御主人様を求めて異世界へ〜チート幼女となった元わんこの不遇な逆境生活〜

犬社護

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本編

28話 裏切り者って、普通1人ですよね?

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私とカトレアが、昨日の騒動の犯人にされている?
あれだけの目撃者がいるのに、どうしてそうなったのでしょう?

「イザークさん、何故そうなったのですか? 常識的に考えて、私たちには無理ですよ?」

「ああ、常識的に考えればな」

何か含みのある言い方です。
私が帰った後、あの場でどんな話し合いが行われたのでしょう?
イザークさんからも、怒りの感情の匂いが迸っています。

「あの場にいた招待客は、各ギルド支部のギルド員たち、ギルドと強い繋がりのある商人や貴族たち、そいつらの目当てはメタルリキッドゴーレムの液体金属だ。余程のことが無い限り、事前に決められた通りの配分で入手できる。この街の管轄内で入手しているから、ここの連中には優先権が与えられ、配分率も少し高いんだ」

そういえば、冒険者側に問題が起きた時の対処方法についてはリットさんから聞いていますが、双方に何か起きた場合については何も聞いていません。

「あの騒動は失態に値するものですが、それがどう私とカトレアに繋がるのですか?」

「冒険者側とギルド側の双方に関わる事件、それも商業ギルドの管轄内で催されたパーティー中に起きたことである以上、連帯責任とみなされ、液体金属の配分量が減らされる可能性が極めて高い。最悪、配分そのものが無くなるかもしれない」

あれだけの騒ぎを起こしたのですから、それは起こりえる罰だと思います。

「だから、腹痛で苦しんでいた総勢113名が結託して、邸内にいる奴ら全員を脅し、配分量の減少を最小限に抑えるため、リットとゴルドの遺体が置かれているあの庭で、胸糞悪い策を考えたのさ‼︎」

あの場にいた全員が結託!?
そこまでして、あの液体金属を欲しますか!?
あの時、皆さんは治療を施した私たちに、御礼を言ってくれました。
あれらの言葉は、全て嘘だったのですか?
みんなが、私を裏切ったのですか?

イザークさんは皆の顔を思い浮かべたのか、感情の赴くままの顔に豹変しています。

「君とカトレアが囮になったことで、冒険者たちはあの魔物を討伐できた。しかし、命を懸けた2人には、その取り分もない。君たちはそれを不満に思い、リコッタが代表して商業ギルドと冒険者ギルドに苦情を言うが、軽く一蹴される。2人はその事を強く恨み、カトレアが君に指示を出し、今回のパーティーに侵入させ、無臭の毒物を全てのワイングラスに塗布させ、皆を苦しめたが、全てを見抜いたリコッタの師リットと冒険者ゴルドが君を捕縛しようとするも、毒物で殺されてしまう。復讐を果たした2人は満足し、街から逃亡を図る……という筋書きだ」

「なんですか、そのおかしな筋書きは~~~~」

意味不明です。

そもそも、主犯役のカトレアは奴隷で8歳、実行犯役の私にしても冒険者ランクFで8歳ですよ!?

「まるで、どこかの三流脚本家が書いた小説じゃないですか~~~~」

どうやって、大量の毒を入手するんですか?
どうやって、邸内にあるワイングラスに毒物を塗布するんですか?
どうやって、スキル《鑑定》から逃れられたのですか?
どうやって、リットさんの貫かれたお腹を説明するのですか?
そんな子供染みた悪巧みで、普通人を殺しますか?
穴だらけじゃないですか~~~~。

疑問が、次々と湧き出てきます。
私は、思い浮かんだ全ての疑問をイザークさんに投げつけます。

「リコッタ、今言ったのは初期の筋書きで、ここから大きく手を加えられている。そもそも、これは商業ギルドのギルドマスターが主導となって考えられたものだ。あの場にいた連中の殆どが液体金属の虜になっているから、共犯になってでも金属を入手したいんだ」

希少性に関しては私も知っていますが、誰かを犠牲にしてでも、あの液体金属を入手したいのですか? そういえば、入手した人々の利用方法次第で、入手していない人たちにも、莫大な利益が生まれる場合もあると、リットさんが言ってましたね。

要するに、全員が金目当てなんですね。

「君が言ったように、この内容には大きな穴がいくつもある。その穴を無くす第二案、第三案が作られている……はずなんだ」

「え? イザークさんは知らないのですか?」

まるで、一緒に話し合ったかのような言い方でしたから、てっきり全てご存知なのかと思ったのですが違うのでしょうか?

「庭にいる奴ら全員が相談し合い策を考えた後、そこからどう練っていくかはギルドマスターたちに委ねられた。奴らは邸内に入り、何処か防音の効いた部屋に入ったらしい。俺はここから先の展開が気になり、内密に邸内に潜入しようとしたが、俺以外全員が敵なこともあって、侵入することができなかったのさ。だから、どうなったのかがわからないんだ」

それって無断侵入して、もし見つかっていたら口封じで殺されていたのでは?
何故、私とカトレアのために、そこまで踏み込むのでしょう?

「ギルドマスターたちは各分野のスペシャリスト、表と裏の世界を知り尽くしている。あいつらは、矛盾のない具体案を作り出しているはずだ。どんな内容になろうとも、リコッタとカトレアの2人が犯人、これは覆らない」

私たちは、囮としてあの魔物と関わってしまった。
私は孤児で、この街に来て日も浅い。

カトレアは孤児じゃないけど、親に売られ、ついこの間まで奴隷という身分でした。私たちが殺されたとしても、街の人々は誰も悲しまないし、被害も生じない。

まさに、虚実の犯人役にうってつけの存在です。

「奴らは2人を犯人に仕立て上げるため、ありとあらゆる手段を用いて上手く誤魔化すはずだ。王家がこの虚実に納得し周知されてしまえば、配分量も減らされることはない」

全ては、《液体金属》が引き金になっているのですね。招待客たちは、なんとしてでも《大金の元》を入手するため、私とカトレアを悪に仕立てあげたい。

100人以上の大人たちが結託している以上、証拠だって捏造することも容易でしょう。多分、この冤罪を晴らすことは困難ですね。仮に全てを見破り、これが世間に周知されると、私とカトレアは100人以上の人々から恨まれてしまう。

冤罪で拘束されると、牢屋に収監され、犯罪者となってしまう。冤罪を晴らしても、液体金属の件で街中の人々から恨みを買ってしまい、最悪殺される。

どちらを選んでも、地獄しかありません。

何とかして冒険者側もギルド側にも不利益を被らない策を考え、皆を納得させないといけないのですが、相手の方は既に動き出しているはずです。

もう手遅れかもしれません。

「私とカトレアは、どうすればいいのでしょう?」

「これ以上、関わるな。奴らに拘束されれば、2人の人生に傷がつき、国内で生きにくくなる」

話を聞いた限り、拘束されなくても指名手配されて、生活しにくくなってしまいます。だから、国を出ろと言ったのでしょう。このままだと、私はアリアお嬢様のもとへ帰れません。やはり、冒険者側ギルド側双方に迷惑を被らない策を考え出さないといけませんね。

「今日中に、治安騎士共がここへ押しかけてくる。別働隊がカトレアという女の子のもとに向かっているはずだ。もし2人が拘束されたら、通常であれば牢獄へと収監される。そこはギルドマスターたちの采配次第で処遇も変化してくるが、どう見繕っても良い方向には進まない。君は今すぐに彼女のもとへ向かい、合流して逃げろ」

もう、そこまで動き出しているのですか!?
今日中に私も策を考え出さないと、悲惨な未来が待ち受けている。
急に言われても、全然思い浮かびません‼︎
今は、逃げるしかないのでしょうか?

「ここから北20キロほどに、リットの生まれ故郷トリシャ村がある。まずは、そこを目指せ。俺も所用を終わらせ次第、そっちに向かうから何処かで合流しよう」

「俺も?」

何故、イザークさんも街を離れる必要があるのでしょう?

「俺はこの街そのものに、愛想が尽きたのさ。それに、俺とリットは……」

イザークさんの話の続きを聞こうとした時、階下が急に騒がしくなりました。彼はドアをそっと開けて、聞き耳を立てています。私も入口の方へ移動して、同じように耳を澄まします。

『犯人!? 8歳だよ、あの子は? 何かの間違いじゃあ?』
『声が大きい。あのパーティーに参加している全員が犯人になりえるんだ。8歳の子供であっても、話を聞かねばいかん』
『事情はわかったけど、無茶はしないでおくれよ。彼女は201号室にいる。15分くらい前、男の人がここへ来たから、今話し合っているはずだよ』

宿のおばさんとの話し合いが終わると、足跡が階段下のところで止まりました。

『隊長、本当に8歳の子供を魔族として拘束するんですか?』
『領主様がおられない以上、我々はギルドマスターたちの命令に従うしかない。街のためにも、彼女たちには犠牲になってもらう』
『了解…はあ、損な役回りだ。うちの子と歳も近いのに』

今の会話、2人の男性は私のことを《魔族》と言いませんでしたか?

「あいつら、考えやがったな!! 魔族にすれば、子供の姿など関係ないからな」

もしかして、今会話した人たちが治安騎士団がなのですか?
まだ、早朝なのに、もう動いているんですか‼︎
それに、魔族って何でしょう?

「治安騎士団は魔族という大義名分で、リコッタとカトレアを拘束するつもりだ」

このまま、ここに滞在していては危険ですね。

「くそ、こうなったら窓から……ダメだ。複数人が見張っていやがる!!」

逃走経路が、全て塞がれているようです。

「イザークさん、ここは穏便に逃げましょう」

ここは、奥の手を使いましょう。

「穏便に逃げるって……この危機的状況からどうやって?」
「こうやってです」

私は急いで、緊急手段を用いました。
その瞬間、ドアが開け放たれました。
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