御主人様を求めて異世界へ〜チート幼女となった元わんこの不遇な逆境生活〜

犬社護

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本編

31話 幼児に救われ凹むギルドマスターたち *イザーク視点

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おうおう、べクルトンの中枢を担っているギルド支部とはいえ、最高責任者の1人でもある商業ギルドのギルドマスター・マリクが机に突っ伏しているよ。この人は若くして商売を成功させ、三十中頃でギルドマスターの地位に就き、この街の発展に尽力してきた切れ者なんだが、六十代になったことで耄碌したのかもな。

「幼児に救われるとは……こんな手が……思いつかなんだ」

俺が治安騎士団の隊長ウォーレンと共に、リコッタとカトレアが手紙を残して、既に逃亡していることを伝えたら、当初激怒したが、彼女の残した手紙(筆跡は俺)を伝えた途端、こうなるんだもんな。この行為だけで、リコッタの策を認めたと言ってもいいだろう。

「それで、どうします? まだ、王都にも状況を伝えていませんし、街内の情報も錯綜していますから、今から新聞記者たちに伝えれば間に合うと思いますが?」

そう言うと、ギルドマスター・マリクはガバッと起き上がる。

「無論、リコッタの言った案を採用する‼︎ 部下に、急いで他のギルドマスターたちに言うよう伝える。それで肝心の2人の行方は?」

「誰も知らないそうです。おそらく、この街に愛想が尽きたのでしょう。2人は命懸けであの魔物の囮になってくれたのに、その【お礼】がこれでしょう? しかも、リコッタは昨日の騒動で、逸早く犯人を見つけ出し、騒動を沈静化させ、解毒ポーションを飲ませることで、多くの招待客を救いました。その全員が裏切ったのですよ? 俺が同じ立場なら、もう2度とこの街へ訪れないでしょうね」

街の人間たちが真実を知ったら呆れ返り、ギルドマスターや招待客たちを批難するだろうよ。

「そ…そうか…あの子たちには、申し訳ないことを…してしまった」

本当に、わかっているのかね?
あのまま事が運べば、王族を動かす程の大騒動が起きていたはずだ。自分たちの保身だけでなく、目の前にぶら下がる金に目が眩むと、人はこうなるのかね。

「俺も、これで失礼します。あとは、あなた方にお任せしますよ」
「ああ…わかった。イザーク……ありがとう」

青白い顔をしたまま、魔道具『電話機』を掴み、何処かに電話するマリク、これで2人は指名手配されることもないな。

俺は商業ギルド部屋を出て、道を歩きながら今後のことを考える。

まずは公衆電話を使って、あの方に連絡を入れるか。多分、マリク以上に激怒するかもな。あの人はリットのことを気に入っていた。おまけに、メタルリキッドゴーレムの件の真実を知っているから、リコッタへの仕打ちを考えると……こっちの方が気が重い。

俺は近くの公衆電話を見つけると、急ぎボックスの中へと入る。この中は100%の防音効果もあるから、周囲を気にせず話せる。目的の家へ電話をかけ、雇用主に代わってもらえるよう要件だけを伝える。

「イザーク、どうした? 業務報告は2日おき、時間も夕方のはずだ」

相変わらず威圧感のある声だ。
相手が公爵家で雇用主である以上、この電話のやり取りだけでかなり緊張する。

「状況が一変しました。まずは、昨日からの顛末をご報告します」

俺は昨日の出来事と、ギルドマスターたちの失態、リコッタによる救援策を話すと、彼は俺の耳がキーンとなるほどの大声で笑い声をあげる。

「すまんすまん、まさか幼児に助けられるとはな。奴らも、欲に目が眩んだことで耄碌したようだ」

「笑い事じゃないですよ‼︎ リットは死んでしまうし、リコッタがあの策を思いつかなかったら、王家も動いていたはずです」

俺の最愛の人でもあるリットが、復讐に身を任せることでゴルドと相討ちになった。俺がもっと彼女の心の中に踏み込んでいれば、この事態を防げたかもと思うと、正直心が痛む。

「すまない。リット…あの子は優秀な人材だったが、復讐に囚われた可哀想な女性でもあった。私も再三注意していたんだが…惜しい女性を亡くしたものだ」

この方は、リットの抱える事情を全て把握している。公爵家側と雇用契約する際、優秀な人材を失いたくないからこそ、復讐自体を公爵家側で執り行うことも可能だと主張したが、リット自身がそれを断った。『復讐は自分の手で必ず実行します。たとえ、相討ちになっても構いません』と豪語したらしい。公爵様は彼女の意志を尊重し、復讐相手の名を俺にも教えてくれなかった。

「イザーク、頭を切り替えろ。亡くなった以上、君も彼女に囚われるな。君はリットの任務を引き継ぎ、リコッタの監視を頼む。彼女は、匂いに敏感だ。呉々も悟られるなよ」

元々、リットがリコッタを監視し、彼女のスキル《絶対嗅覚》に見合った依頼内容を見繕っていた。まさか、その依頼の中で復讐する絶好の機会が訪れることになろうとはな。

「了解。任務を引き継ぎ、リコッタの監視を行います。と言っても、俺自身が彼女とカトレアを気に入っているので、彼女たちの保護者になって、旅のお供になる予定です」

「それでいい。リットからの報告を聞き、私も戦慄したよ。リコッタのスキル《絶対嗅覚》《身体硬健》《獣化》の3つは、我々公爵家側だけでなく、王族にも貢献できうるものだ。5年間、リコッタとカトレアの心を正しい道に導いてやれ。たとえ、国外に出てどんな事が起ころうとも、2人の側にいろ」

この方はリコッタの件で、ヨークランド子爵家の者たちに嫌われている。にも関わらず、子爵を気に入ったという理由だけで後ろ盾となり、遠くに離れようとしているリコッタにも、俺とリットを差し向け、生活に不便がないよう気配っている。彼女自身、今までが恵まれた依頼ばかりであることに気づいているはずだが、そこまで疑っていない。

全く、マクガイン公爵様は損な役回りばかりを演じているな。

「わかりました。どこへ向かうのかは不明ですが、定期的に電話で連絡を入れていきます」

俺を電話を切り、今後の生活のことを考える。今後、2人はどこへ向かうのか、それが当面の問題だが、生活面は問題ない。何故なら、俺には公爵様から貰った生活資金があるからだ。そうなると、やはり2人には何処かの街や村で訓練を施し、早い段階で実戦経験を積ませた方がいい。

さて、まずはリットの遺体を火葬させて、その遺灰を生まれ故郷に運ぶか。
彼女を手厚く葬ってやろう。
リット、救えなくてごめんな。
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