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《シャーロットが帝王となった場合のifルート》第2部 8歳〜アストレカ大陸編【ガーランド法王国
シャーロットの起死回生策
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ベルナデットさんのスキルと魔法が封印されていることもあって、エルディア王国とミルバベスタ皇国の2国においては、既に事件は解決しているとみていいだろう。後処理に関しては、全てが解決してからでいい。問題は、それ以外の国だよ。昨日の時点で、大規模侵攻が決行されているのだから、数日中に他国の国王がエルディア王国に連絡を入れて来ると思う。
話し声が聞こえなくなったからか、ドアのノック音が聞こえた。ソニアさんが部屋から退出したと思ったら、1分も経たないうちに部屋に入ってきた。ソニアさんの顔には、焦りの色が見え隠れしていた。
「ソニア、どうかしたのか?」
「ハロルド様……先程、大型通信機が鳴り、メイドがお受けしたところ、お相手が……国王陛下でございました」
「なに、陛下自らが!? それで内容は?」
普通、そういった雑事は臣下の者にやらせるはずだ。
陛下自ら通信してくるということは、王城で何か起こったのだろうか?
「現在、聖女様とベルナデットがお話し中であることを明かしますと、話が終わり次第、聖女一行とベルナデットを至急王城に向かわせるようとの要請を受けました」
「まさか、聖女の緊急要請が、もう周辺諸国から届いたのか? とにかく、シャーロット達は急いで王城へ向かうんだ。陛下自らが通信してくるとなると、相当な事が起こっているはずだ」
「わかりました! ベルナデットさんも構いませんか?」
「ええ、行きましょう。その前に、この封印魔導具を外してほしいのだけど? 大丈夫、何もしないわ」
彼女は、もうこちらの味方だから問題ない。私は、ソニアさんから鍵を貰い、彼女の腕に嵌められてる封印魔導具を外してあげた。
「聖女様、助かるわ」
リーラが無事だったことも確認できたし、マクレン領でのお仕事は、これにて終了だ。ここからは、慌ただしく動くことになる。
「それではハロルド様、ここに来て間もないですが、王都に帰還させて頂きます」
亡者の大侵攻は昨日始まったばかり、それで各国から緊急要請が届くということは、相当数の亡者が各国を襲っているんだ。対処すべきは、大陸の北半分の国々だろう。
「ああ、気をつけてな。シャーロット、無理はするな」
「シャーロット、死なないでね」
「シャーロットちゃん、ハーモニック大陸で多くの苦難を乗り越え強くなったと思うけど、無理をしてはダメよ」
ハロルド様、リーラ、マーサ様も、私のことを心底心配してくれている。強さのことを言えない分、私もきちんと応対しなければ。
「はい、決して無茶はしません。聖女として頑張りますね! ここで従魔を召喚すると、住民達も騒ぎ出すと思うので、少し離れた空き地に移動します。皆さんは、ここにいて下さい。今後、何が起こるかわかりませんから」
亡者の大規模侵攻の影響で、二次的被害が発生する場合もある。エルディア王国内でも油断できない。私達はマクレン一家とお別れした後、先程の着陸場所へと移動した。
……よし、マクレン領のリーラの家の座標も、ステータスのマップに登録されているね。これで、いつでも転移可能だ。王城に転移して、国王陛下のもとへ行こう。
○○○
王城の真上、上空100メートル付近。
「驚いたわ。聖女様の魔法欄には、確かに【長距離転移】と記載されていたけど、王都に一瞬で来れるだなんて……」
「長距離転移の際、転移する人達が私と直接か間接的に手を繋いでいれば、人数に関係なく、同じ消費MPで転移可能です。落ち着いたら、ハーモニック大陸への帰還を望む魔人族達を転移させますよ。さあ、国王陛下の下へ急ぎましょう」
私達は人気のない場所へ降り立ち、王城正門へと向かった。予め指示を受けていたのか、警備兵達は魔鬼族であるネルエルさんとベルナデットさんを見ても、何も言わず私達を通してくれた。陛下の執務室に到着し中に入ると、そこには国王陛下だけでなく、ルルリア王妃様とヘンデル様がいた。3人とも、顔色がかなり悪い。
「国王陛下、マクレン領の事件はほぼ解決しました。ここにいる魔鬼族ベルナデットさんが犯人です。彼女から全ての事情を伺い、現在亡者による大規模侵攻がアストレカ大陸全土で起きていることも知っています。唯一、侵攻が起きていないのは、彼女が担当するエルディア王国とミルバベスタ皇国の2つだけです」
「なに!」「なんですって!?」「なんだと!」
3人が驚くのも、無理ないか。
「詳しい事情を説明している暇がありません。とりあえず、私がすべきことを教えて下さい」
3人とも、私から事情を聞きたいところだけど、緊急を要することだろうから、先に私のすべきを事を教えてもらおう。
「わかった。シャーロットに報告すべき事項は2つある」
代表して、国王陛下が口を開いてくれた。
「この報告は、ガーランド法王国の法王自らが大型通信機を通して、私に言ったものだ。皆、心して聞いてほしい。アストレカ大陸最北端に位置するガーランド法王国王都が……昨日の時点で魔人族によって制圧された」
辺りに、静けさが漂う。国王陛下の言った内容に、自分の耳を疑った。ネルエルさんもベルナデットさんも、悲願の1つがいきなり達成されたせいか、言葉が出てこないようだ。でも、たった1日で制圧されるのは、どう考えてもおかしい。
「制圧って、いくらなんでも早過ぎませんか? ……AやSランク亡者が、王都内に大量出現したのですか?」
制圧されたのなら、隠れ魔人族側の勝利となる。
長と音信不通になるのは、おかしい。
「当初、獣人の亡者が王都に大量出現し、国民達を大混乱に陥れた。後に、魔物の亡者が大量に加勢されたことで、王都全土が亡者だらけとなった」
王都内だから、中級魔法の様な大きな魔法は使えない。優秀なネクロマンサーが復活させているだろうから、亡者と生者の見分けもつきにくい。騎士団や冒険者としても、非常に戦いづらい。
「私自身、法王の言った内容が信じられなかったのだが、王城を含めた王都全域を制圧したのは亡者ではなく、たった1人の【魔鬼族】だ。実質…1時間もかからず制圧されたそうだ」
たった1人の魔鬼族が、王都全域を制圧したの! 亡者を用意した意味がない! 隠れ魔人族の中に、500の能力限界を突破したSランクがいたのか!?
「法王に詳しく聞いたところ、彼自身が王城に侵入した魔鬼族を怒らせたらしく、その怒りによって、王城が半壊、王都にいる全ての亡者が崩れ落ち、全ての人々が戦意を失ったそうだ」
なんですと!?
それじゃあ、その魔鬼族が獣人や自分の仲間でもある隠れ魔人族を一掃したってこと! 双方共倒れになったの!!!
「魔鬼族は…『俺は、国を治めるつもりはない。この国をどうするかは、聖女シャーロット・エルバランに委ねる。彼女をここへ呼べ』…と言ったそうだ」
なんで私が、そんな判断をしないといけないのよ!
誰だよ、その魔鬼族は!?
「魔鬼族は、自分の名前を聖女に告げれば、全てを理解してくれると言った。彼の名は……【トキワ・ミカイツ】」
「え!? どうして、トキワさんがガーランド法王国にいるんですか!!」
う、私が叫んだ瞬間、全員の視線が私に重なった。
「シャーロット……トキワ・ミカイツを知っているのか?」
「知っているもなにも、私の仲間です。ハーモニック大陸の中でも、世界最強クラスの力を持つ者です。彼が本気になれば、ガーランド法王国の王都など、軽く噴き飛ばせますよ。王都も王族も無事ということは、誰かがトキワさんの怒りを鎮めたのですか?」
「あ…ああ、《【アッシュ・パートン】という魔鬼族がトキワ様の怒りを鎮めた》と、法王は言っていたな」
アッシュさんも、そこにいるんかい!
そして、トキワさんの怒りを鎮めてくれてありがとう!
「トキワさんもアッシュさんも、私の仲間です。アストレカ大陸の隠れ魔人族とは、一切関係ありません。彼らは、ハーモニック大陸の遺跡で開催されている雷精霊様主催の【クックイスクイズ】に参加中です。現在、挑戦者達は精霊様の転移魔法により、世界中を旅しているはず。おそらく、ガーランド法王国の王都で、精霊様から言われた指令をこなしていたのでしょう」
なんで、反乱を起こすタイミングで、その場所に転移させるかな!?
いくらなんでも、危険すぎるでしょう。指令だって遂行できないよ!
ガーランド様、もしくはカクさんの企みだね。後で、きつく問いただしてやる!
ということは……トキワさんは指令を遂行させるため、王城に侵入し法王様に見つかったわけか。彼がそんなヘマを犯すとは、どんな指令だったのだろう?
国王陛下は両肘を机に付け、両手を組みながら目を閉じている。国の惨状を思い浮かべているからか、数滴の冷や汗が机に滴り落ちた。
「なんて…ことだ。トキワは指令を遂行させるため、その日に限って偶々王城に侵入し、法王と鉢合わせしたわけか。そして、法王は彼を怒らせた。……双方にとって、運が良いのか悪いのか。反乱鎮圧直後、王都は混乱の渦と化した」
気絶から復帰した王都の獣人達は、王城の惨状を見て、亡者達に落とされたと思うだろう。それに対し魔人族側は、トキワさんの存在を知らないから、獣人側の切り札が発動されたことで、亡者が一網打尽にされ、反乱が一瞬で鎮圧されたと思うだろう。
ベルナデットさんは、昨日から長と連絡が取れないといっていたけど、これが原因か。今、王都はどうなっているのかな?
「全てを理解しているのは、王城内にいる獣人達だけですよね? 王都の混乱を、どう鎮めたのですか?」
「混乱鎮静化の立役者は、アッシュという魔鬼族だ」
アッシュさんが動いてくれたの!! 国王陛下は、アッシュさんがどうやって王都の混乱を鎮めてくれたのかを詳しく明かしてくれた。
1) 王族全員に、自分達がどうしてここにやって来たのかを明かす。その際、自分とトキワさんが聖女の仲間であることも話す。
→トキワさんがアッシュさんの側に控えていたからか、全員が内容を信じた。ヘキサゴンメダルの捜索が指令だったのね。ただ、シャーロットメダルとスミレメダルという言葉が気にかかる。
2) 王城で起きた惨劇の原因を明かす。
→この時点で、法王は針の筵状態だったらしい。聞いた私も、《法王…アホだね》と思った。シャーロットメダルとスミレメダルは、ハズレ用に用意したのか。そこに、精霊様が私とスミレさんの声真似をして、言葉を乗せたのね。
3) 王都で起きた惨劇の全貌を明かす。その際、200年前に起きた戦争の真実と、魔人族がどうして獣人を恨み、反乱に至ったのかも明かす
→成人になった王族にのみ、真相が伝えられるらしい。トキワさんがいるためか、誰一人反論することなく、全てを受け入れ謝罪した。《それだけで済むと思うな!》と内心思った。
4) 獣人には神の加護などなく、ガーランド様が既にこの国を見限っていることを話す。聖女自身が、ガーランド様と話し合った際に教えられたことなので、真実である。
→全員が顔面蒼白となり、言葉を失う。
5) アッシュさんが隠れ魔人族の隠れ家を知っているので、現状を知らせに行く。同胞のトキワさんが王城を制圧しているため、王族達の処遇をどうしたいのかも聞き出す。
→隠れ魔人族達は、《肝心の長が眠りから目覚めていない。反乱が成功した場合、王族の処遇に関しては、長に一任している。回復するまで待ってもらいたい》という意見に落ち着いた。というか、亡者の軍勢を瞬殺されたこともあり、隠れ魔人族達は同胞のトキワさんから敵視されていると思い込み、全ての判断を長に棚上げしたようだ。アッシュさんとしては、一時休戦状態に持ち込みたい思惑もあるので、この提案を利用することにした。
6) アッシュさんが王族側にこの要請を伝えたところ、王族達はこの提案をすんなりと受け入れた。
→これにより、長が回復するまでは、現状の膠着状態が続く。そして、トキワさんが王城にいる限り、王族達は常時、監視される状態となる。
7) トキワさんが、【もし長が全ての判断を俺に委ねた場合、俺は聖女にこの国を滅ぼすかかどうかの選択を託す。だから、お前達は全ての情報を聖女に話せ。言っておくが、聖女は神の加護を持ち、俺よりも強い。怒らせたら、この王都が灰になると思え】と王族達に訴えた。→王族達は、頷くしかなかった。
8) アッシュさんはこの膠着状態を利用して、ある提案を法王に打ち明けた。
・法王自らが王都にいる獣人達に、2つの事件の発端と原因を嘘偽りなく話す。
・現在この国を制圧しているのは、ハーモニック大陸から来た1人の魔人族であることも打ち明ける。最後に、制圧者が《俺達ハーモニック大陸の種族は、聖女シャーロットを救世主として崇めている。だから、この国の存続は、聖女に委ねることにした。彼女が到着するまでは、いつも通りに過ごせ》という内容を伝える。
→拒否権などないので、即座に実行された。法王自らが拡声魔法を用いて、王都全土に【戦争の真実】や【歴史の改竄】、【神の加護など最初からなかったこと】などを宣言したことで、全ての人々が怒号をあげる。そして、制圧者でもあるトキワさんの命令に従い、聖女が到着するまで、全てが膠着状態となる。
9) アッシュさんが、再度隠れ魔人族の隠れ家に行き、トキワさんと私の強さと人物像を教え、緊張感を緩和させる。また、悲願の1つである【ハーモニック大陸への帰還】が、聖女により、必ず叶えられることも明かす。
→魔人族側の雰囲気がかなり温和になり、現在私の到着を心待ちにしている。
話を聞き終えて思ったこと、トキワさんもアッシュさんも、アストレカ大陸での私の目的を知っている。だから、ここまで色々と動いてくれたんだ。
アッシュさん、トキワさん、《ナイスアシスト!》と言いたい。
たださ、全ての判断を8歳の私に棚上げしてるよね。
「大体の状況は掴めたわ。聖女様、全てはあなた次第ということね。はっきり聞くけど、あの国をどうしたいわけ?」
ここで、ベルナデットさんからの質問か。
「難しい質問ですね。私としては、魔人族達がここの4種族と仲良く暮らせるような体制に持って行きたい。そのためには、ガーランド法王国は邪魔な存在です。だからといって、簡単に【国を滅ぼす】という選択肢を選べませんね」
私個人としては、《そんな国なんて滅んでしまえ》なんだけど。
「どうしてかしら?」
「領土を求めて、多国間の戦争が起こるかもしれないからです。私としては、絶対に避けたい事項です。長が眠っている以上、亡者の大侵攻は大陸全土で、現在でも起きている。このまま放っておいたら、多額の損害賠償がガーランド法王国を襲うことになる。額が大きすぎて、国が破綻することも避けたいです」
「多国間の戦争か。私達は、あの国を滅ぼすことしか考えていなかった。そして、混乱と混迷を与えているうちに、あの国を抜け出し、ランダルキア大陸へ移動する予定だった。でも、聖女様のおかげで、その必要はなくなった。あなたがあの国の秘密を全て暴き罰してくれるのなら、私達はあなたの判断に委ねるわ。ネルエルはどう思う?」
「私も、同じ意見です。たとえあの国が滅亡しなくても、求めているものが明るみにでるのなら、聖女様に委ねます」
あの~、8歳の私に全てを委ねないで欲しいんですけど?
委ねてもいいいの? 私の思った通りに行動するよ?
「お二人共、私の判断に任せていいのですか?」
「「ええ」」
そうですか……わかりました。私も覚悟を決めましょう。
さて、この問題にどう対処していくか。
国自体はあった方がいい。あ……そういえば、あの人は、まだガーランド法王国王都にいたはずだ。それなら、もう一層の事……
【ハーモニック大陸への帰還】
【ガーランド法王国の滅亡】
この2つが、隠れ魔人族達の悲願だ。
【亡者大侵攻の被害を最小限に抑える】
【多国間戦争の回避】
【??????】
私の願いは、この3つかな。あの人の人柄に関しては、帰還してから国王陛下やルルリア様、ヘンデル様から聞いている。私自身、会ったことがないけど、ガーランド法王国でも慕われているらしい。あの人を利用すれば、魔人族と私の願いを叶えることができる。
うん、これで行こう!
「皆さん、方針が決まりました。この案なら、全てが上手くいくかもしれません」
私は、ここにいるメンバー全員に今後の方針を訴えた。すると、【亡者大侵攻の被害を最小限に抑える案】にて、全員がドン引きし、私のことを恐怖の対象として見ているかのような眼差しとなってしまった。
「シャーロットちゃん、それ……本当にやるの?」
国王陛下、なんで嫌そうなんですか?
「聖女の緊急要請は、多国から…主に大陸北半分の国々から届いていますよね?」
「まあ…ね」
先程、報告事項が2つあると言っていた。2つ目の事項は、やはり私の緊急要請だったか。
「大勢の怪我人や死者が出ていますよね?」
「うん、その通りだ」
「私が本気でやれば、大陸中の全ての人々を短時間で回復できますが、それは聖女を超える行為ですし、避けたい手段ですよね?」
「うん、避けたいね」
元々、あなた達が私の行動を縛ったんだ。
だったら、その行動制限を利用してやる!
「この案を採用すれば、アストレカ大陸全ての国の亡者が止まり、怪我人や死者達を最小限に抑えることがきでるのはわかりますよね?」
この方法ならば、私自身は大きく目立たない。
さあ国王陛下、覚悟を決めて下さい。
「いや……そうなんだが……やり方が……う~ん」
国王陛下、まだ悩みますか。
「あ…シャーロット、この【????】の案の場合、私はどうなるのだろうか?」
今度はヘンデル様?
「当然、出世しますね。ヘンデル様がトップに君臨するんです。私とも、長い付き合いになりそうです。多分……あなたが死ぬまで?」
あ、ヘンデル様の顔が真っ青になった。
「はあ~溜息しか出ないわね。……この国は絶対安泰だと思っていたのだけど、トップ連中は大変そうね。禿げないことを祈るわ」
ベルナデットさん、それどういう意味ですか?
私は、救援策を考えてあげたのに!
「マリルや公爵様も、これからが大変ね」
「そう思うのなら、ネルエルも手伝ってよ」
「それは……ちょっと……」
マリルもネルエルさんも、何故に複雑な顔をしているのよ?
この救援策を採用すれば、間違いなく平和が訪れるんだよ!
「国王陛下、御決断を!」
○○○作者からの一言
次回更新予定日は、11/20(火)10時40分です。
漫画版6話も昼0時にUP予定です。
話し声が聞こえなくなったからか、ドアのノック音が聞こえた。ソニアさんが部屋から退出したと思ったら、1分も経たないうちに部屋に入ってきた。ソニアさんの顔には、焦りの色が見え隠れしていた。
「ソニア、どうかしたのか?」
「ハロルド様……先程、大型通信機が鳴り、メイドがお受けしたところ、お相手が……国王陛下でございました」
「なに、陛下自らが!? それで内容は?」
普通、そういった雑事は臣下の者にやらせるはずだ。
陛下自ら通信してくるということは、王城で何か起こったのだろうか?
「現在、聖女様とベルナデットがお話し中であることを明かしますと、話が終わり次第、聖女一行とベルナデットを至急王城に向かわせるようとの要請を受けました」
「まさか、聖女の緊急要請が、もう周辺諸国から届いたのか? とにかく、シャーロット達は急いで王城へ向かうんだ。陛下自らが通信してくるとなると、相当な事が起こっているはずだ」
「わかりました! ベルナデットさんも構いませんか?」
「ええ、行きましょう。その前に、この封印魔導具を外してほしいのだけど? 大丈夫、何もしないわ」
彼女は、もうこちらの味方だから問題ない。私は、ソニアさんから鍵を貰い、彼女の腕に嵌められてる封印魔導具を外してあげた。
「聖女様、助かるわ」
リーラが無事だったことも確認できたし、マクレン領でのお仕事は、これにて終了だ。ここからは、慌ただしく動くことになる。
「それではハロルド様、ここに来て間もないですが、王都に帰還させて頂きます」
亡者の大侵攻は昨日始まったばかり、それで各国から緊急要請が届くということは、相当数の亡者が各国を襲っているんだ。対処すべきは、大陸の北半分の国々だろう。
「ああ、気をつけてな。シャーロット、無理はするな」
「シャーロット、死なないでね」
「シャーロットちゃん、ハーモニック大陸で多くの苦難を乗り越え強くなったと思うけど、無理をしてはダメよ」
ハロルド様、リーラ、マーサ様も、私のことを心底心配してくれている。強さのことを言えない分、私もきちんと応対しなければ。
「はい、決して無茶はしません。聖女として頑張りますね! ここで従魔を召喚すると、住民達も騒ぎ出すと思うので、少し離れた空き地に移動します。皆さんは、ここにいて下さい。今後、何が起こるかわかりませんから」
亡者の大規模侵攻の影響で、二次的被害が発生する場合もある。エルディア王国内でも油断できない。私達はマクレン一家とお別れした後、先程の着陸場所へと移動した。
……よし、マクレン領のリーラの家の座標も、ステータスのマップに登録されているね。これで、いつでも転移可能だ。王城に転移して、国王陛下のもとへ行こう。
○○○
王城の真上、上空100メートル付近。
「驚いたわ。聖女様の魔法欄には、確かに【長距離転移】と記載されていたけど、王都に一瞬で来れるだなんて……」
「長距離転移の際、転移する人達が私と直接か間接的に手を繋いでいれば、人数に関係なく、同じ消費MPで転移可能です。落ち着いたら、ハーモニック大陸への帰還を望む魔人族達を転移させますよ。さあ、国王陛下の下へ急ぎましょう」
私達は人気のない場所へ降り立ち、王城正門へと向かった。予め指示を受けていたのか、警備兵達は魔鬼族であるネルエルさんとベルナデットさんを見ても、何も言わず私達を通してくれた。陛下の執務室に到着し中に入ると、そこには国王陛下だけでなく、ルルリア王妃様とヘンデル様がいた。3人とも、顔色がかなり悪い。
「国王陛下、マクレン領の事件はほぼ解決しました。ここにいる魔鬼族ベルナデットさんが犯人です。彼女から全ての事情を伺い、現在亡者による大規模侵攻がアストレカ大陸全土で起きていることも知っています。唯一、侵攻が起きていないのは、彼女が担当するエルディア王国とミルバベスタ皇国の2つだけです」
「なに!」「なんですって!?」「なんだと!」
3人が驚くのも、無理ないか。
「詳しい事情を説明している暇がありません。とりあえず、私がすべきことを教えて下さい」
3人とも、私から事情を聞きたいところだけど、緊急を要することだろうから、先に私のすべきを事を教えてもらおう。
「わかった。シャーロットに報告すべき事項は2つある」
代表して、国王陛下が口を開いてくれた。
「この報告は、ガーランド法王国の法王自らが大型通信機を通して、私に言ったものだ。皆、心して聞いてほしい。アストレカ大陸最北端に位置するガーランド法王国王都が……昨日の時点で魔人族によって制圧された」
辺りに、静けさが漂う。国王陛下の言った内容に、自分の耳を疑った。ネルエルさんもベルナデットさんも、悲願の1つがいきなり達成されたせいか、言葉が出てこないようだ。でも、たった1日で制圧されるのは、どう考えてもおかしい。
「制圧って、いくらなんでも早過ぎませんか? ……AやSランク亡者が、王都内に大量出現したのですか?」
制圧されたのなら、隠れ魔人族側の勝利となる。
長と音信不通になるのは、おかしい。
「当初、獣人の亡者が王都に大量出現し、国民達を大混乱に陥れた。後に、魔物の亡者が大量に加勢されたことで、王都全土が亡者だらけとなった」
王都内だから、中級魔法の様な大きな魔法は使えない。優秀なネクロマンサーが復活させているだろうから、亡者と生者の見分けもつきにくい。騎士団や冒険者としても、非常に戦いづらい。
「私自身、法王の言った内容が信じられなかったのだが、王城を含めた王都全域を制圧したのは亡者ではなく、たった1人の【魔鬼族】だ。実質…1時間もかからず制圧されたそうだ」
たった1人の魔鬼族が、王都全域を制圧したの! 亡者を用意した意味がない! 隠れ魔人族の中に、500の能力限界を突破したSランクがいたのか!?
「法王に詳しく聞いたところ、彼自身が王城に侵入した魔鬼族を怒らせたらしく、その怒りによって、王城が半壊、王都にいる全ての亡者が崩れ落ち、全ての人々が戦意を失ったそうだ」
なんですと!?
それじゃあ、その魔鬼族が獣人や自分の仲間でもある隠れ魔人族を一掃したってこと! 双方共倒れになったの!!!
「魔鬼族は…『俺は、国を治めるつもりはない。この国をどうするかは、聖女シャーロット・エルバランに委ねる。彼女をここへ呼べ』…と言ったそうだ」
なんで私が、そんな判断をしないといけないのよ!
誰だよ、その魔鬼族は!?
「魔鬼族は、自分の名前を聖女に告げれば、全てを理解してくれると言った。彼の名は……【トキワ・ミカイツ】」
「え!? どうして、トキワさんがガーランド法王国にいるんですか!!」
う、私が叫んだ瞬間、全員の視線が私に重なった。
「シャーロット……トキワ・ミカイツを知っているのか?」
「知っているもなにも、私の仲間です。ハーモニック大陸の中でも、世界最強クラスの力を持つ者です。彼が本気になれば、ガーランド法王国の王都など、軽く噴き飛ばせますよ。王都も王族も無事ということは、誰かがトキワさんの怒りを鎮めたのですか?」
「あ…ああ、《【アッシュ・パートン】という魔鬼族がトキワ様の怒りを鎮めた》と、法王は言っていたな」
アッシュさんも、そこにいるんかい!
そして、トキワさんの怒りを鎮めてくれてありがとう!
「トキワさんもアッシュさんも、私の仲間です。アストレカ大陸の隠れ魔人族とは、一切関係ありません。彼らは、ハーモニック大陸の遺跡で開催されている雷精霊様主催の【クックイスクイズ】に参加中です。現在、挑戦者達は精霊様の転移魔法により、世界中を旅しているはず。おそらく、ガーランド法王国の王都で、精霊様から言われた指令をこなしていたのでしょう」
なんで、反乱を起こすタイミングで、その場所に転移させるかな!?
いくらなんでも、危険すぎるでしょう。指令だって遂行できないよ!
ガーランド様、もしくはカクさんの企みだね。後で、きつく問いただしてやる!
ということは……トキワさんは指令を遂行させるため、王城に侵入し法王様に見つかったわけか。彼がそんなヘマを犯すとは、どんな指令だったのだろう?
国王陛下は両肘を机に付け、両手を組みながら目を閉じている。国の惨状を思い浮かべているからか、数滴の冷や汗が机に滴り落ちた。
「なんて…ことだ。トキワは指令を遂行させるため、その日に限って偶々王城に侵入し、法王と鉢合わせしたわけか。そして、法王は彼を怒らせた。……双方にとって、運が良いのか悪いのか。反乱鎮圧直後、王都は混乱の渦と化した」
気絶から復帰した王都の獣人達は、王城の惨状を見て、亡者達に落とされたと思うだろう。それに対し魔人族側は、トキワさんの存在を知らないから、獣人側の切り札が発動されたことで、亡者が一網打尽にされ、反乱が一瞬で鎮圧されたと思うだろう。
ベルナデットさんは、昨日から長と連絡が取れないといっていたけど、これが原因か。今、王都はどうなっているのかな?
「全てを理解しているのは、王城内にいる獣人達だけですよね? 王都の混乱を、どう鎮めたのですか?」
「混乱鎮静化の立役者は、アッシュという魔鬼族だ」
アッシュさんが動いてくれたの!! 国王陛下は、アッシュさんがどうやって王都の混乱を鎮めてくれたのかを詳しく明かしてくれた。
1) 王族全員に、自分達がどうしてここにやって来たのかを明かす。その際、自分とトキワさんが聖女の仲間であることも話す。
→トキワさんがアッシュさんの側に控えていたからか、全員が内容を信じた。ヘキサゴンメダルの捜索が指令だったのね。ただ、シャーロットメダルとスミレメダルという言葉が気にかかる。
2) 王城で起きた惨劇の原因を明かす。
→この時点で、法王は針の筵状態だったらしい。聞いた私も、《法王…アホだね》と思った。シャーロットメダルとスミレメダルは、ハズレ用に用意したのか。そこに、精霊様が私とスミレさんの声真似をして、言葉を乗せたのね。
3) 王都で起きた惨劇の全貌を明かす。その際、200年前に起きた戦争の真実と、魔人族がどうして獣人を恨み、反乱に至ったのかも明かす
→成人になった王族にのみ、真相が伝えられるらしい。トキワさんがいるためか、誰一人反論することなく、全てを受け入れ謝罪した。《それだけで済むと思うな!》と内心思った。
4) 獣人には神の加護などなく、ガーランド様が既にこの国を見限っていることを話す。聖女自身が、ガーランド様と話し合った際に教えられたことなので、真実である。
→全員が顔面蒼白となり、言葉を失う。
5) アッシュさんが隠れ魔人族の隠れ家を知っているので、現状を知らせに行く。同胞のトキワさんが王城を制圧しているため、王族達の処遇をどうしたいのかも聞き出す。
→隠れ魔人族達は、《肝心の長が眠りから目覚めていない。反乱が成功した場合、王族の処遇に関しては、長に一任している。回復するまで待ってもらいたい》という意見に落ち着いた。というか、亡者の軍勢を瞬殺されたこともあり、隠れ魔人族達は同胞のトキワさんから敵視されていると思い込み、全ての判断を長に棚上げしたようだ。アッシュさんとしては、一時休戦状態に持ち込みたい思惑もあるので、この提案を利用することにした。
6) アッシュさんが王族側にこの要請を伝えたところ、王族達はこの提案をすんなりと受け入れた。
→これにより、長が回復するまでは、現状の膠着状態が続く。そして、トキワさんが王城にいる限り、王族達は常時、監視される状態となる。
7) トキワさんが、【もし長が全ての判断を俺に委ねた場合、俺は聖女にこの国を滅ぼすかかどうかの選択を託す。だから、お前達は全ての情報を聖女に話せ。言っておくが、聖女は神の加護を持ち、俺よりも強い。怒らせたら、この王都が灰になると思え】と王族達に訴えた。→王族達は、頷くしかなかった。
8) アッシュさんはこの膠着状態を利用して、ある提案を法王に打ち明けた。
・法王自らが王都にいる獣人達に、2つの事件の発端と原因を嘘偽りなく話す。
・現在この国を制圧しているのは、ハーモニック大陸から来た1人の魔人族であることも打ち明ける。最後に、制圧者が《俺達ハーモニック大陸の種族は、聖女シャーロットを救世主として崇めている。だから、この国の存続は、聖女に委ねることにした。彼女が到着するまでは、いつも通りに過ごせ》という内容を伝える。
→拒否権などないので、即座に実行された。法王自らが拡声魔法を用いて、王都全土に【戦争の真実】や【歴史の改竄】、【神の加護など最初からなかったこと】などを宣言したことで、全ての人々が怒号をあげる。そして、制圧者でもあるトキワさんの命令に従い、聖女が到着するまで、全てが膠着状態となる。
9) アッシュさんが、再度隠れ魔人族の隠れ家に行き、トキワさんと私の強さと人物像を教え、緊張感を緩和させる。また、悲願の1つである【ハーモニック大陸への帰還】が、聖女により、必ず叶えられることも明かす。
→魔人族側の雰囲気がかなり温和になり、現在私の到着を心待ちにしている。
話を聞き終えて思ったこと、トキワさんもアッシュさんも、アストレカ大陸での私の目的を知っている。だから、ここまで色々と動いてくれたんだ。
アッシュさん、トキワさん、《ナイスアシスト!》と言いたい。
たださ、全ての判断を8歳の私に棚上げしてるよね。
「大体の状況は掴めたわ。聖女様、全てはあなた次第ということね。はっきり聞くけど、あの国をどうしたいわけ?」
ここで、ベルナデットさんからの質問か。
「難しい質問ですね。私としては、魔人族達がここの4種族と仲良く暮らせるような体制に持って行きたい。そのためには、ガーランド法王国は邪魔な存在です。だからといって、簡単に【国を滅ぼす】という選択肢を選べませんね」
私個人としては、《そんな国なんて滅んでしまえ》なんだけど。
「どうしてかしら?」
「領土を求めて、多国間の戦争が起こるかもしれないからです。私としては、絶対に避けたい事項です。長が眠っている以上、亡者の大侵攻は大陸全土で、現在でも起きている。このまま放っておいたら、多額の損害賠償がガーランド法王国を襲うことになる。額が大きすぎて、国が破綻することも避けたいです」
「多国間の戦争か。私達は、あの国を滅ぼすことしか考えていなかった。そして、混乱と混迷を与えているうちに、あの国を抜け出し、ランダルキア大陸へ移動する予定だった。でも、聖女様のおかげで、その必要はなくなった。あなたがあの国の秘密を全て暴き罰してくれるのなら、私達はあなたの判断に委ねるわ。ネルエルはどう思う?」
「私も、同じ意見です。たとえあの国が滅亡しなくても、求めているものが明るみにでるのなら、聖女様に委ねます」
あの~、8歳の私に全てを委ねないで欲しいんですけど?
委ねてもいいいの? 私の思った通りに行動するよ?
「お二人共、私の判断に任せていいのですか?」
「「ええ」」
そうですか……わかりました。私も覚悟を決めましょう。
さて、この問題にどう対処していくか。
国自体はあった方がいい。あ……そういえば、あの人は、まだガーランド法王国王都にいたはずだ。それなら、もう一層の事……
【ハーモニック大陸への帰還】
【ガーランド法王国の滅亡】
この2つが、隠れ魔人族達の悲願だ。
【亡者大侵攻の被害を最小限に抑える】
【多国間戦争の回避】
【??????】
私の願いは、この3つかな。あの人の人柄に関しては、帰還してから国王陛下やルルリア様、ヘンデル様から聞いている。私自身、会ったことがないけど、ガーランド法王国でも慕われているらしい。あの人を利用すれば、魔人族と私の願いを叶えることができる。
うん、これで行こう!
「皆さん、方針が決まりました。この案なら、全てが上手くいくかもしれません」
私は、ここにいるメンバー全員に今後の方針を訴えた。すると、【亡者大侵攻の被害を最小限に抑える案】にて、全員がドン引きし、私のことを恐怖の対象として見ているかのような眼差しとなってしまった。
「シャーロットちゃん、それ……本当にやるの?」
国王陛下、なんで嫌そうなんですか?
「聖女の緊急要請は、多国から…主に大陸北半分の国々から届いていますよね?」
「まあ…ね」
先程、報告事項が2つあると言っていた。2つ目の事項は、やはり私の緊急要請だったか。
「大勢の怪我人や死者が出ていますよね?」
「うん、その通りだ」
「私が本気でやれば、大陸中の全ての人々を短時間で回復できますが、それは聖女を超える行為ですし、避けたい手段ですよね?」
「うん、避けたいね」
元々、あなた達が私の行動を縛ったんだ。
だったら、その行動制限を利用してやる!
「この案を採用すれば、アストレカ大陸全ての国の亡者が止まり、怪我人や死者達を最小限に抑えることがきでるのはわかりますよね?」
この方法ならば、私自身は大きく目立たない。
さあ国王陛下、覚悟を決めて下さい。
「いや……そうなんだが……やり方が……う~ん」
国王陛下、まだ悩みますか。
「あ…シャーロット、この【????】の案の場合、私はどうなるのだろうか?」
今度はヘンデル様?
「当然、出世しますね。ヘンデル様がトップに君臨するんです。私とも、長い付き合いになりそうです。多分……あなたが死ぬまで?」
あ、ヘンデル様の顔が真っ青になった。
「はあ~溜息しか出ないわね。……この国は絶対安泰だと思っていたのだけど、トップ連中は大変そうね。禿げないことを祈るわ」
ベルナデットさん、それどういう意味ですか?
私は、救援策を考えてあげたのに!
「マリルや公爵様も、これからが大変ね」
「そう思うのなら、ネルエルも手伝ってよ」
「それは……ちょっと……」
マリルもネルエルさんも、何故に複雑な顔をしているのよ?
この救援策を採用すれば、間違いなく平和が訪れるんだよ!
「国王陛下、御決断を!」
○○○作者からの一言
次回更新予定日は、11/20(火)10時40分です。
漫画版6話も昼0時にUP予定です。
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