上 下
23 / 38
最終章 アキト、隣接する2つの辺境伯領の架け橋となる

23話 みんなとお食事会

しおりを挟む
部屋の中はホテルの客室であるかのように、下着類や寝巻き、服などがクローゼットに、飲み物類が小型冷蔵庫に、お菓子類がテーブル上の籠に配備されていたので、僕は飲み物を取り出して、3つのコップに注ぎ、シェリルとリリアナに差し出す。

「アキト、なんだか手慣れてない?」
「そう?」
「まるで、この部屋に泊まっているかのような自然な行動だったわ」

リリアナに言われて気づいたけど、身体が自然に動いていたのは確かだ。

「前世の記憶の中に、ホテルっていう宿泊施設があって、そこに寝泊まりしたことがあるんだ。この部屋の配置が、宿泊した部屋に似ていたからだと思う」

飲み物を飲んで一息ついてから、今後のことを考える。もう恥をかきたくないから、夕食の時間までに何かを身に付けて……あ!?

「シェリル、僕はどこで食事をとるの?」
「あなたとリリアナはお客様なのだから、当然私たちと一緒に食堂でとるわ」
「僕だけ平民なんだけど?」
「お客様なのだから、関係ないわ」

関係大ありだよ!!  平民と貴族、絶対料理とかも違うよね!?

「貴族の料理を食べたことないんだけど、平民と違うの?」
「全然、違うわ。食事のマナーも、かなり煩い」

僕は、そのマナーを何一つ知らないんだけど!!
真っ先に教わるのは、そのマナーじゃないか!?

「だったら、まずそのマナーを教えて。挨拶のようなヘマをしたくない」
「ふ」「ぷ」

2人して思い出したのか、同時に笑いだす。
こうなるのが、嫌なんだよ。

「わ…わかったわ。私とリリアナで教えるから、あなたも私たちに日本語を教えてね。それと、私たちでトウリ様に、大陸言語-ラスパニア語を教えていきましょう。周辺諸国でも、公用語として使用されているから役立つはず」

「そうね」「うん、わかった」

というか、僕の話す言語って、ラスパニア語というんだ。
初めて知ったよ。


○○○


食堂に入っただけで、その広さに圧倒される。

ティムランド辺境伯家の場合、隣国から迎える使者の数も多く、時には宿泊することもあるから、食堂も20人セッティングできる程、広く作られているとは聞いていたけど、実際に見ると凄いや。

僕はメイドさんに案内されて、アーサムたちが座り終えたのを見計らい、シェリル様の対面に着席する。マグナリアとトウリは、僕のすぐ後ろの床にいる。

「シェリル、客室でアキト君やリリアナ嬢と楽しく話し合っていたようだね」

アーサムだけでなく、ミランダ様やアレス様も、シェリルの機嫌を気にしているような?

「アキトやリリアナ、トウリ様といると楽しい。さっきも…ふふ、食事のマナーをアキトに教えて…ふふふ」

シェリルが笑い出しそうになった瞬間、リリアナも吹き出しそうになった。
きっと、部屋の中でやらかした事を思い出しているんだ。

テーブルに普通のコップ1個、銀色の小さな円形の皿が1つ用意され、その上に銀色の小さな底の浅い台形のカップが置かれ、水が各々に注がれた。その横には、お手拭き用のハンドタオルと、小型冷蔵庫から取り出した一口サイズに分けられたフルーツが置かれ、フォークやスプーンのないまま、『まずは食べてみて』とシェリルに言われた。

僕は、手掴みでフルーツを食べて、タオルで手を拭いてから、コップを掴んで水を飲む。気になるのは、銀色で円形の小さなカップの使い方、前世の知識に1つ思い当たるものがあった。

・銀色の小さなカップは、韓国の法事とかで使用されている食器類の1つ。
・法事とかで使用され、お酒が入れられている。

・一昔前の韓国では、目上の人の前でお酒を飲む際、飲む瞬間を見られるのは失礼にあたるから、右手でカップを持ち、左手でカップを隠し、正面にいる目上の人たちに対して右を向き、お酒を飲む。

この知識通りに試すと、2人に大笑いされた。

『あはははは、アキト、それは何の真似よ?』
『ふふふふ、アキト君…それは予想外。私も予期しなかったこと。まさか、そんな使い方を…ふふふ』
『それはフィンガーボールといって、指の第1関節付近までをボール内の水につけて洗うためにあるの。フォークがないのは、その使い方を知っているのか試すためよ』

あの時の僕は、それを聞いて真っ赤になったよ。フィンガーボールという言葉を初めて聞いたし、形が僕の知るものとそっくりだったから勘違いしたんだ。2人はその時のことを思い出したのか、必死に笑いを我慢している。

「そうか、そうか、楽しめたようで何よりだ。さあ、夕食を摂ろうか」

アーサム様たちはシェリルの笑顔を見れて満足したのか、合図を出すと、入口から料理を載せたカートが入ってくる。


○○○


食事のマナーを教わった際、もしかしたらと思ったけど、料理を見たことで、緊張感が一気に溶けた。ここで提供されたものは、僕の知るフレンチに近いものだったので、フィンガーボールの件もあり、大きなヘマをすることなく、食事を終えることができた。

「アキト君、君は本当に平民なのか?」

食後の果物ジュースを堪能していると、アーサム様が唐突に変な質問してきた。

「平民ですけど? 何か、変でしたか?」
「シェリルとリリアナ嬢から学んだとはいえ、君の食事に対する姿勢は、貴族に近いものを感じる」

アーサム様の言葉に、ミランダ様やアレス様も同意している。

「それは夢…いえ、前世の記憶が影響しているからです。今日食べた料理全てが、前世で経験したフレンチにそっくりでした。前世の僕は、料理に関する基本的な姿勢やマナーを学んでいました」

「だから、アキト君は平民の5歳児らしくないのか」

僕って、貴族寄りの5歳児なの?
これって、褒められているのかな?

「今日の様子を見た限り、君がここに滞在しても、他の客人に迷惑をかけることもないだろう。明日以降、君は何をしたい?」

それは決まってる。

「僕とトウリで、作りたい物があるんです」
「作りたい物?」

僕とトウリの共同製作、勿論マグナリアを除け者にするつもりはないけど、彼女は単独で辺境伯に貢献できる力を持っているけど、僕たちにはない。だからこそ、協力してアレを作りたいんだ。

「ここでお世話になる以上、僕も何かできないか考えました。そうしたら、トウリが教えてくれたんです。僕には、ギフトがあるから、それでしか出来ないものを製作して、シェリルにプレゼントしようと思っています」

「え、私に?」
「プレゼントか……それならば、シェリルを驚かせたいし、ここで聞くのは控えよう。30分後、私の執務室へ来なさい。そこで、詳しい話を聞こう」

なるほど、サプライズだね。そういったことは、前世でもやっていたから、シェリルを驚かせてあげよう。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

加工を極めし転生者、チート化した幼女たちとの自由気ままな冒険ライフ

犬社護
ファンタジー
交通事故で不慮の死を遂げてしまった僕-リョウトは、死後の世界で女神と出会い、異世界へ転生されることになった。事前に転生先の世界観について詳しく教えられ、その場でスキルやギフトを練習しても構わないと言われたので、僕は自分に与えられるギフトだけを極めるまで練習を重ねた。女神の目的は不明だけど、僕は全てを納得した上で、フランベル王国王都ベルンシュナイルに住む貴族の名門ヒライデン伯爵家の次男として転生すると、とある理由で魔法を一つも習得できないせいで、15年間軟禁生活を強いられ、15歳の誕生日に両親から追放処分を受けてしまう。ようやく自由を手に入れたけど、初日から幽霊に憑かれた幼女ルティナ、2日目には幽霊になってしまった幼女リノアと出会い、2人を仲間にしたことで、僕は様々な選択を迫られることになる。そしてその結果、子供たちが意図せず、どんどんチート化してしまう。 僕の夢は、自由気ままに世界中を冒険すること…なんだけど、いつの間にかチートな子供たちが主体となって、冒険が進んでいく。 僕の夢……どこいった?

心象騎士見習いのギフト開拓〜気まぐれ女神のせいで、僕の人生は激変しました

犬社護
ファンタジー
異世界[グランダリア]を創り上げた女神シスターナは、【気まぐれ女神】とも呼ばれ、人々から畏れられている。人間族が治めるフォルサレム王国、その王都に住むフィルドリア子爵家の三男坊クロードは、そんな気まぐれ女神に二重の意味で目を付けられてしまい、12歳の誕生日にギフト[壁]と不幸の象徴[神の死らせ]を受け取ってしまう。この二つのせいで、これまでの理想的なスローライフ人生が一転、破天荒聖女候補、欲深聖女候補、欠陥少女、ブラコン幼女といった様々な人物と関わり合うようになってしまい、人生が激変してしまうことになる。

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

付与効果スキル職人の離島生活 ~超ブラックな職場環境から解放された俺は小さな島でドラゴン少女&もふもふ妖狐と一緒に工房を開く~

鈴木竜一
ファンタジー
傭兵を派遣する商会で十年以上武器づくりを担当するジャック。貴重な付与効果スキルを持つ彼は逃げ場のない環境で強制労働させられていたが、新しく商会の代表に就任した無能な二代目に難癖をつけられ、解雇を言い渡される。 だが、それは彼にとってまさに天使の囁きに等しかった。 実はジャックには前世の記憶がよみがえっており、自分の持つ付与効果スキルを存分に発揮してアイテムづくりに没頭しつつ、夢の異世界のんびり生活を叶えようとしていたからだ。 思わぬ形で念願叶い、自由の身となったジャックはひょんなことから小さな離島へと移住し、そこで工房を開くことに。ドラゴン少女やもふもふ妖狐や病弱令嬢やらと出会いつつ、夢だった平穏な物づくりライフを満喫していくのであった。 一方、ジャックの去った商会は経営が大きく傾き、その原因がジャックの持つ優秀な付与効果スキルにあると気づくのだった。 俺がいなくなったら商会の経営が傾いた? ……そう(無関心)

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...