夢』の一部を打ち破れます」
「え、せっかく作ったのに!?」
「リリヤ、シャーロットは幻夢の一部を打ち破れると言ったんだ。まず、話を聞こう」

 うんうん、魔導具を完成させたばかりなのにごめんね。

「例えば、犯罪者がどんな変装をしていようが、その中身である悪の本質を変化させることはできません。スキル『識別』は、相手の魔力や魂の質を識別することで、相手が完璧に変装していても、悪人か善人かを見極めることが可能なのです。またそのスキルの所持者は、変装前の相手と一度でも接触し、魔力や魂の質を覚えていた場合、変装後の相手を一目で見破ることができます。ただし、両者のスキルレベルによって、識別できる場合とできない場合があります。また、幻夢で変異した姿が解除されるわけではありません」

 二人とも、ポカーンとしている。

「シャーロット、アトカさんとイミアさんは、今も何事もなく変異して生活しているけど?」

 アッシュさんが、その点を疑問に思うのも当然だ。私なりの仮説を話してあげよう。

「アッシュさん……スキル所持者の中に、お二人の知り合いがいれば、一発でバレます。アトカさんが変異してから五年、誰にもバレていないのは、おそらく『識別』スキルを所持している人が極端に少ないせいでしょう」
「確かに、僕も『識別』というスキルを聞いたことがないし、学園でも習っていない。多分、ジストニス王国の誰も知らないんじゃないかな?」

 このスキル、古くからあるものなんだけど? なんで知られていないの? 魔力や魂の質を見極めようとする人がいないのかな?

「お二人とも、『識別』スキルを習得しておいた方がいいです。今後、重宝するでしょう。このスキルの習得条件は簡単なので、今からお教えします」

 この日、私はアッシュさん、リリヤさん、アトカさん、イミアさん、クロイス姫の五人に『識別』スキルを教えた。無論、私も習得しておいた。
 習得時、アトカさんとイミアさんとクロイス姫の持つ魔力系の基本スキルのレベルが一つか二つ上がり、三人とも大喜びしていた。その反面、アッシュさんとリリヤさんのスキルレベルは上がらなかったため、ややガッガリしていた。経験の積み重ねもあるから、二人のスキルレベルもじきに上がるだろう。
 次に、クロイス姫を除く四人には、『マップマッピング』スキルについても教えた。習得するには、魔力波を理解する必要があったので、わかりやすく説明しておいた。『識別』と違って、さすがにこちらの方は今日一日で誰も習得できなかった。
 私が魔力波について講義している際、アトカさんとリリヤさんの二人は眠そうにしていたし、アッシュさんとイミアさんは真剣に聞き、色々とメモをとっていたけど、完全には理解できなかったようだ。だから、私は発破はっぱをかけるべく、ある情報を四人に教えてあげた。

「魔力波を扱えるようになれば、魔法『真贋』が使用可能となります」

 無属性魔法『真贋』消費MP3
 魔力波を利用することで、物品が本物か偽物かを見極めることが可能となり、真の情報を知ることができる。人に使用した場合は、相手の真実の姿やステータス内の基本能力値、魔法、スキルが観察可能となる。この魔法を継続利用したい場合は、消費MP20で一時間、ただし数に関係なく情報を知ることができる。


「魔法『真贋』は、ユニークスキル『構造解析』の下位互換です。ぶっちゃけ、『識別』スキルよりも、こちらの方が圧倒的に有能ですよ。偽装されたステータスも簡単に見抜けますしね」

 というと、四人全員が目を見開き、魔力波について色々と質問してきた。無属性魔法であるため、全員が習得可能だから、皆のやる気に火がついたようだ。これから魔力波について、必死に勉強していくだろう。クーデターを少しでも有利に進めていくため、私の知識の中で有効利用できるものがあれば、少しずつ教えていこう。


         ○○○


 翌朝、私はアッシュさんとリリヤさんとともに、貧民街を出た。二人の変異は完璧だ。私のお墨付すみつきがあるせいか、二人の挙動に不審さはない。
 今日、アッシュさんはリリヤさんとデートをする。
 バルボラ戦で活躍したリリヤさんの願いが、アッシュさんとのデートだったのだ。二人の初デートを邪魔するわけにはいかないので、私はアッシュさんから魔刀『吹雪』を受け取り、ロキナム学園におもむいた。アッシュさんには、「魔刀『吹雪』をアルバート先生に渡しておきます」とだけ言っておいた。本当の目的は、グレンとクロエに天罰を与えることだ。
 そして現在、私はロキナム学園正門入口の警備員さんの計らいで、職員室の中にある客室に案内してもらい、その後授業中のアルバート先生を呼び出してもらった。

「アルバート先生、授業中呼び出してしまい、申し訳ありません」
「いや、それは構わないよ。当然、要件はアッシュのことだろう?」

 アルバート先生も、私が何を求めているのかわかっているんだね。

「はい。まずは、これをお返しします」

 私は、マジックバッグから魔刀『吹雪』を取り出した。

「これは……魔刀『吹雪』!? 入手できていたのか!!」
「アッシュさんが学園を訪れた際、これを先生にお渡しする予定でした。それをあのグレンが……魔導具盗難事件に関しては、アッシュさんから全てを聞いています。どう考えても、真犯人はグレンです」

 アルバート先生もわかっているのか、申し訳ない表情を私に見せた。

「シャーロット、この魔刀『吹雪』は、私が責任をもって学園長に渡しておく。魔刀『吹雪』と魔導具盗難事件には、学園長も私も、グレンが絡んでいると思っている」
「だったら……」

 アルバート先生は、ゆっくり首を横に振った。

「魔刀『吹雪』の件は、関与したクラスメイトたちが退学覚悟で話してくれたおかげで、アッシュの容疑は晴れた。今回、アッシュが彼らのことを思い、罪を被ったこと、そして彼らがアッシュのことを思い、勇気をもって発言してくれたことを考慮し、学園長の計らいで、彼らには反省文を書かせるだけで終わった」

 あの人たちが罪悪感に負けて、正直に話してくれたんだ。その行為は、私も嬉しい。彼らの処分が反省文だけというのは、いささか軽い気もするけど、何も言うまい。学園長も今回に限り大目に見てくれたのだろう。

「そして、肝心の魔導具盗難事件、事件の真犯人は君の予想通り、グレンだろう。だが、物的証拠がアッシュの部屋で見つかっている以上、犯人はアッシュとなってしまう。実は私も過去のグレンの動向をチェックしたところ、盗難事件の四日前に魔導具『ソナー』を魔導具保管室へ返却したことになっている。おそらく、そのときに盗んだのだろうが……証拠がない。本人に詰問したが、『そんなことはしていません』の一点張りだ」

 まあ、自分の罪を認めるわけないよね。認めれば、極刑になりかねない。

「それなら呪いの指輪については?」
「その件に関しては、グレンもクロエも認めた。二人がアッシュに強く嫉妬しっとし、うらんでいることもね。当時、二人は、アッシュに『自分たちの苦しみを少しでも知ってほしい』という軽い気持ちで、呪いのことを伏せて指輪を贈ったそうだ。呪いが強力で、アッシュの努力したもの全てが自分たちに還元されることを知り、グレンもクロエも優越感に浸ってしまった。二人の嫉妬しっとうらみが消えれば、呪いも解呪されることを知っていたが、その特性を利用したまま、今に至っている」

『構造解析』で得られた解析データと、おおむね同じか。

「アッシュが指名手配されて以降、二人には『呪いの件』を口実に、二週間学園地下にある指導室で生活するよう言い渡してある。指導室というのは、実質牢屋ろうやのことだ。これで魔導具盗難事件について自白すると思ったが、自分たちはその件に一切関わっていないと言い切っている」

 指輪の件は、既に解呪されていることもあって、言い逃れできないと思い、きちんと話しているけれども、魔導具盗難事件の方は何があっても認めないつもりか。

「すまない。クロエはともかく、状況から考えて、グレンが真犯人なんだろうが……」

 アルバート先生も、アッシュさんの無実の罪を晴らせないことがくやしいのだろう。さて、最後の仕上げをする前に、二人に確認しておこう。

「アルバート先生、二人のいる指導室に行ってもいいですか?」
「それは構わないが?」

 私とアルバート先生は職員室を離れ、そのまま地下の指導室へ直行した。指導室というネームが貼られているドアを開けると、左手に三つの牢屋ろうやが見えた。

「「シャーロット!?」」

 グレンとクロエは、別々の牢屋ろうやに入れられていた。二人とも、私の顔を見るや否や、顔面蒼白となっている。
 まずは、グレンとクロエを構造解析だ。……あちゃあ~、アッシュさんが指名手配された件は、半分私のせいだね。呪いの指輪の件がアッシュさんに露見したけど、あの時点で、アッシュさんが劣等感を持った二人に対し、そのことについての謝罪をしていれば、グレンは魔導具『ソナー』を保管室に戻すつもりだった。仮に盗難が発覚しても、どこか別の部屋へ移動させるつもりだった。自分で呪いをかけた相手に謝ってもらおうって考えは賛同できないけどね。
 でも、そのときに起こった魔刀『吹雪』破壊事件と私の『威圧』で、グレンはアッシュさんを退学におとしいれようと心に決めたんだ。特に、最後に実行した私の『威圧』が、決め手となったのか。
 グレンの中に、私に対する言い知れぬ不安感が芽生えてしまい、後先考えず、あの暴挙に出た……というわけか。クロエの方はアッシュさんに対して、嫉妬しっとと同時に深い罪悪感もある。盗難事件の際、グレンのおどしに屈し加担したらしい。

「お久しぶりです。アッシュさんからここで起きた出来事を聞きました。現在、彼は逃亡生活を続けています。お二人には、罪悪感というものがないんですか?」
「呪いの指輪に関しては、正直すまないと思っている。けど、俺たちは盗難事件に関与していない」

 グレン、ムカつく!! 本当に、罪悪感のカケラもないよ。

「あくまで、自分たちは無関係だと言い張りますか。これが最後の警告です。ここで自白すれば、私はあなたたちに対して、何もしません。しかし、認めないのであれば、私がアッシュさんの代わりに天罰を与えます」
「「「天罰!?」」」

 グレン、クロエに、アルバート先生まで天罰と聞き、驚いている。さて、この言葉をどう捉えるかな?

「ふん、俺たちをおどして、盗難事件の真犯人に仕立て上げようとしても無駄だ。アッシュが犯人なんだよ!!」
「グレン、もう……」
「クロエは、黙ってろ!!」

 この二人、特にグレンはもうダメだね。

「そうですか。正直にしゃべる気はありませんか。ならば……」

 グレンの所持スキルは、『魔力感知』『魔力循環』『魔力操作』『身体強化』『危機察知』『気配察知』『気配遮断』『剣術』『短剣術』『体術』『足捌き』『俊足』『聴力拡大』『暗視』……他にもいくつかある。彼は近接戦闘を得意としているようだ。くくく、それならば――


 暗視→○視→近視(遠くのものが見えにくい)
 聴力拡大→○力○○→威力半減(全ての攻撃力が半減する)
 気配遮断→気配○○→気配漏出(どこにいても、気配がダダ漏れ)
 身体強化→身体○○→身体清掃(身体が綺麗きれいになるだけ)
 足捌き→足○○→足転倒(戦闘時、十歩以内に必ず転ぶ)
 俊足→○足→鈍足(戦闘時、敏捷数値が本来の三分の一に低下する)
 短剣術→○○術→掃除術(屋内掃除『無生物限定』の精度と速度が向上する)


《以上の七項目を構造編集しますか?》

《はい》にタップだ。

《七つのスキルを構造編集しました》

 これでグレンは、近接戦闘系に不向きとなった。もしかしたら、冒険者として活動できないかもね。次にクロエだけど、リリヤさんと似たタイプだ。どう編集しようかな? 彼女はアッシュさんに対して、かなり罪悪感を抱いているようだし、反省もしている。ならば――


 アイスボール→○○○ボール→テニスボール(*)
 ファイヤーボール→○○○○○ボール→バスケットボール(*)
 短剣術→○○術→占星術(星の動きを見て、未来を占う)
 かかと落とし→○○○落とし→グレン落とし(グレンへの怒りが頂点に達したとき、力がみなぎり、どんな障害物も破壊して、必ずグレンのもとに辿たどり着く。そして、その場でグレンに秘技『ブレーンバスター』をかます)
 詠唱短縮→○唱○○→歌唱低下(音痴になる)


 彼女は反省しているようだし、この程度にしておこう。これなら、今後冒険者としても活動できるだろう。勝手にくっついた(*)が気になるところだけど、これで構造編集だ!!

《五項目を構造編集しました。なお、今後彼女の水魔法は『テニス魔法』、火魔法は『バスケット魔法』となります。水と火の属性の魔導具を装備した場合も、強制的にテニス魔法とバスケット魔法へ切り替わります》

 あれ!? クロエの水魔法と火魔法が、おかしなことになってしまった。(*)は、対応する属性全体に影響を与えるという意味だったのね。訳のわからん魔法になったけど、天罰だからいいか。

「おい、なぜ黙っているんだ?」

 おっと、グレンからクレームが入った。

「ああ、すみませんね。あなた方に与える天罰の内容を決めていたんです。たった今、天罰を執行しました」
「天罰を執行した!?」

 グレンは、周囲をキョロキョロと見回している。クロエとアルバート先生も、何かが起こると思ったのか、グレンと同じ行動をしている。

「何も起こらないぞ?」
「グレンさん、目で見えるものが天罰とは限りません。私がこの部屋を出てから、自分たちのステータスを確認してください。それで、全てがわかります」

 さあ、最後の仕上げといきますか。グレンとクロエの二人を少しだけ威圧しよう。

「「っ!!」」
「グレン、クロエ? どうかしたのか? これは……空気が変わった?」

 二人の顔色が真っ青となり、全身が震え出した。

「グレンさん、クロエさん、私はあなたたちの行為を絶対に許しません。特にグレンさん、あなたはクロエさんと違い、反省の色が全くない。今この場で殺すことも可能ですが、私がアッシュさんにうらまれます。だから、あなたたちに天罰を与えました。ステータスを見ても理解できないかもしれませんが、日を追うごとにわかるようになります。そして、それはどんなに努力しても、絶対に解けない呪いでもあります。私の大切な仲間を傷つけたこと、一生後悔するがいい!!」

 ここで『威圧』を解く。二人は解放された途端、膝から崩れ落ち、息を激しく乱した。

「私の仕事は終わりました。これで帰らせてもらいます」
「シャーロット!!」

 私が指導室から出ていくと、アルバート先生も少し後になって出てきた。

「アルバート先生、多分グレンとクロエは近日中に自首します。ただ、たとえ二人が自首しても、アッシュさんの指名手配は解除されないでしょう。なぜならば、アッシュさんが残り一台の魔導具『ソナー』を持っているからです。どんな経緯があろうとも、騎士団はアッシュさんを窃盗犯せっとうはんとして捜索すると思います」

 たとえ、アッシュさんが魔導具『ソナー』を持って騎士団に自首したとしても、前科が付くだろう。グレンにめられたとはいえ、彼自身が魔導具『ソナー』を学園外に無断で搬出したことになるのだから。故意ではなくても、犯罪となってしまう。グレンほどではなくとも、なんらかの罰を与えられるだろう。それに、もしエルギスやビルクがこの件に絡んでくれば、アッシュさんの身が危険になる。自首という手段は悪手だろう。

「私や学園長が擁護すれば、おとがめなしになるはずだ!!」
「新型魔導具の盗難ですよ? おとがめなしにできますか?」

 アッシュさんの指名手配を穏便に解除させるには、アルバート先生の力が不可欠だ。彼や学園長が騎士団に対して擁護してくれれば、もしかしたら……

「なんとしても、アッシュの罪だけは晴らすさ。ただ……シャーロット、君はグレンとクロエに……何をした?」

 そこは、当然気になるよね。

「天罰を与えました。私が学園から去った後、二人の様子を見に行ってあげてください。そこで、私が何をしたのかもわかります」
「あのとき……君は二人を威圧したね。一瞬だが君の途轍とてつもない魔力を感じた。君は、一体何者なんだ?」

『威圧』の際、魔力が瞬間的に外に漏れてしまったか。ここはにごしておこう。

「私は仲間を大切にしています。その仲間を傷つける人は、誰であろうと許しません。それさえなければ、私は普通の七歳の子供でいられます。私の用事は終わりました。今後、グレンとクロエには、大きな災難が訪れます。アルバート先生、二人のことをよろしくお願いします」

 アルバート先生ならば、グレンとクロエを見捨てないだろう。

「……わかった。二人のことは、私が責任をもって面倒見よう。アッシュの指名手配についても、我々に任せたまえ。シャーロット、アッシュのことを頼んだよ」
「はい」

 うん、やっぱりこの人は信用できる。アルバート先生に見送られて、私は学園を後にした。
 魔導具盗難事件も、これで一応の決着がついた。もし、グレンとクロエが自白し騎士団に連行されたら、学園の不祥事ということで、近日中に新聞に掲載されるだろう。自白しなかった場合でも、自分のステータスを見て天罰の意味を理解するだろうから、嫌でも反省するはずだ。アッシュさんもいずれ今回のことに気づくだろうけど、今はそっとしておこう。何はともあれ、これで私の心もスッキリだ!!



 6話 グレンのあやま


 ネーベリック襲撃事件、当時グレンたちは七歳だった。俺、クロエ、アッシュの両親はネーベリックに食べられた。あのとき、俺たちは何もできなかった。自分の力のなさをなげいているだけだった。
 事件後、俺たちは同じ孤児院出身の冒険者を頼り、強くなるべく訓練を重ねていった。
 魔法に関しては、訓練を開始してから一週間ほどで魔鬼族全体が封印されてしまったものの、そのたった一週間で俺たちとアッシュとの間に、実力差ができていた。
 俺とクロエは、二つの初級魔法を習得した。それに対して、アッシュは四つだ。あいつは才能のかたまりだ。魔法が封印されると、次はスキル面を重点的に鍛えていったが……気づけば、アッシュは周囲の大人たちから『神童』と、一緒に訓練している俺とクロエは『落ちこぼれ』と呼ばれるようになってしまった。
 ふざけるな!! 俺たちだって、アッシュに追いつこうと必死に努力し、年齢相応の強さは身につけていたんだ。にもかかわらず、なぜ『落ちこぼれ』扱いなんだ!! アッシュはアッシュで俺たちの苦悩を知ることなく、普通に話しかけてきやがるから、余計に腹が立った。
 ……くやしかった。アッシュの上から目線、自分自身の不甲斐ふがいなさ、俺もクロエも毎日毎日苦しんだ。そして、『アッシュを見返したい!!』という思いが、日に日に強くなっていった。そんなとき骨董屋で見つけたのが、呪いの指輪だ。学園の授業や図書館の本で習っていたこともあって、その指輪が魔導具であることをいち早く理解できた。ただ、どんな効果があるのか、それがわからなかった。けれど、指輪を手に取った瞬間、指輪の情報が頭に流れ込んできた。そして、あの計画を思いついたんだ。

「クロエ、これをアッシュの誕生日プレゼントにしようぜ」
「グレン、本気なの!? 呪い……」
「静かにしろ。店主に聞こえるだろ? 神童呼ばわりされ調子に乗っているアッシュには、クロエもムカついていただろ。あいつには、罰が必要なんだ」
「確かに腹は立っているけど……アッシュには、良い薬になるかな?」

 俺とクロエは、アッシュの誕生日プレゼントとして、呪いの指輪を贈った。魔導具の名称を『祝福の指輪』と偽ったことで、あいつはなんの疑念も持たず指輪をめやがった。呪いの指輪をめてから、あいつのステータスが上がらなくなった。
 そして情報通り、奴が指輪をめて二年間、俺たちのステータス、スキル、魔法は自分たちの努力も加算され大幅にレベルアップした。今では、俺とクロエの力量は、同学年のトップレベルにまで至った。
 それが……だ。シュルツとの模擬戦の際、唐突に身体に違和感を覚えた。身体の動きが急ににぶくなり、シュルツの剣捌けんさばきについていけなくなった。そして目覚めると、すぐ横に青白い顔をしたクロエがいて、俺にこう言ったんだ。

「グレン、アッシュの呪いが解呪された。あいつは呪った相手も、呪った理由も理解していたし、既に……アルバート先生に報告している」
「え……なんだっ……て」

 俺は咄嗟とっさに自分のステータスを確認した。すると、110くらいあった基本能力値が50~60にまで低下していた。俺とクロエは、反射的にその場から逃げた。これからどうすべきか、かなり悩んだ。呪いが解呪されたということは、またあの日々が繰り返されるということだ。それだけは、絶対に嫌だった。そんなとき、教室にいるクラスメイトたちが、何やら騒いでいることに気づいた。
 話を聞いたら、学園長から借りている魔刀『吹雪』を壊してしまったらしい。再度組み立てたらしいが、俺が見た限り、魔刀『吹雪』に以前のような輝きは見受けられなかった。その瞬間、『これを利用できないか?』と思ったんだ。クラスの連中は、アッシュの呪いが解けたことを知らない。だから、俺はクラスメイトたちにささやいた。

「全ての責任をアッシュに被せよう。あいつはダンジョンから戻ってきて、訓練場にいる。あいつは変に優しいから、罪を被ってくれるはずだ」

 当初、クロエを含めた全員が反対した。しかし、俺が『退学』という言葉をチラつかせたことで、全員の心が折れた。そこからは俺の思惑通りに事が進んだが、一つ気掛かりがあった。アッシュの連れの女の子だ。名前はシャーロット。あいつは俺たちを見るなり、魔刀『吹雪』破壊の原因を正確に言い当てた。これには俺だけでなく、他の連中も驚き、何も言えなくなってしまった。
 予想外のことが起きたものの、アッシュはCランクのランクアップダンジョンに挑戦することとなった。解呪されたばかりのあいつなら、絶対に途中で力尽きる。俺は内心ニヤつきながら、訓練場から去っていくアッシュとシャーロットを見ていたが、不意にシャーロットが振り返った。
 その目は『あなたたちは、全てを知っている。なぜ、真相を話さないの?』と語りかけてくるかのようだった。そして唐突に、何か得体の知れない重圧が俺にのしかかった。あまりの重さに耐えきれず、俺は気絶した。あのときの重圧、あれは間違いなく『威圧』だ。保健室で目覚めた俺は、言い知れぬ不安に襲われた。魔刀『吹雪』を探し出すのは不可能……なはずだ。でも……もしかしたら……保健室を見渡すと、周囲にはクロエしかいなかった。

「クロエ……予定変更だ。あの魔導具、アッシュが盗んだことにするぞ」
「な……正気!? 呪いの件は、もうアルバート先生にバレているのよ!! 私たちが疑われるに決まってる!!」

 危険なのは、百も承知だ。

「お前は、あの日々が繰り返されることになってもいいのか? また、アッシュと比較されるんだぞ?」
「そ……それは……嫌だけど……国から借りている魔導具を盗んだ場合……最悪『奴隷どれい落ち』になる。私は……アッシュのことを……そこまでにくんでいない」

 クロエは優しいところもあるから、罪悪感を抱いているのか。
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