御主人様を求めて異世界へ〜チート幼女となった元わんこの不遇な逆境生活〜

犬社護

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本編

30話 リコッタからの提案

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私は愛玩形態のまま、鉱山入口を目指し全速力で走っています。イザークさんが『奴らはカトレアを人質にしているはずだ。彼女を助けるためにも、君は絶対に感情を乱すな』と言われていましたが、見えない場所で獣人に戻り、カトレアの状況を確認し、彼女から混乱・恐怖・怒りなどの匂いを感じ取った瞬間、頭に血が上り、彼女を見張る1人の騎士に飛び蹴りをくらわせ、後方へ吹っ飛ばしました。彼女は、おかしな首輪と猿轡をされていたので、すぐに猿轡を外し、首輪に手にかけました。

「外れない? それなら、ふん!!」

私が首輪を破壊した瞬間、何故か周囲にいる人々が驚きの声をあげました。

「カトレア、大丈夫ですか!?」
「う…うん、平気。リコッタは何ともないの?」
「無傷です!!」

宿で会ったウォーレンという騎士が、何やらぶつぶつ呟いていますね。

「馬鹿な…あの首輪を無理に外そうとしたら、触れている部分に電撃が放出されるのに…どうして…それに懲罰首輪の硬度はミスリルに匹敵するのに…」

電撃!? 

危なかったです、少しでも手加減していたら、カトレアが大怪我を負うところでした。拘束した後、私たち2人を魔族と思わせるために、魔族用の魔道具を装備させていたのですね。『冷静に行動しろ』とイザークさんの仰った意味がようやくわかりました。

「隊長さん、どうして私とカトレアを悪者にするんですか!?」

あの騒動の場にいた全員がグルになって、あの液体金属の配分率の低下を少しでも軽減させるための策だとイザークさんから伺っていましたが、冷静に考えてみたら、何も私たちを悪者にする必要性はどこにもありません。むしろ、混乱を招くだけです。

ここに到着するまでの間、私なりに考えた策があります。
これならば、生者は誰も不幸になりません。

「全ては、街のためだ。君たちが犠牲になってくれれば、街も潤う。すまないが、昨日の騒動の犯人として拘束させてもらおう。素直に従ってくれれば、私たちも暴力を振るわない。君たちには表向き死んでもらうが、当面の間遊んで暮らせるほどの金貨を持たせて街から追放させる手筈となっている。それを元手に、遠く離れた場所で生きてくれ」

また、追放!?
王都といい、べクルトンといい、なんなんですか!!

このまま放置すれば、私とカトレアは魔族と思われたまま、べクルトンだけでなく、王都にも情報が伝わり、アリアお嬢様のもとへ帰れなくなってしまいます。

この危機的事態から脱出するには、この場で私の考案した策を言うしかありません。

「《死人に口なし》」

これは、日本で教わった諺です。

「何?」

意味がわからないのか、隊長さんは顔を顰めます。

「死者は何も語りません。ゴルドさんは高ランクの冒険者で、表と裏の顔がありました。それを利用するだけで、全てが上手く収まるのに、100名以上もいて、何故誰も思いつかないのかが不思議です」

「何を言っているんだ、君は? きちんと説明したまえ」

困惑する隊長さん。
まだ、私の意図が伝わらないようです。
イザークさんだけは顔色を変えていますから、意図が伝わったようですね。

「加害者と被害者を入れ替えるだけで、全てが丸く収まるのです。ゴルドさんが4名の冒険者に、遅効性で致死性のある毒を与え、他の招待客にはそれと似た症状を持つ軽度の毒を与える。リットさんがこの横暴に気づき阻止するため、真っ先に彼に対抗するも相討ちとなる。4人の冒険者に関しては、遅効性が幸いし解毒剤で回復する」

あくまで私なりに作り上げたシナリオですが、これなら誰も不幸になりません。

「あ…その手が……」

ようやく隊長さんにも、私の意図が伝わったようです。

ギルドの責任者もいるのに、何故死者を利用することに気づけないのでしょう? 商業ギルドの主催する場で起きた騒動ですが、ギルド側の獣人リットさんが冒険者のゴルドの計略を暴き死んだことにすれば、ギルド側も評価され、相殺されると思います。

私とカトレアを《魔族》という設定にしたら、ギルド側の責任は最小限に抑えられても、《魔族に弄ばれた》という事実は消えません。それ自体がギルドの失態なんですから、今後の信頼にも影響してくるでしょう。

そもそも、王都にいる王族たちが魔族の目的を疑問視し、多くの人間たちを使い、裏に繋がる魔族を探そうとするはずです。その際の費用だって、莫大なものになるでしょう。べクルトンの街のお偉いさんたちは、自分たちの懐のことばかり考えて、周囲に降りかかる迷惑を全く考慮していません。

「この案を聞いても、まだ私とカトレアを拘束しますか?」

「あ…いや…それは…」

隊長さんもかなり狼狽えており、何も発せないようです。後方に控える4人の騎士さんも、オロオロしているだけで動こうとしません。

「申し訳ないが、君たちを容疑者として拘束させてもらう。その案が上層部で通れば解放しよう」

この人たち、最低です!! 

つまり、案が通らなければ、私たちを犯人として発表するということじゃないですか!! どこまで、身勝手なんですか!? 

私はカトレアを見ると、状況を理解してくれたのか、自分の心境を告げてくれました。

「突然、1人だけで呼び出され、いきなり魔族扱いされて怖かったけど、どうしてそうなったのか大凡わかった。最低…やっぱり街の大人って嫌い。みんな、自分勝手で都合の良い事ばかり言ってる。こっちの迷惑なんて、何も考えていない。治安騎士団も商業ギルドの人たちも、私の知る冒険者と大して変わらないわ」

カトレアの言う通りですね。
この国の大人の殆どが、皆こうなんでしょうか?

あのマクガイン公爵家だって、娘の更生のためだけに、ヨークランド子爵家と私を利用しました。

「街の人々は、身寄りのない私たちを犠牲にしてでも、街を活性化させたいようです。カトレア、私と一緒にこのまま逃げませんか? 今後、どう動くのか不明ですが、もう街の権力者たちを信用できません。今回の件で冤罪を免れたとしても、何か騒動が起きた時、あの人たちはなんの躊躇いもなく、一般の誰かを巻き込むつもりです。そんな街に住みたくないです」

「賛成、私も逃げたい。でも…ここで突然いなくなったら、施設長に迷惑がかかる」

施設長のオルフェンさん、あの人はイザークさんと同じで、私たちの身を真剣に考えてくれる大人です。でも、私たちを犯人にする案がこのまま浸透してしまえば、鉱山の人々にも大迷惑がかかります。

「勝手に話を進めないでもらおう。上の連中がどんな判断を下すのかわからない以上、ここで2人を拘束させてもらう。これは、決定事項だ」

私たちは、隊長さんを睨みます。ここから少し離れたところに、大きな箱が置かれており、それは馬車に繋がれています。多分あの中に入れられて、街へ入るのでしょう。あの箱から発せられる匂いが、以前乗ったものと似ています。多分、《懲罰防》とか呼ばれている魔道具でしょう。

「あなた方は、どこまでも自分勝手なんですね」
「我々も、自分の家族を守らないといけないのだ」

自分の家族を守るためなら、無関係な子供を巻き込んでも構わないということですか。あの人たちは全てを知り私の案を理解した上で、それでも私たちに冤罪を被せようとしますか。私が戦闘の覚悟を決めようとしたその時、イザークさんが近づいてきました。

「リコッタ、カトレア、俺がこいつらとここの施設長に説明しておくから、今はお前たちだけで逃げろ」

「「え!?」」

イザークさんは、私たちを手助けしてくれるとんでもない発言をしました。

「それだと、イザークさんが捕まってしまいます!!」

「心配すんな。大人同士の話し合いで、解決してみせるさ。さっき言った君の意見は見事なものだった。あれを突き詰めれば、冒険者側もギルド側も不利益を被らないだろう。まだ、騒動2日目で街中の情報も錯綜している以上、軌道修正も間に合う。君らが逃走を果たせば、捜索費用や周囲に降りかかる損害などを考慮すると、嫌でもリコッタの策に乗っかるさ。そうだろ、隊長さん?」

私が隊長さんを見ると、目に見えて狼狽えていることがわかります。

「それは…そうだが…」

「良い加減、認めてください。俺を含めた100名以上いたあの場で考案されたものより、リコッタの考えたものの方が、圧倒的に策として優れています。ここで2人を取り逃したとしても、余程のバカで無い限り、あなた方を責めませんよ」

隊長さんは5人の騎士を集めて、何やら相談し合っています。私たちを見逃す場合、隊長さんとイザークさんがギルドの責任者たちを話し合わないといけません。10分ほどの会議も終わり、隊長さんがこちらに来ました。

どんな判断が下されたのでしょう?

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