御主人様を求めて異世界へ〜チート幼女となった元わんこの不遇な逆境生活〜

犬社護

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本編

26話 唐突な死

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ここから見渡した限り、招待客全員がお腹を押さえ苦しんでいます。
症状や苦しみ具合は、全員が同程度。

「リコッタ、どうかしたのか?」

イザークさんは、スキル《鑑定》で回復魔法を使用できる人を探しているようなので、今この疑問点を言ってみましょう。

「全員が、同じ症状で同じ苦しみっておかしくないですか?」
「全員が同じ毒物で、同程度の量を摂取すれば、同じ症状で同じ苦しみなのは当然だろう?」

それがおかしいのです。

「5人の討伐メンバーの方々は、スキル《毒耐性》を持っています。リットさんが詳しく教えてくれました。このスキルはどんな毒物でも、ある程度の耐性がつきます。強弱を考慮したら、同じ苦しみと言うのが腑に落ちません。同じ苦しみになるよう、毒の量を調整されたと考えた方が納得できます。これは、他の招待客にも言えることです」

「言われてみればそうだな。こいつは仕組まれたものってことか? だが、なんでそんな手間をかける必要がある? 犯人の狙いがわからん」

招待客の中で多量の毒物の入ったワインを飲んだのは、5人の討伐メンバーでしょう。その中でも、最後まで戦っていた3人が、ワインを経由して多量の毒を摂取しているはずです。犯人の狙いは不明ですが、私たちの任務は彼らを守ることです。先に、彼らの容態をチェックした方がいいですね。おそらく、パーティリーダーとされるゴルドさんが、一番多く毒を摂取していると思うので、まず彼から治療しましょう。

正直、私個人は放っておくべきだと思っていますが、後で周囲の人々から疑問視されてしまう可能性もありますから、我儘を言ってはいけませんね。

「イザークさん、先にゴルドさんから治療しましょう。回復魔法がなくとも、パーティリーダーで高ランクの冒険者である以上、アイテムバッグを持っているはずです」

私も手元にありますが、アンチポイズンポーションやポーションなどの薬を1つも持っていません。旦那様は私のスキルを知っていますから、必要ないと判断したのかもしれませんね。

「そうか、それがあったな!! 冒険者なら、それなりに用意しているはずだ!!」

そう思った矢先、ここから少し離れた場所から男性の悲鳴が聞こえました。私とイザークさんが駆けつけると、討伐メンバーのパーティーリーダーである獣人ゴルドさんが大量の血を吐き苦しんでいました。

「「ゴルドさん!!」」

さっきまで他の皆と同程度の苦しみだったはずなのに、どうして急に悪化したの?
あ、彼の身体から感じる匂いが、急速に薄まっています。
この感覚、犬だった時に感じたものと似ています。
他の犬が死んでいく瞬間が、こんな感覚でした。

「やばい、体力が殆ど残ってないぞ!! おい、アンチポイズンポーションとポーションはまだなのか!?」

血を吐き暴れるゴルドさん、私のパピヨン形態で回復させられるのかな?
でも、ここまで暴れていたら、私の小さな身体を抱きしめてくれません。
邸の方を見ても、まだ誰もここへ来ない。
どうすればいいの?

「くそ!! ゴルドさん、あんたのアイテムバッグにあるポーション類を使わせてくれ!!」

ゴルドさんは地面に仰向けに倒れ伏し、暴れるのを必死に我慢して、血を吐きながらも、震える手で必死にバッグに組み込まれている魔石に触れます。

「中にある物…全部使え」

イザークさんが急いでバッグの中を漁り、2本の瓶を取り出し、蓋を外して、2本同時に傾けてゴルドさんの口の中へ無理矢理入れました。すると、若干ですが、彼の顔色が良くなりました。

「イザーク…感謝するぞ…俺の死期が少し延びた」

「死期って……お礼は俺より、リコッタに言ってくれ。彼女はリットの弟子なんだが、この惨状の違和感に気づき、冒険者の持つアイテムバッグを指摘してくれたんだ」

ゴルドさんが私を見て、何故か複雑そうな笑みを浮かべています。

「そうか…俺はお前を囮として使ったのに…良い子だな。しかも、リットの弟子に助けられるとは…皮肉なもんだ。リコッタ、感謝するぞ…これで奴を道連れにできる」

ゴルドさんの目つきが、急に変わりました。
その目には、殺意が含まれています。
皮肉の意味もわかりませんし、奴を道連れって誰を指しているのですか?

「あ…動いてはいけません!!」

彼は私の言葉を無視して、少し先にいるリットさんの方へ駆け出します。その彼女はというと、ゴルドさんが近づいているのに気づかず、もう1人の討伐メンバーの男性にポーションのような飲み物を与えようとしています。

「おい、リット!!」
「え…きゃあ!?」

ゴルドさんがリットさんの襟を掴むと、空中へ放り投げました。どこにそんな力が残っているのか、高さ5メートル近くまで飛んでいます。

「なんで…生きて…」
「リット、貴様も道連れだ!!」

私もイザークさんも、突然のことで声すら出せず、全く動けません。
ゴルドさんは、右拳を手刀に変えて、魔力を蓄積させていきます。
一体、何をするつもりなんですか?

「てめえも死ね!! ふん‼︎」

え…彼の手刀が…リットさんのお腹を…貫いた? 
そんな…どうして?

「あ…あんた、なにやってんだ~~~リット~~~」

イザークさんが、ゴルドさんの暴走を見た瞬間、2人の元へ駆け出します。
私も…私も…私も行かないと‼︎
唐突に起きたことに頭が追いつかず、私はかなり出遅れました。リットさんのもとへ到着した時、彼女は地面に倒れ伏し、お腹には大きな風穴が開いており、そこから大量の血が溢れ出ています。

「リットさん、リットさん、しっかりしてください‼︎ イザークさん、ポーションで…」
「致命傷だ…こんなの特級ポーションでも治んねえよ!! くそ、くそ、くそ‼︎ ゴルド、自分が何を仕出かしたのかわかってんのか!?」

ゴルドさんも地面に倒れ伏し、先程飲んだアンチポイズンポーションの効果が薄れたのか、大量の血を吐き苦しんでいますが、私もこの人に聞きたいです。

もう容態なんて関係ありません!!

「なんで、こんな酷いことをしたんですか!? リットさんは、皆を救おうとしていたのですよ!!」

許せない、許せません!!

「かかかか…なんでだと? ごほ…こいつが犯人だからだよ…ごほごほ…鑑定スキルで討伐メンバーの耐性スキルの強弱を理解し…ごほごほごほ…毒物の量を変化させて、全員が他の皆と同程度の症状となるよう調整した…ごほごほごほ…皆が混乱しているうちに…ごほっ‼︎ ……俺に致死量の毒物を飲ませやがった…ごほっ‼︎」

リットさんが毒物を仕込んだ? 

そういえば、彼女はゴルドさんに何か飲ませていましたが、てっきりポーションか何かだと思ったのですが、まさかの毒物? しかも、致死量?

「でも…だからって…なんで…こんな酷いことを…」

リットさんもゴルドさんも死にそうです。
頭が混乱して、どう対処すればいいのかわかりません。

「親の仇か…かかか…ごほ…俺を毒殺するのはいいが、優秀な弟子がお前の用意した舞台を…一瞬で見抜き、ぶっ壊しやがったな…ごほ…かかかかか…皮肉だな~~~、お前も道連れだ。じきに、11年前に死んだ両親に会えるぜ…かかかか…俺は先に逝って…」

ゴルドさんが急に動かなくなりました。
目も虚になり、瞬きもしなくなりました。
魔力も、消えています。
私は、これを知っている。
《死》だ。

「死にやがった。リットが犯人だと?」

イザークさんも混乱しています。
そうだ!! リットさんが死にそうなんだ!!
リットさんを見ると、周囲は血の海となっていて、もう虫の息という状態だった。

「リットさん!!」

彼女の目には、少しだけ光が宿っています。イザークさんが必死にポーションを飲ませていますが、もう飲む気力も残っていないようです。

「お父さん、お母さん、やったよ。相討ちだけど、仇を取ったよ。リコッタ、巻き込んでごめんね。まさか、この惨状の違和感を一目見て感じて、真っ先にゴルドのところへ向かうなんてね……あなたは優秀だ。仇は取れた…もう何も起こらない」

私のせい……だ。

私がイザークさんになにも言わなければ、ゴルドさんだけが死んでいたんだ。犯人もわからないまま、私たち6人が今回の責任だけを取るだけで終わったんだ。私が状況の違和感に気付いたからこそ、この悲劇が起こったんだ。

「ご…ごめんなさい…ごめんなさい…私のせいで…」

涙が止まりません。
だって、リットさんは私のせいで死ぬのですから。

私がしゃがんでリットさんに謝罪を言い続けると、彼女は血だらけの右手を動かし、私の左ほほにそっと優しく触れます。

「泣かないで…謝らないで…あなたは何も悪くない。11年前、ゴルドは元パーティーメンバーだった私の父と母を呼び出し、そのまま魔物討伐に出掛けた。そして…2人は中型魔物の囮に…使われた。2人が魔物に食べられている時、奴は魔物の首を斬り、手柄も全て独り占めにした。私は、両親の仇を取っただけ…みんなに迷惑をかけちゃったけど……ちょっとお腹が痛くなる程度だから……利用してごめんね」

リットさんの声量が、どんどん小さくなっていきます。

「リットさん、死なないでください。あなたは、私にとって初めて師匠とも言える存在なんです」

死んでほしくない。
でも、この状況を打破できる方法が見つからない。

「ありがとう…ごめん…ね」

リットさんは優しく微笑むと、私のほほに触れていた彼女の右手が急に力を無くし、地面にパタンと落ちました。そして彼女はそのまま目を閉じてしまいました。

死んだ、死んじゃった。

「くそ、なんでこんなことに…なんでだよ!!」

「うう、私のせいです。私がリットさんを殺したようなものです。ごめんなさい、ごめんさい」

「違う、リコッタのせいじゃない!! 誰も、お前を責めねえよ!!」

私とイザークさんが打ちひしがれていると、。メイドの女性と料理人の方々が大きな箱を担いで、こちらに駆けつけてきました。どうやら、アンチポイズンポーションとポーションを持って来てくれたようです。

私は、どうすればいいの?
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