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《シャーロットが帝王となった場合のifルート》第2部 8歳〜アストレカ大陸編【ガーランド法王国
プロローグ 聖女の帰還
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時間は朝9時50分、天気は快晴。
聖女シャーロット・エルバランは、エルディア王国王都クレンシアの王城2階バルコニー付近にいる。
現在、バルコニー先端部から見える中庭には、大勢の国民達が集結している。中庭に入りきれない者達が大勢いるものの、皆文句を言うことなく、【国王】の登場を待ち望んでいる。
昨日ギルドを通して、ある通達が王都全土に発せられた。通達の内容は……
《翌朝10時、国王陛下から重大な発表あり。大人子供問わず、余裕のある者は、朝9時30分までに、王城正門へ集まること。9時30分以降、陛下からの発表が終了するまで、王城中庭までの入場を許可する。国王陛下が2階バルコニーに現れるまで、国民達は静かに待つこと》
国王陛下自らが、国民に直接発表を行うことは異例中の異例である。最近において、真新しい発表といえば、全てマリル・クレイトンが絡んでいる。そのため、国民達は《マリル様が何か偉大なことをしたのか?》と思い、意気揚々と王城に集まった。その数は、1000人を超える。
そして、時間は10時となった。
王城2階に位置するバルコニーに、国王陛下が現れた。
ブライアン・エルディア、現在43歳、国王に即位してから11年、王たる威厳と風格は、バルコニーから離れた国民達にも強く伝わっている。先程までやや騒がしかった声が、ピタリと止んだ。
「国民達よ、急な通達であるにも関わらず、よく集まってくれた。今から話す内容は、全て真実である。聖女シャーロット・エルバランはイザベルによって、遠方の地へと転移されてしまった。しかし、転移されてから僅か数ヶ月、聖女は自らの力で、我が国へ戻ってきたのだ!」
1000人を超える群衆がいるにも関わらず、王城近辺は静けさだけが漂っている。
さすがの国民達も、これには眉を寄せた。
当然だ。
聖女シャーロット・エルバラン、彼女は僅か5歳の時点でカレーや屑肉などの新規調理法を開発し、主に貧民層の生活環境を大きく向上させた。そして7歳の時、父ジーク・エルバランと母エルサ・エルバランが彼女の言葉を基に、【ヒール系】と総称される新型の回復魔法を学会にて披露した。ヒール、ハイヒール、リジェネレーション、この3つの回復魔法の取得条件もわかり、エルディア王国だけでなく、周辺国家も協力してくれたこともあって、2ヶ月程でアストレカ大陸中に広まった。特に上級に位置するリジェネレーション、取得条件も厳しいことから、使い手の数は現在でも一握りしかいない。そのため、使い手達は多くの国々で重宝されている。
国民の多くが、これらの情報を把握している。そして、偉大な聖女シャーロット・エルバランが悪女イザベルの手によって、遥か遠方に転移されたこともだ。だからこそ、いくら偉大な国王陛下の言葉であっても、すぐには信用できなかった。1000人以上の群衆達は誰も喋ろうとせず、国王の次なる言葉を待っている。
「皆が信じられないというのもわかる。私も、本人を見るまで信じられなかった。よって、今ここに聖女を呼ぼう。来なさい、シャーロット・エルバラン」
国王の言葉により、1人の少女がゆっくりとバルコニーに現れ、国王の隣に立った。現れた少女は、やや控えめな薄い若草色のドレスを着用し、醸し出す雰囲気は美しい。その姿を見ただけで、群衆達は癒された。そして、この少女こそが、王国総出で捜索中の聖女シャーロット・エルバランであることが、一目でわかった。
それを理解した群衆達から、一気に……
「あれは……シャーロット様よ!」
「間違いない…我らの聖女様が御帰還なされたぞーーーー」
「「「シャーロットさまーーーー」」」
大歓声があがった。1000人以上の人間達が一斉に歓声をあげたので、その音量は凄まじいものがある。この歓声を止めるべく、国王ブライアンは右手をあげると、全ての国民が口を閉じた。
皆、聖女シャーロットの声を聞きたいのだろう。
「昨日、エルバラン公爵夫妻が聖女シャーロットと共に、王城に訪れた。聖女がどこに転移されたのか、ここまでどのような旅路であったのか、その全てを聞いた。私が喋っても良いのだが、ここは聖女シャーロットに話してもらおう」
国王は数歩後方に下がり、シャーロットが前に出てきた。神の領域に足を踏み入れている彼女であっても、このような光景を見るのは初めてであったため、緊張を隠しきれていない。
「皆さん、シャーロット・エルバランです。私はイザベルによって、ハーモニック大陸のケルビウム山に転移されました。転移された場所の周囲は背の高い木々に覆われ、完全な密林となっていました。また、凶暴な魔物達が多数棲息し、私は何度も何度も命の危機に瀕しました。私1人では、間違いなく死んでいたでしょう。そんな儚い私の命を救ってくれたのが、魔人族の方々です」
国民達は、聖女の語りを一語一句見逃さまいと、耳を澄まし聞いていた。
そして、『魔人族』という言葉を聞き……皆が驚いた。アストレカ大陸にいる全ての人々は幼い頃から、魔人族に対して、『残忍・傲慢・自分勝手』と教えられてきたため、聖女の言葉であろうとも、耳を疑った。
「皆さんにとって、これは信じ難い話でしょう。当初、私自身も、魔人族に対しては、《野蛮、傲慢、残忍な性格》と習いました。しかし、実際に彼らと遭遇し、命を助けられ、互いに話し合ったことで、それは全くのデタラメであるとわかりました。勿論、私利私欲に走る人間がいるように、悪い魔人族もいます。しかし、私の知り合った方々は仲間想いで、皆優しい人達でした」
その後も、聖女シャーロットの演説は続いた。ケルビウム大森林にいるザウルス族に命を助けられ、その後ダークエルフ族と知り合い、森に潜む巨大な悪を全員の力で討伐したことを伝えた。
次に、エルディア王国に戻るには、新たな転移石が必要であったため、3ヶ国の王都に出掛け、そこで起きた様々な事件を魔人族と共に解決したことで、その功績が評価され、ジストニス王国の女王陛下から褒章として転移石を貰い、それを使ってエルディア王国の王都に戻れたことを話した。
「皆さん、我々は魔人族に関して、誤った知識を植え付けられました。誰が何のために、こんな正反対の知識を広めたのかはわかりません。おそらく、このアストレカ大陸にも、もしかしたら魔人族が隠れ住んでいるかもしれません。仮に、どなたかが魔人族を見つけたとしても、その人達を決して非難してはいけません。友好的な態度で接してあげて下さい」
聖女の話を聞いても、国民達の殆どが半信半疑であった。200年もの間、アストレカ大陸の国々では、【魔人族は悪】という印象を強く植え付けられたのだ。この演説だけで、その固定観念を覆すことは困難だろう。しかし、《エルディア王国を救い、貧民層の生活環境を大きく向上させた聖女シャーロット》、そんな彼女によって語られた内容が、嘘とは思えなかった。
遥か遠方に転移されてしまった聖女、国民達の多くが『聖女様はランダルキア大陸かハーモニック大陸のどちらかに転移された』と思っていた。だからこそ……
『魔人族が悪ならば、聖女シャーロット様は殺されているよな?』
『魔人族は俺達と同じ?』
『私、魔人族自体を見たことないわ。お祖母様から聞いただけ』
『200年前に起きた戦争の歴史が改竄されているのか?』
この演説により、国民一人一人の心の中に、様々な思いが錯綜した。
今回、国民達の凝り固まった固定観念を完全に崩すことは無理であったものの、小さなヒビを入れることには成功した。シャーロット自身も構造解析スキルにより、国民達に疑念を持たせたことを確認したので、内心喜んでいた。
そして、この小さなヒビこそが、後に起こる大事件を好転的な方向に進ませてしまうことを、当時のシャーロットには知る由もなかった。
聖女シャーロット・エルバランは、エルディア王国王都クレンシアの王城2階バルコニー付近にいる。
現在、バルコニー先端部から見える中庭には、大勢の国民達が集結している。中庭に入りきれない者達が大勢いるものの、皆文句を言うことなく、【国王】の登場を待ち望んでいる。
昨日ギルドを通して、ある通達が王都全土に発せられた。通達の内容は……
《翌朝10時、国王陛下から重大な発表あり。大人子供問わず、余裕のある者は、朝9時30分までに、王城正門へ集まること。9時30分以降、陛下からの発表が終了するまで、王城中庭までの入場を許可する。国王陛下が2階バルコニーに現れるまで、国民達は静かに待つこと》
国王陛下自らが、国民に直接発表を行うことは異例中の異例である。最近において、真新しい発表といえば、全てマリル・クレイトンが絡んでいる。そのため、国民達は《マリル様が何か偉大なことをしたのか?》と思い、意気揚々と王城に集まった。その数は、1000人を超える。
そして、時間は10時となった。
王城2階に位置するバルコニーに、国王陛下が現れた。
ブライアン・エルディア、現在43歳、国王に即位してから11年、王たる威厳と風格は、バルコニーから離れた国民達にも強く伝わっている。先程までやや騒がしかった声が、ピタリと止んだ。
「国民達よ、急な通達であるにも関わらず、よく集まってくれた。今から話す内容は、全て真実である。聖女シャーロット・エルバランはイザベルによって、遠方の地へと転移されてしまった。しかし、転移されてから僅か数ヶ月、聖女は自らの力で、我が国へ戻ってきたのだ!」
1000人を超える群衆がいるにも関わらず、王城近辺は静けさだけが漂っている。
さすがの国民達も、これには眉を寄せた。
当然だ。
聖女シャーロット・エルバラン、彼女は僅か5歳の時点でカレーや屑肉などの新規調理法を開発し、主に貧民層の生活環境を大きく向上させた。そして7歳の時、父ジーク・エルバランと母エルサ・エルバランが彼女の言葉を基に、【ヒール系】と総称される新型の回復魔法を学会にて披露した。ヒール、ハイヒール、リジェネレーション、この3つの回復魔法の取得条件もわかり、エルディア王国だけでなく、周辺国家も協力してくれたこともあって、2ヶ月程でアストレカ大陸中に広まった。特に上級に位置するリジェネレーション、取得条件も厳しいことから、使い手の数は現在でも一握りしかいない。そのため、使い手達は多くの国々で重宝されている。
国民の多くが、これらの情報を把握している。そして、偉大な聖女シャーロット・エルバランが悪女イザベルの手によって、遥か遠方に転移されたこともだ。だからこそ、いくら偉大な国王陛下の言葉であっても、すぐには信用できなかった。1000人以上の群衆達は誰も喋ろうとせず、国王の次なる言葉を待っている。
「皆が信じられないというのもわかる。私も、本人を見るまで信じられなかった。よって、今ここに聖女を呼ぼう。来なさい、シャーロット・エルバラン」
国王の言葉により、1人の少女がゆっくりとバルコニーに現れ、国王の隣に立った。現れた少女は、やや控えめな薄い若草色のドレスを着用し、醸し出す雰囲気は美しい。その姿を見ただけで、群衆達は癒された。そして、この少女こそが、王国総出で捜索中の聖女シャーロット・エルバランであることが、一目でわかった。
それを理解した群衆達から、一気に……
「あれは……シャーロット様よ!」
「間違いない…我らの聖女様が御帰還なされたぞーーーー」
「「「シャーロットさまーーーー」」」
大歓声があがった。1000人以上の人間達が一斉に歓声をあげたので、その音量は凄まじいものがある。この歓声を止めるべく、国王ブライアンは右手をあげると、全ての国民が口を閉じた。
皆、聖女シャーロットの声を聞きたいのだろう。
「昨日、エルバラン公爵夫妻が聖女シャーロットと共に、王城に訪れた。聖女がどこに転移されたのか、ここまでどのような旅路であったのか、その全てを聞いた。私が喋っても良いのだが、ここは聖女シャーロットに話してもらおう」
国王は数歩後方に下がり、シャーロットが前に出てきた。神の領域に足を踏み入れている彼女であっても、このような光景を見るのは初めてであったため、緊張を隠しきれていない。
「皆さん、シャーロット・エルバランです。私はイザベルによって、ハーモニック大陸のケルビウム山に転移されました。転移された場所の周囲は背の高い木々に覆われ、完全な密林となっていました。また、凶暴な魔物達が多数棲息し、私は何度も何度も命の危機に瀕しました。私1人では、間違いなく死んでいたでしょう。そんな儚い私の命を救ってくれたのが、魔人族の方々です」
国民達は、聖女の語りを一語一句見逃さまいと、耳を澄まし聞いていた。
そして、『魔人族』という言葉を聞き……皆が驚いた。アストレカ大陸にいる全ての人々は幼い頃から、魔人族に対して、『残忍・傲慢・自分勝手』と教えられてきたため、聖女の言葉であろうとも、耳を疑った。
「皆さんにとって、これは信じ難い話でしょう。当初、私自身も、魔人族に対しては、《野蛮、傲慢、残忍な性格》と習いました。しかし、実際に彼らと遭遇し、命を助けられ、互いに話し合ったことで、それは全くのデタラメであるとわかりました。勿論、私利私欲に走る人間がいるように、悪い魔人族もいます。しかし、私の知り合った方々は仲間想いで、皆優しい人達でした」
その後も、聖女シャーロットの演説は続いた。ケルビウム大森林にいるザウルス族に命を助けられ、その後ダークエルフ族と知り合い、森に潜む巨大な悪を全員の力で討伐したことを伝えた。
次に、エルディア王国に戻るには、新たな転移石が必要であったため、3ヶ国の王都に出掛け、そこで起きた様々な事件を魔人族と共に解決したことで、その功績が評価され、ジストニス王国の女王陛下から褒章として転移石を貰い、それを使ってエルディア王国の王都に戻れたことを話した。
「皆さん、我々は魔人族に関して、誤った知識を植え付けられました。誰が何のために、こんな正反対の知識を広めたのかはわかりません。おそらく、このアストレカ大陸にも、もしかしたら魔人族が隠れ住んでいるかもしれません。仮に、どなたかが魔人族を見つけたとしても、その人達を決して非難してはいけません。友好的な態度で接してあげて下さい」
聖女の話を聞いても、国民達の殆どが半信半疑であった。200年もの間、アストレカ大陸の国々では、【魔人族は悪】という印象を強く植え付けられたのだ。この演説だけで、その固定観念を覆すことは困難だろう。しかし、《エルディア王国を救い、貧民層の生活環境を大きく向上させた聖女シャーロット》、そんな彼女によって語られた内容が、嘘とは思えなかった。
遥か遠方に転移されてしまった聖女、国民達の多くが『聖女様はランダルキア大陸かハーモニック大陸のどちらかに転移された』と思っていた。だからこそ……
『魔人族が悪ならば、聖女シャーロット様は殺されているよな?』
『魔人族は俺達と同じ?』
『私、魔人族自体を見たことないわ。お祖母様から聞いただけ』
『200年前に起きた戦争の歴史が改竄されているのか?』
この演説により、国民一人一人の心の中に、様々な思いが錯綜した。
今回、国民達の凝り固まった固定観念を完全に崩すことは無理であったものの、小さなヒビを入れることには成功した。シャーロット自身も構造解析スキルにより、国民達に疑念を持たせたことを確認したので、内心喜んでいた。
そして、この小さなヒビこそが、後に起こる大事件を好転的な方向に進ませてしまうことを、当時のシャーロットには知る由もなかった。
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