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幕間
書籍3巻SS リリヤの悩みごと
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今回の物語は、書籍版のリリヤを視点に進行しています。書籍3巻の進行は、web版と設定や進行が異なるので、出来れば3巻を読んでから、この閑話を見て下さい。
時系列(書籍3巻終盤)
シャーロットがケルビウム大森林に出向いている時の貧民街にいるリリヤの視点となります。
○○○ リリヤ視点
私は、貧民街のとある建物の部屋の中にいる。シャーロットやクロイス様のおかげもあって、今日来たばかりなのに、仲間として認められた。しかも、クロイス様は、私やアッシュ用の部屋も用意してくれた。アッシュは隣の部屋にいるはずだけど、物音が全然しない。 寝てるのかな?
アッシュ……私は彼の奴隷……じゃなくて仲間……まだ恋人じゃないのが残念。
アッシュをモレル様の屋敷で初めて見た時、当初は何も感じなかった。あの時、私が思っていたこと………
《今度の御主人様は、私と同じ年代の男の子……この子も……私の中にいる【何か】が殺すのかな?》
この1点のみ。
私の感情が乱れた時に現れる【何か】が、周囲の人達を……殺す。
対処方法としては、私自身の感情を押し殺すこと。
私はそれをずっと続けていたせいもあって、いつしか心も凍りついてしまった。そんな私の心に、火を灯してくれたのがシャーロットとアッシュだ。
シャーロットは、私の中にある【何か】の正体と、力の制御方法を教えてくれた。アッシュはその力の強大さを知りつつも、【私】と【もう1人の私】を奴隷として…ううん…仲間として受け入れてくれた。
アッシュと白狐童子の戦い、私は心の奥底で見ていた。アッシュがボロボロになりながらも、白狐童子に認めてもらおうと必死に戦ってくれた。奴隷である私が、アッシュに認めてもらわないといけないのに、アッシュはその逆を考えていたなんて……。私の心は、アッシュに少しずつ惹かれていった。
そして、私の生家(幻)で、私自身に言ってくれたあの言葉、今でもはっきりと覚えてる。あの時、私はアッシュに恋したんだと自覚した。自惚れじゃないと思うけど、アッシュも私を意識してくれていると思う。
アッシュの役に立ちたい。
アッシュに褒めてもらいたい。
アッシュと同じ立ち位置で戦いたい。
鬼神変化を制御するためには、私自身が強くならないといけない。私と同じ力を持っているとされる《トキワ・ミカイツ》という人に出会えれば、何か制御するための一端を教えてくれるかもしれない。私が反乱軍の一員である以上、いずれ出会うことになると思う。
それまでに、少しでも強くなっておきたい。
「私1人だけで悩んでても仕方ない…か。イミアさんに相談してみよう」
私は部屋を出ると、アッシュがすぐ近くにいた。ついさっきまでアッシュのことを考えていたから、胸がドキドキするよ。
「ア…アッシュ、イミアさんを探しているんだけど?」
「ああ、彼女はまだクロイス様の部屋にいるよ。アトカさんがいない代わりに、イミアさんがクロイス様の護衛をしているからね」
あ、そっか!
さっき言っていたよね。
「ありがとう。イミアさんに、【風読み】や【心眼】、【狙撃】スキルの習得方法を聞いてみる。習得すれば、新たな弓技も覚えられると思う」
「学園の本で少しだけ知っているけど、【風読み】と【心眼】の2つは、【レアスキル】と呼ばれているものだよ。僕も心眼スキルを習得したいと思って、先生に質問したことがある」
昨日行ったロキナム学園のことだね。私も学園を初めて見たけど、とても立派な建物が広い土地に数棟あった。あそこなら、レアスキルが記されている本も保管されているし、先生の中には習得している人だっているはず。
「アッシュは習得しているの?」
「いいや、習得していない。アルバート先生は心眼スキルを持っているんだけど、習得方法を教えてくれなかった。図書室の本にも、スキルの説明が記載されているだけで、習得方法は書かれてなかった」
「先生は、どうして教えてくれないの?」
レアスキル持ちなら、みんなに教えてあげればいいのに。
「僕も同じことを思ったよ。先生曰く、《魔力関連の基本スキルが未熟な状態で、レアスキルを習得してはいけない。今の段階で習得すると、生徒達はそういったレアスキルに頼ってしまい、基本の力を疎かにしてしまう。死期を早めるだけだ》だって」
あ、なるほど。
レアスキルばかりに頼ってしまって、逆に強くなれないんだね。
「それと、《君達は若い。習得したいのならば、他者の力に頼らず、自分の力で道を切り開け》とも言っていたかな」
自らの力で…か。
その場合、何の手掛かりもないから、自分の力だけで習得方法を考え、試行錯誤を繰り返し、長期間訓練を続けていくことになる。だから、自ずと基本の力も強くなる。逆に、他者から教わる場合、最短距離でスキルを習得できる分、訓練期間も短い。私達は12歳、だから最短距離ではなく、試行錯誤しながら進めたほうが、自分自身も強くなるってことかな?
「……アッシュ、ありがとう。一応、イミアさんにも相談してみるよ」
「うん、お互い強くなっていこう」
私はアッシュと別れ、クロイス様とイミアさんのいる部屋に行った。ノックをしてから部屋に入ると、2人は数枚の資料を見ていた。
「リリヤ、どうしたのですか?」
「クロイス様、イミアさん、私は強くなりたいです。弓術スキルを上げるためにも、狙撃、心眼や風読みスキルを習得するためのコツを教えて頂けないでしょうか!」
2人は、互いの見合わせた。
「ふふ、なるほど。リリヤの場合、《クーデターのため》というより、《アッシュのため》ですね?」
「ふぇ!?」
クロイス様の突然の問いかけで、変な声が出ちゃった!
「いえ…その…あの……」
「リリヤがアッシュに好意を持っていることは、側から見て丸わかりです」
え!?
そんなに、顔に出ているのかな?
「……はい。アッシュのために強くなりたいです」
もう正直に言っちゃおう。
「ふふ、正直ですね。私は、貴方が羨ましいです。ネーベリック事件もあって、私には婚約者がいませんし、気になる男性も今のところいません。イミアはどうですか? 好きな男性はいますか?」
あ、その話は、私も気になる!
「え、私ですか? 今はいませんけど、サーベント王国王都の学園在籍時にはいましたよ。1限目の授業が始まる前、彼の靴箱に手紙を入れて、昼休み中、彼を屋上に呼び出しました」
うわあ~、その展開だと、イミアさんは勇気を出して、その男性に告白したんだ。どうなったのかな?
「びっくりですよ! イミアにそんな過去があったなんて! しかも、恋愛小説に出てくるようなベタな展開じゃないですか!? その後は? 彼が失礼な物言いで貴方を振ったから、全力でビンタしたんですか? それとも、既に恋人がいて、その女性を連れてきて、《俺、もうこの女とできてるんだ》とか言われて、ムカついた貴方は男の股間を蹴り上げたとか?…………アイタ!」
……イミアさんが、捲したてるクロイス様にデコピンした。
これは、クロイス様が悪い。
「クロイス様~~、私が振られることを前提に、勝手に進めないでもらえませんか~?」
私も、そう思う。クロイス様は、本の読みすぎ。
それにしても、王族にデコピンしていいのかな?
「うう、だって~~こんな話、今までしたことがないんです。私の周りには、同年代の男性も女性もいません。だから、先が気になったんですよ~~」
言いたいことはわかりますけど、もうちょっと言い方を……
「わかりましたから、ウルウルした目で見つめないで下さい。まあ、告白して振られたことは事実ですけど」
あ、振られたのか。
もし私がアッシュに告白して、あっさり振られたら立ち直れるかな?
………は! いけない、そこは考えないようにしよう。
「なんだ、私の予想通りじゃないですか」
クロイス様! イミアさんを怒らせたいんですか!?
「ふふふ……クロイス様が王族でなかったら、何か制裁を与えたいわ~」
「イミア、その怖い笑顔と握り拳はやめてください!? すいません、ふざけ過ぎました」
恋愛に関しては、クロイス様に相談しない方がいい。
意見を真に受けたら、悪い方向に進む気がする。
「そういえば、クロイス様のすぐ側には、アトカさんがいますよね? お2人は、アトカさんのことを恋愛対象として見ていないんですか?」
アトカさん、あの人の顔はかなり怖い。初めて会った時、私もアッシュも何かされるんじゃないかと思い、身体が竦んじゃった。
「私にとって、アトカは【兄】という存在ですね。私が物心ついた時から、アトカにはよく叱られていました。イミアは、アトカを見て、どう思いますか?」
あ、ダークエルフだから、アトカさんの年齢も、見た目よりもかなり上なんだ。
「うーん、同じダークエルフ族でも、私とアトカではかなり年齢差があります。ですから、頼りになる友人ではありますけど、恋愛対象としては見れないですね」
そういえば、年齢差があるにも関わらず、イミアさんはアトカさんにタメ口で話してる。魔鬼族だと、目上の人をタメ口で話した場合、間違いなく叱られる。でも、ダークエルフの場合、種族特性の所為もあって、一定の年齢になると身体の成長が止まるから、その人の性格に応じて、話し方も違ってくると聞いたことがある。
「私とイミアの恋愛は、まだまだ先のようですね」
「クロイス様、貴方は王族なんですから、恋愛は厳しいと思いますよ。クーデターが無事成功したら、多くの貴族から注目され、自分の息子を王族にすべく、お見合い用の釣書が山のように届きます。覚悟して下さい」
王族の場合、国との繋がりが重要視されるから、恋愛はできても成就しにくいんだ。王族貴族の人達は、政略結婚ばかりなのかな? シャーロットは公爵令嬢と言っていたから、王族の次に偉い人。でも、知り合ったばかりだけど、貴族という雰囲気をまるで感じない。どんな人と結婚するのかな?
「う、そうですよね」
「そうそう、話が大きく逸れちゃったけど、リリヤのいうスキルの中で、比較的入手しやすいのは、【狙撃】スキルよ」
あ、やっと本題に戻った。
「狙撃スキル……ですか?」
「そうよ。ただし、狙撃スキルを習得するには、魔力系の基本スキルが3以上要るわね」
スキルレベル3!?
それならギリギリ満たしてる。
「大丈夫です。全部3です!」
「習得条件を全部話すと貴方の為にならないから、2つヒントを教えましょう。1つ目は《狙撃に重要なところはどこか?》、2つ目は《何故、スキルレベルが3以上必要か?》」
狙撃において、重要なところ?
弓術の腕前?
「それと……これはシャーロットから聞いたことだけど、貴方の裏人格である白狐童子は【風属性】を得意としているようね。つまり、貴方自身も、他の属性に比べて風属性を扱いやすいはず。それなら、レアスキル【風読み】も入手しやすいはずよ。今の貴方にとって、入手すべきスキルは、【狙撃】と【風読み】の2つね」
【狙撃】と【風読み】。
シャーロットと白狐童子が戦った時、白狐童子は強力な風属性のスキルを使ってた。私の裏人格である彼女ができるのであれば、私も風属性の扱いが上手いはず。
「イミアさん、ありがとうございます! 自分で考え行動して、2つのスキルを入手してみせます!」
早速、外に出て、誰もいないことを確認してから、地面に座った。
【風読み】というくらいだから、風の流れを予測するスキルのはず。でも、風の流れなんか、どうやって予測するのかな? 肌で風を感じ取れても、目には見えない。なにより遠方の風を予測しないといけない。うーん……まずは魔力操作で風を発生させてみよう。白狐童子の螺旋風刃波も、魔法ではなくスキルなんだから、必ずできるはず!
【狙撃】、このスキルがあれば、弓や魔法による遠距離攻撃を放った時、遠方にいる敵の身体の狙い定めた位置に、正確に直撃させることができる。でも、子供達もいる貧民街で、弓を使うわけにはいかない。
あ、私の目の前に、丁度いい武器がある!
地面にある石ころ、これを利用しよう。ただ、石でも子供に当たれば、大怪我を負ってしまう。貧民街の中でも、三方が壁に囲まれている場所を探そう。
アッシュ、私は貴方の足手まといになりたくない。
もっと強くなって、【鬼神変化】スキルを制御してみせるからね!
時系列(書籍3巻終盤)
シャーロットがケルビウム大森林に出向いている時の貧民街にいるリリヤの視点となります。
○○○ リリヤ視点
私は、貧民街のとある建物の部屋の中にいる。シャーロットやクロイス様のおかげもあって、今日来たばかりなのに、仲間として認められた。しかも、クロイス様は、私やアッシュ用の部屋も用意してくれた。アッシュは隣の部屋にいるはずだけど、物音が全然しない。 寝てるのかな?
アッシュ……私は彼の奴隷……じゃなくて仲間……まだ恋人じゃないのが残念。
アッシュをモレル様の屋敷で初めて見た時、当初は何も感じなかった。あの時、私が思っていたこと………
《今度の御主人様は、私と同じ年代の男の子……この子も……私の中にいる【何か】が殺すのかな?》
この1点のみ。
私の感情が乱れた時に現れる【何か】が、周囲の人達を……殺す。
対処方法としては、私自身の感情を押し殺すこと。
私はそれをずっと続けていたせいもあって、いつしか心も凍りついてしまった。そんな私の心に、火を灯してくれたのがシャーロットとアッシュだ。
シャーロットは、私の中にある【何か】の正体と、力の制御方法を教えてくれた。アッシュはその力の強大さを知りつつも、【私】と【もう1人の私】を奴隷として…ううん…仲間として受け入れてくれた。
アッシュと白狐童子の戦い、私は心の奥底で見ていた。アッシュがボロボロになりながらも、白狐童子に認めてもらおうと必死に戦ってくれた。奴隷である私が、アッシュに認めてもらわないといけないのに、アッシュはその逆を考えていたなんて……。私の心は、アッシュに少しずつ惹かれていった。
そして、私の生家(幻)で、私自身に言ってくれたあの言葉、今でもはっきりと覚えてる。あの時、私はアッシュに恋したんだと自覚した。自惚れじゃないと思うけど、アッシュも私を意識してくれていると思う。
アッシュの役に立ちたい。
アッシュに褒めてもらいたい。
アッシュと同じ立ち位置で戦いたい。
鬼神変化を制御するためには、私自身が強くならないといけない。私と同じ力を持っているとされる《トキワ・ミカイツ》という人に出会えれば、何か制御するための一端を教えてくれるかもしれない。私が反乱軍の一員である以上、いずれ出会うことになると思う。
それまでに、少しでも強くなっておきたい。
「私1人だけで悩んでても仕方ない…か。イミアさんに相談してみよう」
私は部屋を出ると、アッシュがすぐ近くにいた。ついさっきまでアッシュのことを考えていたから、胸がドキドキするよ。
「ア…アッシュ、イミアさんを探しているんだけど?」
「ああ、彼女はまだクロイス様の部屋にいるよ。アトカさんがいない代わりに、イミアさんがクロイス様の護衛をしているからね」
あ、そっか!
さっき言っていたよね。
「ありがとう。イミアさんに、【風読み】や【心眼】、【狙撃】スキルの習得方法を聞いてみる。習得すれば、新たな弓技も覚えられると思う」
「学園の本で少しだけ知っているけど、【風読み】と【心眼】の2つは、【レアスキル】と呼ばれているものだよ。僕も心眼スキルを習得したいと思って、先生に質問したことがある」
昨日行ったロキナム学園のことだね。私も学園を初めて見たけど、とても立派な建物が広い土地に数棟あった。あそこなら、レアスキルが記されている本も保管されているし、先生の中には習得している人だっているはず。
「アッシュは習得しているの?」
「いいや、習得していない。アルバート先生は心眼スキルを持っているんだけど、習得方法を教えてくれなかった。図書室の本にも、スキルの説明が記載されているだけで、習得方法は書かれてなかった」
「先生は、どうして教えてくれないの?」
レアスキル持ちなら、みんなに教えてあげればいいのに。
「僕も同じことを思ったよ。先生曰く、《魔力関連の基本スキルが未熟な状態で、レアスキルを習得してはいけない。今の段階で習得すると、生徒達はそういったレアスキルに頼ってしまい、基本の力を疎かにしてしまう。死期を早めるだけだ》だって」
あ、なるほど。
レアスキルばかりに頼ってしまって、逆に強くなれないんだね。
「それと、《君達は若い。習得したいのならば、他者の力に頼らず、自分の力で道を切り開け》とも言っていたかな」
自らの力で…か。
その場合、何の手掛かりもないから、自分の力だけで習得方法を考え、試行錯誤を繰り返し、長期間訓練を続けていくことになる。だから、自ずと基本の力も強くなる。逆に、他者から教わる場合、最短距離でスキルを習得できる分、訓練期間も短い。私達は12歳、だから最短距離ではなく、試行錯誤しながら進めたほうが、自分自身も強くなるってことかな?
「……アッシュ、ありがとう。一応、イミアさんにも相談してみるよ」
「うん、お互い強くなっていこう」
私はアッシュと別れ、クロイス様とイミアさんのいる部屋に行った。ノックをしてから部屋に入ると、2人は数枚の資料を見ていた。
「リリヤ、どうしたのですか?」
「クロイス様、イミアさん、私は強くなりたいです。弓術スキルを上げるためにも、狙撃、心眼や風読みスキルを習得するためのコツを教えて頂けないでしょうか!」
2人は、互いの見合わせた。
「ふふ、なるほど。リリヤの場合、《クーデターのため》というより、《アッシュのため》ですね?」
「ふぇ!?」
クロイス様の突然の問いかけで、変な声が出ちゃった!
「いえ…その…あの……」
「リリヤがアッシュに好意を持っていることは、側から見て丸わかりです」
え!?
そんなに、顔に出ているのかな?
「……はい。アッシュのために強くなりたいです」
もう正直に言っちゃおう。
「ふふ、正直ですね。私は、貴方が羨ましいです。ネーベリック事件もあって、私には婚約者がいませんし、気になる男性も今のところいません。イミアはどうですか? 好きな男性はいますか?」
あ、その話は、私も気になる!
「え、私ですか? 今はいませんけど、サーベント王国王都の学園在籍時にはいましたよ。1限目の授業が始まる前、彼の靴箱に手紙を入れて、昼休み中、彼を屋上に呼び出しました」
うわあ~、その展開だと、イミアさんは勇気を出して、その男性に告白したんだ。どうなったのかな?
「びっくりですよ! イミアにそんな過去があったなんて! しかも、恋愛小説に出てくるようなベタな展開じゃないですか!? その後は? 彼が失礼な物言いで貴方を振ったから、全力でビンタしたんですか? それとも、既に恋人がいて、その女性を連れてきて、《俺、もうこの女とできてるんだ》とか言われて、ムカついた貴方は男の股間を蹴り上げたとか?…………アイタ!」
……イミアさんが、捲したてるクロイス様にデコピンした。
これは、クロイス様が悪い。
「クロイス様~~、私が振られることを前提に、勝手に進めないでもらえませんか~?」
私も、そう思う。クロイス様は、本の読みすぎ。
それにしても、王族にデコピンしていいのかな?
「うう、だって~~こんな話、今までしたことがないんです。私の周りには、同年代の男性も女性もいません。だから、先が気になったんですよ~~」
言いたいことはわかりますけど、もうちょっと言い方を……
「わかりましたから、ウルウルした目で見つめないで下さい。まあ、告白して振られたことは事実ですけど」
あ、振られたのか。
もし私がアッシュに告白して、あっさり振られたら立ち直れるかな?
………は! いけない、そこは考えないようにしよう。
「なんだ、私の予想通りじゃないですか」
クロイス様! イミアさんを怒らせたいんですか!?
「ふふふ……クロイス様が王族でなかったら、何か制裁を与えたいわ~」
「イミア、その怖い笑顔と握り拳はやめてください!? すいません、ふざけ過ぎました」
恋愛に関しては、クロイス様に相談しない方がいい。
意見を真に受けたら、悪い方向に進む気がする。
「そういえば、クロイス様のすぐ側には、アトカさんがいますよね? お2人は、アトカさんのことを恋愛対象として見ていないんですか?」
アトカさん、あの人の顔はかなり怖い。初めて会った時、私もアッシュも何かされるんじゃないかと思い、身体が竦んじゃった。
「私にとって、アトカは【兄】という存在ですね。私が物心ついた時から、アトカにはよく叱られていました。イミアは、アトカを見て、どう思いますか?」
あ、ダークエルフだから、アトカさんの年齢も、見た目よりもかなり上なんだ。
「うーん、同じダークエルフ族でも、私とアトカではかなり年齢差があります。ですから、頼りになる友人ではありますけど、恋愛対象としては見れないですね」
そういえば、年齢差があるにも関わらず、イミアさんはアトカさんにタメ口で話してる。魔鬼族だと、目上の人をタメ口で話した場合、間違いなく叱られる。でも、ダークエルフの場合、種族特性の所為もあって、一定の年齢になると身体の成長が止まるから、その人の性格に応じて、話し方も違ってくると聞いたことがある。
「私とイミアの恋愛は、まだまだ先のようですね」
「クロイス様、貴方は王族なんですから、恋愛は厳しいと思いますよ。クーデターが無事成功したら、多くの貴族から注目され、自分の息子を王族にすべく、お見合い用の釣書が山のように届きます。覚悟して下さい」
王族の場合、国との繋がりが重要視されるから、恋愛はできても成就しにくいんだ。王族貴族の人達は、政略結婚ばかりなのかな? シャーロットは公爵令嬢と言っていたから、王族の次に偉い人。でも、知り合ったばかりだけど、貴族という雰囲気をまるで感じない。どんな人と結婚するのかな?
「う、そうですよね」
「そうそう、話が大きく逸れちゃったけど、リリヤのいうスキルの中で、比較的入手しやすいのは、【狙撃】スキルよ」
あ、やっと本題に戻った。
「狙撃スキル……ですか?」
「そうよ。ただし、狙撃スキルを習得するには、魔力系の基本スキルが3以上要るわね」
スキルレベル3!?
それならギリギリ満たしてる。
「大丈夫です。全部3です!」
「習得条件を全部話すと貴方の為にならないから、2つヒントを教えましょう。1つ目は《狙撃に重要なところはどこか?》、2つ目は《何故、スキルレベルが3以上必要か?》」
狙撃において、重要なところ?
弓術の腕前?
「それと……これはシャーロットから聞いたことだけど、貴方の裏人格である白狐童子は【風属性】を得意としているようね。つまり、貴方自身も、他の属性に比べて風属性を扱いやすいはず。それなら、レアスキル【風読み】も入手しやすいはずよ。今の貴方にとって、入手すべきスキルは、【狙撃】と【風読み】の2つね」
【狙撃】と【風読み】。
シャーロットと白狐童子が戦った時、白狐童子は強力な風属性のスキルを使ってた。私の裏人格である彼女ができるのであれば、私も風属性の扱いが上手いはず。
「イミアさん、ありがとうございます! 自分で考え行動して、2つのスキルを入手してみせます!」
早速、外に出て、誰もいないことを確認してから、地面に座った。
【風読み】というくらいだから、風の流れを予測するスキルのはず。でも、風の流れなんか、どうやって予測するのかな? 肌で風を感じ取れても、目には見えない。なにより遠方の風を予測しないといけない。うーん……まずは魔力操作で風を発生させてみよう。白狐童子の螺旋風刃波も、魔法ではなくスキルなんだから、必ずできるはず!
【狙撃】、このスキルがあれば、弓や魔法による遠距離攻撃を放った時、遠方にいる敵の身体の狙い定めた位置に、正確に直撃させることができる。でも、子供達もいる貧民街で、弓を使うわけにはいかない。
あ、私の目の前に、丁度いい武器がある!
地面にある石ころ、これを利用しよう。ただ、石でも子供に当たれば、大怪我を負ってしまう。貧民街の中でも、三方が壁に囲まれている場所を探そう。
アッシュ、私は貴方の足手まといになりたくない。
もっと強くなって、【鬼神変化】スキルを制御してみせるからね!
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