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《シャーロットが帝王となった場合のifルート》第2部 8歳〜アストレカ大陸編【ガーランド法王国

間章-5 反乱鎮圧、後始末は誰がする?

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○○○ アッシュ視点

くそ!? 

獣人亡者の数が、どんどん増えてきている。攻撃、防御、敏捷、魔力、これらのうちのいずれか1点をAランク近くにまで強化されていることもあって、冒険者や騎士団も苦戦している。このままだと、大勢の死者が出てしまう。 魔人族にとって、王都にいる4種族全てが復讐の対象となっていることを考慮すると、この戦いで死んだ4種族の一部も、亡者として復活させるつもりだ。


くそ!くそ!くそ!
選択を誤った! 


あの時、信用とか関係なく、マデリンにトキワさんのことを教えておくべきだった! もしくは、シャーロットとの連絡手段をもっと深く模索しておくべきだった! 上手くいけば連絡手段を思いついたかもしれない。彼女なら、昨日のうちに空を飛んで、ここに到着していたはずだ。マデリンを通して、長とも話し合えたはずだ。仮に、今日到着したとしても、すぐに反乱を鎮圧できたはずだ!

シャーロットを呼べなかったとしても、トキワさんを死ぬ気で探すべきだった! 
完全に、僕のミスだ! 

とにかく、早くマデリンのもとへ……

《ドオオォォォーーーーーーーン》

また衝撃音!?
何処からだ?
え、この尋常じゃない魔力の膨れ具合は何だ? 
この魔力は……トキワさんか!?

発生源は何処だ? 感知した方向には、王城が遠くに見える。

「え……まさか……発生場所は王城!? トキワさんは王城内にいるのか!?」

トキワさんの魔力が荒れ狂っている。ここまで怒るなんて、一体王城で何が起きているんだ? 獣人達が彼を怒らせたのか? トキワさんと戦えば、絶対敵わない相手だと瞬時に理解できるはずだ。

ああ、まずい!

彼の魔力が強大過ぎて、ここまで余波が届いている。僕の周囲にいる弱い亡者達が次々と崩れ落ちているし、冒険者や騎士達も恐怖で動けなくなっている。

でも、おかしいぞ?

鬼神変化していないトキワさんの魔力は、強大ではあるけど、ネーベリックよりも低い。恐怖で身動きできないレベルではないと思うんだけど? 周囲には魔人族もいるはずだ。彼らは、どんな反応を示しているのだろうか?

「真贋」

やはり、人に化けた魔人族達もチラホラ見かけるけど、この人達も恐怖で動けなくなっている。魔人族達の強さも、Bランクだ。まさかとは思うけど、アストレカ大陸の人達は、Sランク相当の魔力に慣れていないのか?  

そうなると、トキワさんの鬼神変化、シャーロットから聞いた限りだと、ステータス999の壁を突破していたはず。もし、怒りに囚われたまま鬼神変化したら……大変なことになる!

くそ、予定変更だ! 
王城に行って、トキワさんの怒りを鎮めないと!
変異の指輪も外しておこう。
人間のままで彼の怒りを鎮めたら、ややこしい事になる。

「トキワさんが本気で動けば、魔人族の企みなんて簡単に崩せるし、獣人達を瞬時に抹殺して国ごと滅ぼせるぞ!」

……急げ、急げ、急げ!

大通りを走り抜ける際、真贋を使いながら周囲にいる人達を観察していくと、獣人や人間、エルフ、ドワーフの4種族だけでなく、人に変異している魔鬼族やダークエルフ族も見かけた。そして、全ての人達が気絶しているか、恐怖で身を竦んでいるかのどちらかの状態でいた。

つまり、動ける者は僕しかいない!

周囲にいる人達全員が、僕を凝視している。多分、強大な魔力を浴びている状況下で、僕だけが自由に動けていることに不思議に思っているのだろう。僕の強さはCランク程度だけど、シャーロットのやらかし騒ぎを何度も経験してきたことで、これくらいの魔力なら余裕で耐えられる。

「え……何だ…この魔力? トキワさんの魔力に何かが加わった?」

トキワさんから本来の魔力だけでなく、禍々しい魔力も感じ取れる。しかも、魔力が少しずつ膨張している! この感覚、リリヤが白狐童子に変化した時と同じだ! 

「やばい、鬼神変化したんだ!」

トキワさんは、滅多なことでは怒らない。獣人達は、トキワさんに何をしたんだ? 
とにかく、彼の怒りを鎮めないと……

「て……どうやったら、鬼神変化したトキワさんの怒りを鎮められるんだ~~~~! しまった~~~、対処方法のことを考えてなかった~~~」

僕の持つ魔法とスキルの中で、効果がありそうなものは、1つしか思い当たらない。あの時、僕が思っただけで、スキルを習得してしまった。どう考えても、タイミングが良すぎる! こうなったら、【アレ】に賭けるしかない。馬鹿げたスキルだけど、記載されている効果を発揮してくれれば……なんとかなる! 

急いで、王城に行こう! 
この距離なら全速力で走るよりも、飛翔魔法【フライ】の方が速い。


……5分程で王城入口に到着したのはいいんだけど、王城が半壊しているし、周囲にいる獣人騎士達全員の両手両足が砕かれ、顔面もズタボロだ。全員が絶望に満ちた顔をしており、所々から「早く俺達を殺してくれ」とブツブツ聞こえてくる。恐慌状態となっているだけでなく、心も砕かれている。


「おい、ここで何があったんだ?」

1人の獣人騎士に質問してみたけど……

「ヒイィィ~~、魔鬼族!? 許してくれ~~、あんな…あんな…化物…あ…ああ…あいつの魔力は底なしなんだ~~~ああああああ」

ダメだ。言葉が途中から支離滅裂となっていて、何を言っているのかわからない。トキワさんは鬼神変化しているけど、まだ全力を出し切っていない。少しずつ魔力を上げていき、相手に絶望を与え、心を砕いている。僕は急ぎ王城へと入り、感知された魔力を辿っていくと、広い空間に辿り着いた。

ここは、間違いなく謁見の間だ!

入口となる大きな扉は、完全に破壊されており、僕の真正面に見える壁、床から6m程の高さには、ガーランド法王国の国旗……らしきものが飾られているのだけど、ビリビリに破け、もはや元の国旗の紋様もわからなくなっている。そして、国旗の下には2つの玉座らしき椅子もあるのだけど、見事に砕かれ、破片があちこちに散らばっている。肝心のトキワさんは、玉座のあった場所から程近い場所にいた。周囲には、8人の獣人達がいる。真贋で彼らの情報を見ると、法王(61歳)、王妃(59歳)、王太子(39歳)、王太子妃(37歳)、王太子の長男(19歳)、王太子の次男(17歳)、王太子の長女(15歳)、王太子の次女(12歳)となっていた。

この8人の中でも成人(15歳)している王族全員の両手両足が砕かれていて、顔も殴られたせいか、痣がひどい。表情も虚ろとなっている。ただ1人、12歳の獣人カリシュナという少女だけが無傷で、鬼神変化したトキワさんに対し、果敢にも素手でポカポカと殴っている。この濃密な魔力に覆われた空間においても、トキワさんへの恐怖に打ち克ち動いている。祖父でもある法王を大切に思っている証拠だ。

「化物~~、お祖父様を放しなさいよ~~。お祖父様が何か悪さをしたのなら、王族全員が謝罪するから、お祖父様を放してよ~~~」

あれが鬼神変化したトキワさんか。リリヤの時は、尻尾が生え、髪色が黒から白に変化しただけだった。彼の場合、異質な鎧と兜などの防具を身に付けているせいもあって、外見がトキワさんだとわからない。確か……名称は【刀魔童子】だったよな?

彼の左手には、鷲掴みされた法王の顔があった。左手で見えにくいけど、顔中に殴られた痕がある。

「は…や…く…こ…ろせ」

「法王、俺は誰も殺さない。殺したら、その命はそこで潰えてしまう。それだと面白くないだろ? 忘れたか? お前ら獣人共には、死よりも恐ろしいものを与えると言ったはずだ。お前を壊したら、次はこの小娘だ」

「や…め…ろ。カリシュナは…関係…ない。私…だけを」

「は、貴様らは、命乞いした魔人族達の願いを叶えたことはあるか? さて壊すか」
「ぐ…ああ」
「やめて~~~~~~!!!」

まずい!

トキワさんは完全に我を忘れている。どういう理由でこうなったのか知らないけど、まずは彼を止める!

「壊したらダメだ~~~、アンタ、何やってんだ~~~!!!!」
《スパァァァ~~~ン》

僕は召喚されたハリセンを両手に持ち、ありったけの力を込めて、トキワさんの後頭部をぶっ叩いた。

シャーロット用お仕置きスキル 【ハリセンL v1】

使用の際、専用のハリセンが召喚される。シャーロットに限り、防御無視の攻撃となり、3叩き1ダメージを与えることができる。なお、特殊な紙製であるため、シャーロット以外は全くのノーダメージとなる。ただし、シャーロットの仲間に限り、怒りの感情を鎮める効果があるため、使い方次第で有効な攻撃手段となりうる。
(魔物や普通の人に使うと、怒りが倍増するから要注意!)

「法王だから両手足だけでなく、もっと壊す必要があるな」

くそ、僕の存在に気づいていない!
しかも、【ハリセンLv1】だから、全く効果がない。
こうなったら効果が出るまで、トキワさんの頭をハリセンで叩きまくってやる!

「うおおおぉぉぉ~~~~目を覚ませ~~~~」

僕は夢中でトキワさんの背後から、彼の側頭部や後頭部を連続で叩き続けた。

《スパンスパンスパンスパンスパン》
【レベルが上がりました】
《スパンスパンスパンスパンスパンスパンスパンスパン》
【レベルが上がりました】
《スパンスパンスパンスパンスパンスパンスパンスパンスパンスパン》
【レベルが上がりました】
《スパンスパンスパンスパンスパンスパンスパンスパンスパンスパンスパンスパン》
【レベルが上がりました】
《スパンスパンスパンスパンスパンスパンスパンスパンスパンスパンスパンスパン》
《スパンスパンスパンスパンスパンスパンスパンスパンスパンスパンスパンスパン》
【レベルが上がりました】
「おい」
《スパンスパンスパンスパンスパンスパン》
「やめろ」
《スパンスパンスパンスパンスパンスパン》
「アッシュ、もう大丈夫だから」
《スパンスパンスパンスパンスパンスパン》

「うおおぉぉぉ~~~~ぎょきょ!?」
僕の顔に何かが!? 目を開けると、目の前にはトキワさんの右手が見えた。
あれ、足が地につけない? 
まさか僕は顔面鷲掴みされながら、空中に浮いている!?

「おい、こらアッシュ。俺を見ろ! お前の奇妙な武器のお陰で、怒りが不思議と鎮まった」

いつの間にか、法王が解放されているし、トキワさんの鬼神変化も解けていた。

「あ…え~と…すいません。目を閉じながら夢中で叩き続けていたので気づきませんでした」

あ、トキワさんが右手を放して、僕を床へ下ろしてくれた。

「その奇妙な武器は何だ?」
よかった~~、いつもの彼だ。さっきの怒気が、ハリセンで霧散したんだ。

「シャーロット用お仕置きスキル【ハリセン】と言いまして、シャーロットの仲間に使用した場合、怒りを鎮める効果があるそうです」

「あの神、俺だけでなく、アッシュにもお仕置きスキルを用意していたのか。まあ、そのおかげで俺の怒りも鎮まったが……この都合が良すぎる展開、まさかとは思うが……」

トキワさんも気づいたのだろうか?

そう、何もかも都合が良すぎるんだ。ここに転移してから、2日後に反乱が起きた。僕がハズレのシャーロットメダルに対し怒ったことで、お仕置きスキルを2つ習得した。トキワさんは、何らかの理由で大激怒したけど、僕の習得したばかりの【ハリセン】スキルのおかげで、最悪の事態を回避できた。これが偶然といえるか? 

多分、カクさんだけでなく、ガーランド様も絡んでいる。あの神と精霊は、何を企んでいるんだ? 余程のことがなければ、神は地上に干渉しないはずだ。厄浄禍津金剛もいなくなり、平穏が訪れたはずだけど……

 気づけば、カリシュナという少女が崩れ落ちた法王の身体を抱きしめ、大声で泣き叫んでいた。

「あのガキ、甲高い声で騒ぎやがって煩いな。気絶させるか?」
《スパン》

この悲惨な光景を見て、そんな無神経なことを言うとは……つい反射的にハリセンで叩いてしまった。

「アンタは鬼か!? 泣いて当たり前でしょうが! なんで、王城内にいる獣人ほぼ全員をぶちのめしたんですか! 国が崩壊したことを意味しているんですよ!」

「ああ…それなんだが、メダルから言われた俺の浮気疑惑と法王の行為にキレてしまったんだ」

浮気疑惑? シャーロットメダルに余程のことを言われたのか?
でも、あくまで疑惑なんだがら、それだけでキレないはずだ。

「法王は、何をしたのですか?」

「奴がスミレ(メダル)を砕いたから、それと同じ行為を王城にいる奴等全員にしただけだ」

スミレを砕いた?
トキワさんの恋人でもあるスミレさんは、ここにはいないはずだけど?
そのスミレさんが獣人に殺されたのか?

「どういう意味ですか? スミレさんがここにいたんですか?」
「ああ、すまん。コレのことだ」

トキワさんは自分のマジックバッグから、メダルを取り出した。これは、シャーロットメダル? いや違う。この中央に刻まれている顔は誰だ?

「まさか、この人がスミレさん?」

「そうだ。何故か、王城の中に限り、ハズレメダルがスミレメダルとなっていた。俺が法王に見せて、これと同じメダルを回収させてもらうと言ったんだが、あろうことかコイツは、俺の恋人でもあるスミレを4つに砕きやがった。メダルも、ボコボコに変型したよ」

「言い方! 言い方がおかしいから! 【スミレ】じゃなく、【スミレメダル】でしょうが!」

スミレを砕いたというから、スミレさんが殺されたと思ったじゃないか! 

トキワさんは怒りのせいで、スミレとスミレメダルを混同している。彼女のことをそれだけ大切に想っていることはわかるけどさ。

まさか、メダルを4つに砕かれ、ボコボコに変型されたこともあって、トキワさんは成人した獣人達の両手足を砕き、顔面をボコボコにしたのか!?

アンタ、何やってんだよ!!!!

最悪の事態だ。トキワさんの怒りにより、魔人族も獣人族達もほぼ全滅に陥ったじゃないか! トキワさんと亡者との力量差があるせいか、亡者の根源となる負の怨念もバッサリと切断されたことで、亡者達は二度と復活しない。たった1人の魔鬼族の怒りによって、魔人族の復讐も、獣人族のプライドも粉々に砕け散った。

「トキワさん、あなたの行動により、獣人族も魔人族も共倒れとなりました。この後、どう行動するつもりだったんですか!? まさか、この国を支配するとか?」

「冗談言うな。なんで、俺がこんな国を支配するんだ? ただ…まあ…少しやり過ぎたかなと…反省は…している。正直、すまないと思っている」

この人は……

「滅茶苦茶ですよ! 昨日、僕は魔鬼族の女の子とあって、ここに住む魔人族の事情を少しだけ聞いたんです。今日起こる事件のことは聞かされていませんが、彼らが何をしたかったのか、大凡わかります。彼らは200年という歳月をかけ、仲間を集めて反乱を起こす機会をずっと伺っていた! その間、死んだ獣人を集め亡者として復活させた後、王都全土に散開させ、反乱まで眠らせていたんだ! そして今日、機は熟したと思い、全ての恨みを込めて、反乱を起こしたんです! でも、あなたの怒りのせいで、たった3時間で崩壊ですよ! 魔人族達は、未だに何が起こったのか理解していません。ひょっとしたら、獣人側の切り札が発動したと思い、王都から脱出しているかもしれません!」

あまりにも不憫な結果となったことで、僕はトキワさんにこれまでの鬱憤を全部吐き出してしまった。

「正直……申し訳ないと思っている」

トキワさんの表情を見て、申し訳ないと本気で思っているようだ。でも、もしトキワさんや僕が絡んでいなかったら、ここで起きる反乱はどうなっていたのだろうか? 

考えられる要因は……

1) 獣人側の勝利
その場合、魔人族全員が粛清される

2) 魔人族の勝利
その場合、王族である獣人達が殺されるため、ガーランド法王国が滅亡する。その後、どうなるかは不明。

どちらかが勝つにしても、多くの死傷者が発生していたのは間違いない。そういう意味合いでは、死傷者の数を最小限に抑えたといえるだろうけど、全くの部外者であるトキワさんが魔人族である以上、獣人側から見れば、国の滅亡を覚悟しているだろう。それに対し、魔人族側はトキワさんのことを誰1人知らないから、完全に敗北したと思っている。

「問題は、この後どうするかです。この騒ぎは、シャーロットのいるエルディア王国にまで確実に伝わる。彼女がここに来るのも、時間の問題です」

ここからどうする? 

もし、僕達2人がこのまま逃げてしまったら、獣人と魔人族による泥沼の戦いが勃発するんじゃないか? いや、獣人族がトキワさんの力に怯え、魔人族に完全屈服するかもしれない。とにかく、シャーロットがここに来る以上、僕とトキワさんの存在だけは、確実にバレる。このまま放置して逃げる事は許されない。それに、僕の選択ミスで招いた未来でもあるんだ。

シャーロットが来るまでに、僕がこの地の獣人族と魔人族の関係を少しでも緩和しておくんだ!

現在、王城の中でも、唯一話ができそうなのは王族でもある【カルシュナ】という獣人の少女だけだ。法王も気絶しているし、それ以外の人達は、両手両足を砕かれ、精神状態もかなり酷い。

「トキワさん、とりあえず彼女と話を進めていきますよ?」
「俺の気も済んだし、別に構わないぞ。ただ、こいつら獣人は、神ガーランドに護られていると頑なに信じている」

ガーランド様に護られているだって!?

「それはあり得ませんよ。シャーロットから聞いた話だと、ガーランド様は建国者の勇者様と聖女様のことを気に入っているだけであって、国自体はどうなろうが知ったことではないと断言したそうです」

「ああ、俺もそう聞いている。法王にも話したが、全く信じなかった」

「嘘…どういう…こと? 私達獣人は…神に護られていると常々言われてきたけど…」

僕とトキワさんの会話に、カルシュナが反応した。トキワさんの魔力が鎮まったことにより、彼女の感情も少し落ち着いたのか。

彼女が、こっちに恐る恐る近づいてきた。かなり怯えているけど、僕と会話する気はあるようだ。王族として動ける者は自分だけ、必死に気力を振り絞っているのがわかる。こちらに敵意がないことをわからせるためにも、ゆっくりと慎重に話を進めていこう。

「僕はアッシュ・パートン。さっきまで暴れていたこの人が、トキワ・ミカイツ。君の名前は?」
「…カルシュナ・デュロナイツよ」

少しきつい印象があるけど、可愛い女の子だ。

「見ての通り、僕達は魔鬼族だ。僕がトキワさんの怒りを鎮めたから、もう彼が暴れることはない。これから話す内容は真実だから、心して聞いてほしい」

彼女は、静かに頷いた。

「神ガーランド様は、地上にいる全種族に対し、特別扱いはしない。そもそも獣人に神の加護があるのなら、こんな大事件は起こらない。もっと決定的な証拠を言えば、神や精霊の加護がある場合、スキル欄、称号欄、備考欄に特別な文面が記載されているはずだ。聖女ならば、称号【聖女】とユニークスキル【精霊視】かな。王族でもある君のステータスに、そういった特別なものはあるかい?」

「ない…わ」

ステータスに記載されてもいないのに、よくこれまで信じてこれたな。これまでの法王達が、国民達にそう思い込ませていたのかもしれない。

「神の御加護なんて、建国者である勇者と聖女以外、初めから持ち合わせていないのさ。大方、国を建国し、ガーランド教という宗教を作った段階で、神罰が振り下ろされなかったこともあって、【国自体に、ガーランド様の加護が備わっている】と、獣人達も残りの3種族も思い込んだんだ。ある意味、一種の洗脳になるのかな?」

もしかしたら200年前、獣人達がこの加護を利用して、3種族やハーモニック大陸にいる獣人達を唆し、戦争を誘発させたのかもしれない。

「そ…ん…な…加護が…ない…だなんて? それじゃあ、私達獣人はあなた達魔人族に皆殺しにされるの?」

カルシュナが、悲愴な表情を浮かべている。この惨状を見渡したら、そう思うのも無理はないか。

「少なくとも…僕とトキワさんは、君達を殺さないよ」

僕の答えを聞くと、カルシュナはキョトンと戸惑いの表情を浮かべた。

「え……どうして?」

「はっきり言うけど、僕達2人は城下で起きている事件と何の関わりもない。僕達は、精霊様の命により、ハーモニック大陸からここへやって来た。目的は、王都全体に散らばっているヘキサゴンメダルを集めること」

僕はカルシュナに、ハズレのシャーロットメダルと、トキワさんから借りたスミレメダルを見せた。

「これがヘキサゴンメダル?」
「そうだよ。メダルは3種類ある。残り1種類は、まだ見つかっていない」

彼女はメダルを握り、表裏をしっかりと観察した。

「それじゃあ、トキワ…様は、どうして私達に攻撃を仕掛けてきたの?」

トキワ様…か。相当な恐怖を植え付けられたんだな。
この際だから、全部話そう。

「その2枚のメダルだけど、うち1枚は子供の顔が彫られているだろ? そっちが現聖女シャーロット・エルバランだ」

「ええ!? この子が行方不明のシャーロット様!?」

シャーロットの帰還については、後で伝えておこう。

「もう1つ、大人の女性が彫られているだろ? その女性はトキワさんの恋人、スミレさんだ。君の祖父でもある法王は、魔人族だからとこっちの事情を詳しく聞こうともせず、そのメダルを足で踏みつけ砕いたんだよ。だから、彼は怒った。メダルと同じように、獣人達の両手足を砕き、顔もボコボコにしたんだ」

トキワさんと法王の詳しい会話内容は聞いていないけど、これで合ってるよな? トキワさんを見ると、軽く頷いてくれた。

「お祖父様……酷いわ」

「魔人族は、この大陸に住む4種族と同じだ。傲慢で自分勝手な者もいれば、優しく包容力のある者達だっている。君達アストレカ大陸の種族達が、魔人族の印象を捏造したんだ。理由は、200年前に起きた戦争の大敗を隠すためだろうね」

「え……魔人族達が負けたのでは?」

まさか、王族である彼女も、真実を知らされていないのか!?

「アッシュ、法王は真実を知っていた。200年前に起きた戦争の真実を知っているのは、おそらく王族の中でも一握りの者だけだ」

獣人達はガーランド様の加護を受けていると思い込んでいる。そのことを考慮すると、200年前の戦争は、全てガーランド法王国によって仕組まれたことなのか? だとすれば、歴史の改竄も魔人族の印象を悪く植え付けたのも、全てこの国が発端なのか?

「カルシュナ、君にハーモニック大陸で記されている200年前の戦争を教えておくよ。魔人族がこの大陸へ攻め込んで来たんじゃない。君達4種族がハーモニック大陸に来て、戦争を仕掛けてきたんだ」

僕は、ハーモニック大陸で伝えられている内容を嘘偽りなく、彼女に話した。すると、カルシュナの顔色が、みるみるうちに蒼ざめていった。

「……これが本当に起きた歴史さ。その時の侵略行為が原因で、魔鬼族の治めるジストニス王国では、現在でも4種族共に忌み嫌われている」

「傲慢で自分勝手なのは……200年前の私達のご先祖様?」

「そうなるね。それじゃあ、現在起きていることを考えようか。ついさっきまで、ネクロマンサーによって復活した獣人の亡者達が、王都全土で暴れまわっていた。全てが、魔人族の仕業だ。動機は【怨恨】。大勢の仲間達が200年もの間虐げられ、死んでいった。彼らが反乱を起こしても、なんら不思議ではない」

カルシュナは状況を理解したのか、両膝を地に付けてしまった。自分達が魔人族に対して、これまで何を行ってきたのか、その程度ならば知っているはずだ。

「あ…ああ…魔人族達は何も悪くないわ。むしろ……私達4種族が悪い。恨まれて当然よ。でも……もう何もかもが遅い。……私達は魔人族に殺される!!!」

このまま放置すると、王族全員が間違いなく殺されるだろう。でも、それじゃあ、互いに互いを憎しみ合い、和解することは永久に訪れない。

「アッシュ、まさかとは思うが、この地にいる魔人達と4種族の軋轢を埋める気でいるのか?」

「トキワさん、そのまさかですよ。勿論、全てを埋めれるとは、僕も思っていません。シャーロットがここに到着するまで、両者にこうなった原因を説明し、シャーロットの存在を知らせておきます。彼女がどれ程の強者であるのかをわからせておけば、両者も戦いを避けるでしょう」

「アッシュ、シャーロットの強さを言ったところで、両者が信じると思うか?」

普通であれば、絶対に信じてもらえない。でも、今の状態ならば……

「大丈夫です。トキワさんが鬼神変化したことで、両者共にステータス999の壁を超えた強さを理解しました。そのトキワさんが聖女であるシャーロットを恐れているとわかれば、嫌でも納得しますよ」

「まあ……そうだな」

聖女でもあるシャーロットが到着すれば、戦争を完全に回避できる。

「僕は魔人族達の隠れ家に行きます。トキワさんは、王城にいる獣人族達の回復をお願いします」

「……わかった。この事態を引き起こしたのは、俺だ。獣人達を回復させたら、王族達に謝罪しておこう」

トキワさんからの了解を得たことで、僕は謁見の間から出ようと動き出そうしたところで、誰かが僕の服を掴んだ。

「待って! アッシュが皆の傷を回復させてあげて……お願い!……トキワ様だと、多分……お願い……お願い」

カルシュナが大粒の涙を浮かべて、必死に僕に懇願している。そんな顔をされたら、振りほどけないじゃないか。僕は【マックスヒール】を覚えているけど、基本スキルのレベル不足で、まだ使用できない。効率を考えれば、トキワさんがやるべきだ。でも、カルシュナも含めて、王城にいる獣人達は、トキワさんを怖れている。僕が……やるしかないのか。

「キレたせいもあって、俺は獣人達に相当な恐怖を植えつけたようだな。アッシュが、こいつらを回復させてやれ。俺がお前を護衛していれば、馬鹿な行為もしないだろう」

マジックポーションも余裕があるし、【ハイヒール】で少しずつ回復させていくか。

「わかりました。カルシュナ、僕が回復していくよ」
「ああ……ありがとう」

う、そんな満面の笑みを浮かべなくても……

ちょっとキツイ印象があるカルシュナだけど、笑顔になるとこんなにも可愛くなるのか。こんな場面をリリヤに見られたら、間違いなく誤解されるな。シャーロットが到着するまで、僕が獣人と魔人族の軋轢を少しでも埋めておこう。








作者からの一言


トキワの鬼神変化の名称を剣聖童子から刀魔童子に変更します。

間章は、ここで終了です。次回から本編を再開します。
次回更新予定日は、10/30(火)です。


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