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本編
17話 不思議な女の子と出会いました
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「昼食を…どうぞ」
私の昼食を運んでくれた女の子カトレア、服装と匂いと首輪から察するに、奴隷で間違いありません。それに、何か欠陥を抱えているのか、パピヨンから獣人に戻ってからの私に対する彼女の様子がおかしいです。当初、私のことを愛くるしい瞳で抱きしめていたのに、獣人になった途端、顔が真っ青になり、私をどんと突き放し、作り笑顔となり、私に昼食を勧めてきたのだから。
「カトレア、どうしてそんな作り笑顔をするのですか? さっきまで私と普通に話し合っていたじゃないですか?」
「昼食を…どうぞ」
身体も少し震えています。
まるで、人間にずっと虐待されてきた犬のようです。
心を固く閉ざし、歳も同じくらいなのに敬語で話し、全然私と向き合ってくれません。
何度言葉を交わしても、さっきからずっとこの言葉ばかりです。
仕方ありません、冷めないうちに昼食を食べましょう。
「わかりました、昼食を食べます。せっかくなので、あなたも一緒に食べましょう」
「いりません。奴隷は…人前で食事したら…だめ…なんです」
また、奴隷ですか。
私も、日本でこういった態度をとる犬を数多く見てきました。
人に捨てられたり虐められたりすることで、心を閉ざしてしまった犬たち。
かつての私も、そこに含まれます。
多頭飼育崩壊を起こしたせいで、飼い主様は私たちの面倒を見なくなり、多くの犬たちが1匹また1匹と死んでいく。その光景を見た私たちは、《人間を信用しない》と決めて、必死に生き抜き、結局別の人間たちに助けられてしまった。私の場合、ご主人様に助けられたことで、荒んだ心が浄化された。私でも、浄化されるのに半年ほどかかりました。
私とカトレアは、コミニュケーションを互いに交わせる。パピヨン形態の時は普通の可愛い女の子だったので、あれが素の彼女なのでしょう。一緒に昼食を食べることで、少しでも心を開いてくれたらいいのですが。
「う~ん、それじゃあ命令です。私は用意された昼食を食べますので、あなたはこれを食べてください。今日の朝、市場で購入したサンドイッチと綺麗なお水です」
まずは、彼女の警戒心を解かないといけませんね。私はカトレアの主人ではないですが、ここに来ているということは、私にもある程度の権限があるはずです。
「毒…あるかもしれないから…嫌です」
どこまで疑い深いんですか!?
どんな人生を辿ってきたのか知りませんが、人をとことん信用していませんね。
「それなら、あなたはこの昼食を、私がこっちを食べましょう」
これなら問題ないはずです。
「いい…のですか?」
流石に自分の食べ慣れているものであれば、毒は含まれていないと理解してくれるはずです。
「いいのです」
「あり…がと…ございます」
そう言うと、彼女は私の昼食が置かれているテーブルへ移動し椅子に座ると、涎を垂らしながら、スプーンでガツガツ食べていく。私もバッグから出した昼食を食べ終えると、カトレアの方が先に食べ終えていたようで、こっちを凝視しています。
「カトレア、私たちは歳も近そうなので、普通に話してください」
こうでも言わないと、ずっと敬語で話してきそうです。
「わか…った。昼食…ありがと…あなたは他の人より信頼できそう」
彼女から漂う匂い、それは《裏切り》《憎悪》《不信感》の3つです。私と同じくらいの歳で、相当な経験を積んだのでしょう。
「ここにいる仲間たちを信用できないの?」
「奴隷の仲間たち…笑顔じゃないと…私に暴力を振るう。裏切りで叩かれる…でも、ご主人様のいるこの施設の人たちだけは優しい」
鉱山の中で働いている人々の殆どが、犯罪奴隷です。仲間たちから暴力を受けていたんですね。カトレアのご主人様はそれを知り、彼女をここへ避難させたのかもしれません。
「これは…なるほど、1つの金属につき3つの箱に分別させたのか」
私はカトレアのことばかり気にかけていたせいで、オルフェンさんが部屋内に入っていたことに気づけませんでした。彼は箱の中から金属の塊を取り出し、じっと見つめます。カトレアは邪魔にならないよう、すぐに壁際の方へ移動していきます。
「リコッタ、純度80%未満、80%以上、90%以上に振り分けたのかな?」
「はい、そうです!! もっと具体的に言いますと…」
私は、ミスリルの80%以上の箱から金属の塊をいくつか取り出し、具体的な数値を言っていき、それを順番通りに並べていきます。
「純度の濃さは、このような順番となっています」
オルフェンさんは黙ったままですが、顔から冷や汗が出ています。
「完璧な…順番だ。私もスキル《鑑定》を持っていますから、あなたのスキルの精度が如何に高いのかがわかります。スキル《絶対嗅覚》、作業速度はスキル《鑑定》よりも遅いですが、これは信頼に値する」
やった、褒められました!!
「いいでしょう、これからの7日間、こちらのアクセサリー用の分別に関しては、全てあなたに任せましょう。こちらからの要望ですが、今後分別した金属塊に数値を記載した紙を貼ってもらいたい。その補助として、そこの壁際にいるカトレアを好きに使って構わない。歳も近いし、今後は一緒の部屋で寝泊まりすればいいでしょう。業務時間以外であれば、2人で自由行動しても構いません。遊び仲間として、お互いに最適でしょうからね。カトレアも、リコッタの指示に従うように」
オルフェンさんから、カトレアを虐めたいような邪な匂いを感じ取れません。純粋に1人の友達として、私と遊ばせたいようです。カトレアの方も、彼を見て震えていませんし、何処か安心しているような気がします。
「わ…わかりました、リコッタ……宜しくお願いします」
「カトレア、7日間よろしくなのです!!」
ここに来て、初めてのお友達です。
彼女と協力して、この任務を乗り越えましょう!!
○○○
任務を始めてから、3日が経過しました。
任務初日はカトレアの喋り方もおどおどして挙動不審でしたが、一緒に寝泊まりし、お布団の中で沢山お話ししたこともあり、2日目ともなると完全に打ち解けていました。今となっては言葉遣いも流暢になり、私たちは普通のお友達の関係を築けることに成功しています。ただ、それは作業部屋と就寝用の部屋の中だけで、一度そこから出てしまうと、彼女は私にしがみ付き、自信なさげに歩きます。これが外に出てしまうともっと酷くなり、身体を震わせ、異様な程の挙動不審さとなり、目付きが野生の犬のようなものへと変化し、全てに警戒を敷くようになります。
初日の時点で気になったこともあり、私は2日目の業務開始前にオルフェンさんの執務室を訪れ、彼女の抱える事情について聞いてみました。カトレアは山村で生活していたのですが、日照りによる飢饉が発生してしまい生活苦になったため、両親は苦渋の決断で末っ子の彼女を奴隷として売ったそうです。
問題は、奴隷として売られた後です。
彼女は私と同じ8歳、ご主人のいない奴隷たちは、屋敷内の牢屋でグループごとに生活を送ることになったのですが、そこで上位奴隷や戦闘奴隷たちからストレス発散用として、毎日虐められていたようです。食事を奪われるのも日常茶飯事、下手にやり返すと集団で暴力を浴びせられるため、彼女は心を段々と閉ざしていき、1ヶ月も経過すると、表情が作り笑いとなり、常に壁際で体育座りをし身体を震わせていたようです。オルフェンさんは、奴隷商人の屋敷を訪れた際、偶々そんな彼女を見て同情し、奴隷として購入しました。当初、この敷地内で生活させていたのですが、今度は鉱山内で虐められるようになってしまい、今はこの分別施設の中で作業のお手伝いをさせているようです。
ここで4ヶ月ほど生活させたおかげで、知人に対しては挙動不審な態度も無くなったのですが、見知らぬ人がこの施設を訪問した際だけは、身体を震わせ、心を許している人たちから離れません。オルフェンさんもこのままではまずいと思ったところで、私が冒険者として訪問したので、私の補佐として彼女を任命したようです。
そのため、今の私の任務は、《カトレアと協力して、大量の金属塊を純度ごとに分別させること》となっています。
任命も問題なくこなしているのですが、一つだけおかしいことがあります。
「87」
コロンと、金属塊が床に転がります。
「はい」
「97」
コロン
「はい」
「78」
コロン
「ほい」
分別の際、私はパピヨン形態となり、作業を床の上でやっています。私が分別して数値を告げると、横にいるカトレアが粘着性の高い付箋を使い、数値を書いて金属塊に貼っていく。
彼女はパピヨンの私を相当気に入ったようで、この姿で分別してほしいと懇願されたこともあり、私は犬に変身してずっと作業を続けているのです。まあ、獣人の姿に戻っても普通に話し合える仲になったので別にいいのですが、なんだかちょっと胸がモヤモヤします。
私の昼食を運んでくれた女の子カトレア、服装と匂いと首輪から察するに、奴隷で間違いありません。それに、何か欠陥を抱えているのか、パピヨンから獣人に戻ってからの私に対する彼女の様子がおかしいです。当初、私のことを愛くるしい瞳で抱きしめていたのに、獣人になった途端、顔が真っ青になり、私をどんと突き放し、作り笑顔となり、私に昼食を勧めてきたのだから。
「カトレア、どうしてそんな作り笑顔をするのですか? さっきまで私と普通に話し合っていたじゃないですか?」
「昼食を…どうぞ」
身体も少し震えています。
まるで、人間にずっと虐待されてきた犬のようです。
心を固く閉ざし、歳も同じくらいなのに敬語で話し、全然私と向き合ってくれません。
何度言葉を交わしても、さっきからずっとこの言葉ばかりです。
仕方ありません、冷めないうちに昼食を食べましょう。
「わかりました、昼食を食べます。せっかくなので、あなたも一緒に食べましょう」
「いりません。奴隷は…人前で食事したら…だめ…なんです」
また、奴隷ですか。
私も、日本でこういった態度をとる犬を数多く見てきました。
人に捨てられたり虐められたりすることで、心を閉ざしてしまった犬たち。
かつての私も、そこに含まれます。
多頭飼育崩壊を起こしたせいで、飼い主様は私たちの面倒を見なくなり、多くの犬たちが1匹また1匹と死んでいく。その光景を見た私たちは、《人間を信用しない》と決めて、必死に生き抜き、結局別の人間たちに助けられてしまった。私の場合、ご主人様に助けられたことで、荒んだ心が浄化された。私でも、浄化されるのに半年ほどかかりました。
私とカトレアは、コミニュケーションを互いに交わせる。パピヨン形態の時は普通の可愛い女の子だったので、あれが素の彼女なのでしょう。一緒に昼食を食べることで、少しでも心を開いてくれたらいいのですが。
「う~ん、それじゃあ命令です。私は用意された昼食を食べますので、あなたはこれを食べてください。今日の朝、市場で購入したサンドイッチと綺麗なお水です」
まずは、彼女の警戒心を解かないといけませんね。私はカトレアの主人ではないですが、ここに来ているということは、私にもある程度の権限があるはずです。
「毒…あるかもしれないから…嫌です」
どこまで疑い深いんですか!?
どんな人生を辿ってきたのか知りませんが、人をとことん信用していませんね。
「それなら、あなたはこの昼食を、私がこっちを食べましょう」
これなら問題ないはずです。
「いい…のですか?」
流石に自分の食べ慣れているものであれば、毒は含まれていないと理解してくれるはずです。
「いいのです」
「あり…がと…ございます」
そう言うと、彼女は私の昼食が置かれているテーブルへ移動し椅子に座ると、涎を垂らしながら、スプーンでガツガツ食べていく。私もバッグから出した昼食を食べ終えると、カトレアの方が先に食べ終えていたようで、こっちを凝視しています。
「カトレア、私たちは歳も近そうなので、普通に話してください」
こうでも言わないと、ずっと敬語で話してきそうです。
「わか…った。昼食…ありがと…あなたは他の人より信頼できそう」
彼女から漂う匂い、それは《裏切り》《憎悪》《不信感》の3つです。私と同じくらいの歳で、相当な経験を積んだのでしょう。
「ここにいる仲間たちを信用できないの?」
「奴隷の仲間たち…笑顔じゃないと…私に暴力を振るう。裏切りで叩かれる…でも、ご主人様のいるこの施設の人たちだけは優しい」
鉱山の中で働いている人々の殆どが、犯罪奴隷です。仲間たちから暴力を受けていたんですね。カトレアのご主人様はそれを知り、彼女をここへ避難させたのかもしれません。
「これは…なるほど、1つの金属につき3つの箱に分別させたのか」
私はカトレアのことばかり気にかけていたせいで、オルフェンさんが部屋内に入っていたことに気づけませんでした。彼は箱の中から金属の塊を取り出し、じっと見つめます。カトレアは邪魔にならないよう、すぐに壁際の方へ移動していきます。
「リコッタ、純度80%未満、80%以上、90%以上に振り分けたのかな?」
「はい、そうです!! もっと具体的に言いますと…」
私は、ミスリルの80%以上の箱から金属の塊をいくつか取り出し、具体的な数値を言っていき、それを順番通りに並べていきます。
「純度の濃さは、このような順番となっています」
オルフェンさんは黙ったままですが、顔から冷や汗が出ています。
「完璧な…順番だ。私もスキル《鑑定》を持っていますから、あなたのスキルの精度が如何に高いのかがわかります。スキル《絶対嗅覚》、作業速度はスキル《鑑定》よりも遅いですが、これは信頼に値する」
やった、褒められました!!
「いいでしょう、これからの7日間、こちらのアクセサリー用の分別に関しては、全てあなたに任せましょう。こちらからの要望ですが、今後分別した金属塊に数値を記載した紙を貼ってもらいたい。その補助として、そこの壁際にいるカトレアを好きに使って構わない。歳も近いし、今後は一緒の部屋で寝泊まりすればいいでしょう。業務時間以外であれば、2人で自由行動しても構いません。遊び仲間として、お互いに最適でしょうからね。カトレアも、リコッタの指示に従うように」
オルフェンさんから、カトレアを虐めたいような邪な匂いを感じ取れません。純粋に1人の友達として、私と遊ばせたいようです。カトレアの方も、彼を見て震えていませんし、何処か安心しているような気がします。
「わ…わかりました、リコッタ……宜しくお願いします」
「カトレア、7日間よろしくなのです!!」
ここに来て、初めてのお友達です。
彼女と協力して、この任務を乗り越えましょう!!
○○○
任務を始めてから、3日が経過しました。
任務初日はカトレアの喋り方もおどおどして挙動不審でしたが、一緒に寝泊まりし、お布団の中で沢山お話ししたこともあり、2日目ともなると完全に打ち解けていました。今となっては言葉遣いも流暢になり、私たちは普通のお友達の関係を築けることに成功しています。ただ、それは作業部屋と就寝用の部屋の中だけで、一度そこから出てしまうと、彼女は私にしがみ付き、自信なさげに歩きます。これが外に出てしまうともっと酷くなり、身体を震わせ、異様な程の挙動不審さとなり、目付きが野生の犬のようなものへと変化し、全てに警戒を敷くようになります。
初日の時点で気になったこともあり、私は2日目の業務開始前にオルフェンさんの執務室を訪れ、彼女の抱える事情について聞いてみました。カトレアは山村で生活していたのですが、日照りによる飢饉が発生してしまい生活苦になったため、両親は苦渋の決断で末っ子の彼女を奴隷として売ったそうです。
問題は、奴隷として売られた後です。
彼女は私と同じ8歳、ご主人のいない奴隷たちは、屋敷内の牢屋でグループごとに生活を送ることになったのですが、そこで上位奴隷や戦闘奴隷たちからストレス発散用として、毎日虐められていたようです。食事を奪われるのも日常茶飯事、下手にやり返すと集団で暴力を浴びせられるため、彼女は心を段々と閉ざしていき、1ヶ月も経過すると、表情が作り笑いとなり、常に壁際で体育座りをし身体を震わせていたようです。オルフェンさんは、奴隷商人の屋敷を訪れた際、偶々そんな彼女を見て同情し、奴隷として購入しました。当初、この敷地内で生活させていたのですが、今度は鉱山内で虐められるようになってしまい、今はこの分別施設の中で作業のお手伝いをさせているようです。
ここで4ヶ月ほど生活させたおかげで、知人に対しては挙動不審な態度も無くなったのですが、見知らぬ人がこの施設を訪問した際だけは、身体を震わせ、心を許している人たちから離れません。オルフェンさんもこのままではまずいと思ったところで、私が冒険者として訪問したので、私の補佐として彼女を任命したようです。
そのため、今の私の任務は、《カトレアと協力して、大量の金属塊を純度ごとに分別させること》となっています。
任命も問題なくこなしているのですが、一つだけおかしいことがあります。
「87」
コロンと、金属塊が床に転がります。
「はい」
「97」
コロン
「はい」
「78」
コロン
「ほい」
分別の際、私はパピヨン形態となり、作業を床の上でやっています。私が分別して数値を告げると、横にいるカトレアが粘着性の高い付箋を使い、数値を書いて金属塊に貼っていく。
彼女はパピヨンの私を相当気に入ったようで、この姿で分別してほしいと懇願されたこともあり、私は犬に変身してずっと作業を続けているのです。まあ、獣人の姿に戻っても普通に話し合える仲になったので別にいいのですが、なんだかちょっと胸がモヤモヤします。
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