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《シャーロットが帝王となった場合のifルート》第2部 8歳〜アストレカ大陸編【ガーランド法王国
間章−3 急変
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○○○ アッシュ視点
僕にとって、究極の選択になるのかもしれない。
1) マデリンに、キーパーソンとなるトキワさんの存在を知らせる
2) 簡易型通信機でトキワさんだけに、魔人族の存在を知らせ判断を仰ぐ
3) 全てを無視して、ヘキサゴンメダルの捜索に集中する
本来ならば、ここに第4の選択肢、【何らかの方法でシャーロットに知らせる】を入れるべきだ。彼女の目的を考えれば、真っ先に知らせるべき事案だろう。でも、彼女と別れて以降、連絡手段を取れる方法を考えたけど見つからなかった。簡易型通信機も遠距離すぎるせいか、反応がない。トキワさんのスカイドラゴンを使えば、シャーロットに会いに行けるかもしれないけど、それだと時間がかかりすぎる。
【今回の事件、シャーロットに頼れない】
ただ、それでも僕の頭の中では、
【シャーロットとの連絡手段は、必ずある! もう1度、落ち着いて考えろ!】
【ここにいる者達だけで、なんとか解決させよう】
この2つの思いが、僕の中で戦っている。連絡手段がない以上、前者は却下すべき事項なんだけど、どうしてここまで強く思ってしまうんだ? 連絡手段を取る方法があるにも関わらず、僕が何かを見落としているのか?
僕は頭を横に振って、この疑念を振り落とした。
現状、シャーロットとの連絡手段がない以上、僕達で何とかするしかない。ただ、トキワさんとも連絡が取れないから、マデリンにトキワさんの存在を言っても信用してもらえない。
そうなると……
「マデリン、僕はこのままヘキサゴンメダルの捜索にあたる。同じ魔人族とはいえ、僕は完全な余所者だ。僕達が君達の計画に加わることで、歪みが生じてしまったら、元も子もない。僕達の存在を無視して、事件を起こせばいい」
ここに住む魔人族の目的は内乱を利用して、ガーランド法王国を崩壊させること。国を崩壊させるのだから、王城に乗り込んで王族達を叩くのだろう。
「いいの? 私としては、そっちの方がありがたいけど、あなたの仲間が死ぬかもしれないわよ?」
マデリンは、何処かホッとした表情をしている。同じ魔人族である僕を、これから起こる事件に直接巻き込みたくないという思いが、顔に出ている。王都に滞在する以上、間接的に巻き込まれるとはいえ、僕達10人は人間に変異している。ここに住む魔人族達が僕達に襲いかかってくるかもと言いたいのだろう。
「大丈夫。ここまで残った10人は、皆強いよ。仮に獣人達が襲ってきても、返り討ちにするだけさ。君達が知らずに襲いかかってきた場合、こちらから正体を明かせばいい」
「そ……そうね」
何だろう? 今、妙な間があったような?
「ただ、君達の事情を知っても、何もできない僕を許してほしい」
「ふふ、馬鹿ね。ハーモニック大陸のジストニス王国の現状や、聖女シャーロットの帰還を知っただけでも、私達にとっては有益な情報よ。長も、喜ぶと思う。ガーランド法王国を滅亡させたら、みんなでエルディア王国の聖女様に会いにいってみるわ。ハーモニック大陸に戻れなくとも、その国なら私達の安住の地となるかもしれないもの」
『シャーロットに会えさえすれば、君達はハーモニック大陸に戻れる』……この言葉を口にできたらどれだけ良いだろうか。僕がシャーロットの抱える事情を、勝手に話すわけにはいかない。互いの事情を話し終えた僕達は、マデリンに【幻夢】をかけ直した後、再び外に出た。そして、彼女の隠れ家となる平民エリアのとある区画まで行った後、僕は彼女と別れ、隠れ家からも離れた。別れ際、彼女は僕を見て、何処か悲しげな表情をしていた。何か言いたいけど言ってはいけない、そんな印象を受けた。
多分、マデリンはこれから起こる事件の詳細を知っている。自分を助けてくれた僕に打ち明けたくても、長から【秘密厳守】とされていて、同じ魔人族でも余所者である僕に言えなかったんだ。でも、彼女は秘密厳守とされる部分以外を僕に教えてくれたんじゃないかな?
結局、僕が選んだのは、【簡易型通信機でトキワさんだけに、魔人族の存在を知らせ判断を仰ぐ】の選択肢だ。
せめて、王都の何処かにいるトキワさんを探し出して、魔人族と出会ったことだけを打ち明けておこう。トキワさんとの話し合いにもよるけど、僕が彼をあの隠れ家に連れて行けば、マデリンだって信用してくれる。そうすれば、事件を先延ばしにできるかもしれない。
簡易型通信機を駆使すれば、今日中に発見できるはずだ!
ヘキサゴンメダルの捜索を後回しにして、トキワさんを探そう!
○○○
現在の時刻は夜の9時40分、僕は宿屋にある自分の部屋のベッドで寝転がっている。宿屋の門限が夜9時であったため、ギリギリまで王都を走り回った後、ここへ戻ってきた。
結局、僕はトキワさんを見つけられなかった。
僕の気配察知を最大限に行使しても、全然反応がない。もしかしたら、彼は【隠蔽】スキルを使用しているのかもしれない。簡易型通信機による通信も試みたけど、応答が一切なかった。
「僕達の本来の任務は、ヘキサゴンメダルの捜索だ。簡易型通信機を所持しているのは僕とトキワさんのみ。……まさか、トキワさんは皆と平等に勝負するために、通信機を装備していないのか?」
ありうる。通信機が使えない、隠蔽スキルのせいで所在位置も皆目不明。
「完全にお手上げじゃないか!? マデリンに、トキワさんの存在を教えておくべきだった~~! そうすれば、マデリン達がトキワさんを見つけても、僕の名前を出すことで、互いの警戒心も解けるのに~~。あの時の選択肢を誤った~~~~!!!」
これじゃあ、ヘキサゴンメダルを捜索している行為と大差ないぞ! 時間も、もう遅い。警備兵による巡回も、厳しいものとなっている。今から動くのは危険だ。明日、朝一でマデリンに、トキワさんの存在を教えておこう!
…………う、光が目に、もう朝か。
カーテンの隙間から、光が射し込んでいたのか。結局、マデリンと出会ったこともあって、メダルを1枚しか入手できていない。もう、クックイスクイズのことは諦めよう。ここで起こる事件の被害を少しでも抑えることだけを考えよう。
《ドオオォォォーーーーーーーン》
「何だ、今の衝撃音?」
僕は飛び起きて、窓を開けた。すると、5人の獣人達が唸り声をあげながら、人や建物を殴りまくっていた。周囲を見回すと、多くの人々が逃げ惑い、煙があちこちの建物から立ち昇っている。獣人の騎士達が立ち向かっているようだけど、暴れている獣人の方が強い感じがする。
でも、なんで獣人が暴れているんだ?
「そうだ。あの魔法を……【真贋】」
シャーロットから真贋を教わっておいてよかった。
獣人(亡者強化型)
レベル33
HP 331
MP 116
基本ステータス
攻撃 367
防御 243
敏捷 220
器用 117
知力 10
魔法適性 全属性
魔法攻撃 156
魔法防御 113
魔力量 116
亡者強化型? 何処かで聞いたような……そうか、学園で習ったんだ。確か、ネクロマンサーが死者を復活させた際、死者の名称が【亡者】に変化するはずだ。ということは、あれは死んだ人間か! 見境なく暴れている様子だと、蓄積されている負の怨念が暴走しているのか? 亡者の場合、相手が自分より強かったとしても、光属性を付与した武器で急所を攻撃すれば、一撃で葬ることも可能だと授業で習ったぞ。
それにしても、メダル捜索2日目で事件発生か。多分、この地に住む魔人族の仕業だ。僕は、彼らの積み重なった怨念を甘く見ていた。てっきり、魔人族自らが反乱を起こすとばかり思っていた。
【自分達は高みの見物、獣人の亡者と生者で同士討ちさせ、弱ったところを魔人族が一気に攻める】
これが狙いか。あちこちから、悲鳴や怒号が響いている。
多分、王都全土が、亡者で溢れていると思った方がいい。
カクさんは、今日事件が起こることを知っていたに違いない。この状況で、メダルを捜索しろと言っているんだ。昨日の時点では、《シャーロットが怒るかもしれないのに、何故ここを選んだのか?》と疑問に思っていた。よくよく考えると、過去の【クックイスクイズ本戦】は、死者が多数出る程の危険なイベントだった。今回はどうだ? 第3チェックポイントまでは、シャーロット本人がいたこともあってか、死者が出ることもなかった。唯一危険だったのは、第2チェックポイントの【迷いの森】くらいだ。
おそらく、カクさんは僕達に、【今後、誰であろうとも、特別扱いはしない】という思いを伝えるために、あえてここへ転移させたのかもしれない。
その可能性が大きい。
彼女がいなくなったことで、本来のクックイスクイズの様式に戻したんだ。仮に僕が死んで、シャーロットが何か言ってきても、『これが本来のクックイスクイズだ。死者が出ることを知っていて参加したのだから、文句を言わせない!』と言い聞かせる気だ。精霊様にとって、シャーロットは友達で、ガーランド様こそが使えるべき主人だ。ガーランド様の機嫌を損ねたら、精霊全員が一瞬で消し去られる。勿論、シャーロットからのお仕置きも恐れているだろうけど、上司でもあるガーランド様には逆らえない。
そう考えると、ここへ転移された理由も納得できる。
マデリンとの出会いは、多分偶然だろう。彼女は、本物の魔鬼族だった。今現在、外で暴れている亡者達は、マデリン達の差し金で間違いない。200年の復讐を成就させるのだから、入念な準備を進めていたからこそ、亡者達が王都中に溢れているんだ。奴等とまともに戦えば、僕だって危ない。
「もう遅いかもしれないけど、マデリンのところに行って、トキワさんの存在を教えよう。その後、トキワさんを探し出し、魔人族の長と対談させ上手くいけば、全ての亡者を一気に元の死体に戻せるかもしれない。被害を最小限に抑えるんだ!」
僕は急いで服を着替え、準備を整えてから1階に下りた。すると……宿屋の獣人の女の子が壁際で震えていた。
「君、しばらくの間、外に出てはダメだ。理由はわからないけど、大人の獣人達が暴れている」
「お、お客様はどうされるんですか?」
「僕は用事があって、どうしても外に出ないといけないんだ。それじゃあ、行ってきます」
外に出ると、亡者達が至る所にいた。生者である住人達が、亡者達の魔の手から必死に逃れようとしている。亡者がうようよ彷徨っている以上、夜中は危険だ。昼の間に、トキワさんを探し出す!
「亡者の数が多い。奴等は人だけでなく、建物も破壊するのか」
「がああぁぁぁーーーー」
「うわあ!! ここで死ぬわけにはいかない! はあ!」
僕は光属性を付与した剣で、獣人の亡者の首を一閃した。すると、怨念が絶たれたのか、瞬時に崩れ落ちた。よし、今の僕でも、急所を斬れば倒せる!
やってやる! 僕自身、強くならないといけないんだ! 幸い、真贋を使えば、亡者と生者を確実に区別できる。
「どけえぇぇぇぇ~~~~」
亡者の攻撃を回避しつつ、昨日マデリンと出会った道具屋付近に到着すると……
「嘘だろ……店が……ない!」
建物が完全に倒壊している。店主さんもいないぞ! 昨日と今日で、状況が違いすぎる。あれ、でもメダルの気配がする? 瓦礫を取り除いていくと、1枚のメダルがあった。
「あった、メダルだ!」
これが本物なら、カクさんのもとへ転移される。そうすれば、亡者への対処方法や、魔人族の抱える事情とかも詳しく教えてくれるかもしれない。逆にハズレなら、悪口を言われる。ここで大声を立てるわけにはいかないから、皮のグローブをつけて拾おう。よし、このまま路地裏に避難だ。
「ここなら誰もいないよな?」
グローブを付けていない左手で、メダルを握ると、カクさんの顔がシャーロットに切り替わった。
「あっはっは~偽物だよ。あっはっは~偽物だよ。アッシュのバーカ、アッシュのバーカ」
「この緊迫した状況で言うセリフが、それか~~~~~!!!!」
げ、大声をあげたせいで、亡者達が路地裏に入ってきた!
しかも、この奥は行き止まりだ!
あれ3体いるのに、魔導具の反応がない。そうか、亡者はカウントされないのか!
「バーカ、逃げられないよ。バーカ、逃げられないよ」
「むかつく~~~~、シャーロットを今すぐお仕置きしたい!!!」
《ピコン》
《シャーロット用お仕置きスキル【グリグリLv1】と【ハリセンLv1】を入手しました》
「この状況で、そんなスキルいるか~~~~~~!!!」
とにかく、戦うしかない!
「ガキがいるぞ~~~」
「死ね~~~~」
「逃がさね~~~~」
理性のある獣人亡者もいるのか!?
「バーカバーカ、こいつらは口だけだよ。バーカバーカ、こいつらは口だけだよ」
え?
「「「人間~~~」」」
3人が一斉に斬りかかってきた。けど、踏み込みも甘いし、剣速も遅い!
3人の隙間を縫って、一気に急所でもある首を切断した。3人は防御することもなく、簡単に斬られ崩れていった。
「こいつら弱いぞ!」
シャーロットメダルが教えてくれた通り、こいつらは弱かった。もしかして、僕を助けてくれた? このハズレメダル、使い方次第では、この場を切り抜けられる!
シャーロットメダルを捜索しつつ、マデリンのもとへ行こう!
○○○ トキワ視点
外では、亡者達が暴れ回っている。誰が操作しているのか知らないが、俺にとっては都合がいい。昨日の時点で、俺は王都中を走り回り、10枚のメダルを入手した。当初、メダルの入手方法に四苦八苦したが、法則性を知ってからは、入手速度も大幅に上がった。しかし、手に入れた10枚全てが、ハズレのシャーロットメダルだった。1枚目のハズレメダルは、シャーロットの顔が彫れらた物が、無造作に店の棚の上に置かれていたが、2枚目以降、見た目がヘキサゴンメダルであるものの、俺が触ると、シャーロットメダルに変化するよう仕掛けられていた。そして6枚目を入手した時、シャーロットの声で、俺の恋人であるスミレの悪口を言われたせいもあって、俺は我を忘れて怒鳴っちまった。その怒鳴り声に反応して、5人の住民に見られた。あと1回のミスで、魔導具の効果が消失してしまう。俺にはスミレの悪口を言われると、ついカッとなる癖があるんだよな。スミレ本人からも気をつけるよう言われているから、7枚目以降、シャーロットメダルの悪口を聞き流すことにした。
夜明け以降、亡者達が王都中に突如現れたせいもあって、どの地区も大混乱に陥っている。亡者達の配置具合から察すると、何者かが何年も前から丹念に準備していた証拠だ。おそらく、これは序の口だ。混乱は、ますます激化するだろう。そんな状況の中、王都内を走り回り、ヘキサゴンメダルの捜索なんかしていられるか! 俺は、この事態を利用させてもらう。亡者を排除すべく、王城の騎士どもが動き出した。王城の警備が低下している今こそ、城内に配置されているヘキサゴンメダルを入手する絶好の機会だ!
ただ、獣人達の嗅覚は、俺達よりも数倍優れている。中には、臭気察知スキルを習得している者もいるだろう。俺は、臭いで魔鬼族と勘付かれないよう、臭気を完全遮断するフード付きコートを身につけて、警備の手薄な箇所から王城の城壁を超え、中庭の茂みへと素早く移動した。
「シャーロット、感謝するぜ。お前のおかげで、魔力波を利用した【真贋】だけでなく、【マップマッピング】も習得できた」
現状、王城内の内部構造の詳細まではわからないが、感知したヘキサゴンメダルの魔力をこのスキルに組み込むことで、何処に配置されているのかが、大凡わかる。
ヘキサゴンメダルのメダルの数は全40枚、全てが王城内に配置されている。これだけの数があれば、1枚くらい本物が混じっていてもおかしくない。見つけたメダルに関しては、グローブを身につけた状態で、即マジックバッグに入れる。そうすることで、シャーロットの声は俺だけに聞こえてくる。本物であれば、カクさんの所へ即転移される。
「妙だな。ヘキサゴンメダルの半分近くが、王城内を徘徊している? あのメダルが勝手に動くわけがない。ということは、誰かが携帯しているのか?」
一先ず、地下の隠し通路の入口を見つけ出して、王城内へ侵入するか。
茂みを利用して、少しずつ移動し、地下の隠し通路や解析できた王城内部の詳細を知ることで、俺のステータスに表示されている王城マップが、徐々に高精細へと変化していく。ここから1番近い地下隠し通路への入口は、王城の裏門近くの壁の側か。あれから魔力感知や気配察知、気配遮断、隠密などのレベルを更に向上させたから、まず見つからないだろうが、油断禁物だ。少しずつ慎重に歩を進めていこう。
………さて、地下の隠し通路を抜け、1階の天井裏に身を潜めることに成功したのはいいが、何処から探すかが問題だな。
「うん? メダルの気配がこっちに近づいてきている? この気配……内部の警備兵か?」
2人の警備兵が俺の真下を通過した瞬間、俺はとんでもないものを見た。この位置からだと、視野が狭く見にくかったが、警備兵の1人、そいつの背中に納めている剣の柄部分に、メダルが埋め込まれていた。しかも、そのメダルはヘキサゴンメダルでもシャーロットメダルでもなかった。メダル中央に彫り込まれていたのは、間違いなく俺の恋人、スミレの顔だった。言い換えれば、あれは【スミレメダル】だ。
精霊の奴等、なんてところにメダルを配置させるんだ!
このイベントが終了しても、ハズレメダルだけが消えずに残る可能性もある。そうなると、最悪40人…いやそれ以上の奴等が、今後毎日スミレ(メダル)の顔を見て触りやがるのか。
……ふざけるなよ。スミレを独占していいのは、俺だけだ!
こうなったら、メダル40枚を全部集めてやる。カクさんの野郎、俺がこの城に踏み込んでくることを見越して、スミレメダルを配置しやがったな!
さすがに、このまま堂々と下りてメダルを回収すると、王城内でも大騒ぎになる。まずは、何処かの部屋に配置されているスミレメダルを回収して、何を喋るのか確認するか。最も安全に取得できる場所は、メダルの配置場所を考慮すると……3階の部屋か。
ここまでの段階で、各階に繋がる階段の場所は把握している。各階の大まかな部屋の位置も理解したが、天井裏に繋がる場所がわからない。俺は、シャーロットの【光学迷彩】スキルを習得できていない。魔法【幻夢】に関しては、少しでもイメージが崩れると、途端に魔法が解ける。それに、王城内での魔法使用は勘付かれる危険性もあるな。1階の天井裏を移動しつつ、少しずつ解析を進めていくか。
……1時間後
魔力を消費しないとはいえ、さすがに1時間もやり続けると、精神的に疲れる。とりあえず、3階の天井裏に繋がる場所を2ヶ所発見できた。マップ自体も、粗い部分がかなり目立つものの、なんとか王城内を動けるレベルにまで表示できた。あとは、城内で動きながら補完していけばいいだろう。現在の獣人共の位置関係は……、この配置なら3階まで行ける。
早速、俺は1階に下り、ステータスに表示される他者の動きに注意しながら、人の死角を縫い、3階天井裏へと入った。ここには、俺以外の気配がいくつもある。おそらく、隠密部隊の連中だろう。俺にとって、どうでもいい連中であったため、即座にそいつらの首筋に手刀を当て眠らせた。その後、睡眠薬を嗅がせておいたから、数時間程寝ているだろう。
「メダルの反応は、この部屋か」
誰もいないな。下りるか。
「なんだ、この部屋!? 異様に広く豪華だな。もしかして、法王の部屋か?」
メダルは何処に……本棚のわかりやすい場所に配置されている。外で見つけた時もそうだったが、この単純な配置なら、いずれ獣人達にも知られるな。いや、既に知られていると思った方がいいかもしれない。
王城内にあるメダルは、俺が全て回収してやる!
スミレ(メダル)を好き勝手に触られてたまるか!
○○○ 作者からの一言
スキル入手時期は、フレヤ達と同じ時期です。
次回更新予定日は、10/16(火)となります。
僕にとって、究極の選択になるのかもしれない。
1) マデリンに、キーパーソンとなるトキワさんの存在を知らせる
2) 簡易型通信機でトキワさんだけに、魔人族の存在を知らせ判断を仰ぐ
3) 全てを無視して、ヘキサゴンメダルの捜索に集中する
本来ならば、ここに第4の選択肢、【何らかの方法でシャーロットに知らせる】を入れるべきだ。彼女の目的を考えれば、真っ先に知らせるべき事案だろう。でも、彼女と別れて以降、連絡手段を取れる方法を考えたけど見つからなかった。簡易型通信機も遠距離すぎるせいか、反応がない。トキワさんのスカイドラゴンを使えば、シャーロットに会いに行けるかもしれないけど、それだと時間がかかりすぎる。
【今回の事件、シャーロットに頼れない】
ただ、それでも僕の頭の中では、
【シャーロットとの連絡手段は、必ずある! もう1度、落ち着いて考えろ!】
【ここにいる者達だけで、なんとか解決させよう】
この2つの思いが、僕の中で戦っている。連絡手段がない以上、前者は却下すべき事項なんだけど、どうしてここまで強く思ってしまうんだ? 連絡手段を取る方法があるにも関わらず、僕が何かを見落としているのか?
僕は頭を横に振って、この疑念を振り落とした。
現状、シャーロットとの連絡手段がない以上、僕達で何とかするしかない。ただ、トキワさんとも連絡が取れないから、マデリンにトキワさんの存在を言っても信用してもらえない。
そうなると……
「マデリン、僕はこのままヘキサゴンメダルの捜索にあたる。同じ魔人族とはいえ、僕は完全な余所者だ。僕達が君達の計画に加わることで、歪みが生じてしまったら、元も子もない。僕達の存在を無視して、事件を起こせばいい」
ここに住む魔人族の目的は内乱を利用して、ガーランド法王国を崩壊させること。国を崩壊させるのだから、王城に乗り込んで王族達を叩くのだろう。
「いいの? 私としては、そっちの方がありがたいけど、あなたの仲間が死ぬかもしれないわよ?」
マデリンは、何処かホッとした表情をしている。同じ魔人族である僕を、これから起こる事件に直接巻き込みたくないという思いが、顔に出ている。王都に滞在する以上、間接的に巻き込まれるとはいえ、僕達10人は人間に変異している。ここに住む魔人族達が僕達に襲いかかってくるかもと言いたいのだろう。
「大丈夫。ここまで残った10人は、皆強いよ。仮に獣人達が襲ってきても、返り討ちにするだけさ。君達が知らずに襲いかかってきた場合、こちらから正体を明かせばいい」
「そ……そうね」
何だろう? 今、妙な間があったような?
「ただ、君達の事情を知っても、何もできない僕を許してほしい」
「ふふ、馬鹿ね。ハーモニック大陸のジストニス王国の現状や、聖女シャーロットの帰還を知っただけでも、私達にとっては有益な情報よ。長も、喜ぶと思う。ガーランド法王国を滅亡させたら、みんなでエルディア王国の聖女様に会いにいってみるわ。ハーモニック大陸に戻れなくとも、その国なら私達の安住の地となるかもしれないもの」
『シャーロットに会えさえすれば、君達はハーモニック大陸に戻れる』……この言葉を口にできたらどれだけ良いだろうか。僕がシャーロットの抱える事情を、勝手に話すわけにはいかない。互いの事情を話し終えた僕達は、マデリンに【幻夢】をかけ直した後、再び外に出た。そして、彼女の隠れ家となる平民エリアのとある区画まで行った後、僕は彼女と別れ、隠れ家からも離れた。別れ際、彼女は僕を見て、何処か悲しげな表情をしていた。何か言いたいけど言ってはいけない、そんな印象を受けた。
多分、マデリンはこれから起こる事件の詳細を知っている。自分を助けてくれた僕に打ち明けたくても、長から【秘密厳守】とされていて、同じ魔人族でも余所者である僕に言えなかったんだ。でも、彼女は秘密厳守とされる部分以外を僕に教えてくれたんじゃないかな?
結局、僕が選んだのは、【簡易型通信機でトキワさんだけに、魔人族の存在を知らせ判断を仰ぐ】の選択肢だ。
せめて、王都の何処かにいるトキワさんを探し出して、魔人族と出会ったことだけを打ち明けておこう。トキワさんとの話し合いにもよるけど、僕が彼をあの隠れ家に連れて行けば、マデリンだって信用してくれる。そうすれば、事件を先延ばしにできるかもしれない。
簡易型通信機を駆使すれば、今日中に発見できるはずだ!
ヘキサゴンメダルの捜索を後回しにして、トキワさんを探そう!
○○○
現在の時刻は夜の9時40分、僕は宿屋にある自分の部屋のベッドで寝転がっている。宿屋の門限が夜9時であったため、ギリギリまで王都を走り回った後、ここへ戻ってきた。
結局、僕はトキワさんを見つけられなかった。
僕の気配察知を最大限に行使しても、全然反応がない。もしかしたら、彼は【隠蔽】スキルを使用しているのかもしれない。簡易型通信機による通信も試みたけど、応答が一切なかった。
「僕達の本来の任務は、ヘキサゴンメダルの捜索だ。簡易型通信機を所持しているのは僕とトキワさんのみ。……まさか、トキワさんは皆と平等に勝負するために、通信機を装備していないのか?」
ありうる。通信機が使えない、隠蔽スキルのせいで所在位置も皆目不明。
「完全にお手上げじゃないか!? マデリンに、トキワさんの存在を教えておくべきだった~~! そうすれば、マデリン達がトキワさんを見つけても、僕の名前を出すことで、互いの警戒心も解けるのに~~。あの時の選択肢を誤った~~~~!!!」
これじゃあ、ヘキサゴンメダルを捜索している行為と大差ないぞ! 時間も、もう遅い。警備兵による巡回も、厳しいものとなっている。今から動くのは危険だ。明日、朝一でマデリンに、トキワさんの存在を教えておこう!
…………う、光が目に、もう朝か。
カーテンの隙間から、光が射し込んでいたのか。結局、マデリンと出会ったこともあって、メダルを1枚しか入手できていない。もう、クックイスクイズのことは諦めよう。ここで起こる事件の被害を少しでも抑えることだけを考えよう。
《ドオオォォォーーーーーーーン》
「何だ、今の衝撃音?」
僕は飛び起きて、窓を開けた。すると、5人の獣人達が唸り声をあげながら、人や建物を殴りまくっていた。周囲を見回すと、多くの人々が逃げ惑い、煙があちこちの建物から立ち昇っている。獣人の騎士達が立ち向かっているようだけど、暴れている獣人の方が強い感じがする。
でも、なんで獣人が暴れているんだ?
「そうだ。あの魔法を……【真贋】」
シャーロットから真贋を教わっておいてよかった。
獣人(亡者強化型)
レベル33
HP 331
MP 116
基本ステータス
攻撃 367
防御 243
敏捷 220
器用 117
知力 10
魔法適性 全属性
魔法攻撃 156
魔法防御 113
魔力量 116
亡者強化型? 何処かで聞いたような……そうか、学園で習ったんだ。確か、ネクロマンサーが死者を復活させた際、死者の名称が【亡者】に変化するはずだ。ということは、あれは死んだ人間か! 見境なく暴れている様子だと、蓄積されている負の怨念が暴走しているのか? 亡者の場合、相手が自分より強かったとしても、光属性を付与した武器で急所を攻撃すれば、一撃で葬ることも可能だと授業で習ったぞ。
それにしても、メダル捜索2日目で事件発生か。多分、この地に住む魔人族の仕業だ。僕は、彼らの積み重なった怨念を甘く見ていた。てっきり、魔人族自らが反乱を起こすとばかり思っていた。
【自分達は高みの見物、獣人の亡者と生者で同士討ちさせ、弱ったところを魔人族が一気に攻める】
これが狙いか。あちこちから、悲鳴や怒号が響いている。
多分、王都全土が、亡者で溢れていると思った方がいい。
カクさんは、今日事件が起こることを知っていたに違いない。この状況で、メダルを捜索しろと言っているんだ。昨日の時点では、《シャーロットが怒るかもしれないのに、何故ここを選んだのか?》と疑問に思っていた。よくよく考えると、過去の【クックイスクイズ本戦】は、死者が多数出る程の危険なイベントだった。今回はどうだ? 第3チェックポイントまでは、シャーロット本人がいたこともあってか、死者が出ることもなかった。唯一危険だったのは、第2チェックポイントの【迷いの森】くらいだ。
おそらく、カクさんは僕達に、【今後、誰であろうとも、特別扱いはしない】という思いを伝えるために、あえてここへ転移させたのかもしれない。
その可能性が大きい。
彼女がいなくなったことで、本来のクックイスクイズの様式に戻したんだ。仮に僕が死んで、シャーロットが何か言ってきても、『これが本来のクックイスクイズだ。死者が出ることを知っていて参加したのだから、文句を言わせない!』と言い聞かせる気だ。精霊様にとって、シャーロットは友達で、ガーランド様こそが使えるべき主人だ。ガーランド様の機嫌を損ねたら、精霊全員が一瞬で消し去られる。勿論、シャーロットからのお仕置きも恐れているだろうけど、上司でもあるガーランド様には逆らえない。
そう考えると、ここへ転移された理由も納得できる。
マデリンとの出会いは、多分偶然だろう。彼女は、本物の魔鬼族だった。今現在、外で暴れている亡者達は、マデリン達の差し金で間違いない。200年の復讐を成就させるのだから、入念な準備を進めていたからこそ、亡者達が王都中に溢れているんだ。奴等とまともに戦えば、僕だって危ない。
「もう遅いかもしれないけど、マデリンのところに行って、トキワさんの存在を教えよう。その後、トキワさんを探し出し、魔人族の長と対談させ上手くいけば、全ての亡者を一気に元の死体に戻せるかもしれない。被害を最小限に抑えるんだ!」
僕は急いで服を着替え、準備を整えてから1階に下りた。すると……宿屋の獣人の女の子が壁際で震えていた。
「君、しばらくの間、外に出てはダメだ。理由はわからないけど、大人の獣人達が暴れている」
「お、お客様はどうされるんですか?」
「僕は用事があって、どうしても外に出ないといけないんだ。それじゃあ、行ってきます」
外に出ると、亡者達が至る所にいた。生者である住人達が、亡者達の魔の手から必死に逃れようとしている。亡者がうようよ彷徨っている以上、夜中は危険だ。昼の間に、トキワさんを探し出す!
「亡者の数が多い。奴等は人だけでなく、建物も破壊するのか」
「がああぁぁぁーーーー」
「うわあ!! ここで死ぬわけにはいかない! はあ!」
僕は光属性を付与した剣で、獣人の亡者の首を一閃した。すると、怨念が絶たれたのか、瞬時に崩れ落ちた。よし、今の僕でも、急所を斬れば倒せる!
やってやる! 僕自身、強くならないといけないんだ! 幸い、真贋を使えば、亡者と生者を確実に区別できる。
「どけえぇぇぇぇ~~~~」
亡者の攻撃を回避しつつ、昨日マデリンと出会った道具屋付近に到着すると……
「嘘だろ……店が……ない!」
建物が完全に倒壊している。店主さんもいないぞ! 昨日と今日で、状況が違いすぎる。あれ、でもメダルの気配がする? 瓦礫を取り除いていくと、1枚のメダルがあった。
「あった、メダルだ!」
これが本物なら、カクさんのもとへ転移される。そうすれば、亡者への対処方法や、魔人族の抱える事情とかも詳しく教えてくれるかもしれない。逆にハズレなら、悪口を言われる。ここで大声を立てるわけにはいかないから、皮のグローブをつけて拾おう。よし、このまま路地裏に避難だ。
「ここなら誰もいないよな?」
グローブを付けていない左手で、メダルを握ると、カクさんの顔がシャーロットに切り替わった。
「あっはっは~偽物だよ。あっはっは~偽物だよ。アッシュのバーカ、アッシュのバーカ」
「この緊迫した状況で言うセリフが、それか~~~~~!!!!」
げ、大声をあげたせいで、亡者達が路地裏に入ってきた!
しかも、この奥は行き止まりだ!
あれ3体いるのに、魔導具の反応がない。そうか、亡者はカウントされないのか!
「バーカ、逃げられないよ。バーカ、逃げられないよ」
「むかつく~~~~、シャーロットを今すぐお仕置きしたい!!!」
《ピコン》
《シャーロット用お仕置きスキル【グリグリLv1】と【ハリセンLv1】を入手しました》
「この状況で、そんなスキルいるか~~~~~~!!!」
とにかく、戦うしかない!
「ガキがいるぞ~~~」
「死ね~~~~」
「逃がさね~~~~」
理性のある獣人亡者もいるのか!?
「バーカバーカ、こいつらは口だけだよ。バーカバーカ、こいつらは口だけだよ」
え?
「「「人間~~~」」」
3人が一斉に斬りかかってきた。けど、踏み込みも甘いし、剣速も遅い!
3人の隙間を縫って、一気に急所でもある首を切断した。3人は防御することもなく、簡単に斬られ崩れていった。
「こいつら弱いぞ!」
シャーロットメダルが教えてくれた通り、こいつらは弱かった。もしかして、僕を助けてくれた? このハズレメダル、使い方次第では、この場を切り抜けられる!
シャーロットメダルを捜索しつつ、マデリンのもとへ行こう!
○○○ トキワ視点
外では、亡者達が暴れ回っている。誰が操作しているのか知らないが、俺にとっては都合がいい。昨日の時点で、俺は王都中を走り回り、10枚のメダルを入手した。当初、メダルの入手方法に四苦八苦したが、法則性を知ってからは、入手速度も大幅に上がった。しかし、手に入れた10枚全てが、ハズレのシャーロットメダルだった。1枚目のハズレメダルは、シャーロットの顔が彫れらた物が、無造作に店の棚の上に置かれていたが、2枚目以降、見た目がヘキサゴンメダルであるものの、俺が触ると、シャーロットメダルに変化するよう仕掛けられていた。そして6枚目を入手した時、シャーロットの声で、俺の恋人であるスミレの悪口を言われたせいもあって、俺は我を忘れて怒鳴っちまった。その怒鳴り声に反応して、5人の住民に見られた。あと1回のミスで、魔導具の効果が消失してしまう。俺にはスミレの悪口を言われると、ついカッとなる癖があるんだよな。スミレ本人からも気をつけるよう言われているから、7枚目以降、シャーロットメダルの悪口を聞き流すことにした。
夜明け以降、亡者達が王都中に突如現れたせいもあって、どの地区も大混乱に陥っている。亡者達の配置具合から察すると、何者かが何年も前から丹念に準備していた証拠だ。おそらく、これは序の口だ。混乱は、ますます激化するだろう。そんな状況の中、王都内を走り回り、ヘキサゴンメダルの捜索なんかしていられるか! 俺は、この事態を利用させてもらう。亡者を排除すべく、王城の騎士どもが動き出した。王城の警備が低下している今こそ、城内に配置されているヘキサゴンメダルを入手する絶好の機会だ!
ただ、獣人達の嗅覚は、俺達よりも数倍優れている。中には、臭気察知スキルを習得している者もいるだろう。俺は、臭いで魔鬼族と勘付かれないよう、臭気を完全遮断するフード付きコートを身につけて、警備の手薄な箇所から王城の城壁を超え、中庭の茂みへと素早く移動した。
「シャーロット、感謝するぜ。お前のおかげで、魔力波を利用した【真贋】だけでなく、【マップマッピング】も習得できた」
現状、王城内の内部構造の詳細まではわからないが、感知したヘキサゴンメダルの魔力をこのスキルに組み込むことで、何処に配置されているのかが、大凡わかる。
ヘキサゴンメダルのメダルの数は全40枚、全てが王城内に配置されている。これだけの数があれば、1枚くらい本物が混じっていてもおかしくない。見つけたメダルに関しては、グローブを身につけた状態で、即マジックバッグに入れる。そうすることで、シャーロットの声は俺だけに聞こえてくる。本物であれば、カクさんの所へ即転移される。
「妙だな。ヘキサゴンメダルの半分近くが、王城内を徘徊している? あのメダルが勝手に動くわけがない。ということは、誰かが携帯しているのか?」
一先ず、地下の隠し通路の入口を見つけ出して、王城内へ侵入するか。
茂みを利用して、少しずつ移動し、地下の隠し通路や解析できた王城内部の詳細を知ることで、俺のステータスに表示されている王城マップが、徐々に高精細へと変化していく。ここから1番近い地下隠し通路への入口は、王城の裏門近くの壁の側か。あれから魔力感知や気配察知、気配遮断、隠密などのレベルを更に向上させたから、まず見つからないだろうが、油断禁物だ。少しずつ慎重に歩を進めていこう。
………さて、地下の隠し通路を抜け、1階の天井裏に身を潜めることに成功したのはいいが、何処から探すかが問題だな。
「うん? メダルの気配がこっちに近づいてきている? この気配……内部の警備兵か?」
2人の警備兵が俺の真下を通過した瞬間、俺はとんでもないものを見た。この位置からだと、視野が狭く見にくかったが、警備兵の1人、そいつの背中に納めている剣の柄部分に、メダルが埋め込まれていた。しかも、そのメダルはヘキサゴンメダルでもシャーロットメダルでもなかった。メダル中央に彫り込まれていたのは、間違いなく俺の恋人、スミレの顔だった。言い換えれば、あれは【スミレメダル】だ。
精霊の奴等、なんてところにメダルを配置させるんだ!
このイベントが終了しても、ハズレメダルだけが消えずに残る可能性もある。そうなると、最悪40人…いやそれ以上の奴等が、今後毎日スミレ(メダル)の顔を見て触りやがるのか。
……ふざけるなよ。スミレを独占していいのは、俺だけだ!
こうなったら、メダル40枚を全部集めてやる。カクさんの野郎、俺がこの城に踏み込んでくることを見越して、スミレメダルを配置しやがったな!
さすがに、このまま堂々と下りてメダルを回収すると、王城内でも大騒ぎになる。まずは、何処かの部屋に配置されているスミレメダルを回収して、何を喋るのか確認するか。最も安全に取得できる場所は、メダルの配置場所を考慮すると……3階の部屋か。
ここまでの段階で、各階に繋がる階段の場所は把握している。各階の大まかな部屋の位置も理解したが、天井裏に繋がる場所がわからない。俺は、シャーロットの【光学迷彩】スキルを習得できていない。魔法【幻夢】に関しては、少しでもイメージが崩れると、途端に魔法が解ける。それに、王城内での魔法使用は勘付かれる危険性もあるな。1階の天井裏を移動しつつ、少しずつ解析を進めていくか。
……1時間後
魔力を消費しないとはいえ、さすがに1時間もやり続けると、精神的に疲れる。とりあえず、3階の天井裏に繋がる場所を2ヶ所発見できた。マップ自体も、粗い部分がかなり目立つものの、なんとか王城内を動けるレベルにまで表示できた。あとは、城内で動きながら補完していけばいいだろう。現在の獣人共の位置関係は……、この配置なら3階まで行ける。
早速、俺は1階に下り、ステータスに表示される他者の動きに注意しながら、人の死角を縫い、3階天井裏へと入った。ここには、俺以外の気配がいくつもある。おそらく、隠密部隊の連中だろう。俺にとって、どうでもいい連中であったため、即座にそいつらの首筋に手刀を当て眠らせた。その後、睡眠薬を嗅がせておいたから、数時間程寝ているだろう。
「メダルの反応は、この部屋か」
誰もいないな。下りるか。
「なんだ、この部屋!? 異様に広く豪華だな。もしかして、法王の部屋か?」
メダルは何処に……本棚のわかりやすい場所に配置されている。外で見つけた時もそうだったが、この単純な配置なら、いずれ獣人達にも知られるな。いや、既に知られていると思った方がいいかもしれない。
王城内にあるメダルは、俺が全て回収してやる!
スミレ(メダル)を好き勝手に触られてたまるか!
○○○ 作者からの一言
スキル入手時期は、フレヤ達と同じ時期です。
次回更新予定日は、10/16(火)となります。
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