上 下
14 / 38
第2章 もふもふ鳥の抱える苦悩

14話 お風呂で身体を洗っちゃおう

しおりを挟む
『アキト、リリアナは不安なんだ。察してやれ』

脳内に直接、マグナリアの声が聞こえてきた。
壁1つあるだけで、そう感じてしまうんだ。

「あなたは5歳だから、私と入っても問題ないわ」
「わかったよ…一緒に入ろう」

リリアナの震えが止まり、笑顔になってくれたけど、いざ3人で女湯に入ると、僕だけ居心地が悪かった。こういう時、お父さんと同じ男湯に入っていたからだ。朝早い時間帯のせいか、他にお客さんはいないのが救いかな。僕は服を脱ぎ、腰にタオルを巻いて浴場へと入る。リリアナは、バスタオルを身体に巻いて入ってきた。

「へえ、村の施設なのに、中々落ち着ける環境ね。浴槽も広いわ」
「そうだね。では、早速…」
「待った」
「え、なんで止めるの?」

入ろうとしたら、リリアナに右肩を掴まれた。

「アキト、湯船に浸かる前に、石鹸で身体を綺麗にしましょう。ほらほら、お姉ちゃんが身体を洗い方を教えてあげる。お互いに、背中を洗いっこしましょうね」

いつから、リリアナは僕のお姉さんになったの?

「こういう時は素直に姉の言うことを聞くべき。そもそも、昨日身体を拭かれたとはいえ、完全に綺麗になったわけではない。汚れを温泉内に落としてはダメ」

う、マグナリアの言う通りだ。
お父さんからも、一度注意を受けたことがある。
すっかり忘れてたよ。
ていうか、マグナリアも姉設定を通すんだ。

「わかったよ。身体を綺麗にしよう」

僕とリリアナは背中を洗いっこして、自分の身を綺麗にした後、今度は2人でマグナリアの身体を綺麗に洗っていった。全身毛だらけだから、石鹸だと泡立ちにくかったけど、なんとか汚れを落としてから湯船に入る。

「生き返る~~」
「最高~~」
「ふ~牢屋という地獄から、ようやく抜け出せたことを実感する」

疲れているせいなのか、ついついゆる~い言葉を発してしまうから、温泉って不思議だよね。

「ここの温泉、ニュルニュルするわ」
「本当だ。ミントスと、全然違う」

ダリアさんの言った通り、山一つでこんなに違うものなんだ。
はあ~~~、身体がだんだんとポカポカしてくる。
昨日の辛さが、嘘のようだよ。

「リリアナ、一時はどうなる事かと思ったけど、無事に帰還できそうだね」

「アキトのおかげよ。あなたと一緒に誘拐されていなかったら、私は今でも馬車の中で震えていたわ」

ギフト《品質管理》か。今は品質劣化と品質破壊しかできないけど、もっと磨いていけば、お父さんの仕事に役立てるかもしれない。

「私からも、お礼を言いたい。君のおかげで、私も命拾いしたのだから」
「えへへ」

なんだか、こそばゆいな。

ようやく平和な世界に戻ってきたけど、奴らの仲間がここまで来る可能性もゼロじゃないから楽観視できないよね。村長が通信用魔道具を使って、この地を治める領主様に連絡してくれたことで、今日の昼のうちに領主様がこの地に来てくれる事になったから、もう大丈夫と思っていいよね?

「アキト、君は転生者とはいえ、記憶を断片的にしか引き継いでいないから、今の我々の状況をきちんと理解していない。これからは、私がしっかりと世界の常識を教えていく」

「マグナリア、今の状況って何かまずいの?」 

「アキトは、《密入国》という言葉を知っているか?」
「密入国? ううん、知らない」

夢の中で得た知識にも、そんな言葉はない。

「密入国、それは無断で国に侵入する行為を指し、犯罪に該当する。つまり、今の私たちは密入国に該当するから、犯罪者になる」

「え、僕たち犯罪者なの!?」

マグナリアが、とんでもないことを口にする。

「マグナリア様の言う通りよ。正規のルートを通らずに他国へ侵入すると、それは犯罪になるの。処罰は国によって違うけど、テンブルク王国側への密入国は禁固5年ね。あ、禁固というのは、牢屋に5年間入れられるって意味ね」

「僕たちはどうなるの?」

急に不安になってきたので、僕はリリアナを見る。
5年間も、牢屋に入れられるの?

「大丈夫。マグナリア様が事件の詳細を村長に説明してくれたから、領主様だって理解してくれるわ」

それを聞いてホッとする。
密入国って、犯罪なんだね。

夢の中の知識には、他の国々の名称もあるのに、なんでそんな重要な言葉を僕に覚えさせてくれないんだよ。マグナリアは、[記憶の一部を継承させた転生者]と言っていたから、その影響なのかな。

「アキト、こちらの領主が来る前に確かめたいことがある」
「マグナリア、急にどうしたの?」

真剣な口調だから、何かに悩んでいるのかな?

「私にとって、とても重要なこと。、今ここには我々以外誰もいないから、ここで確かめる」

「マグナリア様、ここでやっても問題ないのですか?」
「規模を極小にするから問題なし」

マグナリアは、何をするつもりなのかな?
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

加工を極めし転生者、チート化した幼女たちとの自由気ままな冒険ライフ

犬社護
ファンタジー
交通事故で不慮の死を遂げてしまった僕-リョウトは、死後の世界で女神と出会い、異世界へ転生されることになった。事前に転生先の世界観について詳しく教えられ、その場でスキルやギフトを練習しても構わないと言われたので、僕は自分に与えられるギフトだけを極めるまで練習を重ねた。女神の目的は不明だけど、僕は全てを納得した上で、フランベル王国王都ベルンシュナイルに住む貴族の名門ヒライデン伯爵家の次男として転生すると、とある理由で魔法を一つも習得できないせいで、15年間軟禁生活を強いられ、15歳の誕生日に両親から追放処分を受けてしまう。ようやく自由を手に入れたけど、初日から幽霊に憑かれた幼女ルティナ、2日目には幽霊になってしまった幼女リノアと出会い、2人を仲間にしたことで、僕は様々な選択を迫られることになる。そしてその結果、子供たちが意図せず、どんどんチート化してしまう。 僕の夢は、自由気ままに世界中を冒険すること…なんだけど、いつの間にかチートな子供たちが主体となって、冒険が進んでいく。 僕の夢……どこいった?

心象騎士見習いのギフト開拓〜気まぐれ女神のせいで、僕の人生は激変しました

犬社護
ファンタジー
異世界[グランダリア]を創り上げた女神シスターナは、【気まぐれ女神】とも呼ばれ、人々から畏れられている。人間族が治めるフォルサレム王国、その王都に住むフィルドリア子爵家の三男坊クロードは、そんな気まぐれ女神に二重の意味で目を付けられてしまい、12歳の誕生日にギフト[壁]と不幸の象徴[神の死らせ]を受け取ってしまう。この二つのせいで、これまでの理想的なスローライフ人生が一転、破天荒聖女候補、欲深聖女候補、欠陥少女、ブラコン幼女といった様々な人物と関わり合うようになってしまい、人生が激変してしまうことになる。

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

付与効果スキル職人の離島生活 ~超ブラックな職場環境から解放された俺は小さな島でドラゴン少女&もふもふ妖狐と一緒に工房を開く~

鈴木竜一
ファンタジー
傭兵を派遣する商会で十年以上武器づくりを担当するジャック。貴重な付与効果スキルを持つ彼は逃げ場のない環境で強制労働させられていたが、新しく商会の代表に就任した無能な二代目に難癖をつけられ、解雇を言い渡される。 だが、それは彼にとってまさに天使の囁きに等しかった。 実はジャックには前世の記憶がよみがえっており、自分の持つ付与効果スキルを存分に発揮してアイテムづくりに没頭しつつ、夢の異世界のんびり生活を叶えようとしていたからだ。 思わぬ形で念願叶い、自由の身となったジャックはひょんなことから小さな離島へと移住し、そこで工房を開くことに。ドラゴン少女やもふもふ妖狐や病弱令嬢やらと出会いつつ、夢だった平穏な物づくりライフを満喫していくのであった。 一方、ジャックの去った商会は経営が大きく傾き、その原因がジャックの持つ優秀な付与効果スキルにあると気づくのだった。 俺がいなくなったら商会の経営が傾いた? ……そう(無関心)

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...