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第2章 もふもふ鳥の抱える苦悩

12話 事情を説明しよう

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「私はケビン、村の警備を担当している。君たちの名前は?」

僕たちが地面に座り込み、驚きで何も語らないでいると、ケビンさんが話しかけてきたので、僕は急いで立ち上がる。

「僕は平民のアキトと言います。こちらがテンブルク王国セルザスパ辺境伯領の御令嬢リリアナ様で、この小さい子が精霊白虎族のマグナリアです」

「隣国の辺境伯様の御令嬢に、そちらの小柄な方が精霊白虎族!? まさか…山中から感じた強大な魔力は…」

発生地点からここまでってかなり距離があるのに、幻惑から発せられる魔力って、こんな遠方にまで届くものなんだ。

僕の知る幻惑とかなり違うけど、魔法って凄いや。

「それは、マグナリアの魔法です。誘拐犯から逃げ出す際に、使いました」

「誘拐だって!? 急ぎ、村長に知らせなければ」

やっと到着したと思ったら、今度は村長との話し合いか。
いつになったら、休めるのかな?

「アキト、ごめんなさい。本来なら、私が真っ先に動かなきゃいけないのに。村長との話し合いは、私が前に出るから、足りない箇所があったらフォローしてね」

相当疲れているのか、リリアナは身体を震わせながら、ゆっくりと立ち上がる。一刻も早く、僕たちの状況を村長様に教えて、僕とリリアナの両親に僕たちの生存を知らせたい気持ちもあるけど、正直僕も立っているのが辛い。

でも、我慢しなきゃだめだ。

リリアナやマグナリアだって疲れているんだから、僕だけ眠るわけにはいかない。ここが正念場、村長様と話し合いが終わるまで我慢だ。


○○○


ケビンさんから話を聞いたのか、20人くらいの村人がやってきた。その中に村長さんがいて、ヒラクと名乗ってくれた。彼は、50歳くらいで物腰の柔らかな男性だった。

「村長、私はテンブルク王国セルザスパ辺境伯の長女リリアナ・セルザスパと言います」

リリアナがスカートをつまみ、軽く上げてから会釈してる。あれが、貴族としての挨拶なのかな? 村長様は信じてくれるかな? ここに来る道中、転んだりもしたから、僕たちの服は汚れているし、所々破れている箇所もあるから不安だ。

「失礼を承知で申し上げます。貴方方の存在を証明させる物をお持ちですか?」

それって、免許証のようなものを言ってるの?
僕は、そんなの持ってない。

「あ…ごめんなさい、持っていないわ」

「それならば、この村への立ち入りを許可できません。ご存知かと思いますが、魔族が子供や精霊に変身している可能性もある以上、あなた方を村内に入れるわけにはいきません」

「そんな」

全然、ご存知じゃありません。
魔族って何ですか? 魔と関係するの?
僕とリリアナが困っていると、マグナリアが前に出てくる。

「村長、これならどうだろうか?」

マグナリアの身体が急に光り出すと、どんどん大きくなっていき、巨大なホワイトタイガーとなる。汚れてこそいるけど、その姿から高貴な風格を感じ取れる。村人たちの中には、精霊と信じてくれたのか、拝む人もいる。

「貴方様から感じる高貴な魔力と存在感、そしてそのお姿は紛れもなく精霊白虎族。マグナリア様、貴方の存在を疑っていたこと、誠にお詫び申し上げます」

村長様が、頭を深く下げ謝罪する。

「構わない。貴方が言った通り、魔族が変身している可能性もゼロではないのだから。貴方の立場上、全てを疑って行動しないといけない。私は怒っていないので安心してほしい」

それを聞いた村長様は、ほっと胸を撫で下ろす。魔族というのがわからないけど、多分悪い奴だ。そいつが化けている可能性があるから、証明書を持たない僕たちを疑っていたんだ。

「精霊様方は、心の清いものにしか心を許さないと言われています。アキト様もリリアナ様も、善人で間違いないでしょう。貴方方から話される内容を無条件で信じましょう」

それを聞いて、僕もリリアナも胸を撫で下ろす。ここにきて、不審者扱いされて追い出されるのだけは勘弁してほしかったもの。大人たちの多くがマグナリアを見て拝んでいるくらいだから、精霊って人から尊敬を通り越して崇拝されるくらいの偉大な存在なのかな。

「さあ、ここではなんですから、私の家へ…」
「あ、あの…ここで話しても宜しいでしょうか?」
「それは構いませんが、理由をお聞きしても?」

「体力的に、もう限界なんです。事は緊急を要します。私やアキトが誘拐されたのは事実なのですが、マグナリア様も私達とは別で誘拐されていたんです。それに、奴らはこちら側で依頼者と合流する予定でしたから、ソマルトニア王国側にも、精霊の誘拐に関わっている者たちがいるはずです」

「なんですと!?」

周囲が、途端に騒がしくなる。
なんか、《精霊様の誘拐は重罪だ》とか、皆が言い合ってる。

「静かに!! マグナリア様、事実ですか?」

皆の視線が、巨大化したマグナリアに集まる。

「事実。奴らは弱っている私を力ずくで捕縛、力を封印して、何者かの奴隷にさせると言っていた。名前まで聞き出せていないが、奴らは私の運搬に関して、慎重に進めていたが、途中でリリアナとアキトを誘拐した者たちと遭遇したことで、そいつらを皆殺しにして、2人を私のいる馬車内へ連れ込んだ」

村人たちは固唾を飲みながら、マグナリアの話を真剣に聞いている。

「私は、体内に蓄積させていた魔力を魔道具に流し込み破壊することで、封印を解いた。その後、魔法で誘拐犯共の消化器官の機能を狂わせ動きを鈍くしたが、奴らも馬鹿ではなく、勝てないと判断すると、風魔法を使い逃げてしまった」

マグナリアは、僕のギフトを自分の魔法に変えて説明してくれてる。ここに来るまでの間に話し合った通りの内容で、僕も安心する。

「2人の命を最優先と考え、あえて奴等を追わなかった。奴らの現在位置は不明だけど、腹具合も酷いだろうから、今頃は森の中で衰弱して碌に動けないだろう。全員は無理でも、一部の捕縛なら可能かもしれない。急ぎ、この地の領主に連絡し、騎士たちを派遣するよう通達を」

「は、はい!! 直ちに、連絡いたします!!」

マグナリアが話したことで、周囲に緊張が走る。皆が只事ではないと認識して、村長様はすぐに離れていき、ケビンさんが僕たちを村長様の家へ連れて行ってくれた。家に到着したところまでは覚えているけど、僕の意識はそこで途絶えてしまう。
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