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最終章 アキト、隣接する2つの辺境伯領の架け橋となる
24話 シェリルの抱える事情
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30分後、僕はアーサム様の執務室へ行く。そこで改めて何を作るのか問われたので、メガネ製作の件を話すと、何やら考え込んでしまう。
『おそらく、その製作には、様々な困難が待っている。もし、それらを打ち破り、物が完成したら、事前に私、ミランダ、アレスに物品を確認させてほしい。私たち3人に認められたら、シェリルに渡しても構わない。製作する上で必要な費用は、全て私に回しなさい。出掛ける際は、護衛も付けよう』
と真剣な口調で言われた。どうもシェリル自身に何かあるような素振りだったけど、あの時点では何も教えてくれなかった。
そして滞在2日目の朝、僕はシェリルの専属メイド兼護衛のケイナという女性を連れて、鍛冶屋へ向かっている。アーサム様が、『眼鏡を製作するのであれば、鍛冶や加工に長けた者が必ず必要になる。ここに書かれている鍛冶屋に行きなさい。彼に認められれば、君の求める眼鏡を製作できるかもしれない』と言ってくれたからだ。僕とトウリは、品質管理で眼鏡を製作できると思っていたけど違うのかな?
マグナリアとトウリは、お留守番。
マグナリアとガルーダ様はアーサム様と共に、今日も誘拐事件のことで色々と話し合い、犯人逮捕のために動いてくれている。トウリは昨日の時点で、ガルーダ様に飛翔の仕方を室内で教えてもらったので、今日は室外で練習すると言っていた。使用人の誰かが、彼女を観察してくれるので、僕としても安心だ。
今回のお出かけ、シェリルへのサプライズプレゼントでもあるので、彼女とはいけないため、リリアナも家に残っている。ケイナさんはシェリルの護衛も兼ねているのにいいのかなと思ったけど、アーサム様の許可も下りてますと言ってくれたので、安心して鍛冶屋へ行ける。
「アキト様、あなたにはシェリル様の抱える事情を話しておきます」
ケイナさんは20歳くらいの綺麗な女性で会って間もないけど、自分の職務に誇りを持ち、それを忠実に守る女性というのが僕の第一印象。その人が真剣な面持ちで、鍛冶屋に向かいながら、僕に語りかけてくる。
「事情?」
「はい。アーサム様から許可をもらいましたので、話させて頂きます」
「こんな人通りの多い場所で話してもいいのですか?」
「大丈夫です。既に、領都中に知れ渡っていますから」
ケイナさんから語ったシェリルの事情は、僕にとって衝撃的だった。彼女は生まれつき視力が悪く、眼鏡がないと平衡感覚を保てず、普通に歩けないレベルだ。
問題はここ!!
貴族にとって、眼鏡がないと歩けない程の視力しかない者は、他の貴族から欠陥品扱いされ、いじめの対象となりやすい。何故なら、弱点を曝け出しているようなものだから。だからこそ、その運命を宿した子供は、その弱点を誰にも悟らせずに強くならないといけない。そうなしないと、権力闘争時に真っ先に狙われしまい、誘拐などに利用されてしまうからだ。
「普通、他の貴族の前で眼鏡を外さないから、まずバレませんよね?」
「ええ、普通はそうでしょう。シェリル様以外にも、眼鏡をかけている貴族の子供はいますし、眼鏡が外れないよう、色々と工夫を重ねています」
眼鏡をかけている時点で、視力が弱いと言っているようなものだもんね。倒れて壊れでもしたら、大変だよ。
「コンタクトレンズは開発されていないのですか?」
その話をした途端、ケイナさんの顔が曇る。
「今から13年前、この国の王都にいる平民の男性がその名称と機能を提案し、ある貴族からの支援もあり、開発に着手したのですが……失敗に終わりました。しかも、その方は支援先の貴族の逆鱗に触れてしまい処刑されました」
処刑!? どんな失敗を犯せば、そこに至るの!!
「眼鏡に関しても、どの国も需要が少ないため、画期的な新型は開発されていません」
だから、シェリルはあんな硬そうで柔軟性のない眼鏡をしていたんだ。
「半年前までは、シェリル様も明るく、この街の散策にも出掛けていましたが、領都内で催された公爵家のパーティーに招待されて、事態が一変しました」
そこで、何が起きたの?
「同年齢の侯爵家のご子息様が、悪ふざけで眼鏡を外してしまったのです。シェリル様は彼の声のする方向へ歩き、なんとか捕まえたのですが、そこで諍いとなってしまい、眼鏡を落とされ、誤って踏み潰されました。シェリル様は泣きながら、必死に欠片を探し回ったことで、視力の悪さが露呈しました」
そいつ、最低な男の子じゃないか!!
「諸悪の根源となる侯爵家のご子息は事もあろうに…『なんだよ、歩けないほど視力が悪いのか。お前、欠陥品だな。あはは、焦って損したぜ。いずれ親にも捨てられる欠陥品なら、何をしてもいいよな』と言い放ったので、シェリル様が怒り狂い…『あなた最低ね!! 私の両親は、こんな私でもずっと愛してくれているわ!!』と言ったら、そこから口喧嘩に発展したそうです。我々が駆けつけた時、あの男の子は、『は、親に愛されても、ここにいる俺らには一生愛されねえよ、欠陥品』と言い放ったところで、彼のご両親が息子を平手打ちしました」
うわあ、もうパーティーどころじゃないよ。
「侯爵家側も、すぐに辺境伯家に直接謝罪を入れたのですが、当の本人に反省の色がないので、アーサム様と主催者の公爵家は、差別発言をした侯爵家との交易断絶を決めました。また、その件を聞いた精霊ガルーダ様も大変お怒りになり、霊鳥族の中には、侯爵家の血縁者と契約を結んでいる者もいたので、全ての契約を破棄させました。この茶会での騒動が、領都中に広く知れ渡ったのです」
ということは、その侯爵家って、最悪全ての精霊から見限れらた可能性もあるよね。
「そうなると、あの誘拐の件って…」
「その家が誘拐に関わっている可能性もありますので、捜査を進めています」
僕が知らずに踏み込んだせいで、シェリルの事情を知ることになったけど、気を使ってくれたのか、ケイナさんは関わった2貴族の家名を言ってない。
「アキト様。これは、アーサム、ミランダ様、アレス様、私を含めた使用人たちからの懇願です。どうか皆を納得させ、シェリル様を喜ばせる製品を製作して下さい」
僕の心に、凄まじいプレッシャーが重くのしかかる。元々、僕とトウリの軽い思い付きで始まった眼鏡製作が、こんな期待を寄せられることになるとは、夢にも思わなかった。
『おそらく、その製作には、様々な困難が待っている。もし、それらを打ち破り、物が完成したら、事前に私、ミランダ、アレスに物品を確認させてほしい。私たち3人に認められたら、シェリルに渡しても構わない。製作する上で必要な費用は、全て私に回しなさい。出掛ける際は、護衛も付けよう』
と真剣な口調で言われた。どうもシェリル自身に何かあるような素振りだったけど、あの時点では何も教えてくれなかった。
そして滞在2日目の朝、僕はシェリルの専属メイド兼護衛のケイナという女性を連れて、鍛冶屋へ向かっている。アーサム様が、『眼鏡を製作するのであれば、鍛冶や加工に長けた者が必ず必要になる。ここに書かれている鍛冶屋に行きなさい。彼に認められれば、君の求める眼鏡を製作できるかもしれない』と言ってくれたからだ。僕とトウリは、品質管理で眼鏡を製作できると思っていたけど違うのかな?
マグナリアとトウリは、お留守番。
マグナリアとガルーダ様はアーサム様と共に、今日も誘拐事件のことで色々と話し合い、犯人逮捕のために動いてくれている。トウリは昨日の時点で、ガルーダ様に飛翔の仕方を室内で教えてもらったので、今日は室外で練習すると言っていた。使用人の誰かが、彼女を観察してくれるので、僕としても安心だ。
今回のお出かけ、シェリルへのサプライズプレゼントでもあるので、彼女とはいけないため、リリアナも家に残っている。ケイナさんはシェリルの護衛も兼ねているのにいいのかなと思ったけど、アーサム様の許可も下りてますと言ってくれたので、安心して鍛冶屋へ行ける。
「アキト様、あなたにはシェリル様の抱える事情を話しておきます」
ケイナさんは20歳くらいの綺麗な女性で会って間もないけど、自分の職務に誇りを持ち、それを忠実に守る女性というのが僕の第一印象。その人が真剣な面持ちで、鍛冶屋に向かいながら、僕に語りかけてくる。
「事情?」
「はい。アーサム様から許可をもらいましたので、話させて頂きます」
「こんな人通りの多い場所で話してもいいのですか?」
「大丈夫です。既に、領都中に知れ渡っていますから」
ケイナさんから語ったシェリルの事情は、僕にとって衝撃的だった。彼女は生まれつき視力が悪く、眼鏡がないと平衡感覚を保てず、普通に歩けないレベルだ。
問題はここ!!
貴族にとって、眼鏡がないと歩けない程の視力しかない者は、他の貴族から欠陥品扱いされ、いじめの対象となりやすい。何故なら、弱点を曝け出しているようなものだから。だからこそ、その運命を宿した子供は、その弱点を誰にも悟らせずに強くならないといけない。そうなしないと、権力闘争時に真っ先に狙われしまい、誘拐などに利用されてしまうからだ。
「普通、他の貴族の前で眼鏡を外さないから、まずバレませんよね?」
「ええ、普通はそうでしょう。シェリル様以外にも、眼鏡をかけている貴族の子供はいますし、眼鏡が外れないよう、色々と工夫を重ねています」
眼鏡をかけている時点で、視力が弱いと言っているようなものだもんね。倒れて壊れでもしたら、大変だよ。
「コンタクトレンズは開発されていないのですか?」
その話をした途端、ケイナさんの顔が曇る。
「今から13年前、この国の王都にいる平民の男性がその名称と機能を提案し、ある貴族からの支援もあり、開発に着手したのですが……失敗に終わりました。しかも、その方は支援先の貴族の逆鱗に触れてしまい処刑されました」
処刑!? どんな失敗を犯せば、そこに至るの!!
「眼鏡に関しても、どの国も需要が少ないため、画期的な新型は開発されていません」
だから、シェリルはあんな硬そうで柔軟性のない眼鏡をしていたんだ。
「半年前までは、シェリル様も明るく、この街の散策にも出掛けていましたが、領都内で催された公爵家のパーティーに招待されて、事態が一変しました」
そこで、何が起きたの?
「同年齢の侯爵家のご子息様が、悪ふざけで眼鏡を外してしまったのです。シェリル様は彼の声のする方向へ歩き、なんとか捕まえたのですが、そこで諍いとなってしまい、眼鏡を落とされ、誤って踏み潰されました。シェリル様は泣きながら、必死に欠片を探し回ったことで、視力の悪さが露呈しました」
そいつ、最低な男の子じゃないか!!
「諸悪の根源となる侯爵家のご子息は事もあろうに…『なんだよ、歩けないほど視力が悪いのか。お前、欠陥品だな。あはは、焦って損したぜ。いずれ親にも捨てられる欠陥品なら、何をしてもいいよな』と言い放ったので、シェリル様が怒り狂い…『あなた最低ね!! 私の両親は、こんな私でもずっと愛してくれているわ!!』と言ったら、そこから口喧嘩に発展したそうです。我々が駆けつけた時、あの男の子は、『は、親に愛されても、ここにいる俺らには一生愛されねえよ、欠陥品』と言い放ったところで、彼のご両親が息子を平手打ちしました」
うわあ、もうパーティーどころじゃないよ。
「侯爵家側も、すぐに辺境伯家に直接謝罪を入れたのですが、当の本人に反省の色がないので、アーサム様と主催者の公爵家は、差別発言をした侯爵家との交易断絶を決めました。また、その件を聞いた精霊ガルーダ様も大変お怒りになり、霊鳥族の中には、侯爵家の血縁者と契約を結んでいる者もいたので、全ての契約を破棄させました。この茶会での騒動が、領都中に広く知れ渡ったのです」
ということは、その侯爵家って、最悪全ての精霊から見限れらた可能性もあるよね。
「そうなると、あの誘拐の件って…」
「その家が誘拐に関わっている可能性もありますので、捜査を進めています」
僕が知らずに踏み込んだせいで、シェリルの事情を知ることになったけど、気を使ってくれたのか、ケイナさんは関わった2貴族の家名を言ってない。
「アキト様。これは、アーサム、ミランダ様、アレス様、私を含めた使用人たちからの懇願です。どうか皆を納得させ、シェリル様を喜ばせる製品を製作して下さい」
僕の心に、凄まじいプレッシャーが重くのしかかる。元々、僕とトウリの軽い思い付きで始まった眼鏡製作が、こんな期待を寄せられることになるとは、夢にも思わなかった。
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