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本編
8話 稚拙な復讐の始まりです
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パーティーでの事件から、1週間が経過しました。
アリア様や私の周辺は平穏そのものですが、マクガイン公爵家側がどこで何を仕掛けてくるのか不明である以上、私たちは緊張を強いられています。このような状態であっても、私たちメイドはいつも通りの生活を続けています。私の場合は邸内から出られないため、みんなが私に気を使い、用事で外へお出かけした時は、お土産のプリンやお饅頭を買ってきてくれるので嬉しいです。
そして今、私はお嬢様のお部屋のお掃除を終えたところです。お嬢様の部屋にある壁時計の時刻は17時12分、そろそろ帰ってきますね。今の季節は夏から秋になろうとしている時期なので、太陽もまだ比較的高い位置にあり、外も明るいです。
私が窓を開け空気の入れ替えを行っていると、ふと嫌な臭いを感じました。
「この臭いは何でしょう? 悪意も少しありますが、どちらかといえば申し訳ないという思いを感じます。こんなの、初めてです」
しばらくの間、窓から観察していたのですが、どういうわけか、漂ってくるその臭いの濃度が少しずつ濃くなっていきます。これは、何を意味しているのでしょう?
「あ、お嬢様の乗る馬車が帰ってきました!!」
私はお嬢様を出迎えるため、慌てて部屋を出て1階へと降りていき外に出ると、馬車は停止位置とされる正門と玄関の中心付近にあるサークルの中で停まったところでした。円周部には所々花壇もあって良い匂いがするので、私の好きな場所でもあります。そこへ走っていこうとすると、さっきの嫌な臭いが邸の全方位から漂ってきました。
これって、おかしくないですか?
あ、馬車から降りたお嬢様と目が合いました!!
私がお嬢様とクラリッサさんの所へ行こうとした時、唐突に地面から違和感を感じました。何か、いつもの臭いとは異なるものを醸し出しています。
「わ、わ!! なんですか、これは!?」
どういうわけか、急に地面が揺れ出したのです。
「立っていられないです!!」
これでは、お嬢様のもとへ行けないです。
「お嬢様、これは魔法によるものです!! 私から離れないように!! リコッタも動かないで!!」
クラリッサさんが大声で、お嬢様と私に状況を告げてくれたことで、心が幾分冷静になりました。
「は…はいです!!」
これ、魔法による揺れなんですか?
今まで火を起こすものや光を灯す魔法を見たことはありますが、こんなものは生まれて初めてです。あ、でも犬だった時に経験した地震に似ていますね。揺れが収まると、邸内から旦那様やナオトさんたち料理人、先輩メイドたちが次々と出てきました。
「アリア、大丈夫か!?」
「お父様!!」
わ!?
旦那様がお嬢様のところへ行こうとしたら、また揺れ始めました!!
「なんだ、これは!? 足が…下半身が土で覆われていくだと!?」
旦那様だけでなく、お嬢様以外の私やルカさん、クラリッサさんといった外にいる人たち全員の下半身が土で覆われていきます!! みんなが必死で抵抗している時、邸内の入口から2人の気持ち悪いマスクを被った人間が、堂々と邸内へ侵入してきました。1人は、身体的な特徴からから察するに女性ですね。その人たちは混乱している私たちを無視して、お嬢様のもとへ向かいます。
全員が大声を出して逃げるよう促すのですが、お嬢様は奴の目的が自分だと理解したのか逃げようとしませんでした。下手に逃げたら、他の人たちが殺されると思ったのかもしれません。マスクを被った謎の人間たちがお嬢様の方へ意識を向けた時、私は下半身にくっついている土をぶち壊し、全力で走りました。そして、お嬢様から一番近い男の太もも目掛けて噛みつこうとしたら、不意に頭上から何かに覆われました。
「この子には、拘束魔法も通じないの? 後ろに回り込んでおいてよかったわ。この年齢でこれって…鍛えれば私らより強くなるわよ? 王都から追い出すなんて、もったいないわ」
「かもな。命令通り、2人を拉致するぞ」
「了解よ」
真っ暗闇のせいで、男女の声だけが聞こえてきます。なんか勝手に納得して、袋ごと私を担ぎ上げました。不安定な体勢のため、暴れても暴れてもびくともしません。
「メアリーヌ様の仕業なの?」
この声は、お嬢様ですね。
「あ…」
え、なんですか今の声は!?
そこからお嬢様の声も聞こえなくなりましたよ?
「あなたも寝ていてね」
何ですか、これは!? 一瞬だけ光が入ったのですが、プシュという音が鳴った途端、変な臭いが中に入ってきましたよ!?
う、どんどん眠くなってきました。
お嬢様…を…お助け…しなければ…意識を保たないと…
「ねえ、この2人にここまでの事をする意味がわからない。たかだか10歳の娘の嫉妬に、大人がここまでする? 公爵様は、何を考えているのかしら?」
「あの方が何を考えているのか、俺にもわからねえよ。あの箱は魔法も弾く特別性だから、子供たちの精神が保つかどうか……なんでこんな酷いことをするかね」
箱とは……何でしょう?
「は~憂鬱、外から見えないのに、この子達を見張る意味ってあるの?」
「そんな事、俺に聞くなよ。ほら、とっととあの場所まで運ぶぞ」
もう…限界です…お嬢様…。
○○○
「リコッタ…リコッタ」
アリアお嬢様の声が聞こえる。
そうだ、私たちは拉致されたんだ!!
頭が覚醒してきたので、私はガバッと起き上がる。
「あ、お嬢様!! ここは?」
「一応、馬車の中かな?」
一応?
アリアお嬢様は無傷のようで安心しましたが、ここが馬車の中なら何故揺れないのでしょう?
「さっきまでは間違いなく馬車の中だったのよ。でも、急に止まったと思ったら傾いて、地面に落ちるような轟音が鳴ったの。そこからは、全然動かないわ」
どういうことでしょう?
確かに馬の匂い自体はするのですが、その肝心の発生源となる馬がいないように思えます。馬車の荷物に値するここは厳重な作りとなっており、扉も1つだけ付いています。それに、私もお嬢様も縛られていません。これでは、いつでも逃げてくれと言っているようなものです。
「お嬢様、ここから逃げましょう。どうして拉致したのか不明なのですが、今はここを出て屋敷に戻ることだけを考えましょう」
ここには窓も設置されていないので、今どこにいるのかもわかりません。まずは、現在地の確認です。
「そうしたいところなんだけど、扉は頑丈にロックされているし、扉や側壁、天井に風の攻撃魔法を直撃させても、すぐに霧散して傷一つつかないの。正直、お手上げよ」
「え!? あ、本当です。取っ手を押しても引いてもスライドさせても全然開きません」
誰かが外から鍵でも掛けているのでしょうか? このまま助けを待つことも選択の一つですが、それだと相手の思う壺のような気もします。
「ここから出たいけど、どうするか悩んでいるところだったの」
う~ん、クンクン、何か変です。
この空間から感じる外部の匂いが、極端に薄いです。もしかしたら、この壁の材質自体が匂いそのものを通しにくいのかもしれません。
全ての壁を確認してみましょう。
クンクン……側面、底面、天井からも、外部からの匂いが殆ど感じませんね。でも、ドアの付いている壁からは、他の面よりも少し強い匂いを感じます。多分、ドアがついている分、隙間があるのかもしれません。
ここから脱出するためには、この壁を打ち破らないといけませんね。
「お嬢様、外の匂いがドアの付いている壁だけから強く漂ってきますので、他の面より壊れやすいと思います。逃げ道はそこしかありませんので、奥の手を使って逃げましょう」
「奥の手?」
「はい。私のスキル《獣化》を使えば、この壁を破壊して、犯人からの追跡も逃れられると思います」
「《獣化》、お父様から聞いてはいるけど、まだ見たことないわ。名前の通り、獣に変身するのよね?」
「はい、その通りです。《愛玩形態》と《狛犬形態》の2つがあるので、今からお見せしますね」
あのパーティー以降、旦那様からステータスの開示方法を教えてもらったことで、自分のスキルの詳細に関しては、ステータス画面から調べることができました。『ステータスオープン』と言ったら、変な画面が唐突に出現して、とても驚きました。画面を確認したら、これは一種の自己紹介のようなものかなと感じました。
スキル《絶対嗅覚》に関しては私もほぼ使いこなしていたようですが、スキル《身体硬健》と《獣化》の2つに関しては全然使いこなせていなかったので、休憩時間を使い、この1週間みっちり訓練したおかげで、《魔力循環》や《魔力制御》といった基礎スキルも入手しました。
これらを、活かす時が来たようです。
「リコッタ、まずは《愛玩形態》を見せてくれない?」
「了解です!! 《獣化、愛玩形態》!!」
こんな空間からは早くおさらばして、皆のいる屋敷へ戻りましょう。
アリア様や私の周辺は平穏そのものですが、マクガイン公爵家側がどこで何を仕掛けてくるのか不明である以上、私たちは緊張を強いられています。このような状態であっても、私たちメイドはいつも通りの生活を続けています。私の場合は邸内から出られないため、みんなが私に気を使い、用事で外へお出かけした時は、お土産のプリンやお饅頭を買ってきてくれるので嬉しいです。
そして今、私はお嬢様のお部屋のお掃除を終えたところです。お嬢様の部屋にある壁時計の時刻は17時12分、そろそろ帰ってきますね。今の季節は夏から秋になろうとしている時期なので、太陽もまだ比較的高い位置にあり、外も明るいです。
私が窓を開け空気の入れ替えを行っていると、ふと嫌な臭いを感じました。
「この臭いは何でしょう? 悪意も少しありますが、どちらかといえば申し訳ないという思いを感じます。こんなの、初めてです」
しばらくの間、窓から観察していたのですが、どういうわけか、漂ってくるその臭いの濃度が少しずつ濃くなっていきます。これは、何を意味しているのでしょう?
「あ、お嬢様の乗る馬車が帰ってきました!!」
私はお嬢様を出迎えるため、慌てて部屋を出て1階へと降りていき外に出ると、馬車は停止位置とされる正門と玄関の中心付近にあるサークルの中で停まったところでした。円周部には所々花壇もあって良い匂いがするので、私の好きな場所でもあります。そこへ走っていこうとすると、さっきの嫌な臭いが邸の全方位から漂ってきました。
これって、おかしくないですか?
あ、馬車から降りたお嬢様と目が合いました!!
私がお嬢様とクラリッサさんの所へ行こうとした時、唐突に地面から違和感を感じました。何か、いつもの臭いとは異なるものを醸し出しています。
「わ、わ!! なんですか、これは!?」
どういうわけか、急に地面が揺れ出したのです。
「立っていられないです!!」
これでは、お嬢様のもとへ行けないです。
「お嬢様、これは魔法によるものです!! 私から離れないように!! リコッタも動かないで!!」
クラリッサさんが大声で、お嬢様と私に状況を告げてくれたことで、心が幾分冷静になりました。
「は…はいです!!」
これ、魔法による揺れなんですか?
今まで火を起こすものや光を灯す魔法を見たことはありますが、こんなものは生まれて初めてです。あ、でも犬だった時に経験した地震に似ていますね。揺れが収まると、邸内から旦那様やナオトさんたち料理人、先輩メイドたちが次々と出てきました。
「アリア、大丈夫か!?」
「お父様!!」
わ!?
旦那様がお嬢様のところへ行こうとしたら、また揺れ始めました!!
「なんだ、これは!? 足が…下半身が土で覆われていくだと!?」
旦那様だけでなく、お嬢様以外の私やルカさん、クラリッサさんといった外にいる人たち全員の下半身が土で覆われていきます!! みんなが必死で抵抗している時、邸内の入口から2人の気持ち悪いマスクを被った人間が、堂々と邸内へ侵入してきました。1人は、身体的な特徴からから察するに女性ですね。その人たちは混乱している私たちを無視して、お嬢様のもとへ向かいます。
全員が大声を出して逃げるよう促すのですが、お嬢様は奴の目的が自分だと理解したのか逃げようとしませんでした。下手に逃げたら、他の人たちが殺されると思ったのかもしれません。マスクを被った謎の人間たちがお嬢様の方へ意識を向けた時、私は下半身にくっついている土をぶち壊し、全力で走りました。そして、お嬢様から一番近い男の太もも目掛けて噛みつこうとしたら、不意に頭上から何かに覆われました。
「この子には、拘束魔法も通じないの? 後ろに回り込んでおいてよかったわ。この年齢でこれって…鍛えれば私らより強くなるわよ? 王都から追い出すなんて、もったいないわ」
「かもな。命令通り、2人を拉致するぞ」
「了解よ」
真っ暗闇のせいで、男女の声だけが聞こえてきます。なんか勝手に納得して、袋ごと私を担ぎ上げました。不安定な体勢のため、暴れても暴れてもびくともしません。
「メアリーヌ様の仕業なの?」
この声は、お嬢様ですね。
「あ…」
え、なんですか今の声は!?
そこからお嬢様の声も聞こえなくなりましたよ?
「あなたも寝ていてね」
何ですか、これは!? 一瞬だけ光が入ったのですが、プシュという音が鳴った途端、変な臭いが中に入ってきましたよ!?
う、どんどん眠くなってきました。
お嬢様…を…お助け…しなければ…意識を保たないと…
「ねえ、この2人にここまでの事をする意味がわからない。たかだか10歳の娘の嫉妬に、大人がここまでする? 公爵様は、何を考えているのかしら?」
「あの方が何を考えているのか、俺にもわからねえよ。あの箱は魔法も弾く特別性だから、子供たちの精神が保つかどうか……なんでこんな酷いことをするかね」
箱とは……何でしょう?
「は~憂鬱、外から見えないのに、この子達を見張る意味ってあるの?」
「そんな事、俺に聞くなよ。ほら、とっととあの場所まで運ぶぞ」
もう…限界です…お嬢様…。
○○○
「リコッタ…リコッタ」
アリアお嬢様の声が聞こえる。
そうだ、私たちは拉致されたんだ!!
頭が覚醒してきたので、私はガバッと起き上がる。
「あ、お嬢様!! ここは?」
「一応、馬車の中かな?」
一応?
アリアお嬢様は無傷のようで安心しましたが、ここが馬車の中なら何故揺れないのでしょう?
「さっきまでは間違いなく馬車の中だったのよ。でも、急に止まったと思ったら傾いて、地面に落ちるような轟音が鳴ったの。そこからは、全然動かないわ」
どういうことでしょう?
確かに馬の匂い自体はするのですが、その肝心の発生源となる馬がいないように思えます。馬車の荷物に値するここは厳重な作りとなっており、扉も1つだけ付いています。それに、私もお嬢様も縛られていません。これでは、いつでも逃げてくれと言っているようなものです。
「お嬢様、ここから逃げましょう。どうして拉致したのか不明なのですが、今はここを出て屋敷に戻ることだけを考えましょう」
ここには窓も設置されていないので、今どこにいるのかもわかりません。まずは、現在地の確認です。
「そうしたいところなんだけど、扉は頑丈にロックされているし、扉や側壁、天井に風の攻撃魔法を直撃させても、すぐに霧散して傷一つつかないの。正直、お手上げよ」
「え!? あ、本当です。取っ手を押しても引いてもスライドさせても全然開きません」
誰かが外から鍵でも掛けているのでしょうか? このまま助けを待つことも選択の一つですが、それだと相手の思う壺のような気もします。
「ここから出たいけど、どうするか悩んでいるところだったの」
う~ん、クンクン、何か変です。
この空間から感じる外部の匂いが、極端に薄いです。もしかしたら、この壁の材質自体が匂いそのものを通しにくいのかもしれません。
全ての壁を確認してみましょう。
クンクン……側面、底面、天井からも、外部からの匂いが殆ど感じませんね。でも、ドアの付いている壁からは、他の面よりも少し強い匂いを感じます。多分、ドアがついている分、隙間があるのかもしれません。
ここから脱出するためには、この壁を打ち破らないといけませんね。
「お嬢様、外の匂いがドアの付いている壁だけから強く漂ってきますので、他の面より壊れやすいと思います。逃げ道はそこしかありませんので、奥の手を使って逃げましょう」
「奥の手?」
「はい。私のスキル《獣化》を使えば、この壁を破壊して、犯人からの追跡も逃れられると思います」
「《獣化》、お父様から聞いてはいるけど、まだ見たことないわ。名前の通り、獣に変身するのよね?」
「はい、その通りです。《愛玩形態》と《狛犬形態》の2つがあるので、今からお見せしますね」
あのパーティー以降、旦那様からステータスの開示方法を教えてもらったことで、自分のスキルの詳細に関しては、ステータス画面から調べることができました。『ステータスオープン』と言ったら、変な画面が唐突に出現して、とても驚きました。画面を確認したら、これは一種の自己紹介のようなものかなと感じました。
スキル《絶対嗅覚》に関しては私もほぼ使いこなしていたようですが、スキル《身体硬健》と《獣化》の2つに関しては全然使いこなせていなかったので、休憩時間を使い、この1週間みっちり訓練したおかげで、《魔力循環》や《魔力制御》といった基礎スキルも入手しました。
これらを、活かす時が来たようです。
「リコッタ、まずは《愛玩形態》を見せてくれない?」
「了解です!! 《獣化、愛玩形態》!!」
こんな空間からは早くおさらばして、皆のいる屋敷へ戻りましょう。
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