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最終章 アキト、隣接する2つの辺境伯領の架け橋となる

28話 シェリルの成長

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すっごく機嫌がいい。
僕の品質管理は、皆の役に立てるのだから。

「ご機嫌ですね」
「うん、僕の力が認められたもん!」

これまでもマグナリアとトウリの件で褒められているけど、何故かこっちの方が僕の心を占有している。何でだろう? 

僕が意気揚々とシェイルたちのいる邸へ戻ると、鳶に変化しているトウリが空からこっちに向かってくるのが見える。

『アキト~見て見て~。私、こんなに飛べるようになったよ~』

すご、今日から飛ぶ練習を始めたのに、もう楽々とくるっと1回転出来るくらい自由自在に飛べてる。そんなトウリが僕の左肩に降りてくる。少し驚いたけど、着地も完璧だった。

『驚いた。もう、普通の鳥と変わらないよ』
『でしょでしょ!』

僕なんて、やっと魔力循環が出来るようになったところなのに。
僕も負けていられないや。

『そういえば、シェリルが両親と話し合って以降、元気がなくなって憂鬱そうにしているわ』

『何を言われたかわかる?』
『ううん、わかんない。でも、リリアナが慰めたら、少しだけ元気になったわ』
『とりあえず、彼女の所へ行ってみるよ』

僕とケイナさんが、シェリルのいる2階のテラスへ行くと、そこにはリリアナもいて、シェリルは僕を見るなり、こっちに駆け出してくる。

「アキト、お願い! 女装して、私たちと一緒に謝罪パーティーに出て!」
「へ?」

謝罪パーティーって、何?

「お嬢様、落ち着いてください。それだと、アキト様もわかりません」
「あ、そ、そうね」

ケイナさんがシェリルを諭したおかげで、彼女も冷静さを取り戻す。そこから話を聞いていくと、この辺境伯領の領都には、ゴルゴート公爵家の別邸があって、シェリルは半年前、この家主催のパーティーにて同年代のキャルベイ侯爵令息から目のことで罵倒された。その件以降、彼女は外に出ることを極端に恐れてしまうようになった。

この騒動以降、キャルベイ侯爵家や血の繋がりのある分家は、精霊・霊鳥族に見限られ、それが発端となって全精霊に見捨てられてしまう。これらの件が国中に広まったことで、侯爵家の関わる全事業が立ち行かなくなり、家の存続自体が危ぶまれている。

今回、そのキャルベイ侯爵様と奥様、令息が、精霊・霊鳥族のガルーダ様やシェリル、パーティーで迷惑をかけてしまった出席者たち全員に、正式な謝罪を込めた立食形式のパーティーを開催したいと、ゴルゴート公爵様に打ち明けた。

問題は開催場所、以前迷惑をかけてしまった辺境伯領の公爵家別邸を指定したらしく、公爵様は激怒したけど、侯爵一家の誠意の籠った謝罪と必死な懇願に根負けし、アーサム様にも連絡をとり、承諾を貰ったことで使用許可を出した。開催場所は辺境伯領領都にある公爵家別邸だけど、主催者はキャンベル侯爵家で、準備にかかる費用に関しても侯爵家持ちだ。当時の出席者たちも、招待状に記載されている内容を見て、精霊様の機嫌を損ねたくないと思ったのか、全員が出席することになった。

パーティーは、今から5日後に開催される。

精霊誘拐事件の調査で、アーサム様はパーティーの件をすっかり忘れてしまい、今になって思い出した。招待状自体は1ヶ月前に届いており、その時はシェリルも出席を拒んでいたけど、この様子から察するに、僕の答え次第で出席すると受け取っていいのかな?

「精霊誘拐の件は、どうなったの? ついさっき、レンヤさんの工房でフリオていう男性と会って、犯人たちの多くが捕縛されていることを聞かされたんだ」

「え、そうなの? 今日パーティーの件で話し合った時、お父様は何も言わなかったから、昨日か今日で、何か大きな動きがあったのね。キャルベイ侯爵家が関わっている可能性もあるけど、今の時点では不明なの」

僕とリリアナの誘拐事件から2日しか経ってないから、さすがにわからないよね。

「誘拐の件もあって、お父様もお母様も謝罪パーティーのことを失念していたのよ。私たち家族4人は当事者だから強制参加……正直不安なの。あいつと出会ったら、また何か言われるかもしれないもの。でも……リリアナとアキトが一緒に出席してくれたら心強いの!」

「僕は平民だよ? 参加できないでしょ?
「大丈夫。私のお友達と言えば参加可能だし、身分についても事前にお父様に相談したら、切り抜ける方法はあるから心配するなって言ってくれたの」

参加に関しては僕も構わないけど、もう一つの問題の答えを知りたい。

「僕の女装って、意味があるの? そのまま参加してもいいのでは?」

「私もお父様に同じことを言ったけど、侯爵家の子供がアキトに悪さを仕出かす可能性もあるって」

女装すれば、何も悪さされないってこと?
なんで?
僕が疑問に思っていると、リリアナがその答えを教えてくれた。

「あのね、元々あの男の子は、シェリルに興味を抱いて声をかけたの。軽いおふざけで、眼鏡をとっちゃったのよ。そうしたら、あの騒ぎに発展したらしいわ」

それって、好きな女の子に興味を持ってもらおうと、悪さを働いたってこと? それで、家の存続にまで発展するって、なんか悲惨。

「早い話、あなたが男の子のままシェリルと一緒にいると、あの子が嫉妬して騒ぎ出す可能性もあるってことよ」

だから、女装しろってことか。
そういう理由なら、仕方ないよね。

「そうだわ。せっかくだから、明日鍛治師のもとへ行く時、女装して行ってみない?」
「え…それならシェリルとリリアナも、一緒に来てよ。僕1人だけだと、なんだか恥ずかしいよ」

ケイナさんもいるけど、それでも恥ずかしい。
変な目で見られたくないから、できればついて来てほしい。

「わ、わかった。私も行く」
「シェリル、大丈夫なの?」

あ、そうだ。
騒動の件以降、シェリルは外に出ることを恐れていることを忘れてた。

「うん、これは私の我儘。アキトにばかり、負担を強いてはいけないの。パーティーに出席する以上、今日から私も外に出る。もう、誰にも迷惑を掛けたくない。逃げるのは嫌」

その言葉を聞いて、周囲にいるケイナさんや他のメイドたちも驚き、涙ぐんでいる。僕が女装することで、彼女の負担を少しでも減らせるのなら協力しよう。

「わかった。僕も女装して、パーティーに参加するよ」
「やった、ありがとう! そうと決まれば、今からお洋服のお着替えをしましょうね」
「シェリル、私も手伝うわ。アキトを、う~んと可愛い女の子に仕上げましょうよ」

シェリルとリリアナの笑顔が怖い。
僕に、何を着せるのかな?
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