御主人様を求めて異世界へ〜チート幼女となった元わんこの不遇な逆境生活〜

犬社護

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本編

5話 なんでしょう、この不穏な空気は?

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今、リビングには不穏な静けさだけが漂っています。

そこには、私、先輩メイドのクラリッサさん、旦那様、アリアお嬢様、そして床に倒れている不審者さんと、命令を行使したとされるマクガイン公爵家一行の3人(マクガイン公爵、奥方様、お嬢様)がいます。公爵も奥方様も、旦那様と同じくらいの年齢のようですね。その娘は背格好から判断して、アリアお嬢様と同い年かもしれません。奥方様の血を色濃く受け継いでいるのか、お二人の髪色は金髪で顔も似ていますし、この子の髪だけロールを巻いていて目立っています。

公爵家のお嬢様だけがここへ入り、不審者の男の顔を見た瞬間、一気に顔色を青くさせたので、男の言う雇い主はこの人で間違いないですね。公爵様もその奥方様も、床に這いつくばっている男について言われるのだろうと思い、旦那様からの言葉を待っているようです。

「マクガイン公爵、床に倒れているのは、あなたの娘メアリーヌ嬢の護衛だと思いますが?」

「あ…ああ、そのようだな。彼が何をしたのかね?」

マクガイン公爵の顔色が悪いです。不審者の男が何をしたのか、悪意の臭いを感じませんので本当に何も知らないようです。

「彼はこの指輪を持ち、アリアの部屋へ侵入したようです」

旦那様が公爵様に指輪を見せると、彼は目を大きく見開き、動揺を隠せないのか、手が震えています。

「この指輪は、誕生日プレゼントとして娘に与えたものだ。間違いない、内側に名が記されている」

「そうですか。どうやら彼は、その指輪をアリアの部屋の何処かに隠して、盗難騒ぎを起こそうと企んでいたようですね。しかも、その責任をメイド見習いのリコッタに押し付けようとしていた。この命令を行使したのは、そこにおられるメアリーヌ嬢だということも語ってくれましたよ」

男は、そんな事を話していません。
私が床に倒れている男を見ても、何故か反論せず深く項垂れたままでいます。
旦那様は、何を狙っているのでしょう?

重苦しい雰囲気の中、メアリーヌ様だけがアリアお嬢様と床の転がる護衛を睨み、強い恨みの感情を放出させています。

「違うわ!! そこのメイド見習いが私の指輪を盗んで、アリアの部屋に置こうとしていたところを護衛が発見して……」

貴族って感情を制御する訓練も、その教育の中に入っていると聞いたことがあります。でも、この方はその感情を剥き出しにし、私を名指しして嘘を言っています。往生際が悪いです。

「メアリーヌ嬢、その話には無理がある。リッコタはメイド見習いのため、パーティーの配膳などの業務を禁止させている。そして、君がご両親から戴いた大事な指輪を何処かに無造作に置かない限り、盗むことは不可能だ。本当のことを白状していただけると、我々としても助かる。あなたがこのまま何も言わないと、この場で《切り札》を出すことになる」

この子爵家には不正を防止するための措置として、監視カメラが各部屋に設置されています。ただ、皆を四六時中監視するのはかなりの反発を伴うので、設置部屋の主人となる人物をカメラに登録して、その方の留守時に誰かが侵入した時に限り、カメラが起動するようになっています。これは王族の住む王城でも実施されているようで、現在一部の貴族にて試験的に実施されていると旦那様からお聞きしたことがあります。

「本当の…」
「この馬鹿娘が!!」

部屋の中に、ぱああーーーんという音が鳴り響きます。メアリーヌ様の話の途中で、マクガイア公爵様がすっと立ち上がり、彼女のホホを叩いたのです。その衝撃で、彼女は床へと投げ出され、自分が叩かれた箇所を手で覆います。何をされたのか理解できないのか、呆然としたまま動きません。

「あなた!?」

まさか、奥方様も叩くとは思っていなかったのか、メアリーヌ様のところへ駆け寄ります。

「メアリーヌ、この場で全てを白状しろ。この私に、恥をかかせるな!! さもなくば、修道院に行かせるぞ!!」

その言葉が効いたのか、メアリーヌ様は大粒の涙を浮かべ、お嬢様に向けて憎悪の目を向けます。

「全部、アリアが悪いのよ!! あの子が婚約者候補の私を差し置いて、第一王子のガイアス様と何度も仲良くお話しするのを見かけたから……だから……彼女の貴族としての名誉を最底辺に落としてやろうと……」

ええと、つまり嫉妬でこんな騒ぎを起こしたと? 
これって明るみになれば、自分自身が危うい立場になりますよね? 

たったそれだけのことで、お嬢様に恥をかかせ、こんな騒ぎまで起こしたのですか?
 
「メアリーヌ嬢、君はアリアにガイアス様と何を話していたのか聞いたことはあるか?」

旦那様もそこが気になったのか、メアリーヌ様に問い質しています。アリアお嬢様の方を見ると、必死に感情を抑えているようですが、悲しみの匂いがこちらにも伝わってきます。2人の間に、どんなことが起きたのでしょう?

「そんなこと、聞けませんわ。あの方は私とお話をしても一切笑わないのに、他の女性たちには笑顔を見せています。特に、アリアとお話ししているときに見せる笑顔は、愛想笑いとかではなく、心からのものだった。それが許せなかったから、学園で恥をかかせてやったというのに……」

旦那様から、明確な怒りが伝わってきます。
メアリーヌ嬢は、学園内でお嬢様に何をしたのでしょう?

「その件については、こちらでも調査しました。大勢の生徒たちがいる食堂内で、メアリーヌ嬢は娘の料理に即効性のある下剤を仕込み、貴族としてあるまじき行為を誘発させようとした。幸い、最悪なことまでは起こりませんでしたが、そこで起きた行為により、それ以降、娘は嘲笑の的となりましたよ。そこでの会話の内容から、犯人はメアリーヌ嬢で間違いない。状況証拠だけですが、彼女は娘の顔色を窺いながら限界だと思うギリギリのところまで話をわざと引き伸ばし、娘に喋らせないよう巧みに場を作り上げた。そこで味を占めたあなたは自分の存在を隠しつつ、クラスメイトたちに影で娘を虐めるよう誘導していった」

この女、最低です!!

この女がアリアお嬢様を裏切り、学園内で恥をかかせた元凶なんですね!! 嫌がらせで《下剤》を使用する行為、シンプルで証拠も残りませんから誰にも相談できません。自分の存在をお嬢様だけに察知させて、力を誇示しているみたいで不愉快です!! こいつのせいで、お嬢様は酷い人間不信に陥り、精神を病んでしまった。やっと回復してきたところで、今度は窃盗の罪を被せ、私を殺すか追い出すかして、お嬢様に絶望を与えようとしていただなんて……許せません!!

「その通り…です。あの時、私は常に彼女の顔色を窺っていましたわ。貴族の場合、人前でオナラを何度もするだけで大恥をかきますから、それだけに留めておきました。私の思惑通りに事が運び、アリアは底辺に落ちた…なのに…ここ最近になって…またガイアス様と楽しそうにお話ししていたわ!! 許せなかったのよ!! アリアを元気にさせたのが、そこにいる獣人だということもわかったから、2人揃って地獄に落ちてもらうと思ったのよ‼︎ そこの獣人がどんな選択肢を選ぼうとも、アリアの心は壊れ再起不能になると思ったのに‼︎」

怒りを抑えきれません。
こんな自分勝手な女には、天誅を与えるべきなんです!!
この女を本気で噛み殺したい気分です。

先輩メイドのクラリッサさんも無表情を装いながら、拳を握り締め、必死に我慢しています。

「ヨークランド子爵、アリア嬢、誠に申し訳ない!!」

意外なことに、公爵は旦那様たちに頭を下げました。
それに習い、奥方様も頭を下げます。
メアリーヌ様も渋々ですが、頭を下げています。

「娘がここまで愚かだったとは……学内でのアリア嬢の状況を聞いてはいたが、まさか娘が絡んでいたとは……これは、私の落ち度でもある」

なんだか、マクガイン公爵の様子がおかしいです。謝罪してはいるのですが、彼も必死に怒りを抑えています。その矛先が、メアリーヌ様だけであればいいのですが。

「メアリーヌ、これ以上公爵家に泥を塗るな。他愛もない雑談程度の会話で嫉妬するとは……それでこんな騒ぎまで起こすとはな」

公爵様は自分の娘を睨み、その娘は父を怒らせたと知り、ガタガタ震えています。

「で…でも…お父様は…常日頃から仰って…」
「言い訳するな!! 見苦しいぞ!!」

怒りの形相ですね。私も怖いです。この場の空気を変えようと、旦那様がテーブルの上に、一つの小さな記録魔石を置きます。多分、あの部屋で撮れた映像が記録されたものですね。

「公爵、これが明るみになれば、あなたとてただではすみません。ですが、私は今回の件を公にしないことを誓いましょう。これが、その証です」

公爵様もその証が何なのか気づいたようで、懐から小型の魔道具を取り出して、先程の記録魔石を魔道具の中にセットし作動させると、あの時の映像が部屋の壁に投影されました。

「これは…間違いなく本物のようだ。だが、いいのか? これで、私を脅すことも可能だぞ?」

あれは、旦那様が切り札として用意していた記録魔石。公爵様はわざわざ魔道具を起動させて、この場ですぐに確認するとは思いもしませんでした。

「そんな愚かな行為に走りません。王家を影で支え屋台骨ともいえるマクガイン公爵家を敵に回したくありませんので」

「潔いな、ヨークランド子爵……感謝する」

この映像があれば、脅しの材料に使えますけど、マクガイン公爵家は旦那様が恐れるほどの家なのですね。悔しいですけど、明るみにはできませんね。せめて、メアリーヌ様だけはお嬢様に対して、真に謝罪してほしいです。
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