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《シャーロットが帝王となった場合のifルート》第2部 8歳〜アストレカ大陸編【ガーランド法王国
神ガーランドの目的
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ここは、何処だろうか?
確か、カムイがガーランド法王国でやらかして、私はマリルにお仕置きされたんだ。でも、そこから先がわからない。まさか、私の意識がお仕置き中に途絶えたの?
いくらなんでも急すぎる!
どう考えても、ガーランド様の仕業だ!
あの神、どれだけ私に干渉する気なんだよ!
今日という今日は許さん!
絶対にお仕置きしてやる!
今いるこの空間、上には青空、下一面に分厚い雲があり、私は雲の上に立っている。私の視界には、50m程先に3人の人物がいる。1人はミスラテル様、もう1人は正体不明、残る1人はミスラテル様より少し後方にいるのだけど、薄いベールで覆われているからか、シルエットしか見えない。
とりあえず、あそこまで歩こう。
え……この神力の気配は……正体不明だと思っていた人物は、ガーランド様なの?
「せ…正解だ、シャーロット」
嘘、本当に!? 近くまで来てわかったけど……あのイケメン顔が、見るも無残な形へと変型している!
しかも、ガーランド様から感じる神力が、妙に弱々しく感じる。
一体、ここで何が起きたの?
「ち…地上の…者達に…干渉しすぎて……後方にいるお方から、罰を受けた」
私は、言葉を失った。今回、この神は私に嘘をつき、様々な形で地上に干渉してきた。だから、次に会った時、【絶対お仕置きしてやろう】と思ったんだ。再会した時点で、既にお仕置きされ、顔も身体も服も心も……全てがボロボロとなっている。まるで、奴隷のようだ。あのガーランド様を、どうやってここまで痛めつけたの?
後方にいるお方?
シルエットしか見えないのに、あの方を深く意識すると、私の存在が押し潰されそうな圧迫感を感じる。私の身体が、これでもかというくらい震えている。こんなことを思ったら不敬だけど、ガーランド様と違い、冗談が通じない神様だ。
「シャーロット、これ以上、あの方を必要以上に意識してはいけないわ」
ミスラテル様は、いつもと同じで清楚で可憐なお姿だ。言われた通り、私の意識をミスラテル様とガーランド様に集中しよう。
「ふふ、ありがとう」
「ミスラテル様、後方…にいる…お方は…」
名前を言っただけでこれなの?
身体が強張って、次の言葉が出てこない。
「そうね。名前だけは教えておきましょう。あの御方は、【天尊輝星(テンソンカガホシ)】様と仰るの。地球では、星を司る神様として祀られており、日本神話にも少しだけ登場しているわ。【ガーランド】は1つの惑星を管理する上級神、私もガーランドと同じ力を有している。【天尊輝星】様は宇宙に散らばる上級神を管理する役割を持っており、神格としては最上級であらせられるの」
テンソン…カガホシ様? 聞いたことが…ない。
日本神話に…そんな神が登場したかな?
神格の中でも中級に位置する【厄浄禍津金剛】は、惑星ガーランド内でイタズラしたため、上級神ガーランド様やゼウス様にお仕置きされた。そのガーランド様は、自分の管理する惑星において、度重なる干渉を行なったせいで、最上級神【天尊輝星】様にお仕置きされたということなの?
あれ? ちょっと待てよ?
宇宙って広大だよね?
いくら上級神を管理する神様でも……ガーランド様が地上にいる特定の人物に対し、過度に干渉していることをどうやって知ったの? この宇宙の中に、惑星を管理する神って、いっぱいいるよね? それらの中には、合法的な意味で干渉を行なっている神だっているはずだ。
「シャーロット…内部告発だ。全ての精霊達…クックイスクイズを担当するカクが中心となって…私を裏切り…あの方に…通報したんだ」
ガーランド様からまさかの発言!
内部告発!? しかも、カクさんが中心!?
というか、精霊様がどうやって最上級神に通報したの?
「厄浄禍津金剛を…ゼウスに引き渡した後…ミスラテルはちょくちょく私のもとへ訪れた。…その際、私の知らぬところで、精霊達が彼女に…私に対する不平不満を訴えていたんだ。ミスラテル自身も、私の様子がおかしいことに気づき、精霊達から告発された内容も含めて、あの方に通報した」
カクさん率いる精霊軍団の御乱心か~。
まさか、ミスラテル様に告発するとはね~。それで、最上級の天尊輝星様自らがここに来られたんだ。う……少し慣れたけど、必要以上に意識すると、本当に消えかねないから、せめて挨拶だけはしておこう。
「天尊輝星様、シャーロット・エルバランと申します。ガーランド様にお仕置きして頂き、ありがとうございます。ガーランド様から、これまでの経緯をお伺いさせてもらいます」
ふう…これが限界。意識をガーランド様に向けよう。
「シャーロットは、神の領域に1歩踏み込んだ存在なのだが、あの御方に挨拶できるだけ、相当胆が座っている。弱い神は、その挨拶だけで、心が折れる」
褒められている気がしない。
「ガーランド様、話を進めましょう」
既にボコボコ状態だけど、私自身も彼にお仕置きしたい。
とりあえず、私に干渉してきた理由を知りたいから、話だけでも聞こう。
「すまない……そうしてもらえると助かる。シャーロットが帰還して以降、私はずっと君の動向を伺っていた。しかし、それと同時に、ミスラテルがずっと私を監視していた。私はその監視に気づかないまま、ずっと君や仲間達を干渉し続けた。カクをガーランド法王国の王都に呼び寄せて以降、あの方も近くにおられたようだ。監視されているとも知らず、私は想定通りに、事が運んでいることで、内心ほくそ笑んでいた。しかし、カムイがガーランド法王国でやらかしたところで、あのお方がお怒りになり、私の前に姿を現した」
あれは、ついさっき起きた出来事だ。
あの一瞬で、ガーランド様はボコボコにされたんだ。
「ぎゃ!!!」
「え? ガーランド様?」
もしかして、あの方にお仕置きされた? さっきよりも、悲愴感漂う悲惨な姿に変身したよ。お仕置きの瞬間が、全く見えなかったんですけど!?
「すまない…順を追って説明しよう。君は厄浄禍津金剛の脅威から、この惑星を護ってくれた。その際、君に対する御礼が不十分だと、私は感じたのだ」
不十分? 前払いの様な形で、【簡易神人化】と【簡易神具製作】を貰えたけど、御礼として十分でしょ?
「シャーロットの次の目標は、【アストレカ大陸における歴史改竄問題】と、【4種族と魔人族との軋轢を無くし和解させること】。君がエルディア王国へ帰還して以降、私はその目標を達成させやすいよう、ずっと君を見守っていた」
ついさっき、似たセリフを聞いたけど怖いよ! ストーカーかよ!
あれ? 今、あのお方が頷いた様な?
「まずは聖女帰還パーティー、私は良かれと思って、君に次のやらかしまでの秒数を教えてあげた」
「そんなお節介いりません! あれで、余計混乱しました!」
ガーランド様の表情が、全くわからない。顔が変形しすぎていて、何処か怖い。
「う…次に、君のやらかし回数を軽減させるため、やらかしの限度回数を設定した。従魔によるやらかしも、その主人であるシャーロットに加算されるように仕向け、ステータスも大きくダウンするというペナルティーを付与させれば、さすがの君でも早々暴れないだろうと踏んだ」
その行為自体がやりすぎだ! そのせいで、私自身も必要以上に気を配る羽目になってしまった。かえって、行動を制限させていることに気づけ、このストーカー神!
「スト……念のため、君の仲間全員や家族達に、シャーロット専用お仕置きスキルを与えた。全ては君のためなんだ」
「その思いはありがたいですけど、無闇にポンポンとスキルを与えすぎなんですよ! 家族はわかりますけど、知り合いや仲間全員に与える必要ないでしょ!? それに、あんな制限やお仕置きスキルがなくても、きちんと自分で制御できます! もっと私を信じてください!」
これらの行為は、全て【お節介】に入るよ! 私自身がハーモニック大陸で何度もやらかしているから、さすがにアストレカ大陸に帰還してまでやらかさないよ。しかも、判定基準がイマイチ理解できないしね!
「……すまない。次に、少し先の未来で、ガーランド法王国が魔人族によって滅ぼされることがわかった。このままだと君の目的が達成できないと思い、カクにこの国の王都を、クックイスクイズのチェックポイントにするよう命じた」
やっぱり、あれもあなたの仕業か! カクさん達精霊は、ガーランド様の命令に逆らえない。タイミング的にも、おかしいと思ったんだ!
「ガーランド様、あなたは厄浄禍津金剛のせいで、遠い未来が見えなくなったと言いましたよね? 近未来であっても、滅んだ先の展開をきちんと視ましたか?」
「う…【視ていない】というよりも、【視えなかった】」
未来視が不完全じゃないか! なんで、その状態でカクさんを動かすの!
「クックイスメンバーであるトキワさんをわざと怒らせて、両陣営を共倒れにさせたのも、あなたの計画ですね」
「ああ……その方が被害を最小限に抑えれるし、シャーロットもあの国へ行きやすいと思ったのだ。挑戦者達全員がリタイアを宣言したことで、クックイスクイズを中止させる自体に陥ったが、全て私の思惑通りに進んだ」
カクさんはトキワさんを怒らせるため、【ヘキサゴンメダルの捜索】を利用した。命令通り、事が運んだものの、その代償として、クックイスクイズ自体が崩壊した。だから、怒り心頭となり、精霊達を率いて内部告発に踏み切ったんだ。
ていうか、どれだけ地上に干渉してるのよ! それなら、黒幕でもある隠れ魔人族達の魔法やスキルを無くすなり、封印なりすればいいじゃん!
それで、亡者の反乱を未然に防げるでしょ!
「……すまない。ただ、私は君のことを想って……ぎゃ!!!」
なるほど……全ては私を想っての行動か。他者の思惑などお構いなしに、私の目標を達成させやすくするため、ず~っと干渉していたと。
まさかとは思うけど…いや神に限って、それは……【恋は人を盲目にする】というけれど、神様もそれに近い形で盲目になったのだろうか?
え……後方にいるお方が頷いた!?
嘘でしょ!?
神が、8歳の幼女に恋したの!?
だから、私ばかりに、都合のいい展開が起きているの!
あ、また頷いてくれた。
「ガーランド様、あなたの思惑通り、私の目標に関しては、半年以内に達成するかもしれません。ただし、あなたが過度に干渉したせいで、ガーランド法王国の獣人と隠れ魔人族が、大変な目に遭いました。特に、隠れ魔人族の長なんか、200年かけて計画した亡者の侵攻が数時間で終わった所為もあって、ショックで気絶して、未だに回復していません」
長が、一番の被害者だよね。
「今回の干渉において、唯一感謝しているのは、私の親友でもあるリーラが生きてくれていたことです。それに関しては、本当に感謝しています。しかし、これ以上私の人生に干渉しないでください。今後、友人が死ぬ危険性もあるでしょう。しかし、それは運命だったと受け入れるつもりです。精霊様に怒ったりもしません。今回、あなたが私や私の仲間に対し、過度に干渉したことで、他者の人生が大きく狂ってしまった。地上にいる人々は、神のオモチャではありません。今回、私自身も、あなたの振る舞いに怒りを感じています。神は、地上の人々に干渉してはいけないのです!」
「シャーロット……」
う、何故だろうか? 凄く悲しそうな表情をしている気がする。
「シャーロット・エルバランの生が終わったら、またここに来ます。その時、いっぱい、いっぱいお話ししましょう。人の生なんて、神様に比べれば些細なものでしょ? 私が魂となって、ここに戻ってくれば、転生の道もありますし、あなたと共に惑星を管理していく道もあります」
私の言葉に、ガーランド様の目が、カッと見開いた。
「そう…だな。私としたことが、大切なことを見落としていた。これからは、干渉しないことを誓おう。私は、人の生に過度に干渉したことで、天尊輝星様から罰を受ける。約10年程、この惑星を離れないといけない。私が戻ってくるまでの間、ミスラテルが一時的にこの惑星を管理することになる」
ミスラテル様が!?
「シャーロット、ガーランドが戻ってくるまで、私がこの惑星を管理するわ。ただ、私は上級神だけど、転生を司る神だから、少し経験不足なの。今後、精霊達と協力して管理していくことになるわね」
ガーランド様、他の神々にも迷惑をかけるとは……罰を受けて当然だ。10年間、しっかりと罰を受けて、神としての威厳を回復させてほしい。
「ミスラテル様、何か困った事態が地上で起きた場合、私に連絡してください。転移魔法もありますから、すぐに対応できると思います。ガーランド様がいない間、私達がこの惑星を護りましょう!」
手始めに、アストレカ大陸で起きた事件を完全解決させないとね。
「ええ、頑張りましょう。手始めに、【3回やらかしたらペナルティー発生】というやらかし制約やマリルの制約を破棄させてもらうわね。あんなものがあったら、あなたも動きにくいでしょう。それと……シャーロットが疑問に思っているやらかし判定だけど、システムから除外しておくわ。これも、仲間達で判断すればいい」
事実上、お仕置きスキルだけが残るのか。
これくらいなら良いよね。
「ミスラテル様、ご配慮していただき、ありがとうございます」
「ふふ、いいのよ。でも、真に恐ろしいのは【シャーロット】かしらね。あなたは、今まで多くの人々に利用されていることを知りながら、他者のために動いてきた」
……さすがミスラテル様、なんでもお見通しか。
「だからこそ、皆はあなたに感謝している。ふふ、あなたの目論見通り、その役割が逆転するわよ。今後、アストレカ大陸とハーモニック大陸の王達が、あなたの目標を達成させるために動き出すわ……ふふふ」
ミスラテル様の顔が、ニヤケている。ついつい、私もニヤケてしまうよ。
「ふふ、ミスラテル様、その通りです。皆が私を利用しやすい女だと思っているのなら、大間違いです。ハーモニック大陸とアストレカ大陸両方において、私の名は拡散されてゆく。そして、私はフランジュ帝国の皇帝でもある」
互いに、顔がにやけているね。
「ええ…面白い…実に面白いわ。あなたはブライアンやヘンデルの命令で行動を縛られても、ガーランドによる想定外の動きが起きても、自分の目標を達成させるため、全てを利用した。それに…最小限の動きで、大勢の人々を救った。救い方も、豪快だったわ。アストレカ大陸全国家が、あなたの名前を覚えたわよ」
ふふ、私は聖女でもあるからね。きちんと役割を果たさないといけない。
「まだ完全ではありませんので、もう少し動かないといけません。しかし、これが終われば、あとはアストレカ大陸とハーモニック大陸の王達が、私の目標を達成させるべく、勝手に動いてくれる。【私】という存在が畏怖の対象となり、アストレカ大陸では魔人族の差別撤廃が、ハーモニック大陸では4種族の差別撤廃が、急速に進んでいく。ここからは、国々が私の目標達成のため利用されていく」
「ふふ、そうね」
一度決めた事は、あらゆるものを利用して、必ずやり通す!
レドルカから真実を聞かされた時から、アストレカ大陸での魔人族への差別が気に入らなかった。あの時点では、私はただの強者で、差別撤廃を訴えても、ネーベリックやエルギスの件もあって、誰も従わなかっただろう。
200年前の真相を白日の下に晒し、差別撤廃を両大陸全土で促すには、国の力が必要だ。そして、国を利用するためには、私自身が国のために利用され、大きく貢献し信頼を得ないといけない。両大陸で大きく貢献したのだから、今後、国家が私のために動いてくれてもいいよね。なんせ、国自体を救ったのだから!
これからは、どんどん動いてもらうよ!
「「ふふふふふふふふふふふ」」
「初めて……女というものが怖いと…感じた」
ガーランド様、女は怖いのです。
「ガーランド様、あなたの居場所は、私とミスラテル様と精霊様で必ず護ります! だから、安心して旅立ってください!」
「何故かな? 私の居場所が残っているのか、不安を感じてしまうが……シャーロット……惑星ガーランドを頼む」
顔がボコボコだから、表情がイマイチわからないけど、声だけで感激してくれているのがわかる。でもね、まだ旅立たないでくださいね。あなたは大事なことを忘れている。
それは……【私と精霊様達の怒りが鎮まっていないということだよ!】
今回、私が上手く利用できたからいいけど、内心ハラハラしていたんだからね!
この怒りを受け取ってから、旅立ってね!
今の弱ったガーランド様なら、あのお仕置きを執行できるはずだ!
「シャーロット……まさか……」
あの方が私の思いを汲み取ってくれたのか、ガーランド専用お仕置きマシーン1号【ハンマーヘッド金的地獄】が、突如私の前に現れた。しかも、不完全な状態だったのに、どういうわけか凄い神々しさを感じる。まさか、あの方が……天尊輝星様が仕上げてくれた?
そして、カクさん率いる精霊軍団も現れた。
「「「「「シャーロット、すまない!」」」」」
精霊様達全員が、一斉に私に土下座謝罪した。
「シャーロット、クックイスクイズの件、誠に申し訳ない。私達はガーランド様の命令で、トキワを怒らせたわけだが、それまでも内心ずっとビクビクしていた。シャーロットは、これまで我々に理不尽な命令などしたことがなく、本当の友達として接してくれていた。【ナルカトナ遺跡のお仕置き】に関しても、我々のためと思い行動したこともわかっている。だから、君のためなら死ねると言っても過言ではない」
カクさん、嬉しい御言葉をありがとうございます。
「だが、君が帰還して以降のガーランド様は、君や君の仲間達ばかりを見ていて、惑星管理を全て我々精霊に任せていたのだ。しかも、私には、【次のチェックポイントは、ガーランド法王国王都だ。そこで、トキワを怒らせろ】という理不尽な命令を寄越した。トキワを怒らせるには、理不尽な形を取るしかない。しかし、そんなことをすれば、反乱もメチャクチャになり、シャーロットが怒ると思い反対したのだが、【事は、私の思惑通りに進んでいる。彼女が怒ることはない。私の指令通りに事を行え】と強引に進められた。我慢の限界を超えた私達は、ミスラテル様に告発したんだ」
聞けば聞く程、申し訳なく思う。精霊様達は、私のお仕置きやガーランド様の怒りに、ずっと怯えていたのか。
「皆さん、顔を上げて下さい。ガーランド様から事情をお聞きしました。カクさん、私はあなた方に対し、怒っていませんよ。全ての元凶は、ガーランド様です。天尊輝星様が、私のお仕置きマシーンを完璧に仕上げてくれました。コレを使って、皆でガーランド様をお仕置きしろと言っているんです」
あ、天尊輝星様が頷いてくれた。
今回、精霊様達も被害者なんだから、怒りも相当蓄積しているだろう。
ドンと佇む【お仕置き拷問具ハンマーヘッド金的地獄】。
地面には、縦1m、横1m、高さ30cmの直方体の形をした台がある。この台の端に接続されているのは、高さ10m、直径20cm程の円柱形の棒で、中身が空洞となっている。この空洞には、直径15cm程のミスリル製のボールがセットされている。誰かがハンマーを振りかぶり、台に振り下ろすことで生じる衝撃力、その全てがボールの下方へと集まり、ボールを猛スピードで真上へと叩き上げる。
通常であれば、円柱形の棒の天辺には鐘などを設置しておくのだが、そこに大股を開いたガーランド様を設置する。まあ、ボールが直撃する場所が、ガーランド様の急所金的であれば、どんなポーズでも良いんだけどね。今回、天辺には【大】という形の板が設置されており、そこにガーランド様を固定すれば良い。
「ガーランド様、あなたの事情を察しましたが、私達の怒りは収まっていません。どうかこのお仕置きマシーンで、私と精霊様の怒りを受け取って下さい。これは、私達からの細やかなプレゼントです」
顔がボコボコだから、表情が全くわからない。でも、なんか悲壮感が伝わってくる。
「な……身体が勝手に……あ…」
天尊輝星がいるからこそできる芸当だ。あのガーランド様が慌てふためきながら、勝手に【大】に固定された。本来であれば、ガーランド様に痛み自体を与えることはできないけど、あのお方が味方してくれるのなら、真のお仕置きを実行できる。
「精霊様達、あなた達の怒りの全てを、このハンマーに捧げましょう! そして、ガーランド様をお仕置きするのです! まずは、私から行きます!……私の怒りを受け取れや~~~~~~!!!!」
私はハンマーを持ち、全力全開で全ての怒りを込めて……おもいっきり振り下ろした。
《ドオオオォォォーーーーーン》
ボールは、猛スピードで跳ね上がっていき……
《キイイイィィィーーーーーーーン》「ごおおぉぉぉーーーーーーーー」
え、なに今の効果音? ガーランド様の悲鳴と何処かの番組の効果音が、同時に聞こえてきたんですけど? こんな効果音を付けた覚えはないんだけど? まさか、天尊輝星様による茶目っ気?
次にハンマーを持ったのは、カクさんだ。
「今度という今度は、堪忍袋の尾が切れました! 私ら精霊は、あなたを許しません! あなたの所為で、私のクックイスクイズが、メチャクチャだ~~! 私の怒りを思い知れ~~~~~~」
《ドオオオォォォーーーーーン》
《キイイイィィィーーーーーーーン》「きょおおぉぉぉーーーーーーーー」
精霊様達一人一人が、次々とハンマーを持って、台をぶっ叩いている。
その都度、ガーランド様の悲鳴と効果音が聞こえてくる。
私の怒りが、急速に萎んでいくのを感じる。
約10年間、天尊輝星様監修のもと、神の下積みを行なってきてください。そして、これに懲りて、地上への過度な干渉を控えるようにして下さいね。
この神様、今後私や精霊様がしっかり見ておかないと、何をするかわからない。今の生が終わったら、どうするのかを真剣に考えておこう。
真の黒幕へのお仕置きも済んだし、地上で起きた騒ぎを沈静化させよう。
「シャーロット、……あなた、神相手でも容赦しませんね。こんな拷問器具を簡易神具として製作するなんて」
ミスラテル様が呆れた表情で、拷問を受けているガーランド様を見上げている。
「たとえ神様であっても、許されることと、許されないことがあります!相手が誰であろうとも、私はお仕置きしますよ!」
「全く…神相手でも、臆さずに堂々と話し、心を読まれていようとも、遠慮なく意見をぶつけてくる。そんな貴方だからこそ、ガーランドも恋したのかもしれないわね」
褒められているのか、微妙な言い回しだ。
ミスラテル様は真剣な面持ちとなって、私を見つめてきた。
「シャーロット、そろそろ時間のようです。あなたの家族にのみ、あなたが消えた原因を説明していますので、再度グリグリされるということはありません」
あ、そうだった!
お仕置き途中で召集されたんだ!
「配慮して頂き、ありがとうございます!」
さすが、ミスラテル様だよ。
「今後、あなたにとっての御都合展開という事象も起きません。肝に命じておきなさい」
「はい!」
あ、私の意識が、急速に薄れていく。
もう、ここでお別れなんだ。
《シャーロット・エルバランに幸あれ》
え、今の声は?
澄み渡る声を聞いたからか、私の意識が完全に途絶えた。
○○○作者からの一言
作中に登場する【天尊輝星(テンソンカガホシ)】の名称は、【天津甕星(アマツミカボシ)】様をモデルにしています。神格の位置などは、フィクションです。現実のものと、一切関係ありません。
次回更新予定日は、12/4(火)10時40分です。
確か、カムイがガーランド法王国でやらかして、私はマリルにお仕置きされたんだ。でも、そこから先がわからない。まさか、私の意識がお仕置き中に途絶えたの?
いくらなんでも急すぎる!
どう考えても、ガーランド様の仕業だ!
あの神、どれだけ私に干渉する気なんだよ!
今日という今日は許さん!
絶対にお仕置きしてやる!
今いるこの空間、上には青空、下一面に分厚い雲があり、私は雲の上に立っている。私の視界には、50m程先に3人の人物がいる。1人はミスラテル様、もう1人は正体不明、残る1人はミスラテル様より少し後方にいるのだけど、薄いベールで覆われているからか、シルエットしか見えない。
とりあえず、あそこまで歩こう。
え……この神力の気配は……正体不明だと思っていた人物は、ガーランド様なの?
「せ…正解だ、シャーロット」
嘘、本当に!? 近くまで来てわかったけど……あのイケメン顔が、見るも無残な形へと変型している!
しかも、ガーランド様から感じる神力が、妙に弱々しく感じる。
一体、ここで何が起きたの?
「ち…地上の…者達に…干渉しすぎて……後方にいるお方から、罰を受けた」
私は、言葉を失った。今回、この神は私に嘘をつき、様々な形で地上に干渉してきた。だから、次に会った時、【絶対お仕置きしてやろう】と思ったんだ。再会した時点で、既にお仕置きされ、顔も身体も服も心も……全てがボロボロとなっている。まるで、奴隷のようだ。あのガーランド様を、どうやってここまで痛めつけたの?
後方にいるお方?
シルエットしか見えないのに、あの方を深く意識すると、私の存在が押し潰されそうな圧迫感を感じる。私の身体が、これでもかというくらい震えている。こんなことを思ったら不敬だけど、ガーランド様と違い、冗談が通じない神様だ。
「シャーロット、これ以上、あの方を必要以上に意識してはいけないわ」
ミスラテル様は、いつもと同じで清楚で可憐なお姿だ。言われた通り、私の意識をミスラテル様とガーランド様に集中しよう。
「ふふ、ありがとう」
「ミスラテル様、後方…にいる…お方は…」
名前を言っただけでこれなの?
身体が強張って、次の言葉が出てこない。
「そうね。名前だけは教えておきましょう。あの御方は、【天尊輝星(テンソンカガホシ)】様と仰るの。地球では、星を司る神様として祀られており、日本神話にも少しだけ登場しているわ。【ガーランド】は1つの惑星を管理する上級神、私もガーランドと同じ力を有している。【天尊輝星】様は宇宙に散らばる上級神を管理する役割を持っており、神格としては最上級であらせられるの」
テンソン…カガホシ様? 聞いたことが…ない。
日本神話に…そんな神が登場したかな?
神格の中でも中級に位置する【厄浄禍津金剛】は、惑星ガーランド内でイタズラしたため、上級神ガーランド様やゼウス様にお仕置きされた。そのガーランド様は、自分の管理する惑星において、度重なる干渉を行なったせいで、最上級神【天尊輝星】様にお仕置きされたということなの?
あれ? ちょっと待てよ?
宇宙って広大だよね?
いくら上級神を管理する神様でも……ガーランド様が地上にいる特定の人物に対し、過度に干渉していることをどうやって知ったの? この宇宙の中に、惑星を管理する神って、いっぱいいるよね? それらの中には、合法的な意味で干渉を行なっている神だっているはずだ。
「シャーロット…内部告発だ。全ての精霊達…クックイスクイズを担当するカクが中心となって…私を裏切り…あの方に…通報したんだ」
ガーランド様からまさかの発言!
内部告発!? しかも、カクさんが中心!?
というか、精霊様がどうやって最上級神に通報したの?
「厄浄禍津金剛を…ゼウスに引き渡した後…ミスラテルはちょくちょく私のもとへ訪れた。…その際、私の知らぬところで、精霊達が彼女に…私に対する不平不満を訴えていたんだ。ミスラテル自身も、私の様子がおかしいことに気づき、精霊達から告発された内容も含めて、あの方に通報した」
カクさん率いる精霊軍団の御乱心か~。
まさか、ミスラテル様に告発するとはね~。それで、最上級の天尊輝星様自らがここに来られたんだ。う……少し慣れたけど、必要以上に意識すると、本当に消えかねないから、せめて挨拶だけはしておこう。
「天尊輝星様、シャーロット・エルバランと申します。ガーランド様にお仕置きして頂き、ありがとうございます。ガーランド様から、これまでの経緯をお伺いさせてもらいます」
ふう…これが限界。意識をガーランド様に向けよう。
「シャーロットは、神の領域に1歩踏み込んだ存在なのだが、あの御方に挨拶できるだけ、相当胆が座っている。弱い神は、その挨拶だけで、心が折れる」
褒められている気がしない。
「ガーランド様、話を進めましょう」
既にボコボコ状態だけど、私自身も彼にお仕置きしたい。
とりあえず、私に干渉してきた理由を知りたいから、話だけでも聞こう。
「すまない……そうしてもらえると助かる。シャーロットが帰還して以降、私はずっと君の動向を伺っていた。しかし、それと同時に、ミスラテルがずっと私を監視していた。私はその監視に気づかないまま、ずっと君や仲間達を干渉し続けた。カクをガーランド法王国の王都に呼び寄せて以降、あの方も近くにおられたようだ。監視されているとも知らず、私は想定通りに、事が運んでいることで、内心ほくそ笑んでいた。しかし、カムイがガーランド法王国でやらかしたところで、あのお方がお怒りになり、私の前に姿を現した」
あれは、ついさっき起きた出来事だ。
あの一瞬で、ガーランド様はボコボコにされたんだ。
「ぎゃ!!!」
「え? ガーランド様?」
もしかして、あの方にお仕置きされた? さっきよりも、悲愴感漂う悲惨な姿に変身したよ。お仕置きの瞬間が、全く見えなかったんですけど!?
「すまない…順を追って説明しよう。君は厄浄禍津金剛の脅威から、この惑星を護ってくれた。その際、君に対する御礼が不十分だと、私は感じたのだ」
不十分? 前払いの様な形で、【簡易神人化】と【簡易神具製作】を貰えたけど、御礼として十分でしょ?
「シャーロットの次の目標は、【アストレカ大陸における歴史改竄問題】と、【4種族と魔人族との軋轢を無くし和解させること】。君がエルディア王国へ帰還して以降、私はその目標を達成させやすいよう、ずっと君を見守っていた」
ついさっき、似たセリフを聞いたけど怖いよ! ストーカーかよ!
あれ? 今、あのお方が頷いた様な?
「まずは聖女帰還パーティー、私は良かれと思って、君に次のやらかしまでの秒数を教えてあげた」
「そんなお節介いりません! あれで、余計混乱しました!」
ガーランド様の表情が、全くわからない。顔が変形しすぎていて、何処か怖い。
「う…次に、君のやらかし回数を軽減させるため、やらかしの限度回数を設定した。従魔によるやらかしも、その主人であるシャーロットに加算されるように仕向け、ステータスも大きくダウンするというペナルティーを付与させれば、さすがの君でも早々暴れないだろうと踏んだ」
その行為自体がやりすぎだ! そのせいで、私自身も必要以上に気を配る羽目になってしまった。かえって、行動を制限させていることに気づけ、このストーカー神!
「スト……念のため、君の仲間全員や家族達に、シャーロット専用お仕置きスキルを与えた。全ては君のためなんだ」
「その思いはありがたいですけど、無闇にポンポンとスキルを与えすぎなんですよ! 家族はわかりますけど、知り合いや仲間全員に与える必要ないでしょ!? それに、あんな制限やお仕置きスキルがなくても、きちんと自分で制御できます! もっと私を信じてください!」
これらの行為は、全て【お節介】に入るよ! 私自身がハーモニック大陸で何度もやらかしているから、さすがにアストレカ大陸に帰還してまでやらかさないよ。しかも、判定基準がイマイチ理解できないしね!
「……すまない。次に、少し先の未来で、ガーランド法王国が魔人族によって滅ぼされることがわかった。このままだと君の目的が達成できないと思い、カクにこの国の王都を、クックイスクイズのチェックポイントにするよう命じた」
やっぱり、あれもあなたの仕業か! カクさん達精霊は、ガーランド様の命令に逆らえない。タイミング的にも、おかしいと思ったんだ!
「ガーランド様、あなたは厄浄禍津金剛のせいで、遠い未来が見えなくなったと言いましたよね? 近未来であっても、滅んだ先の展開をきちんと視ましたか?」
「う…【視ていない】というよりも、【視えなかった】」
未来視が不完全じゃないか! なんで、その状態でカクさんを動かすの!
「クックイスメンバーであるトキワさんをわざと怒らせて、両陣営を共倒れにさせたのも、あなたの計画ですね」
「ああ……その方が被害を最小限に抑えれるし、シャーロットもあの国へ行きやすいと思ったのだ。挑戦者達全員がリタイアを宣言したことで、クックイスクイズを中止させる自体に陥ったが、全て私の思惑通りに進んだ」
カクさんはトキワさんを怒らせるため、【ヘキサゴンメダルの捜索】を利用した。命令通り、事が運んだものの、その代償として、クックイスクイズ自体が崩壊した。だから、怒り心頭となり、精霊達を率いて内部告発に踏み切ったんだ。
ていうか、どれだけ地上に干渉してるのよ! それなら、黒幕でもある隠れ魔人族達の魔法やスキルを無くすなり、封印なりすればいいじゃん!
それで、亡者の反乱を未然に防げるでしょ!
「……すまない。ただ、私は君のことを想って……ぎゃ!!!」
なるほど……全ては私を想っての行動か。他者の思惑などお構いなしに、私の目標を達成させやすくするため、ず~っと干渉していたと。
まさかとは思うけど…いや神に限って、それは……【恋は人を盲目にする】というけれど、神様もそれに近い形で盲目になったのだろうか?
え……後方にいるお方が頷いた!?
嘘でしょ!?
神が、8歳の幼女に恋したの!?
だから、私ばかりに、都合のいい展開が起きているの!
あ、また頷いてくれた。
「ガーランド様、あなたの思惑通り、私の目標に関しては、半年以内に達成するかもしれません。ただし、あなたが過度に干渉したせいで、ガーランド法王国の獣人と隠れ魔人族が、大変な目に遭いました。特に、隠れ魔人族の長なんか、200年かけて計画した亡者の侵攻が数時間で終わった所為もあって、ショックで気絶して、未だに回復していません」
長が、一番の被害者だよね。
「今回の干渉において、唯一感謝しているのは、私の親友でもあるリーラが生きてくれていたことです。それに関しては、本当に感謝しています。しかし、これ以上私の人生に干渉しないでください。今後、友人が死ぬ危険性もあるでしょう。しかし、それは運命だったと受け入れるつもりです。精霊様に怒ったりもしません。今回、あなたが私や私の仲間に対し、過度に干渉したことで、他者の人生が大きく狂ってしまった。地上にいる人々は、神のオモチャではありません。今回、私自身も、あなたの振る舞いに怒りを感じています。神は、地上の人々に干渉してはいけないのです!」
「シャーロット……」
う、何故だろうか? 凄く悲しそうな表情をしている気がする。
「シャーロット・エルバランの生が終わったら、またここに来ます。その時、いっぱい、いっぱいお話ししましょう。人の生なんて、神様に比べれば些細なものでしょ? 私が魂となって、ここに戻ってくれば、転生の道もありますし、あなたと共に惑星を管理していく道もあります」
私の言葉に、ガーランド様の目が、カッと見開いた。
「そう…だな。私としたことが、大切なことを見落としていた。これからは、干渉しないことを誓おう。私は、人の生に過度に干渉したことで、天尊輝星様から罰を受ける。約10年程、この惑星を離れないといけない。私が戻ってくるまでの間、ミスラテルが一時的にこの惑星を管理することになる」
ミスラテル様が!?
「シャーロット、ガーランドが戻ってくるまで、私がこの惑星を管理するわ。ただ、私は上級神だけど、転生を司る神だから、少し経験不足なの。今後、精霊達と協力して管理していくことになるわね」
ガーランド様、他の神々にも迷惑をかけるとは……罰を受けて当然だ。10年間、しっかりと罰を受けて、神としての威厳を回復させてほしい。
「ミスラテル様、何か困った事態が地上で起きた場合、私に連絡してください。転移魔法もありますから、すぐに対応できると思います。ガーランド様がいない間、私達がこの惑星を護りましょう!」
手始めに、アストレカ大陸で起きた事件を完全解決させないとね。
「ええ、頑張りましょう。手始めに、【3回やらかしたらペナルティー発生】というやらかし制約やマリルの制約を破棄させてもらうわね。あんなものがあったら、あなたも動きにくいでしょう。それと……シャーロットが疑問に思っているやらかし判定だけど、システムから除外しておくわ。これも、仲間達で判断すればいい」
事実上、お仕置きスキルだけが残るのか。
これくらいなら良いよね。
「ミスラテル様、ご配慮していただき、ありがとうございます」
「ふふ、いいのよ。でも、真に恐ろしいのは【シャーロット】かしらね。あなたは、今まで多くの人々に利用されていることを知りながら、他者のために動いてきた」
……さすがミスラテル様、なんでもお見通しか。
「だからこそ、皆はあなたに感謝している。ふふ、あなたの目論見通り、その役割が逆転するわよ。今後、アストレカ大陸とハーモニック大陸の王達が、あなたの目標を達成させるために動き出すわ……ふふふ」
ミスラテル様の顔が、ニヤケている。ついつい、私もニヤケてしまうよ。
「ふふ、ミスラテル様、その通りです。皆が私を利用しやすい女だと思っているのなら、大間違いです。ハーモニック大陸とアストレカ大陸両方において、私の名は拡散されてゆく。そして、私はフランジュ帝国の皇帝でもある」
互いに、顔がにやけているね。
「ええ…面白い…実に面白いわ。あなたはブライアンやヘンデルの命令で行動を縛られても、ガーランドによる想定外の動きが起きても、自分の目標を達成させるため、全てを利用した。それに…最小限の動きで、大勢の人々を救った。救い方も、豪快だったわ。アストレカ大陸全国家が、あなたの名前を覚えたわよ」
ふふ、私は聖女でもあるからね。きちんと役割を果たさないといけない。
「まだ完全ではありませんので、もう少し動かないといけません。しかし、これが終われば、あとはアストレカ大陸とハーモニック大陸の王達が、私の目標を達成させるべく、勝手に動いてくれる。【私】という存在が畏怖の対象となり、アストレカ大陸では魔人族の差別撤廃が、ハーモニック大陸では4種族の差別撤廃が、急速に進んでいく。ここからは、国々が私の目標達成のため利用されていく」
「ふふ、そうね」
一度決めた事は、あらゆるものを利用して、必ずやり通す!
レドルカから真実を聞かされた時から、アストレカ大陸での魔人族への差別が気に入らなかった。あの時点では、私はただの強者で、差別撤廃を訴えても、ネーベリックやエルギスの件もあって、誰も従わなかっただろう。
200年前の真相を白日の下に晒し、差別撤廃を両大陸全土で促すには、国の力が必要だ。そして、国を利用するためには、私自身が国のために利用され、大きく貢献し信頼を得ないといけない。両大陸で大きく貢献したのだから、今後、国家が私のために動いてくれてもいいよね。なんせ、国自体を救ったのだから!
これからは、どんどん動いてもらうよ!
「「ふふふふふふふふふふふ」」
「初めて……女というものが怖いと…感じた」
ガーランド様、女は怖いのです。
「ガーランド様、あなたの居場所は、私とミスラテル様と精霊様で必ず護ります! だから、安心して旅立ってください!」
「何故かな? 私の居場所が残っているのか、不安を感じてしまうが……シャーロット……惑星ガーランドを頼む」
顔がボコボコだから、表情がイマイチわからないけど、声だけで感激してくれているのがわかる。でもね、まだ旅立たないでくださいね。あなたは大事なことを忘れている。
それは……【私と精霊様達の怒りが鎮まっていないということだよ!】
今回、私が上手く利用できたからいいけど、内心ハラハラしていたんだからね!
この怒りを受け取ってから、旅立ってね!
今の弱ったガーランド様なら、あのお仕置きを執行できるはずだ!
「シャーロット……まさか……」
あの方が私の思いを汲み取ってくれたのか、ガーランド専用お仕置きマシーン1号【ハンマーヘッド金的地獄】が、突如私の前に現れた。しかも、不完全な状態だったのに、どういうわけか凄い神々しさを感じる。まさか、あの方が……天尊輝星様が仕上げてくれた?
そして、カクさん率いる精霊軍団も現れた。
「「「「「シャーロット、すまない!」」」」」
精霊様達全員が、一斉に私に土下座謝罪した。
「シャーロット、クックイスクイズの件、誠に申し訳ない。私達はガーランド様の命令で、トキワを怒らせたわけだが、それまでも内心ずっとビクビクしていた。シャーロットは、これまで我々に理不尽な命令などしたことがなく、本当の友達として接してくれていた。【ナルカトナ遺跡のお仕置き】に関しても、我々のためと思い行動したこともわかっている。だから、君のためなら死ねると言っても過言ではない」
カクさん、嬉しい御言葉をありがとうございます。
「だが、君が帰還して以降のガーランド様は、君や君の仲間達ばかりを見ていて、惑星管理を全て我々精霊に任せていたのだ。しかも、私には、【次のチェックポイントは、ガーランド法王国王都だ。そこで、トキワを怒らせろ】という理不尽な命令を寄越した。トキワを怒らせるには、理不尽な形を取るしかない。しかし、そんなことをすれば、反乱もメチャクチャになり、シャーロットが怒ると思い反対したのだが、【事は、私の思惑通りに進んでいる。彼女が怒ることはない。私の指令通りに事を行え】と強引に進められた。我慢の限界を超えた私達は、ミスラテル様に告発したんだ」
聞けば聞く程、申し訳なく思う。精霊様達は、私のお仕置きやガーランド様の怒りに、ずっと怯えていたのか。
「皆さん、顔を上げて下さい。ガーランド様から事情をお聞きしました。カクさん、私はあなた方に対し、怒っていませんよ。全ての元凶は、ガーランド様です。天尊輝星様が、私のお仕置きマシーンを完璧に仕上げてくれました。コレを使って、皆でガーランド様をお仕置きしろと言っているんです」
あ、天尊輝星様が頷いてくれた。
今回、精霊様達も被害者なんだから、怒りも相当蓄積しているだろう。
ドンと佇む【お仕置き拷問具ハンマーヘッド金的地獄】。
地面には、縦1m、横1m、高さ30cmの直方体の形をした台がある。この台の端に接続されているのは、高さ10m、直径20cm程の円柱形の棒で、中身が空洞となっている。この空洞には、直径15cm程のミスリル製のボールがセットされている。誰かがハンマーを振りかぶり、台に振り下ろすことで生じる衝撃力、その全てがボールの下方へと集まり、ボールを猛スピードで真上へと叩き上げる。
通常であれば、円柱形の棒の天辺には鐘などを設置しておくのだが、そこに大股を開いたガーランド様を設置する。まあ、ボールが直撃する場所が、ガーランド様の急所金的であれば、どんなポーズでも良いんだけどね。今回、天辺には【大】という形の板が設置されており、そこにガーランド様を固定すれば良い。
「ガーランド様、あなたの事情を察しましたが、私達の怒りは収まっていません。どうかこのお仕置きマシーンで、私と精霊様の怒りを受け取って下さい。これは、私達からの細やかなプレゼントです」
顔がボコボコだから、表情が全くわからない。でも、なんか悲壮感が伝わってくる。
「な……身体が勝手に……あ…」
天尊輝星がいるからこそできる芸当だ。あのガーランド様が慌てふためきながら、勝手に【大】に固定された。本来であれば、ガーランド様に痛み自体を与えることはできないけど、あのお方が味方してくれるのなら、真のお仕置きを実行できる。
「精霊様達、あなた達の怒りの全てを、このハンマーに捧げましょう! そして、ガーランド様をお仕置きするのです! まずは、私から行きます!……私の怒りを受け取れや~~~~~~!!!!」
私はハンマーを持ち、全力全開で全ての怒りを込めて……おもいっきり振り下ろした。
《ドオオオォォォーーーーーン》
ボールは、猛スピードで跳ね上がっていき……
《キイイイィィィーーーーーーーン》「ごおおぉぉぉーーーーーーーー」
え、なに今の効果音? ガーランド様の悲鳴と何処かの番組の効果音が、同時に聞こえてきたんですけど? こんな効果音を付けた覚えはないんだけど? まさか、天尊輝星様による茶目っ気?
次にハンマーを持ったのは、カクさんだ。
「今度という今度は、堪忍袋の尾が切れました! 私ら精霊は、あなたを許しません! あなたの所為で、私のクックイスクイズが、メチャクチャだ~~! 私の怒りを思い知れ~~~~~~」
《ドオオオォォォーーーーーン》
《キイイイィィィーーーーーーーン》「きょおおぉぉぉーーーーーーーー」
精霊様達一人一人が、次々とハンマーを持って、台をぶっ叩いている。
その都度、ガーランド様の悲鳴と効果音が聞こえてくる。
私の怒りが、急速に萎んでいくのを感じる。
約10年間、天尊輝星様監修のもと、神の下積みを行なってきてください。そして、これに懲りて、地上への過度な干渉を控えるようにして下さいね。
この神様、今後私や精霊様がしっかり見ておかないと、何をするかわからない。今の生が終わったら、どうするのかを真剣に考えておこう。
真の黒幕へのお仕置きも済んだし、地上で起きた騒ぎを沈静化させよう。
「シャーロット、……あなた、神相手でも容赦しませんね。こんな拷問器具を簡易神具として製作するなんて」
ミスラテル様が呆れた表情で、拷問を受けているガーランド様を見上げている。
「たとえ神様であっても、許されることと、許されないことがあります!相手が誰であろうとも、私はお仕置きしますよ!」
「全く…神相手でも、臆さずに堂々と話し、心を読まれていようとも、遠慮なく意見をぶつけてくる。そんな貴方だからこそ、ガーランドも恋したのかもしれないわね」
褒められているのか、微妙な言い回しだ。
ミスラテル様は真剣な面持ちとなって、私を見つめてきた。
「シャーロット、そろそろ時間のようです。あなたの家族にのみ、あなたが消えた原因を説明していますので、再度グリグリされるということはありません」
あ、そうだった!
お仕置き途中で召集されたんだ!
「配慮して頂き、ありがとうございます!」
さすが、ミスラテル様だよ。
「今後、あなたにとっての御都合展開という事象も起きません。肝に命じておきなさい」
「はい!」
あ、私の意識が、急速に薄れていく。
もう、ここでお別れなんだ。
《シャーロット・エルバランに幸あれ》
え、今の声は?
澄み渡る声を聞いたからか、私の意識が完全に途絶えた。
○○○作者からの一言
作中に登場する【天尊輝星(テンソンカガホシ)】の名称は、【天津甕星(アマツミカボシ)】様をモデルにしています。神格の位置などは、フィクションです。現実のものと、一切関係ありません。
次回更新予定日は、12/4(火)10時40分です。
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